1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【戯曲】ONDEMAND

新作! 「ONDEMAND」急に書くのはいつものことです。

15分くらいの短編なのは、体力不足のせい。





ちょっとだけ、前書き。
この作品は、去年大学祭で観た「PEEP」という作品に触発されて書いたものです。
ミステリーでもないホラーでもないSFでもないファンタジーでもないラブロマンスでもない。なんだこれ? 分類できないぞ、という作品を書きたかったのです。
今のちょっとした目標。その実験作です。



ONDEMAND
 
作・なかまくら
2012.4.10
 
 
登場人物
 
加治佐・・加奈子
山田・・・やんまだ
長谷部・・ボーイフレンド
峠原・・・ぱんぴー
 
 
机。漫画のネタに悩む加治佐。
入ってくる、女。山田。
 
 
      山田   しりとりしよう?
      加治佐  しりとり?
      山田   りからね。
      加治佐  理由。
      山田   後ろ盾
      加治佐  て、そうじゃなくて。
      山田   手招き。
      加治佐  聞いてる?
      山田   ルアー
      加治佐  あのね。
山田   寝言。
      加治佐  とりあえずどうした?
      山田   タータンチェック
      加治佐  ・・・苦言を呈するぞ。
      山田   ぞ!? ぞ、かぁ・・・。
 
      加治佐  で、なに?
      山田   うん。家でした。
      加治佐  うん? ここは私の家だけど。
      山田   ううん。家でした。
      加治佐  そうだね、ここは私の家だけど。
      山田   なるほどなるほど。
      加治佐  分かってもらえた?
      山田   よーく分かった。ヨーグルトみたいに冷たいあなたは、家出した私を受け止めてくれないわけね。飛べない豚! ばかっ!
      加治佐  あっ、それを開いてしまうとは! それは、楽しみにとってた最後の・・・
      山田   あまい~。幸しぇ~
      加治佐  この山田のばか!
      山田   どの山田のことです? てれれれってれー。これは?(ジェスチャー)
      加治佐  海だ。
      山田   これは?(ジェスチャー)
      加治佐  雲だ。
      山田   これは?(ジェスチャー)
      加治佐  お前だよ! お前のことだよ!
 
      山田   あっ、ぞ、
      加治佐  ぞ?
      山田   ゾンビ!
 
      加治佐  ・・・・・・・・・。
      山田   ・・・・・・。
      加治佐  あのさ。
      山田   ゾンビがね、
      加治佐  うん。
      山田   こんな昔話知ってる?
      加治佐  知ってる。
      山田   そう、なら話すけどいい?
      加治佐  勝手にどうぞ。なんか飲む?
      山田   ホットミルクがいいらしい。
      加治佐  誰が飲むの?
      山田   私。
 
      加治佐、はける。
 
      山田   でね、或る仲の良い親友がいたの。でね、ふたりはプリティできゅあきゅあだったんだけどね、ある約束をするの。「私が先に死んだら壁に埋めて」って。そうしたら「いつまでも一緒にいられるでしょ?」なんて、なんてことを。程無くして一人は死んで、
 
      加治佐、戻ってきて、
 
      加治佐  ちょっと待って、それ、私に話してるんだよね?
      山田   ・・・え?
      加治佐  いや、私さ、なんか早く飲んでほしいんだよね。というか、飲み込んでほしいんだよね。
      山田   なんで、私が?
      加治佐  これ、誰が飲むの?
      山田   ところがね、恋のビートは無情だわ。二人の仲を引き裂くの。それで私の家の隣に住んでる女の子は引っ越しちゃうの。引っ越したはずなのにね、時々、カリカリっカリカリっって、音がするの。・・・壁の向こうから。
      加治佐  向こうから?
      山田   そう。
      加治佐  ねぇ、それってさ。
      山田   うん?
      加治佐  隣に誰か勝手に住んでるんじゃないの?
      山田   私もね、そう思ったの。だけど、
 
 
電話がかかってくる。
 
 
      山田   あ、ごめんね。
 
山田、はける。
 
      加治佐  彼女は、何故私、加治佐加奈子のうちに転がり込んできたのか。何故、突然しりとりを始めたかと思ったら
 
山田、転がって帰ってくる。
 
      山田   ただいま~。
      加治佐  お帰り。
      山田   ・・・・・・。
      加治佐  ・・・・・・。
      山田   にやにや。
      加治佐  ねえ、
      山田   なに?やにや。
      加治佐  一つ聞いていい?
      山田   聞いていいよ?
      加治佐  何でそんなにやにやしてんの?
      山田   いやー、それがさ、隣に引っ越してきたウォーリーが面白くてさ~。
      加治佐  隣に引っ越してきた、ねぇ。
      山田   そうそう。
      加治佐  で、何の電話だったの?
      山田   うん。家財道具をね、一式全部あげてきたの。
      加治佐  はぁっ?!
      山田   ね?
      加治佐  いや、ねっ。て言われても。
      山田   ほらっ、見ず知らずの人には優しくしてあげようって、教わったでしょ?
      加治佐  それだ。
      山田   え?
      加治佐  ねぇ、覚えてる、山田さ、そう言って修学旅行の時に髪の毛寄付してたよね。
      山田   ん?
      加治佐  ほら、お寺でさ、「なんで今時?」「体験学習じゃない?」って、笑いながらみんなで通り過ぎようとしたときにさ、
      山田   「私、寄付する」
      加治佐  って、言ってさ。
      山田   えーそうだっけ?
      加治佐  今、どの口が言ったわけ?
      山田   ん? なんか言った?
      加治佐  一回言った。
      山田   ねぇねぇ、髪の毛ってさ、売れるらしいよ。
      加治佐  その時は、髪で縄をなうって、言ってたけど。
      山田   縄をなうの?
      加治佐  混ぜると丈夫になるんだって。
      山田   髪を混ぜると?
      加治佐  らしいよ。
      山田   ちょっと宗教っぽいね。縄に生命の強さが乗り移るみたいな?
      加治佐  さあ。でも、どうして髪の毛寄付したの?
      山田   それさ、覚えてないんだ。私、ホントに、寄付した?
      加治佐  だって、先生がびっくりしてたよ! そんなに行きたい美容院があったのか! それとも、失恋でもした? って。
      山田   失恋?
      加治佐  え、失恋?
      山田   誰が?
      加治佐  え?
      山田   え?
      加治佐  ええええっ、失恋しちゃったのぉ~~~?!
      山田   そうなのぉ~~~~!?
      加治佐  まっさかぁ~~~
      山田   そんなぁ~~~
      加治佐  まっかあさ~~~
      山田   ギブミーチョコレート。
      加治佐  はい、どうぞ。
      山田   あま~い。
      加治佐  ・・・・・・。
      山田   甘い夢だったんだよ。
      加治佐  出会いは出会いは?
      山田   食器売場。
 
 
 
      長谷部、食器売り場にいる。
 
      長谷部  む。むむむ。
      山田   ん~(曲がったスプーンをもっている)
      長谷部  ははっ!
      山田   ん?
      長谷部  長谷部です!
      山田   はあ。
      長谷部  突然ですが、ここであったのも何かの縁。同じスプーンを買いませんか?
      山田   ペアルックで?
      長谷部  ええ、ペアルックで。
 
      加治佐  まって、この人、誰なの?
      山田   この人は、長谷部さん。
      加治佐  で、人目ぼれられたわけ?
      山田   そう、ぼれられた。ぼれられた。
 
      加治佐  で、失恋したと。
      長谷部  そうなんですよ~~。
      山田   ・・・・・・。
      長谷部  ちょっと聞いてくださいよ。
      加治佐  ちょっと待って! この人、ここに実在してんの?
      長谷部  ひどい人だなぁ、見てくださいよ、足も尻尾もちゃんとありますよ?
      加治佐  ホントだ・・・。って、そうじゃなくて! 尻尾あるのもおかしいし!
      長谷部  やんまださんたらひどいんですよ!
      山田   誤解だ。
      長谷部  僕のことをフッ、と嬉しそうに消すんですよ。まるで誕生日ケーキに刺さったろうそくの炎を消し去るように。でもね、僕にはわかっているんです。やんまださんのその微笑みは、どこか寂しげな憂いを含んでいるって。
      加治佐  うそつきね。
      長谷部  え?
      加治佐  あなたは嘘をついている。
      長谷部  そんな・・・。僕がいつ嘘をついたって? 証拠はあるのか!
      加治佐  目を見ればわかるわ。女が泣くのも女に泣くのも、もっと鼻水の出る話だわ。
      長谷部  ちっ、おとなしく山田姫を渡せばいいものを!
      加治佐  山田姫!?
      山田   きゃぁー、お助けー!
      加治佐  山田、どういうことか5秒で説明して!
      山田   私はストーカーに追われていたの。それで、この家に転がり込んできたの! そのストーカーは、この人よ!
      長谷部  ええっ、姫! ご戯れを。
      加治佐  ・・・と、申しておりますが、姫?
      山田   これでどう!?
 
音声
(長谷部の声:山田姫~、あなたがほしいのです。お慕い申しておりマッスルマッスル!)
 
      長谷部  なんだこの恥ずかしい録音は~~!?
      加治佐  どうやら、ネタは上がってるようね!
      長谷部  やむ負えぬ。ハッ!
 
      加治佐  ひゃっ!? (後ろに転がる)
 
      長谷部  ことを穏便に済ませようと思っていた。しかし、これは、この銀河の危機なのです。
      加治佐  ねぇ、なんか、この人おかしいよ。
      山田   だから、言ったでしょ!? この人、宇宙人に攫われてからすっかり人が変わってしまったの!
      加治佐  さらっと、意味の分からないことを。
      長谷部  やんまだ~、俺たち昔はもっと仲良くやってたじゃねぇか! 一週間くらいずっと手をつなぎ合ってたりとかさ。ギネス記録も作った仲じゃねぇか!
      加治佐  なにそののろけ話。
      山田   そんなの知らないわ!
      長谷部  覚えてないだけだ! お前が猫に攫われたあの日、「にゃられた~」って、言いながら猫に攫われていったあの日、
      加治佐  カーット!
 
ふたり、向く。
 
      加治佐  ここまで、整理するね。山田は、昔この男と付き合っていて、ラブラブで、ある日、猫に攫われたと。
      山田   そう。
      加治佐  で、この長谷部という男は、昔この女と付き合っていて、ラブラブで、ある日、宇宙人に攫われたと。
      長谷部  そう。
      加治佐  ヒント。
 
      山田   ヒントは・・・
      長谷部  まって、どれ言おうとしてる?
      山田   え? ごにょごにょ。
      長谷部  え、それ言っちゃほとんど答えじゃん。
      山田   そうかなぁー。
      長谷部  せめて、このヘンにしとこ?
      山田   んー、じゃあ、それで。
 
      長谷部  ・・・んそなたに、ヒントを授けよう(歌舞伎風に、裏声風に)。
 
      加治佐  何キャラ?
      山田   ナニ?
      加治佐  何キャラ?
      長谷部  ヒントは、
 
2人   ニンギョウ!
 
      加治佐  ああ、人魚? つまり、真実を伝えちゃうと泡になって消えちゃうから、相手から愛してるって言ってもらわないといけないっていう。
      山田   それは人魚だよ。
      長谷部  もー、しっかりしてよね!
      山田   ね~。
      加治佐  ね~って。
      山田   あくまで、ヒントだからね。
      長谷部  やんまだ、でもそろそろ時間だ。
      山田   そっか~。じゃあ、残念。
      長谷部  ぼっしゅーと~
      山田   はい、残念賞の、ストラップ。
 
      加治佐  仲いいじゃん。何、それを自慢しに来たわけ?
      山田   いや、それがさ。
 
 
コンコン、と、音。
 
 
      峠原   すみませーん。
 
      加治佐  あ、ごめんね。(加治佐、はける)
 
      山田   お別れを言おうと思ってさ。
 
暗転。
明転すると、山田、長谷部はいない。
 
      加治佐  はい?
      峠原   私、ガス会社のものなんですけれど、
      加治佐  ガス会社。こんな時間に?
      峠原   はい。先ほど、この辺りに特殊なガスが発生したって聞いたんですけど、何か変わったことはありませんでしたか?
      加治佐  変わったことですか。うーん・・・。
      峠原   その写真は?
      加治佐  これですか? これは、高校の時に、癌で亡くした友人の写真です。
      峠原   あ、すみません。
      加治佐  修学旅行、癌で髪の毛がすっかり抜けちゃって・・・。でもね、行くって言って一緒に行ったんです。楽しかったなぁ。
      峠原   ねぇ、ひとつ小さな世界に住む私たちの話をしてもいいですか?
      加治佐  ガス会社の方・・・ですよね?
      峠原   ええ。ガスを追いかけて、ここまで。
      加治佐  どうぞ。何の話でしょう。
      峠原   UFOキャッチャーってやったことあります?
      加治佐  ええ。人形を上からクレーンを操って掴んで、GETするっていう、あれですよね。
      峠原   そうそう。それです。私はそれが随分と好きなもので。それでね、UFOキャッチャーなんですけれど、UFOキャッチャーって、人形から見たら、UFOに攫われるって、ことですよね。
      加治佐  はぁ、なるほどそれでUFOキャッチャー。それで?
      峠原   ・・・それだけです。
      加治佐  そうですか。
      峠原   今夜はガスが出ているみたいですから、気を付けてくださいね。
      加治佐  はあ、どうも。
      峠原   では、代わりに私が言っておきますね。
      加治佐  え?
      峠原   (さようなら)
 

 
      加治佐  ・・・・・・おなか減ったな。夜食なんにしよう? UFOがあったかな? あとは・・・
 
暗転。
 
      加治佐  ホットミルクがいいかな?
 
これにて終幕。





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【小説】天気雨

たまには書くよ。

どうぞ。





天気雨
2012.4.3
なかまくら
 
 
その手帳を拾ったのは偶然だった。
「なあに、それ?」
それに夢中だった僕は彼女の接近に気が付かなかった。
「ああ・・・これか」
「手帳?」
「そう。ある男の手帳だ」僕はその手帳を彼女に手渡した。
「ほら、手帳って、日々の予定を詳しく書けるページが後ろについてるだろう?」
「そうね。たいていはそのページは使われないけれど」
「それは僕たちみたいな学生の身分だからだよ。もう少し大きくなったらひとつひとつの予定が無駄に長くなって、空白の時間なんて減っていくのさ」
「それで、この手帳は、その日々のページに日記が書かれている手帳なのね?」彼女が手帳をめくりながら細い目で興味深そうにそれを見ていた。
「そうだよ」僕はその様子を眺めていた。それから、
「ねぇ、その手帳、どこで拾ったと思う?」僕はそう問う。
 
彼女はあるページまで開くと、バタンと勢いよく手帳を閉じた。
「なんなの、これ・・・」そのページはちょうど真っ赤に塗りつぶされたページだった。
 
「さあてね、真相は分からないよ」僕は、そう言った。
「これ、どこで拾ってきたの?」彼女は手帳を机に置くと後ろに一歩二歩と距離を取った。
手帳の黒い革が暗い紫色を纏い、その周りに紫、ダークブルー、暗緑色、ダージリン、玉葱色。色は空間を伝わって、その手帳の魅力が彼女を包み込んでいるのが見て取れた。
 
「ねぇ、その手帳、どこで拾ったと思う?」僕は同じ質問をもう一度することにした。
「どこかしら・・・そうね。証拠物品として押収されたもの、とかかしら?」彼女は既に手帳を再び手に取り、熱心にページを捲(めく)っていた。「この日記、ふたりの人物が出てくるわ。30代の男と、小学生の女の子」
 
僕はふっと笑うと、こう言う。
「ねぇ、少し考えてみようか」
「え?」
「・・・この事件の真相をさ」
 

 
8月10日。晴れ。
夏休みに入ってからすでに10日が過ぎた。
 
 
「ねえ、おじさん?」
女の子はとてもいい子だ。
「朝ごはん、食べたいな。お手伝いするから、お願い」
お願いされれば僕はもう作ってやる他はない。
「何がいい?」と僕が聞くと、
「おじさん、目玉焼きしか作れないし。びっくりしちゃったよ、私。私のママはね、ハンバーグが上手なんだよ!」女の子がそう答える。
僕は、ママという言葉に少しドキリとする。
「・・・ママに会いたい?」僕はそう尋ねる。
「うーーん、まだいいや。ママは旅行に行ってるんでしょ? たまにはママに自由に遊んでほしいし」女の子は健気にそう言っているが、最近よくさびしそうな顔をしている。
 
 
8月11日。晴れ。
 
新聞の片隅に女の子の捜索欄がある。女の子の特徴は、赤いリボン。おかっぱで、黄色い腕時計を付けている。探している。誰かがこの子を探している。
自分ではなくこの子を探しているのだ。必要なのは、このろくでもなく年を取ってしまった男ではなく、まだ何もない空っぽの器を持つこの女の子なのだ。殺すしかない。その場所には一人しか入れないのだ。
「ねぇ、おじさん?」女の子が台所にやって来る。
別荘の暗い廊下をトイレまで連れて行った。
 
8月12日。雨。
雷が鳴り、嵐が来ているのを伝える。古びたブラウン管のテレビに美人のキャスターがにっこりと笑っている様子が映り、その後ろの日本列島を大型の低気圧が迫っていると伝える。画面上を蠢く低気圧の等圧線が生物のような不気味な揺らめきをもって前進していく。カエルの鳴き声は夜明け頃から聞こえなくなった。
 
雷に打たれたか、それとも、
打たれないように、身を潜めているのか。
 
捜索の輪が広がっていることがニュースで流れていた。画面上を広がっていく捜索範囲を示す白いラインがもうまもなくこの別荘にも達する。だがしかし、今日はここは陸の孤島となるだろう。誰にも邪魔されないのは、今日までだ。・・・片づけをしなくちゃ。
お客様が来る前に。女の子はカエルのように静かだ。
 
 
8月13日。晴れ。
今日という日が来た。今日という日が来た。
迎えが来るだろう。上から? 下から? 右から? 左から? 昨日から? 明日から?
なんにせよ、迎えが来るだろう。僕に、そして、女の子に。
僕はもう、疲れたよ。ねえ、女の子は眠っている。トイレは狭いだろう、可哀相に。
 
 

 
「ねぇ、これって、文字通り・・・でさ」彼女がそう言う。
要するに、そういうことだ。
男は何らかの理由で女の子を山奥の別荘に監禁していた。必死の捜索が行われたが、女の子は殺され、男も自害してしまった。簡単に言えばそういうことだ。そんなものだ。
 
 
僕は「でもさ、」と笑う。 それじゃあ、つまらない。
 
彼女は「何言ってんの?」と、あきれて笑う。
 
僕は笑ったまま、「例えばさ、」と言う。「これは、この部屋で拾ったんだよ?」
彼女は分からないという顔で笑ったままだ。
僕は、その言葉を贈り出す。
 
「これは、君の中で起こったことなんだよ」

窓の外では風が勢いよく雲を押し流していた。


おわり。





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【小説】キラータイトル

2012年、超短編小説会 超短編祭参加作品。です。

お題は、「 『 ウィンター 』、『 ウォーズ 』、『 魔法 』、『 微熱 』、『 チョコ 』

 『 いつか 』、『 来た道 』、『 帰り道 』、『 風 』、『 センス 』、『 私 』

 『 幸福 』、『 質問 』、『 百者 』、『 騙り 』、『 入道雲 』

 『 騙された 』、『 誰だ 』、『 煙突 』、『 手紙 』、『 魔導 』、『 士 』

 『 今更 』、『 ながら 』、『 自己紹介 』」

から、なるべくたくさん言葉を入れて、書く。です。探してみてください。

23個入っているはずです(ひとつはひらがな)

ミステリー風・・・? です。

よかったら拍手でもください。

では、どうぞ。



***

キラータイトル
 
 
 
生きるってなんですか。夕焼けに牛乳配達の若者が鼻歌交じりに自転車をこいでいる。
長い坂道の途中で、その顔は紛れもない真剣そのもの。
真っ赤に染まった顔はまるで血みどろの戦場の衣装。
集合住宅の前でいったん降りて、牛乳を木箱に並べて入れると、少年は再び鼻歌交じりに歌いだす。
 
 

 
個性的な焦げ茶色に染まった入道雲が幸福な質問を携えていた。
 
白塗りされた建物の窓から、外の様子が見える。男はカーテンをぴしゃりと閉めて、その外とのつながりを断つと、机へと向かう。男は作家だった。羽ペンが舞い踊り、部屋の中を飛び回る。
 
決して覗いてはなりませんぞ。
 
壁には騙された魔道士たちがべたべたと張り付いて、覗き見をしている。
物語という牢獄からの解放の時を待っているのだ。
没キャラクターになったもの、モブキャラ扱いにされたもの。
怨嗟の声が自己紹介となって、男に流れ込んでいく。あふれかえった物語。
ふいに開いてもいない窓から一陣の風が通り抜ける。
はっと振り向いた、男は。
部屋に魔が差しこんで、真っ赤に染まっていった。
魔道士たちは笑いながら飛び去っていく。
まるで初めから、その瞬間を見るために集まった観客であったように、振る舞い、
我関せずと、笑っていた。
 

 
 
探偵の朝は早い。
ウィンナーバーゲンで大量に買い占めた腸詰めをフライパンにいくつかつかんで載せると、かりっと焼き上げる。外からは毎朝パン屋が、焼きたてのパンと事件を届けに来る。
 
「おい、探偵。知ってるか?」
 
パン屋はうわさ好き。街一番の情報通。
来た道を帰ろうとするとな、後ろに見たこともない煙突街が見えるんだ。
ちょこっと手紙を渡しただけで、魔法みたいにあの子たちはカップルになっちゃったんだ。
センスで仰ぐと、いい風が吹いたんだって。
 
この世界は物語にあふれている。ありふれた事件に一喜一憂し、微熱を帯びたように浮ついた気分に浮かれる沈む。燃えることもなく、消えることもなく、不完全燃焼の真実が、有毒ガスを吐き続ける。空は晴れず、石畳のストリートはよくない霧に包まれる。
 
「そうそう、聞いたか? ウォーズストリートの事件」
パン屋は、うっかり持ってきた焼きたてのパンを食べながらいう。
「ああ・・・作家の・・・殺されたっていう」
探偵はうっかりコンソメスープを出す。
 
「そうそう。依頼人を連れてきた」パン屋は、持参した舟型の精巧なクルトンをコンソメスープに浮かべながら、そう言った。
「あのぅ~」
「誰だっ!?」
「依頼人です!」
探偵の背後には礼をした依頼人が立っていた。探偵は、コンソメスープで一息つくと、
 
「私の背後に立つべからず、という紙を背中に貼った」。
 
「あのぅ~、この人は何を言っちゃってるんでしょうか?」依頼人は動揺し、
「仕方がないな」探偵は、事情を飲み込めない依頼人に、コンソメスープで一息つかせた。
 
パン屋が『この帰り道はいつか来た』という題の絵の裏にあるスイッチを押す。
 
ウィン
 
ターンテーブルが開いて、この街の地図が出てくる。
 
ついでに事件についてチョコっと尋ねたところ、こうだ。123。
五日前、ウォーズストリート4番街の一角にある集合住宅「百者之家(モモ・モノノケ)」の3Fで、作家のオオタナさんが殺されていた。
 
部屋には、鳥の羽が散乱しており、ペットの“かたりーぬ(ゲコ)”は、卵を産卵していた。
部屋には他に異常はなかった。強いて言えば、羽毛布団がずたずたに切り裂かれていたくらいだった。
 
「なんだ。オオタナさんはニワトリ人間とでも争ったのか?」探偵が聞く。
「まあ、ケッコーコケッコーな、人でしたから・・・」と、依頼人は答えた。
「君と犯人には一見接点がなさそうに思えるのだが?」探偵が調査ファイルを開く。
「最近近くのバーで小説クラブを結成したんです。そのメンバーでした。彼も、私も」
「小説クラブ?」探偵は、ターンテーブルに乗っかると、華麗なステップを披露した。
「はい。テーマを決めて小説を書くんです」テーブルは回転を始める。
「どんなテーマで?」探偵はトリプルアクセルを決めながら尋ねる。
「そ~れ~は~・・・」依頼人は目が回って、気が付くとすべては白日の下に曝されていた。
「なるほどな・・・」探偵を中心に世界は、回っていた。
「なんだか・・・個性的、ですね」依頼人は上の空にぼそっと言った。
 
**
 
 
数日が経ち、再び事件は起こる。
パン屋が扉に吸い込まれるように飛び込んできたので、探偵はパン屋と連れ立って、扉に吸い込まれるように飛び出た。扉についた鐘が普通にカランと鳴った。それからその音はお隣さんちに吸い込まれていった。
 
探偵たちは外に止めてあった車にムーンウォークで乗り込むと、エンジンをかけた。
 
“ながらっ、ながらながらながら・・・がらがらがらがら・・・”と車は虹色の排気ガスと生きてるみたいな変な音を吐き出し続けるので、
 
「おいパン屋、がらがらうるさいぞ、このポンコツ。車検に出したらどうだ!?」と探偵がいうと、
「今更新してきたとこなんですけどね~」とパン屋は、無駄にかっこよく車を発進させた。
 
 
事件が起こったのは会議室。煙突が伸びる製紙工場の隣。出版社本社、雑誌の編集会議の真っ只中であった。
ライターが無差別に一人を除いて全員殺されていた。あたりには、羽と原稿が散らばっている。
 
「編集長、いったいライター達に何があったんですか?」パン屋が編集長に詰め寄っている間に、探偵は、
「犯人は羽の生えた人物だ。この羽をDNA鑑定すれば・・・」と、考えたが、
「しまった・・・、それは今読んでるSFの中の話だった」現実と空想が区別つかなくなっていた。
 
「いえ、私はただ・・・もっと個性的で、面白いものを書け、と叱咤激励をですね・・・」
編集長がハンカチーフで汗を拭いていると、死体リストをみていたパン屋は、あることに気付いた。
「おい、探偵。これを見ろ!」
 
そのリストの中には、先日の依頼人の姿があったのだった。
「依頼人・・・守れなかったのか」
 
夜の風が吹いた。
 
 
***
 
 
彼が最後に何か伝えようと握っていた紙きれを、探偵はランプの明かりに照らされながら読んでいた。
 
それから、羽ペンをとる。
 
「この事件、巨大な何かが動いているような気がする」
探偵は引き出しを開けると、ノートを取り出し、横に置くと、手紙を書いた。
のっぺりとした文章を書く。それは誰にでも替えが効くような文章で、部分的にパーツを交換してもよいような汎用的な暗号。この暗号でも十分人を引き付けてやまないだろう。微熱を帯びた文章は人々に感染し、やがて治っていくのだろう。いつだって、そうやって人は人を喰らって生きているのだろう。
書き終えると探偵は、ひとつ息をついた。それから、ノートの端にマッチで火をつける。
 
「ここから先は、一人でいい」手紙はパン屋のおっちゃんに送られた。
 
 
 
探偵は、もうひとりでいい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

**あとがき**

犯人は、誰でしょうね^^;
 





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【小説】ハイムさんのかっこいいロッカー

なかまくらです。実験的小説的な、何かです^^;
こういうオムニバスやったら面白いかもなぁ~なんて、思ったり思ったり。

以下。



***

ハイムさんのかっこいいロッカー
作・なかまくら



今月の新刊(ファンもたじたじの最新作がズラリ!)。
 
 
☆  ハイス・クール・ロッカー
⇒ Mr.ハイスはロッカーマニア。いいロッカーを見つけると、コインを入れて鍵をかける。そんな都市伝説みたいな話。彼の死後、大富豪でもあった彼の遺産を求めて、ハイス・クール・ロッカーを探す男たちが駆け抜ける!
 
☆  ハイ・スクール・ロッカー
⇒ 誕生日に彼女からプレゼントされたのは、学校とかにありそうなスクールロッカーだった!? ろっかーに置かれていく人形たちが織り成す、ちょっと不思議なハートフルファンタジー、始まります。
 
☆  ハイスクール・ロッカー
⇒ 前川由奇奈の入学した高校には生徒の間にだけ伝わる、不思議な廃ロッカーがあった。使わなく無くなったものを入れておくと、誰かが別の使わなくなったものと交換してくれるのだ。ある日、その誰かが分からなくなって・・・。この夏一番の学園ミステリー! 開幕。
 
☆  ハイスクール・ロッカー
⇒ 伝説のロックバンドの伝説のヴォーカルが、この高校にやってくる!? Twitterでのつぶやきにファンが殺到!? なぜか対応に追われ、真偽を確かめようとする軽音部のメンバーに、彼からの着信。「え、これなくなったって」彼の伝えようとしたこととは、一体・・・?
 
☆  ハイスクール・ロッカー
⇒ スポンサーからの「ハイ」と「スクール」と「ロッカー」を入れたタイトルのドラマを作れとのお達し。青春に縁のなかった脚本家たちは、あれこれと壮絶な苦肉の策を絞り出す。「もう俺、ハイスクロールカーの方が書けそうな気がしてきた・・・」「いやいや、ハイスクリームカーの方が・・・」はたして、ドラマの台本は無事完成するのか!? ハイスクールロッカーを巡るドタバタコメディー!!
 
 
 
□■ 1月32日、発売予定 ■□
□■ 定価、言っていいか? ■□





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【小説】ヒーロー.bat

なかまくらです。いつまでもうまくいかないので、とりあえず、小説で書いちゃいました。

結構自信作。そんなにながくないので、よかったら読んでみてくださいな。

そしてそして、拍手、感想なぞ戴けたら嬉しいです^^;

いつか戯曲にしてみたいシリーズ。キャラとかもいろいろ考えてんだけどな~~。





ヒーロー.bat(バッヂ)
作・なかまくら
2012.1.16
 
 
 
『ヒーロー.batとは、一種の最適化プログラムのことである。』
 
2次元の世界で僕らはヒーローだった。
ヒーローRPG。
ネット上のウイルスを退治して回る。ぐるぐる回る。
 
その日も、いつもと同じように狩りに出た。道中。タッグを組んでいたチームのリーダー・レッドが木陰で休憩しているときに不意にぼそっと、こう言った。
 
「ヒーローなんて呪いだよ」
 
どういうコンテクストでその言葉が紡ぎだされたのかなんてどこかに剥がれ落ちてしまって、その言葉だけがレッドの最後の言葉として後にひどく残った。
そのミッションは罠で、闘いの最中、レッドのアバタープログラムは復旧できないところまでバラバラにされてしまう。
 
僕たちは、アルファベットにまで分解されてしまったプログラムコードを一生懸命に拾い集めたけれど、彼のヒーローのシンボルマークだけが残されるばかりだった。
それから、命は取り戻せないんだと気付くのに随分と時間がかかった。
 
そして、まるで、レッドの身体と同じように、僕らも何となくバラバラになってしまった。
 
 

 
 
3次元の世界で僕はヒーローになろうとした。
ヒーローになるには、ヒーローバッヂが必要だった。
一番かっこいいピンバッヂにビビッとくる。
つければ僕はヒーローになれた。
 
学校を休んでいた子にノートを届けたヒーローの僕は、その帰り道で子猫を拾う。
うちでは猫は飼えないことは分かっていたから、近くの神社で飼うことにした。学校が終わったら、給食のパンを届けに行くのだ。ある日、
 
いつものように境内へ続く階段を上っていると、上の方から声がした。
 
2つも3つも上の学年の子供たちが、猫のダンボールを取り囲んでいた。
 
「おい、俺、バクチクもってんぜ!」「おっ! 〇〇〇、マジ天才!」
「・・・からの?」「おっ!」「おっ?」「はははっ」
 
僕はピンバッヂを握りしめていた。握りしめた手は震えていた。震える手は、耳を懸命に塞いでいた。
心の中で叫んでいた。どうしてヒーローは現れないのだろう。何の罪もない子猫が非道い目に遭おうとしているのに…どうして…どうして!
 
悲鳴が塞いだ手をすり抜けて聞こえた気がして目を開けると、汗でびしょびしょになったピンバッヂが握られていた。そうか、僕が出て行かなかったら、あの子猫は救われないんだ。あの猫が救われるには、代わりに僕が非道く怖い目に遭わなければならないんだ。どうして?
 
ヒーローだから。
 
でも、
と、僕は、思う。
でも、ここで出て行ったら、僕はきっとヒーローを失ってしまう。
それは世界にいつか大怪人が現れた時に颯爽と登場するはずのヒーローをここで失ってしまうということだ。それだけは避けなくちゃいけない。だから、
 
ヒーローは、悲しんでいる暇はないんだ。ヒーローはどんなに傷ついたって、平気なふりをして、闘い続けなくちゃいけない。
 
僕が立ち上がって、階段を一歩降りた その時、
木々のざわめきの中に、
また悲鳴が聞こえた気がした。
 

 
しばらく時間が経って、ぐしゃぐしゃに畳まれてボロボロになった僕は、境内のダンボールに近づく。痛む手で涙をゴシゴシと拭くと、鞄からパンを取り出した。
 
ダンボールの中の猫は、一瞬おびえたように身構えた後、パンじゃなくて、ピンバッヂを奪って駆け出していった。
 
「お前はヒーロー失格だ。」そう言われた気がして、僕は誰もいない境内でボロボロと泣いた。
 
僕のヒーローは決して泣いたりしないのに。
 
 

 
奪われたピンバッヂはその時の僕にとって、とても大切なものだったけれど、
無くなってしまって僕は、救われたような気がしていた。
 
もし、
もし、もっと早くに駆けつけていれば、猫は僕を責めなかっただろうか?
 
今となっては誰にも分からないけれど、
 
 
おかげで僕は今、本物の勇気をもって、
 
誰かにとって本物のヒーローになろうと、
 
まだ頑張っている。
 
 
おわり。
 
 
 
 

 
 
(+)あとがき(+)
なんとなく、ヒーローについて。いつか、戯曲にしたいな。
と、思ってます。 

 





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