なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)
宇宙ティー探訪記
作・なかまくら
2014.8.24
「おい、新人。俺は宇宙ティーが飲みたい」
言った男はテキトーな男であった。
「はい。」
返事をした新人は、髪を短く刈り上げ、きりりとした眉に力を感じる男であった。
宇宙ティーというのだから、宇宙の無重力空間で作られた茶葉を使ったお茶なのであろう。新人は想像をめぐらし、そのような製品があるかどうか、インターネットで調べた。
しかし、どうやらそのような記述はない。本当に新しい研究はネット上にはなく、お金を出さなければ買えない情報なのだ。
新人はひとつ息をつき、1年後、国立宇宙工学研究所の研究員となっていた。
「なるほど、宇宙でお茶を栽培するというのは、面白い試みだ。今までほかの植物についてはいくつかの実践例があるが、お茶というのは、和の心を感じるな」
新人は礼を言い、3年後、国際宇宙センターにいた。
「おい、新人。グリーンティーはいつ出来るんだよ?」
重力がないため、根と枝がぐちゃぐちゃに絡み合って、丸い塊となった植物を同僚がからかって言った。新人は、ひとつ息をついた。
新人は、筋力を維持するトレーニングを重ね、宇宙へと留まり続けた。5年、10年、15年。人類が宇宙に滞在し続けるために必要なトレーニングが次第に明らかになっていった。
「おい、新人。焼き加減が甘いぞ」
あれから、40年が経っていた。
新人は宇宙で初めてお茶の葉を収穫していた。それを引っ提げ、地球に帰還するためのトレーニングと特殊な食事療法を開発するのにさらに5年を費やした。月の6分の1の重力化でトレーニングを積み、遠心力を利用した仮想重力環境も実用化させた。
今では白髪も混じる髪を短くまとめた男は、キッチンで火加減を見ていた。
やがて焼きあがった緑色の生地にクリームをふんだんにのせ、くるくると巻いていく。
出来上がったそれを新人は、しばらく眺め、それから、ある男の所へ持っていく。
小さいながら縁側のある一軒家に現在その老人は住んでいた。新人は持参した中華なべで茶の新芽を焦がさないようにしんなりさせ、手のひらで揉む。繰り返し乾燥させていく。その時間を、ふたりはゆっくりと過ごした。
「宇宙ティーと、抹茶ロールです」
新人だった男は、少し、ゆっくりとその言葉を伝えた。
「ずいぶんと長い間、お前のことは忘れていたよ」
老人がそう言うと、新人は「1年足らずでいなくなってしまいましたからね」と言い、笑った。
それからふたりは、宇宙ティーに口をつけて、
「渋いな・・・」
老人は少し顔をしかめる。宇宙ティーはなかなか強烈に渋かった。
「だが、この渋さも今この年にもなればこそ、悪くないと思えるんだよ」
老人は笑顔を見せた。
「おいしかったよ。どれ、抹茶ロール、これも宇宙でとれた茶葉で作ったのか?」
「やはり、お茶にはお菓子がつきものですからね」
「それにしては洋風な・・・洒落たものを作ったじゃないか」
新人だった男は、ケーキナイフで抹茶ロールを切り分けていく。
「ふむ、まるで、この渦巻きは銀河みたいだな。お前さんが、宇宙で過ごしてきた日々を詰め込んでいるみたいだ・・・」
「・・・・・・」
新人が、宇宙の起源に迫る発見をするのは、それからしばらく経ってからの事である。
1.におう街
その街でもっとも最初に逃げ出したのは犬であった。繋いでいた革紐を食いちぎって、或いは、食いちぎれない金属の鎖に絶望し他界した。研究所では確かにニオイの研究をしていたが、それはあくまで、「消臭」の研究であったはずだった。人が不快感を示さないニオイをつける「着臭」と、ニオイの分子を取り除く「消臭」。この研究所では「着臭」による「消臭」の研究がなされていた。
ある男が研究所を訪れる。男は紺色の合成皮の革靴を鳴らし、研究所を訪れる。来訪者を拒むゲートがガチャンと重苦しい音を立てロックを解除する。男の歩みが緩まることはない。開ききったゲートを通過すると、知ったる道を悠然と歩いていった。よく晴れた日のことであった。
研究室では、白衣を着た同志が作業をしており、昨晩から徹夜で用意された試験管がずらりと並んでいた。
「H1型からH28型まで、準備は整っています」白衣の男が言うと、紺色の革靴の男は黙ったまま頷いて、監視カメラをちらりとみた。そして、言った。
「人類は、世界圏を喪失する。これが再生の第一歩だ」
世界の再生。人類は250億人まで人口を増やしていた。積み重なった住宅が今にも崩れそうな都市。農場の地下に作られた地底都市。世界を周遊する海上都市。気球を組み合わせて作られた天空都市。ありとあらゆるところに人類は進出し、住居を獲得していた。
「それも、今日で終わるのだ・・・」白衣の同志たちが、試験管に革靴の男の持ってきた薬剤を順に入れていく。「H23型の試験管で劇的な反応が見られます!」
紺色の革靴は、”B_trust”のマーク。世界B政府を名乗るテロリスト集団は、世界の再生をうたっていた。
爆発は起こらなかった。静かに発生する煙が、地を這ってリノリウムの床に広がっていく。溶けだし床が仕上げたてのアルファルトの床のようなむっとしたニオイを、立ち上らせる。
溶けて穴の空いた床から、下の階へと煙が沈んでいく。
後にこの煙を調べた科学者によれば、この煙は触媒として物質の持つ本来のニオイを際だたせるように、物質を変化させる触媒としてはたらくことを突き止めた。この物質がどのような経緯・理論によって生み出されたのかについては、1000年が経過した現在でも不明であり、町中に広がったこの煙の除去は現在に至っても進んでいない。
この煙によって、街にはニオイが充満した。悪臭、汚臭。強すぎるニオイは、その種類によらず生物にとってストレスにしかならない。さらに、決まった約束事でニオイを利用してきた人間にとっては、もはやニオイを嗅いだだけで条件づけられた連想が始まり顔をしかめさせるに至っていた。たとえば、トイレの芳香剤のニオイなどである。
ニオイに追い立てられ、政府が一時避難を決意した頃、煙は追い打ちをかけた。「嘘のニオイ」である。書籍にはこう書かれていた。『そこにかかれた内容が事実であるかは、私には正しい判断ができない。なぜなら、私には嘘のニオイがもはや染み着いてしまっているようであるからだ』。人は信頼でもって、人の隣に立っている。人間であることへの信頼。同じ人種・信条であることへの信頼。それを作り出す社会への信頼。嘘のニオイがしたとすれば、ひとたまりもなかった。”B_trust”がそのニオイを流したのだろうか? 彼らの目的は達成されたのであろうか。少なくとも、1000年後の未来の私に今言えることは、その街は、無人となり、衛星軌道上から、その緑の大地とそこに暮らす野生動物の姿がみられる。ということだ。目に映る真実だけを語るならば、である。
「練習作・道を尋ねる人」
作・なかまくら
A すいませーん、
B はいはい。
A 道を尋ねたいんですけど。
B 道ね。いいですよ。
A いいですか。
B まずは、そこのスクランブル交差点を右に曲がると、
A 右に曲がると、
B エッグ!
A エッグ!? それはまずいですねぇ。
B そう、きわめてまずい。
A なにか方法はないんですか。
B 左に曲がればよろしい。
A なるほど!
B それからしばらく進むと、T字路に突き当たる。
A 突き当たるんですね。
B バック!
A バック!? それはまずいですねぇ。
B ええ、きわめてよろしくない。
A なにか方法はないんですか。
B 右に曲がればよろしい。
A なるほど。どれほど?
B 45度曲がると、
A 45度曲がると?
B 仕事がはかどる。
A うまいっ!
B そういう話をしているわけではないのだ!
A はい、すいません。でも、ま、9度曲がると?
B マクドナルド。
A 10度曲がると、
B 柔道場。
A 30度曲がると?
B お肌の曲がり角。
A 40度曲がると?
B 迷わず。
A 90度曲がると、
B 骨粗鬆症。
A なんだって?
B 骨粗鬆症。
A 言えるじゃないですか。何度も練習しましたからね。
B そういう話をしているのではないのだ!
A すいません。
B それで、その曲がり角を左に曲がると、
A 左に曲がると?
B そこは雪山だ。
A そうなんだ。
B そうなんだよ。やめておいたほうがいい。
A じゃあ、まっすぐ行くと、
AB メイド喫茶!
B なんだ、よく知ってるじゃないか。よく行くのか?
A ええ、まあ。
B 閻魔様によろしくな。
A ¥マークの紙幣を渡せばパラダイスですから。
B 逃げるときは、
A 煙幕な。
AB ぐふふふふ・・・
B なんだ、話が分かるじゃないか。
A ええ、まあ。
B では、右の道を教えよう。
A ありがとうございます。
B 右に曲がると、
A 曲がると、
B 南国だ。
A 南国。
B ビーチには、美女がいる。
A ビショップ!
B 美女だ。
A ビショップ!
B 美女だ。
A 美女ですか。
B 美女だ。そして、君は難破する。
A ナンパするんですか?
B いいや、浅瀬で難破する。
A ナンパするのは浅瀬ですか。
B そうだ。
A そこに助けに来る女性。
B ナンパする私は排除されるんですか。
A その女性こそが、運命の人だ。
B なんと、逆転ホームラン!
A 君はそれから、その女性と暮らし、二人の間には子どもが生まれる。エッグ、バック、ビショップだ。そして幸せに生きる。
B いい、人生だった。
A それが、君の生きる道だ。
B ありがとうございました。
A どういたしまして。
B ところで、その道、いくらで通行できますか?
A うらない。
B ・・・え?
A うらない、と言っている。
B ま、まさか、あんたは・・・
A そう、私は、
B 占い師!
暗転。
A で?
B なんだっけ?
A なんでしょう。
B なんだろう?
A なんなんだろう。
B 南ではない。
A きたか!
B …誰も来ないようだ。
A そのようだ。
B どうだろう。
A どうもこうも。
B 脱ぐか!
A 脱いでどうする!
B Qちゃんはそしてスパートをかけた!
A お前はどうなる。
B どうにもならないままならない。
A ままならないままなら、そして父になることもなく…。
B なんにもならない。
A なんともならない。
B ん?
A お?
B おいおい、その肩にのっかっている焼きそばパンはなんだよ。
A なんだっけ?
B 焼きそばパンだろう。
A そうだっけ?
B 焼きそばパンだ!
A そうか、焼きそばパンかどうかはさておき、焼きそばパンだ!
B そう、焼きそばパンなんだ。
A 焼きそばパンだよな。
B 思い出した。
A 思い出したな。
B 焼きそばパンな…。
A 焼きそばパンだったんだよな。
B そうだったんだな!
A そうだったんだよなぁ!
B 一回出てくるともう、スッだな。
A もう、喉がばがばだからな。
B ナイアガラのごとく出てくるもんな。
A それだな~
B それがなー。
A そうそう。焼きそばパンな…。
A なんだよ。
B お前こそなんだよ。
A 先どうぞ。
B いえいえ、どうぞ。
A どうぞどうぞ。
B どうぞって言ってんだろうがぁ!
A 焼きそばパンが何だって言うんだ!
B 知るか!もう知らん!
A こっちこそ知らんわ!
B ていうか、お前誰だよ!
A 知らんわ!
はける。
もう一度出てきて、
A ……刑事さん。
B 探偵さん、何か分かりましたか!
A ええ。犯人は、被害者にある方法を使って毒を盛ったんです。
B 被害者は、自分が殺されるかもしれないと恐れていた。その彼に一体どうやって…。
A それは、……この肩にのせている…あれ?なんだっけ?
暗転
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