1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】遭遇

なかまくらです。

最近あまりにも更新していないので、

前に書いたやつを掲載するわけです。

ある企画で書いたやつです。


***


「遭遇」

作・なかまくら


「隣、いいですか?」

私がうとうと読んでいた本から目を離すと、その人は立っていた。

背中には小振りなデイバッグを背負い込み、赤紫のチェック柄のシャツを着込んでいた。

いつの間にか次の駅に到着していたのだと思い、窓の外を見ると、すでに列車は速度を上げて山の風景を後方に送り出している。

私は内心少し苦笑してから、

「どうぞ」とその人に言った。


「ありがとう」席に座ると、その人はペットボトルのウローン茶を取り出して一口、

口に含むと急に固まる。

「どうぞ、そのままいてください」その人はそう言う。

そして、もう一口、口に含んでから、ゴクリと飲みくだす。


「・・・え?」

新幹線の走行音が一瞬、私たち二人の間に流れ、それから店内販売のカートが入ってくる。

武器にもなりそうな鋭利な若さを秘めて、

しとやかな振る舞いを表面の服に繕って歩いてくる。そちらに目をやろうとすると、

「自然体で」その人からまた押し殺した声がかかる。

「あたかも、旅行にきたカップルのように振る舞ってほしい。
 私の存在を、彼らに気づかれてはならないんです」


どういう意味なのだろうか。まず真っ先に思い浮かんだのは、犯罪者であるということ。

指名手配されている強盗犯が、あるいはなんならその業界では有名な怪盗なんかでもいい。

そういう警察組織に追われる人間であるということ。

想像が逞しすぎるだろうか・・・。

私はまた、内心自分に苦笑して、今度は別の可能性を考える。

・・・そうだ。単に、キセル(無賃乗車)だ。

意味の分からないことなんて起こりはしないのだ。

これまで生きてきて、大抵のことは経験したから分かる。

人生とは80年一本勝負とはいうものの、実はある周期が年輪を伴って繰り返されているだけなのだ。だから、これはそのなかでは少しだけ今日が揺れるくらいの出来事で、もちろん人生を揺り動かすようなことではないのだ。

私は、そうやって嘆息しながら、分かったような気になって、

とりあえず店内販売のカートをやり過ごした。


さて、どうするか。


突き出すこともないだろう。

あとから色々と聞かれて面倒だし、

私は思い出してみれば、久しぶりの休暇に、旧友と約束をしていたのだ。

その時間をその人の不幸に費やすこともないだろう。

そういう、社会生活で身につけてきた処世術でもって、そういう判断を下した。

ただ、ああ、面倒な他人に隣に座られてしまった、と私は再び嘆息した。


「ねぇ、聞いてください」その面倒な人が声を掛けてくる。

「私があなたの隣に座ったのは偶然ですが、この偶然を必然と私は受け取りたい」

面倒な人は、なにやら面倒そうなことを言ってくる。

それは、なんですか、ナンパですか。私、今、ナンパ受けてるんですか?


「はぁ」私は、曖昧な返事を返す。

「あのですね、切符、持っていますよね」その面倒な人は、切符を取り出す。

ああ、なんだ、持ってるんだ。キセルじゃないんだ。

・・・ということは、もしかして前者なのかも? 

私の中に再び好奇心と想像力が首をもたげてくる。

「あなたはどこまでですか?」

「○○までです」そう答えると、

「それね、是非交換していただきたいんです」その人はそう言った。


「どうして」私はすかさず、つっこんだ。それは扉をノックする感覚に似ていたのかもしれない。扉の向こう側の情報が知りたくて、叩いてみる。

彼はその好奇心に気づいたのか、少し逡巡した後、こう切り出した。

「あなたは、この国に張り巡らされている牢獄をご存じではない。それは幸せなことだ。一歩、改札を通れば切符の番号によって管理され、監視カメラの情報によって管理される。どこからどこまで乗っていて、どの列車で今どこに移動中であるか。乗り口の改札口から降り口の改札口まで、我々は線路という細長い牢獄の中にいるんですよ。私はそこから自由になりたい」

世界の向こうを垣間見せられた私から、

彼は奪うように切符をもぎ取ると、駅のホームに降り立っていった。

それからおそらくは私の知らない改札の向こう側へ。


私は、といえば、目的地までは十分な距離を乗れる切符だったけれども、「失くしました」と駅員さんに言って通してもらった。その切符は今も定期券と一緒に入れて、肌身はなさず持っている。


いつかその切符の秘密を知る人物が接触してきて、またその世界への扉をノックする機会がくるかもしれないのだ。


・・・それ自体が俗物的な考え方なのかもしれないが。



おわり。





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【小説】目的の鍵

なかまくらです。
「改札」という単語をテーマにした小説を書こうという企画でできた作品のうちの片方。
もう一方のほうが面白くかけたので、こちらは本日公開です^^

久しぶりの発表ですねぇ。
「目的の鍵」
 
 
 
切符が挿入されると物語が再生される。
電気と磁気が黒い面に立体的ビジョンを作り出していく。
それは白い甲冑の姿、発行No.1636747の切符の化身、イムサムナシナ、この物語の主人公である。
彼イムサムが、門の前に立ってしばらく経つと案内役の老人が現れる。
「こんにちは」イムサムが声をかけると、
「この門の向こうにはいくつもの困難が待ち受けている」老人は唐突に語り出す。
「その困難を乗り越え”目的の鍵”を手にすることができたならば、先への道は開かれるであろう」
おそらくは何度も何度も繰り返し言ってきたのであろうその言葉は、少しの応援と少しの諦観を響きの中に隠していた。
「門を通りたいのですが・・・」イムサムがそう言うと、
「通りたいというのならば、通ればよい。なぜ通りたいと願うのか、私には理解が遠く及ばないが」老人はそう呟く。イムサムが門をくぐった後、少年の姿に変わってどこかへ駆けていった。
 
 
しばらく石畳の回廊を進むと、開けた場所に出た。薄闇の中で、広間の出口は見えない。イムサムは壁伝いに進むことにした。壁には装飾が施されており、その装飾をなぞると光を帯びていった。イムサムは気づかない。一連の魔法呪が光を帯びると、それは発動した。
「あぶない! 上よっ!」
イムサムが上を見ると、側壁に巨大な蜘蛛が留まっているのが見えた。
「うおぁあああっ!?」
イムサムは横っ飛びで飛び退くと、さっきまでいたところに白い糸が一束降り注ぐ。
「あぶなかったわね! バグズは初めて? 援護するわ」
一人の同じくらいの年頃の女の子が横に立っていた。スラリとした腕を前に伸ばすと、呪文を詠唱する。
伸ばした手を詠唱した魔法呪が光を帯びて回転し、一連の魔法を完成させていく。
「火よ!」
燃え上がった一端から、蜘蛛の巣全体に火は広がっていく。
焼け落ちた蜘蛛の巣から、たまらず蜘蛛が落ちてくる。ズシンという足音。
改めてみれば、足の一本一本が、イムサムの慎重と同じくらいであった。
 
「脚を切り落とすのよ!」
彼女の言うように、剣を振るい、一本、また一本を落とし、最後に脳天に剣を突き立てた。
 
「コングラッチュレイション!見事だわ」彼女は手をたたいて喜び、
 
「私はローラ。あなたも目的の鍵を? 一緒に頑張りましょう」イムサムはその手を取った。
 
二人はそれからいくつものバグズとの戦いを乗り越える。二人は喧嘩もしたし、笑いあいもした。互いに励ましあい、お互いを認めて信頼していた。イムサムはただ、彼女が時折見せる寂しげな表情の意味、それだけが分からなくて、それだけが気がかりであった。
 
最後の部屋にたどり着いた時、それが明らかになるわけだが、イムサムはその前に話してくれることを願い、そして、それは叶わなかった。
 
薄暗い部屋に、松明の光がぼうっと灯って二人に影を落としていた。突破した扉の前に群がるバグズをイムサムが引き受け、ローラが先に部屋に入る。遅れてイムサムが入ってきていた・・・。
 
「ほら、”目的の鍵”よ」
 
肩で息をするイムサムに、ローラは道を開ける。
 
「君の分は・・・?」イムサムは、不安に思って聞いた。
 
「私? 私は、ほらもう待ちきれなくなっちゃって先に取っちゃったから」
 
ローラに目を向けると、彼女は目を伏せていて、イムサムが見ていることに気が付くと、その瞳を向けてニッと笑って見せた。
 
「そうなんだ・・・」イムサムもそういう笑いを見せて、
 
“目的の鍵”に手をかけた。途端、光が溢れる。転移魔法が発動して、魔法呪の文字がぐるぐると回りだす。
 
「あのさっ!」イムサムは口を開けない。ローラは震える声で続ける。
 
「私ね、残らなくちゃいけないんだ。私がいないと家族がどうしようもなくてさ。私は私の目的でこの部屋に来たんだ。私は私の”目的の鍵”をここでちゃんと手に入れたんだよ! だから、安心して。私は私にできることを確認したかっただけだから。それが本当にならなくても、それを実現できることを確かめたかった。だから、私は・・・残るね」
 
彼女は、この時のために戦ってきていたんだと、彼には理解できた。同時にやっぱりその先に行かないことを全く理解できなかった。彼には彼女のことがやっぱりわかっていなかったのだ。最後の最後に、そんな一番初めの一歩に気付かされて終わるのだ。
 
 
 
 
 
彼は立っていた。
 
駅の床を叩く革靴の音。歩みを止めない人波を分けて立っていた。
 
振り返ると彼女が手を振っていて、
 
いってきます、と一言、つぶやいて、その言葉に代えた。
 
改札の向こうから。
 
 





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【小説】宝剣と人

最近は習作のような作品ばかりを書いていますが、

こういうのも嫌いではないのです。

ウィザーズブレイン予約し損ねた。




宝剣と人


2014/02/02


作・なかまくら


 


突き立った一振りの剣を拾うことができるものは限られている。


その剣を拾うには、竜の棲まう峰々を往き、食料に乏しく水のない沼地を歩かなければならない。男はそれらの困難に打ち勝ち、その剣を手にしたのであった。


 


「それがこの剣なのよね」


女は身体のラインが見えるドレスの上から、薄い赤色のひらひらとした絹を羽織っている。


「そうだ」


ハイレストと言う名の男はそう答えた。腕には格好相応のたくましさがあり、髪は縮れた短髪であった。武人、というにふさわしい男であった。


「俺がこの剣を手にしたとき、俺はまだ一兵士に過ぎなかった。剣を取りに行ったのだって、それが国王の命令だったからだ。山師に美しい剣があると聞いてなぁ」


ぽんぽん、と剣をたたいた。


「ところがどうだ。いざ、手に入れてみると国王はいらぬといったのだ。お前にくれてやる、と。俺は驚いたね」


男は女からグラスを受け取る。半分まで注がれたグラスを揺らし、女が自分のグラスに残りの半分の酒を注ぐのを待った。


「ネムリ、お前とこの時を迎えられたのはこの剣の幸運と、お前がいたからだ。乾杯しよう」


 


ふたりは酒を酌み交わし、ひとつの王朝を終わらせた。新たな王朝は混乱もなく安定し、新しい国王はよい政治をすると聞いた人民が国に集まった。国は栄え、王が死ぬと同時に滅んだ。


 


そこには、一振りの剣だけが残されたという。


 



 


「それがこの剣ですか」


青年は眼鏡の奥で目を見張った。


「そうだとも」


マーシズトフと言う名の男はそう答えた。身分の良さを恰幅で体現しているような男であった。


「この剣を得てからはどうだろう。この国を竜が襲わなくなった。私の地位も、大臣の補佐官にまで上り詰めた。若かりし頃、私は荒野を歩いていた。わけもなく死に場所を探していた。エリートコースを外れた私には絶望しかなかった」


青年は熱心にメモを取ることに夢中で、窓の外に忍び寄る影に気付かない。


「私にはその剣が希望に輝いているように思えたね。例えるなら、遠い異国の御伽噺に竹から生まれる娘があったそうじゃないか。私にはこの剣が、それに見えたのさ」


マーシズトフは、そう言って、その剣を抜いてみせた。


「ただ、私の跡を継いでこの剣を手にするだろうお前にだけは言っておく。この剣のことだ」


影は揺らめいて、燭台が支えるロウソクの明かりが壁に怪しくあたる。


「この剣を持つと聞こえるんだ。人を殺してはならぬ。正しいことをせねばならぬとな」


「そうですね、あなたはずっと正しいと思うことをしてきた。誰が何と言おうとも」


 


間もなく部屋には火がかけられる。この火は茅葺の家屋にあっという間に燃え広がるが、不思議なことに二人には火のない道が見えていた。街道に躍り出た二人の前に幾人かの顔に布を巻いた男たちが立ちふさがっていた。青年は腰を抜かして動けず、街に人気はなかった。マーシズトフは、ひとつため息をついたという。「生け捕りに・・・と言う感じでもなさそうだ」そう言って、唯一腰に佩いていた宝剣を抜いたという。その光は一瞬覆面の男たちを戸惑わせ、間髪入れず切り伏せられていった。右に薙ぐと右に切れ、左に振ると、左が切れた。そして足を止めずに一歩大きく踏み込んでいく。「うっ・・・」うめき声。一刺し、大きく左の背中を刺されながらも、背後にいた最後の男を袈裟に切った。「誰にいわれた・・・?」想像はついていた。友だと思っていた男。補佐官を決める際に負かした男。彼は卑怯な手に打って出て、自分の首を絞めるに至った男。マーシズトフは、どうと倒れた。剣は地面に突き立った。青年はそれを杖に立とうとしたが、抜けることはなかった。それから間もなく、国は滅びて地は隆起し、竜が棲まうようになった。


 



 


王子は父を殺そうと決意していた。


父は魔術士と結託し、人民の心血を注いで強化した軍隊で近隣の国に攻め入っては領土を拡大していた。王子は、王子として生まれ、幸せに暮らした。母に愛され、恐ろしいことをしていると知るまでの期間、父の愛も受けて育った。王宮に住まう臣下の娘ベクランリリーとも親しくしており、将来は妃に迎えてもよいと考えていた。その幸せは、人民の血液に支えられていたのだという。


急に生臭い話になった。


父は不思議な魔術の力によって、不滅の肉体をもっているという噂であった。その男を殺すには、なにか特別な加護のある武器でなくてはならない。街の占い師はそっと王子に耳を近づけた。その剣を拾うには、竜の棲まう峰々を往き、食料に乏しく水のない沼地を歩かなければならない。王子は果たしてそれらの困難に打ち勝ち、その剣を手にしたのであった。


 


それから、その剣の正しい使い道を、はた、と考えた。


 







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【小説】オードソックス

なかまくらです。

たまには小説。ワンアイディアの短いのです。



オードソックス

作・なかまくら

2014/01/19



「全自動でセックスをするAVを見たんだ」彼が作業をする傍ら、そんな話を繰り出した。

「全自動で!?」僕は思わずそちらを見る。

「そう。全自動なの。オートセックスなんちゅうの? そういうやつ」彼は作業をする手は止めずに話を続ける。

「どういう感じさ」僕も作業に戻る。

「うまく説明できないんだけど、見るとまさに、そういう感じなんだよ」彼は話したいように話す男であった。

「なんもその良さが伝わってこないんだ。でもすごく興味が湧くな。観てみたいものだよ」僕はくだらない話の踏切を見つけて、見切りをつけようとする。

「それが、どこで見つけたのか、いつ見つけたのか分からなくなってしまってしまって・・・」彼は語尾を何故か繰り返している。

「よほど大事に隠したわけだ。父ちゃん母ちゃん嫁さん息子、孫娘にも見つからないように」僕はくだらない冗談を飛ばすことにする。

「そういうことになるかな」彼は妙に神妙そうにそう言って、話を区切った。







「まずは典型的な色を決めていこうと思うんだ。」

―典型的な色ですか?

「そう。例えばほら、地面は土色。空は水色。海は青や緑や白。雲は灰色。」

―彩り豊かで、素敵な世界が出来そうですね。

「そうだよう。そういう世界を創ろうとしているんだから。」

―世界をおつくりになるんで?

「そうだとも。だからこうして歩き回っているんじゃないか」

―でも、飼育委員は創らなかったじゃないですか。

「この宇宙を創ってから100億年くらいがたったかな?」

―ええ、たった、百億年くらいがたちました。

「そろそろ、歩き方を覚えて動き回るというのもいい。どうだろうか。」

―あなたがそう言うならば。

「そうだよう。そうだろう。君に飼育は任せるよ。エサやり、忘れないようにね(ニヤリ)。」

―質問いいですか?

「最初からインタビューの様相じゃないかい。」

―そう言われてみればそうかもしれません。

「どうぞ。」

―土色に塗りすぎたかもしれませんね?

「そうかなぁ」神様は土色の靴下で歩いてきた道を振り返る。



その星は火星(マーズ)。まず初めに創った星。







すべての芸術家たちが王様に集められた。王様は玉座の上からこう言った。「太陽の色で空の天井を塗ってき給え」と。世界はだんだんと真っ黒に塗り潰されていく未曾有の危機だった。王様の顔も薄い肌色に塗り替えられていた。大臣は真っ青だし、まだ若いお姫様の真っ白だったお顔だって、今は色がついて少し見づらくなっている。芸術家たちは太陽の色を探し始める。黄色でもないし、白でもない。夜は黒く塗りつぶされるのに、白い色は太陽に似ても似つかないことに芸術家たちはようやくはたと気が付いた。太陽色が見つからない。それさえ見つかれば、それでいいのに。うまく説明できないけれども、まさに、そういう感じなんだがしかし。






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【戯曲】夜は明暗

なかまくらです。

あけましておめでとうございます。

新作書きました。だいぶ荒削りなところも見られる作品ですので、また、

ちょっと加筆修正していこうとは思いますが、ひとまず書き上げましたので、

どうぞ。



夜は明暗

(本文が長すぎて、入りきらないので、リンクからどうぞ)






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