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なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【戯曲】ONDEMAND

新作! 「ONDEMAND」急に書くのはいつものことです。

15分くらいの短編なのは、体力不足のせい。





ちょっとだけ、前書き。
この作品は、去年大学祭で観た「PEEP」という作品に触発されて書いたものです。
ミステリーでもないホラーでもないSFでもないファンタジーでもないラブロマンスでもない。なんだこれ? 分類できないぞ、という作品を書きたかったのです。
今のちょっとした目標。その実験作です。



ONDEMAND
 
作・なかまくら
2012.4.10
 
 
登場人物
 
加治佐・・加奈子
山田・・・やんまだ
長谷部・・ボーイフレンド
峠原・・・ぱんぴー
 
 
机。漫画のネタに悩む加治佐。
入ってくる、女。山田。
 
 
      山田   しりとりしよう?
      加治佐  しりとり?
      山田   りからね。
      加治佐  理由。
      山田   後ろ盾
      加治佐  て、そうじゃなくて。
      山田   手招き。
      加治佐  聞いてる?
      山田   ルアー
      加治佐  あのね。
山田   寝言。
      加治佐  とりあえずどうした?
      山田   タータンチェック
      加治佐  ・・・苦言を呈するぞ。
      山田   ぞ!? ぞ、かぁ・・・。
 
      加治佐  で、なに?
      山田   うん。家でした。
      加治佐  うん? ここは私の家だけど。
      山田   ううん。家でした。
      加治佐  そうだね、ここは私の家だけど。
      山田   なるほどなるほど。
      加治佐  分かってもらえた?
      山田   よーく分かった。ヨーグルトみたいに冷たいあなたは、家出した私を受け止めてくれないわけね。飛べない豚! ばかっ!
      加治佐  あっ、それを開いてしまうとは! それは、楽しみにとってた最後の・・・
      山田   あまい~。幸しぇ~
      加治佐  この山田のばか!
      山田   どの山田のことです? てれれれってれー。これは?(ジェスチャー)
      加治佐  海だ。
      山田   これは?(ジェスチャー)
      加治佐  雲だ。
      山田   これは?(ジェスチャー)
      加治佐  お前だよ! お前のことだよ!
 
      山田   あっ、ぞ、
      加治佐  ぞ?
      山田   ゾンビ!
 
      加治佐  ・・・・・・・・・。
      山田   ・・・・・・。
      加治佐  あのさ。
      山田   ゾンビがね、
      加治佐  うん。
      山田   こんな昔話知ってる?
      加治佐  知ってる。
      山田   そう、なら話すけどいい?
      加治佐  勝手にどうぞ。なんか飲む?
      山田   ホットミルクがいいらしい。
      加治佐  誰が飲むの?
      山田   私。
 
      加治佐、はける。
 
      山田   でね、或る仲の良い親友がいたの。でね、ふたりはプリティできゅあきゅあだったんだけどね、ある約束をするの。「私が先に死んだら壁に埋めて」って。そうしたら「いつまでも一緒にいられるでしょ?」なんて、なんてことを。程無くして一人は死んで、
 
      加治佐、戻ってきて、
 
      加治佐  ちょっと待って、それ、私に話してるんだよね?
      山田   ・・・え?
      加治佐  いや、私さ、なんか早く飲んでほしいんだよね。というか、飲み込んでほしいんだよね。
      山田   なんで、私が?
      加治佐  これ、誰が飲むの?
      山田   ところがね、恋のビートは無情だわ。二人の仲を引き裂くの。それで私の家の隣に住んでる女の子は引っ越しちゃうの。引っ越したはずなのにね、時々、カリカリっカリカリっって、音がするの。・・・壁の向こうから。
      加治佐  向こうから?
      山田   そう。
      加治佐  ねぇ、それってさ。
      山田   うん?
      加治佐  隣に誰か勝手に住んでるんじゃないの?
      山田   私もね、そう思ったの。だけど、
 
 
電話がかかってくる。
 
 
      山田   あ、ごめんね。
 
山田、はける。
 
      加治佐  彼女は、何故私、加治佐加奈子のうちに転がり込んできたのか。何故、突然しりとりを始めたかと思ったら
 
山田、転がって帰ってくる。
 
      山田   ただいま~。
      加治佐  お帰り。
      山田   ・・・・・・。
      加治佐  ・・・・・・。
      山田   にやにや。
      加治佐  ねえ、
      山田   なに?やにや。
      加治佐  一つ聞いていい?
      山田   聞いていいよ?
      加治佐  何でそんなにやにやしてんの?
      山田   いやー、それがさ、隣に引っ越してきたウォーリーが面白くてさ~。
      加治佐  隣に引っ越してきた、ねぇ。
      山田   そうそう。
      加治佐  で、何の電話だったの?
      山田   うん。家財道具をね、一式全部あげてきたの。
      加治佐  はぁっ?!
      山田   ね?
      加治佐  いや、ねっ。て言われても。
      山田   ほらっ、見ず知らずの人には優しくしてあげようって、教わったでしょ?
      加治佐  それだ。
      山田   え?
      加治佐  ねぇ、覚えてる、山田さ、そう言って修学旅行の時に髪の毛寄付してたよね。
      山田   ん?
      加治佐  ほら、お寺でさ、「なんで今時?」「体験学習じゃない?」って、笑いながらみんなで通り過ぎようとしたときにさ、
      山田   「私、寄付する」
      加治佐  って、言ってさ。
      山田   えーそうだっけ?
      加治佐  今、どの口が言ったわけ?
      山田   ん? なんか言った?
      加治佐  一回言った。
      山田   ねぇねぇ、髪の毛ってさ、売れるらしいよ。
      加治佐  その時は、髪で縄をなうって、言ってたけど。
      山田   縄をなうの?
      加治佐  混ぜると丈夫になるんだって。
      山田   髪を混ぜると?
      加治佐  らしいよ。
      山田   ちょっと宗教っぽいね。縄に生命の強さが乗り移るみたいな?
      加治佐  さあ。でも、どうして髪の毛寄付したの?
      山田   それさ、覚えてないんだ。私、ホントに、寄付した?
      加治佐  だって、先生がびっくりしてたよ! そんなに行きたい美容院があったのか! それとも、失恋でもした? って。
      山田   失恋?
      加治佐  え、失恋?
      山田   誰が?
      加治佐  え?
      山田   え?
      加治佐  ええええっ、失恋しちゃったのぉ~~~?!
      山田   そうなのぉ~~~~!?
      加治佐  まっさかぁ~~~
      山田   そんなぁ~~~
      加治佐  まっかあさ~~~
      山田   ギブミーチョコレート。
      加治佐  はい、どうぞ。
      山田   あま~い。
      加治佐  ・・・・・・。
      山田   甘い夢だったんだよ。
      加治佐  出会いは出会いは?
      山田   食器売場。
 
 
 
      長谷部、食器売り場にいる。
 
      長谷部  む。むむむ。
      山田   ん~(曲がったスプーンをもっている)
      長谷部  ははっ!
      山田   ん?
      長谷部  長谷部です!
      山田   はあ。
      長谷部  突然ですが、ここであったのも何かの縁。同じスプーンを買いませんか?
      山田   ペアルックで?
      長谷部  ええ、ペアルックで。
 
      加治佐  まって、この人、誰なの?
      山田   この人は、長谷部さん。
      加治佐  で、人目ぼれられたわけ?
      山田   そう、ぼれられた。ぼれられた。
 
      加治佐  で、失恋したと。
      長谷部  そうなんですよ~~。
      山田   ・・・・・・。
      長谷部  ちょっと聞いてくださいよ。
      加治佐  ちょっと待って! この人、ここに実在してんの?
      長谷部  ひどい人だなぁ、見てくださいよ、足も尻尾もちゃんとありますよ?
      加治佐  ホントだ・・・。って、そうじゃなくて! 尻尾あるのもおかしいし!
      長谷部  やんまださんたらひどいんですよ!
      山田   誤解だ。
      長谷部  僕のことをフッ、と嬉しそうに消すんですよ。まるで誕生日ケーキに刺さったろうそくの炎を消し去るように。でもね、僕にはわかっているんです。やんまださんのその微笑みは、どこか寂しげな憂いを含んでいるって。
      加治佐  うそつきね。
      長谷部  え?
      加治佐  あなたは嘘をついている。
      長谷部  そんな・・・。僕がいつ嘘をついたって? 証拠はあるのか!
      加治佐  目を見ればわかるわ。女が泣くのも女に泣くのも、もっと鼻水の出る話だわ。
      長谷部  ちっ、おとなしく山田姫を渡せばいいものを!
      加治佐  山田姫!?
      山田   きゃぁー、お助けー!
      加治佐  山田、どういうことか5秒で説明して!
      山田   私はストーカーに追われていたの。それで、この家に転がり込んできたの! そのストーカーは、この人よ!
      長谷部  ええっ、姫! ご戯れを。
      加治佐  ・・・と、申しておりますが、姫?
      山田   これでどう!?
 
音声
(長谷部の声:山田姫~、あなたがほしいのです。お慕い申しておりマッスルマッスル!)
 
      長谷部  なんだこの恥ずかしい録音は~~!?
      加治佐  どうやら、ネタは上がってるようね!
      長谷部  やむ負えぬ。ハッ!
 
      加治佐  ひゃっ!? (後ろに転がる)
 
      長谷部  ことを穏便に済ませようと思っていた。しかし、これは、この銀河の危機なのです。
      加治佐  ねぇ、なんか、この人おかしいよ。
      山田   だから、言ったでしょ!? この人、宇宙人に攫われてからすっかり人が変わってしまったの!
      加治佐  さらっと、意味の分からないことを。
      長谷部  やんまだ~、俺たち昔はもっと仲良くやってたじゃねぇか! 一週間くらいずっと手をつなぎ合ってたりとかさ。ギネス記録も作った仲じゃねぇか!
      加治佐  なにそののろけ話。
      山田   そんなの知らないわ!
      長谷部  覚えてないだけだ! お前が猫に攫われたあの日、「にゃられた~」って、言いながら猫に攫われていったあの日、
      加治佐  カーット!
 
ふたり、向く。
 
      加治佐  ここまで、整理するね。山田は、昔この男と付き合っていて、ラブラブで、ある日、猫に攫われたと。
      山田   そう。
      加治佐  で、この長谷部という男は、昔この女と付き合っていて、ラブラブで、ある日、宇宙人に攫われたと。
      長谷部  そう。
      加治佐  ヒント。
 
      山田   ヒントは・・・
      長谷部  まって、どれ言おうとしてる?
      山田   え? ごにょごにょ。
      長谷部  え、それ言っちゃほとんど答えじゃん。
      山田   そうかなぁー。
      長谷部  せめて、このヘンにしとこ?
      山田   んー、じゃあ、それで。
 
      長谷部  ・・・んそなたに、ヒントを授けよう(歌舞伎風に、裏声風に)。
 
      加治佐  何キャラ?
      山田   ナニ?
      加治佐  何キャラ?
      長谷部  ヒントは、
 
2人   ニンギョウ!
 
      加治佐  ああ、人魚? つまり、真実を伝えちゃうと泡になって消えちゃうから、相手から愛してるって言ってもらわないといけないっていう。
      山田   それは人魚だよ。
      長谷部  もー、しっかりしてよね!
      山田   ね~。
      加治佐  ね~って。
      山田   あくまで、ヒントだからね。
      長谷部  やんまだ、でもそろそろ時間だ。
      山田   そっか~。じゃあ、残念。
      長谷部  ぼっしゅーと~
      山田   はい、残念賞の、ストラップ。
 
      加治佐  仲いいじゃん。何、それを自慢しに来たわけ?
      山田   いや、それがさ。
 
 
コンコン、と、音。
 
 
      峠原   すみませーん。
 
      加治佐  あ、ごめんね。(加治佐、はける)
 
      山田   お別れを言おうと思ってさ。
 
暗転。
明転すると、山田、長谷部はいない。
 
      加治佐  はい?
      峠原   私、ガス会社のものなんですけれど、
      加治佐  ガス会社。こんな時間に?
      峠原   はい。先ほど、この辺りに特殊なガスが発生したって聞いたんですけど、何か変わったことはありませんでしたか?
      加治佐  変わったことですか。うーん・・・。
      峠原   その写真は?
      加治佐  これですか? これは、高校の時に、癌で亡くした友人の写真です。
      峠原   あ、すみません。
      加治佐  修学旅行、癌で髪の毛がすっかり抜けちゃって・・・。でもね、行くって言って一緒に行ったんです。楽しかったなぁ。
      峠原   ねぇ、ひとつ小さな世界に住む私たちの話をしてもいいですか?
      加治佐  ガス会社の方・・・ですよね?
      峠原   ええ。ガスを追いかけて、ここまで。
      加治佐  どうぞ。何の話でしょう。
      峠原   UFOキャッチャーってやったことあります?
      加治佐  ええ。人形を上からクレーンを操って掴んで、GETするっていう、あれですよね。
      峠原   そうそう。それです。私はそれが随分と好きなもので。それでね、UFOキャッチャーなんですけれど、UFOキャッチャーって、人形から見たら、UFOに攫われるって、ことですよね。
      加治佐  はぁ、なるほどそれでUFOキャッチャー。それで?
      峠原   ・・・それだけです。
      加治佐  そうですか。
      峠原   今夜はガスが出ているみたいですから、気を付けてくださいね。
      加治佐  はあ、どうも。
      峠原   では、代わりに私が言っておきますね。
      加治佐  え?
      峠原   (さようなら)
 

 
      加治佐  ・・・・・・おなか減ったな。夜食なんにしよう? UFOがあったかな? あとは・・・
 
暗転。
 
      加治佐  ホットミルクがいいかな?
 
これにて終幕。





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