1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】神様の化石

なかまくらです。

新作です。なんか、もっと言い表す言葉がありそうなのですが、今の私には残念なことに思いつかなくて、これが精いっぱい。

 

 


 

神様の化石

作・なかまくら

 

 

 

現実というやつは、今までに見たもののことを言うらしい。

 

「いいか、手を触れるなよ」 父さんはそう言って、ネクタイを緩める。冷蔵庫からプリンを取り出すと、ねじれたスプーンで器用に口に運んだ。もぐもぐ、もぐもぐ。歯茎はピンク、歯は白く。肌は黒く、髪も黒く。

木製のテーブルの周り、温度を調整した室内には多種多様な植物が生え並び、それぞれに昆虫や動物が規定され、配置されていた。

 

 

「うん」

 

ぼくはガラスケースの中のそれから目を離すことができなかった。

ぼくの家にやってきたそれは、何色というのはむずかしい光沢で揺らめいていた。それは4足で歩く動物に似ていて、胴体から上に首が伸びていた。足は不定形におおよそ4つから6つの範囲でアメーバのように伸長と収縮を繰り返していた。目の粗いポリゴンのような角張った結晶の網膜の中でぼうっと光が動いて、差し出された植物に口をつけると、

 

植物は種に戻った。

 

 

 

 

この星にはかつて神性を司る生物がいたとする。だが、それを証明することはおそらく難しい。しかし、その遺存種がこうして目の前に顕現しているのだよ。

父さんが同僚にそう話している。曰く、神性を証明することはむずかしい。化石として保存されるのはカタチであるからだ。カタチが表すことは、ひどく表面的だ。

 

脳のカタチが特異的に心やその感情を作っているわけではない。ぼく達だってそうであることを知っている。そう思っていることを、みんなそれぞれ、自分だけが知っている。他人に見せているのはカタチだけだ。

 

ぼくはガラスケースに湿った呼気を塗り付けると、『 か み さ ま ? 』と指で書いた。

それは、ふわふわとガラスケースの中に浮いたままで、しばらくして結晶の網膜に光がぼうっと浮かんで。

 

乾燥したように、すぐ消えた。

 

 

 

月曜日が来ると、友達が来た。

食べかけだったジャンクフードを慌てて食べる終えると、ごくり。

肉厚なハンバーグが喉をザラリと撫でた。身体の中を順に通っていく。食道、胃、どぼん。たぷたぷ。少し量が多かった朝食の牛乳が胃で自己主張をする。

ショッピングモールのシネコンで映画を見終えて、トイレへ。身体の中を通り過ぎていく、物質。すいへいりーべ、ぼくの船。

 

港に船が来航すると、物資が配給される。にんじん、じゃがいも、たまねぎ、鳥肉、ナスなんかもあるよ。背骨さん、はいカルシウム。筋肉さん、はいタンパク質。配給が行き届くと、みんな持ち場に戻ってせっせと身体づくりに励む。

 

「カレーばかり食べると、カレーの臭いがするようになるんだってよ。某国は国中カレーの臭いらしいぜ?」 カレーハウスの一角では、彼がどこかのネット上の掲示板から仕入れた情報を得意げに話している。

 

ぼく達の外側でショッピングモールの通路を人が、ひっきりなしに行き来していた。

 

 

 

 

 

その動物が発見されてからしばらく経つと、ついに研究者達は解剖という手段に踏み出すことになる。

 

 

ぼくは飛び起きた。家に曲がっていないスプーンはなかった。

 

ある時からずっとそうだった。部屋中のものが思い思いの音を立てて一斉に床に落ちた。

ぼくは汗をタオルで拭って鏡の中に映しだされた自分を確認する。不思議なところはない。目は結晶で出来ていないし、身体はいつだってこのカタチをしている。説明はできないけれど、自分のカタチを確認して、ぼくは枕をかき抱いて顔をうずめた。

 

きっと神様は、生まれる前に死んだんだ。自分の中の神様をぼくは強く強く、抱いた。

 

 

ぼくの夢の中は、化石になる動物たちを思っていた。石を食べると、代わりに肛門からいろいろなものが出ていく。最初に血液と体液。赤血球とか白血球とか、血しょうとか。それからずるずると血管が慎重に引きずり出されて、すっかり涸れた脳髄がくっついてきて。それからそれから、ジャガイモみたいに肺とか、心臓とかが体内からすっかり排出されてくる。するともう、ぼくは意味のない酸素を求める金魚みたいにパクパクパクと石を食べる生き物になる。

 

ハンバーグで出来ていた背骨のなかの脊髄が、パチン、と石に変わった。

 

 


 

あとがき

夜更かしすると、エンジン音がします。ぐるるるr・・・って。
宥(なだ)めるための、チョコレートがおいしいです。

 






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【小説】眉毛が腐った話【散文】

散文。

こんなのなら、15分もあれば書けるけど、そうじゃないんだ。突き詰めれば、もっと面白くできるでしょ? と、そうじゃないんだ。別に題材はこれでもいいんだけど、魂を削ってないんだ。

 

 

眉毛が腐った話

作・なかまくら

 

鳥饗くんが目を覚ますと、鏡が倒れてきていた。

鏡を腕で押し返そうとすると、なにやらぐじゅっと、押しつぶされた柿がちょうど押し返されたところみたいな音がした。

どうしてかというと、ちょうど昨日、そういう柿をそういうふうにしたから、鳥饗くんにはその感触がよくわかった。

しかしまあ、なんということか鏡には、黒っぽい何かがついていた。柿というよりは、海苔の佃煮だ。

その海苔の佃煮に似たそれは、眉毛にもついていて、むしろ、混じりっけのない眉毛そのもののようだった。

なんだこれ? 鳥饗くんが体を起こしてそう呟いた瞬間、ドバっと垂れてきて、視界は真っ暗になった。

隣の部屋で寝ているはずの姉に大声で助けを求めるも、返事はない。

枕元の携帯電話をデタラメに救急車をよんだ。

「悪いんだが、この電波は超法規的措置でジャックさせてもらったぜ、スパロウ!」

「スパロウじゃねぇよ!」鳥饗は目の前の暗黒物質に叫んでから気づく。・・・超(スーパー)法規(ロウ)的措置?

「さて、本題だ。君は今、前代未聞の地球外生物兵器の餌食になってしまっているんだ。」

電話越しに、銃声が聞こえた。

 

危ないところだったね。現れた男は、そう言って、空気感染しないようにする防護服みたいなのを装備して現れる。

そして鳥饗くんは洗われた。そして現れたピカピカの鳥饗くんの眉毛は排水口へと流れていった。

しかし、目はすでに腐ったようになっており、防護服は、腐り落ちていた。

「そ、そんなばかな・・・接触感染してしまったというのか・・・!」

男がそう言っているうちに、男の左腕は腐り落ち、剥きだした骨がみるみるうちに落ちていった。

それに気づいているのかどうかわからないまま、男は有無を言わず消え去った。

まるでその時を生きていないように、そのように。

更に、ぽたりと落ちた眉毛は彼の下に広がる絨毯を魔法に変えたとでもいうのか、鳥饗くんは、誰かに担ぎ上げられ、運び込まれた。

チクリと鋭い痛みが肌を刺したと思ったら、目が覚めて、自室のベッドに寝ていた。

ふと起き上がると目の前に鏡。

それは後からわかったことなのだが、

排水口へと流れていって、世界中に散らばった複雑な未来が、もうすぐそこまで来ていた。

 

 

おわり。

高校の時は、こんなのばっかり書いてた気がします。

こういうの、いまじゃあ、すっかり公開しなくなっちゃったけど、たまには。

 

 






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【戯曲】負透明に

なかまくらです。

久しぶりに台本を書き上げました。

うーーん、驚くほどドロドロの渦巻いた出来になってしまいました(笑

まだ若けぇな。途中で、修正しようとして、さらにあさっての方向に突き進んだのは内緒です。

でもまあ、なんというか、なんだこれ(笑)。


2012.10.14 負透明に (45分; 男2 女2)
*** 「一日消えるにはどうしたらいい?」「消えたいと思ったことない?」
      ある日を境に、誰かを消すことで世界につなぎとめられることを許された少女は、
      友人を作り、そして…。居場所を求める”失踪系”友情譚です。

http://nakamakura.iinaa.net/scenario.html


 






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【小説】ドリーム・ヒーロー【習作】

 

彼は、臆病なスーパーマンで、青いタイツに赤いマントを纏う。

つやつやとした青いタイツ、ふわりとして軽やかに丈夫な赤いマント。

彼はかつてスーパーマンとして学校に秩序と平和をもたらしていたが、

私が夢の登場人物になったとき、彼はもうすでにいなかった。

3階の教室から外に出るとそこは、下水の流れる土管。

ずんぐりとした4つ足や昆虫の節ばった6つ足のモンスターが待ち受ける。

ここは電撃属性のアサルトライフルがいいだろう、と、ふたつほど購入して、教室を飛び出す。

目の前に現れたモンスターにズダダダダ、と連射する。

「なんだこれ、威力ひっく!」 私は悪態をつき、打ち続けながら射線を顔へ向ける。

たまらず顔をそむけるモンスターの脇をすり抜ける。どうやら速射性は申し分ないようだ。

隣の教室にたどり着き、情報を収集する。彼はどこへ行ってしまったのか・・・?

人々は口を紡ぎ、私は1階まで降りてきていた。

後ろを追ってきていたと思っていたモンスターを確認しようと振り返ると、彼がいた。彼だった。

もう無理なんだ・・・、と彼は言い、

私は黙々と長い廊下を走った。彼の話を聞いた。

角を曲がり、渡り廊下のその先に、女の子の姿と、赤いマントが。

彼は、意を決してそのマントを羽織る。服はいつの間にか青い艶やかなタイツに変わっていた。

追いついてきたモンスターは人に似た形をとり、私たちを取り囲む。

「みんな逃げろ・・・!」 私は叫び、

モンスターの雑魚兵士から乱射される銃弾の嵐の中、赤いマントが翻る。

「お前も逃げろ・・・」 彼はそう言い、半分だけ顔をこちらに向けた。

 

その顔を見た私は、すべてを理解し、頬から伝う涙はとめどなく流れていった。

 

 

+あとがき+

昨日見た夢でした。この「彼」時々出てくるんです、私の夢に。

夢の常連ですね。

 





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【小説】クワガタヘッドと文学少女

(追記) 半日で、トップページからいなくなってしまうのはあまりに忍びないので、公演観てきましたよ、はこのページの後ろに移ってもらいましたよ。

 

小説です~。

1時間でやってくれました~。

小品ですが、結構好きな出来です。


 

 

クワガタヘッドと文学少女
                                         作・なかまくら
 
 
 
 
もうずいぶんと昔のことで、その時のほとんどのことは忘れてしまったけれど、
昨日、駅に続く歩道橋を歩いていく若いカップルが、そのお揃いの帽子を被っていたから、不意に思い出したのだ。
 
そういうものだろう、と、妙に納得した。
そのことを話してみようと思う。
 
 
クワガタヘッドのあの子のことを、山羊ゆう という名前のぼくが気になりだしたのは、その頃のことだ。
あの子の名前はもうすっかり忘れてしまったけれど、ぼくはあの子のことが気になっていた。
 
あの子はいつもクワガタヘッドで、素敵な焦茶色のクワガタが這いまわるワンピースを着ていて、よく本を読んでいた。
 
あの子は笑うとツヤのある頬を高揚のばかりに少し赤く染めたり、泣いて涙を流して頬が少し赤く染まったりする女の子だった。
 
ぼくは、言おう言おう、と毎日もじもじとしていて、ある日の昼休みにそれをついに言おうとしていた。「君のそのキバ、素敵だね」って。
 
あの子は机の中からこっそり残していたコッペパンと少し難しそうな本をランドセルにしまうところだった。
 
「―――――」ぼくがその名前を呼ぶと、あの子は少し怪訝そうな顔で、にこりと顔を向ける。
「あのね・・・」うわ靴の先が少しだけ前に進んだとき、
「君のその本、○○○○だね」隣のクラスの男の子が窓枠に腕を乗せこちらを見ていた。
 
――彼はスマートな笑みを浮かべ、
――あの子はツヤのある頬をポッと染め、走って行ってしまった。
 
 
そのあと、あの子は奇麗なクワガタのワンピースを日替わりに幾つも着てきて、たくさんの難しい本を持って図書館に毎日通っていった。
 
それから、最後にあの、クワガタヘッドを脱いで―――
 
 
 
―――ある朝が来た頃、
知らない女の子が幸せそうに、ツヤのない頬でぼくに笑いかけていた。
 





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