1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】真夜中の湖

なかまくらです。

プレミアムフライデーじゃないけど、今日はほぼ定時に帰宅です。

久しぶりに小説を。いつもとちょっと違う作風で。どうぞ。


*******


真夜中の湖


作・なかまくら


2017.2.22


 


「勝手にすればいい。それぞれの人生だ」


 


そう言おうとして、飲み込んで、逃げ帰ってしまったのだ。


それからというもの、どうやら心のどこかに見えない小さなヒビが入っているらしい。


 


しくしくと夜の帳が降りてくると、少し窪んだところがほんのりと湿りはじめる。


 


良くしたことにやましい感情はなかったと思う。それは、自分の二の舞になりそうな彼女を守ってあげたいという、自己満足だったのだ。


 


僕は無理に笑って、呼びかける。


「くれぐれもこちら側へ来てはいけないよ」


それは、川の彼方岸(あちらぎし)から此方岸(こちらぎし)への思いやりのつもりだった。見返りを求めるようなことじゃない。むしろ喜ぶべきことなのだ。彼女はこちら側に来なかったのだから。そうしてぼんやりと眺めていると冷たい水がざばぁざばぁと水が足元を濡らしていくから、たまらず少し後ずさりをする。それで遠くの方に目をやって、思わず静かになってしまう。


 


遠くから、ぼぉ、ぼぉ、と霧笛のような音が聞こえてくる。


いつの間にか、染み出した水は大きな湖になっていて、向こう岸は見えなくて、彼女はとうに消えている。代わりに首の長い何かの影が霧の中に浮かんでは消える。


 


首の長い何かの影は、近づいて来ようとしない。


 


彼女は今頃は・・・、いや、彼女が首の長い何かだったということだってあり得る。


今になって思えば、彼女のことを全く知らないような、そんな風に思えるのだ。


出会いはといえば、夕食に特製のシチューを作っていた僕のログハウスの扉を彼女が不意にノックしたのだ。思わず、はい、と返事をして、扉を開けてしまった。そのとき、どこかへ向けていた望遠カメラが、どこを向いていたのかはもう、忘れてしまった。だが、そのカメラをひっつかみ、思わず彼女の写真を撮った。ぱしゃり。


ブレブレだったそれ1枚だけが最初で最後。一瞬だけ、新聞社に送りつけるほど、舞い上がったのだ。


 


ログハウスはそのままになっている。


そして、窓の外の、夜になると現れる湖にカメラは向けられたままになっている。


たまにノックの音が聞こえる気がする。


けれども、僕はなぜだか湖から目を離すことが出来ない。


ノックの音が聞こえる気がする。


相手が違うと、耳を塞いで、金切り声で叫んでいる。自分の声が厭によく聞こえていた。


ノックの音が聞こえていた。


それが、小さくなるまで聞いていた。これから誰も来ないログハウスの一室で。







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【小説】秋色ビスケット

なかまくらです。

ご無沙汰です。

小説を書きました。

久しぶりに、思い立って一気に書き上げました。

こういう衝動は久しぶりだなぁ。

どうぞ。



「秋色ビスケット」

             作・なかまく

 


「昔はこの辺りは一面の小麦畑だったの
目の前にはコンクリートに覆われた広大な盆地があった。
「秋になると、キラキラと金色の衣を揺らして、おいで、おいで、と誘うのよ。だから私たちは飛び込んで金色に溶けるの」
コンクリートは熱を帯び、夕暮れの地平をゆらゆらと定まらぬ亡霊の棲み家に代えている。

「私はそれが好きだった」
彼女の瞳が黄金色に輝いた。映るはずのない風景を、彼女の目が見据えているかのように。
「・・・だから、私は守るわ」
彼女は振り返った。僕もつられて振り返り、一緒に焼けた小麦畑に目をやった。一段高い場所にあるその土地に、村はまだ残されていた。
「だから、このビスケットをあなたに分けるの。ここの小麦で作られたビスケットだから。この場所を忘れないために」
彼女はそう言って、それから、都会へ向かう電車に乗る僕に別れを告げた。



ぴぴぴ、ぴぴぴ、
目覚ましの音が遠くで鳴っていた。目線だけ移すと、壁を飾るそれが目に入る。
新聞記事の切り抜きが鋲で留めてある。そして、関係性を示す赤と青の糸が巡らせてある。気がついたら記者になっていた。

10年前の新エネルギーの発見は、世界中を驚かせた。熱エネルギーを電気として逃がす素子構造が編み出された。その企業の名前は一躍有名になる。タンタラを知らないものはいないとまで言われるが、


「そんな、都合のいいことがあるかよ」

僕は、誰もいない部屋に、そう投げかけた。神は試練を与えるものだ。
情報は驚くほど少ない。僕は中心に飾られた小麦畑を失った彼女の写真にそっと、手を触れる。そこからつながる赤い糸は、推測を示す青い糸と確証を得た赤い糸を手繰り返して、やがて、タンタラという大企業に繋がっていく。

今から20年前、とある製菓工場が秘密裏に封鎖されている。扉はコンクリートで固められ、上からはかき氷にシロップをかけるように、コンクリートがかけられた。放射能汚染が疑われたが、自然界の閾値を超えることはなかったという。実際に現地調査をしたが、以上は見られなかった。しかし、当時働いていた人の家族は、誰も当時の場所に生活をしておらず、その足跡を見つけることも出来なかった。15年前、ある村がひっそりと地図から消えている。閉じた村で、あまり外部とのやり取りはなかったという。死体は何物かによって回収されており、検死は行われていない。しかし、当代きっての敏腕刑事が独断で村の調査をし、井戸がコンクリートで埋められていること、村でひとつだけの井戸を住人全員が利用していたことから、集団食中毒の可能性があるのではないか、とのレポートをまとめているが、そのレポートはすでに存在せず、刑事も不審な死を遂げている。同様に、村の関係者家族はすっかり消息を絶っていた。11年前、 サイドテーブルに置かれた瓶を一瞥する。

何か、大きな秘密があるに違いなかった。幼い頃、ひと夏だけ過ごしたあの場所へ行ったことは、今では運命のように思えた。殺菌し、真空密封された瓶に収納されたビスケットは、少し赤みがかっていた。

11年前、とある広大な小麦畑が全身を黄色の防護服に身を包んだ人間達が、突然、コンクリートを小麦畑にぶちまけた。大きな音がして、重機が無数に進攻してきた。あっという間に、土地は均され、そして、何事もなかったかのように跡形もなく消えた ・ ・ ・ということはなかった。しかし、彼女は生き残っていた。彼女の暮らす村は残されていた。彼らは、何を見ていたのか。その後、6年前にも、ダム湖がひとつ、埋め立てられている。

線を辿っていくと、ところどころに病院が関わってくる。線上に現れるどの病院に取材を申し込んでも同じ反応がかえってくる。どこでそれを知ったのだ、それに関わってはいけない、の2つが表情に鮮やかに浮かんだ。

小麦畑を守ると瞳を黄金色に輝かせた彼女の顔がぼんやりと浮かんだ。あれ以来、会っていない。途切れそうな糸を、心を繋ぐために、会いに行ってもいいのかもしれない。

思いを巡らせながら、外出用に、シャツを着替える。研究所の知人に依頼してあった検査結果が出ているはずだった。

リノリウムの匂いのする廊下を抜けて、研究室に入ると旧友が珈琲を揺らして待っていた。

「来る頃だと思ったよ」
僕は、珈琲を観察する。
「どれくらい待ってた」
「3時間、てところか。他のことに手がつかなくてね。・・・性に合わないな、結論から言おう。栄養失調だ」
「はい?」


「言った通りだ、表面的にはそれしかわからなかった」
「栄養失調て、3日間、あの村で過ごしただけで? 毎日3食はしっかり食べていたのに?」
「結果を見ると、とにかく、そういうしかない ・ ・ ・なぁ、お前さ」
そう言って、少し前屈みになって顔を寄せた。
「何かとんでもなくヤバいことに関わってんだろ? ぶっちゃけさ。人体実験までしやがって ・ ・ ・」
「人体実験 ・ ・ ・? 」
「そうだよ、お前、これを人体実験といわずになんという ・ ・ ・て、おい聞いてるか? 」
「人体実験か!」

僕は走り出していた。あの村への行き方は暇さえあればいつも頭の中でシミュレーションを繰り返していた。一旦家へ、荷物を取りに帰る。家を出ようとして、サイドテーブルの上の瓶詰めのビスケットを手に取った。ビスケットは秋の紅葉のように、真っ赤に燃えていた。近くの都市まで電車で移動し、そこでレンタカーを借りた。道が封鎖されている可能性を考えて自転車を借りた。後部に積載する。途中で峠を越える必要があるが、村へ行く以外には用のない道だから、今でも通れるかは分からないが、とにかく行くしかなかった。一刻も早く報せるしかないのだ

峠道を、タヌキかイタチかが、サッと通り抜けた。生き物がまだいることが少しだけ僕を安心させた。村まであと100キロを切ったところで、岩が崩れて道がなくなっていた。僕は、ハッチバックを開けて、自転車を取り出し、担ぎ上げる。

不安が自転車を走らせた。 ビスケットがチリチリと音を立てている気がした。

森が途切れて、コンクリートで均された平面が見えてくると、涙が止まらなかった。一段上がったところに、村は最早なかった。初めからなかったかのように、均された平面になっていた。ビスケットは跡形もなく真空に還り、


 


僕の思い出の中にだけ遺った。







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【小説】死体

なかまくらです。

たまにはらしくないものを書いてみました。

挑戦的姿勢って、大事だと思うんですよね。

なお、実体験ではありません。フィクションです(笑

それではどうぞ。

**


死体
                                                             2016.7.2
                                                             作・なかまくら

玄関のドアを開けると、誰もいないはずの暗闇に鈍い光がふたつ灯っていた。

一瞬の空白ののち、さっと照明のスイッチに手を触れると灰色の後ろ姿が奥の部屋へと走っていった。

鼠だ。我が家に鼠が入り込んでいたのだ。一体どこから、何のために。

何を齧られたのだろうか。お気に入りの洋服ダンスと踊っていたとは考えにくいが、苦労して手にいれた木彫りのキリンが齧られていては矢も楯もたまらない。さっそく確認したいところであったが、奥の部屋に入っていったあの毛のないむき出しの尻尾の生々しさにただならぬ嫌悪感を覚えて足が進まなかった。

ヒトがいる間は出てこないと、高を括って鼠トリを仕掛けて眠りにつくこともできないほどだ。それほどの嫌悪感が、この身を支配していた。

しかし、かつて幼かった頃、鼠トリにかかった哀れな鼠を眺めたことが思い出される。トリモチに四肢の自由を奪われ、ヒトが安らかな眠りを享受している一晩中を生き延びるために必死にもがいたのであろう鼠は衰弱し、小さな腹をヒクヒクとさせ、浅い呼吸を繰り返していた。

この鼠が何をしたのだろうか。はるか昔、米倉に鼠返しを取り付けた時代ならいざ知らず、ましてや、農家の人間でもないのだ。齧られたかもしれないニンジンはスーパーの見切り品であり、その一本をくれてやっても命を脅かされるわけではないのだ。

そう思うと、なんともしがたい不思議な気分が沸き起こり、玄関のすぐ近くにあるキッチンへと足が向いていた。

冷蔵庫から、賞味期限が数日だけ切れたソーセージを取り出すと、薄く輪切りに切り分ける。それから、フライパンに一枚一枚並べて置いて、少し火を入れる。香ばしい肉の匂いが仕事終わりの疲労した胃袋を痺れさせる。そのソーセージを奥の部屋から玄関のドアの外側の世界へと一定間隔で奇麗に並べた。

照明を消し、静かに外へと出る。

ドアから少し離れ、その時を待つ。すると、突然、ドタドタと争うような音が聞こえ、甲高い断末魔のような悲鳴が聞こえた。

急いで玄関まで戻るが、音はなく、こちらを窺(うかが)う鈍い光もなかった。

恐る恐る照明を点けると、玄関先に2体の鼠が転がっていて、

僕は思わず瞼を覆った。





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【小説】ことバンク

なかまくらです。

ひっさしぶりに、小説を。

軽ーいノリで書こうと思っていたのに、なぜか、

こうなっちまったぜ。

「ミナイミライ」が重すぎて、しばらく書けなかったような、

そんな気がしています。今年もそろそろ戯曲を書く季節がやってきた!

そんな気がしています。

それではどうぞ。

*******


「ことバンク」


          作・なかまくら



藤色の光が夜闇に乗じて差し込むと、ことの身体が輝いた。


夜が明ける少し前のこと。ことがそれに気づくことはなく、へその緒からじゅるじゅるとそれがひりだしてくる。それはうねりながら、形を考えるそぶりを見せる。足の数を増やしてみたり、角を出したり引っ込めてみたり。ひとしきり蠢くと、収まりの良い形を見つけたのか、ことの隣でシーツにくるまって大人しくなった。


 


目が覚めたことは、ああ、という嘆息を吐いてそれから、鈍い痛みをへその辺りに感じて、抑える。今日の遊びの予定はキャンセルね。


母親のことが、ドアをノックして、父親のことと一緒に部屋に入ってきた。それから、ことと、その隣に寝ているバンクに目をやって、「お祝いをしなくちゃね」と年甲斐もなくハイタッチをした。朝っぱらからいい音が響いた。


 


バンクが生まれたら、長老のおばばの所に報告することが習わしとなっていた。ことは両親に連れられて板張りの20面体のおかしな建物の一室に通された。ことが椅子に座ると、隣でバンクは同じタイミングで座った。まだ、何もしゃべらない。ことの意志で動いているような、そうでないような、不思議な感覚だった。6本ある足の内の、右の真ん中の足を上げてみようと、へそに意識を集中してみる・・・。


「さっぱりだめだ」思わず、声が出ていた。


「どうしたの?」母親のことが怪訝そうな声を掛け、


「まあ、何事も経験だからな」父親のことがしたり顔で頷いた。


バンクは、そんなことはお構いなしにすぅーすぅーと寝息を立てて眠っていた。


 



 


「バンクはね、あんたの分身なのさ」


おばばは、煙を空中にグルグルと捲いて見せた。


「こととバンクは複雑に混ざり合っている。無理に分かつことはできないね。バンクを育て、バンクと過ごしてみるといい」


「・・・バンクはどうすると消えるの?」ことがそう尋ねると、


「バンクが一生消えないものもいる」おばばは、大きな問題じゃない、とそんな調子でパイプの煤をカツンと落とした。煤は一瞬赤く燃えて、燻ぶってじとじととこちらを見ている。


「バンクが消えなければ、こととバンクはひとつになって、また、ことをひとつ生み出す。それだけのことだ。それがずっと続いてきた」


「ねぇ、バンクって、なんなの?」ことは不安げにそう聞いて、


「さあね、昔は必要だったと、言われているがね」


 


ことはバンクのしつけをしなければならなかった。散歩中に、ほかのバンクとケンカしないように。食事をした後は、歯を磨くように。言葉を覚えるように。悲しいときは泣くように、嬉しいときは笑顔になるように。そして、寂しいときには一緒に過ごすように。


 


「ねぇ、こと」1年は、こととバンクが親友になるのに十分な月日だった。


「バンク」言いたいことは、分からない。へそで繋がっているのに。


「バンクって呼ばないでって、言ったじゃない。私に名前をくれたのは、あなたが初めてよ」バンクは、少し不揃いな耳をピンと立てて抗議を示した。


「ごめんごめん、エチカ」ことは、エチカの背中をぽんとたたいた。


「・・・・・・昨日のあれ、怖くなっちゃった」エチカは震えるように半透明に黄色い身体を明滅させた。


「そうだよね。あんなの、あんまりだ」ことは思い出していた。近所に住んでいる少し年上のお兄ちゃん。ことにバンクが生まれたとき、いろいろと面倒を見てくれた。そのお兄ちゃんのバンクが、昨日、死んだ。前触れはなかったように思う。散歩コースの途中ですれ違おうとして、お兄ちゃんは立ち止まる。「ああ、僕はそういうことなんだ」不意に呟いて、ただそれだけで、バンクはあっという間にカラカラに乾いた樹木のようになって崩れ落ちた。お兄ちゃんはなぜだか、すっきりとした顔をしていた。


「ホント、意味わかんない」ことは、釈然としない仏頂面の自分の顔を鏡に見ていた。


「・・・私ね、本当は分かる気がするの」エチカは、ぽつりとそう言った。


「あのね、バンクはバンクとして生きていけないのに、ことはことで生きていけるんだよ。これって、私たちは、ことの一部だってこと」


「私にとって、なくてはならない一部だわ」あとから思えば、ことは、そんな趣旨のことを言ったような気がする。


「だからね、だから・・・・・・ああ、誰だろうなぁ、バンク、なんて名前を付けたのは。バンク・・・というか、私たちはブランク。空っぽの容れ物なんだよ、満ち足りるまでのかさぶたのような、枯れて落ちていくような、そういう類のさぁ・・・」


「私にとって、あなたがそういうものだって、私がそう思っているっていいたいの?」ことはムッとしてそう言い返した。


「私たちって、きっと昔はべつべつの生き物だったんだろうなぁ、ミトコンドリアや葉緑体がかつてそうだったようにさぁ・・・そうしたら、私たち、もっとちゃんと友達になれたのかなぁ」エチカはとめどなく吐露を続けた。夜が更けていく中、ことの頭の中にあの時の、お兄ちゃんの表情が張り付いていた。


 


 


 







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【小説】小悪魔

なかまくらです。

どんな小悪魔にしようかと、悩んだ結果、こんな小悪魔に。


***



「小悪魔」


作・なかまくら


2016.2.23


 


藁葺き屋根の小さな小屋を知らない悪魔はいない。


 


「大魔王様、大魔王様、どうしたら、ボクも大悪魔になれるのでしょうか」


小悪魔たちが、自らの果たした罪を懺悔し、大悪魔に引き立ててもらうため、日夜、通っているのだ。


今日やってきたその小悪魔も、そのうちの一匹であった。黒い尾の先端を尖らせて座り、三叉路の槍を椅子の脇の壁に立てかけている。手は開いた両足の間にぺたりとついている。


「うむ、小悪魔よ。君は実に勉強熱心で、仲間からの信頼も厚い。けれども、大悪魔になるには、それだけでは、決して届かないのだよ」


 



 


“茅葺き屋根の小さな小屋”といえば、有名な話だ。


伝説の殺し屋がかつて暮らしていたといわれているその小屋の床の一部は跳ね上げ式になっているという。その下に、なにがあるかは想像に難くない。


 


「おいおい、ひでぇ雨だな」


「小屋があって助かったよ。俊、よくお前知ってたな」


「のぼる途中で、見たからな」


おっと、誰かが来たようだ。


「まったくまったく、ひでぇ雨男だよ」


「俺か!?」 


細身の男が登山靴を逆さに振ると、ドバドバと水が零れた。


「思い出してもみろ、中2の遠足」


太身の男が髪を持っていたタオルでごしごしと拭いている。


「雨だったな」


「高1の野外研修」


「・・・雨だった」


「な、ところが、お前がいなくなってから、そういうときにぱったりと雨が降らなくなった」


「転校したんだ」


「知ってるよ。でも、急だったよな・・・急、といえば、突然のことが起こるクラスだったな・・・中2の遠足の途中で急にいなくなったよな、山田くん。先生が探して・・・でも、親から電話があって、急用で引っ越したって。遠足の最中にだぜ? それに、野外研修の時もおかしかった。熊に襲われて、鈴道スズミ・・・死んだよな」


「そうだった」


「なにかがおかしかった・・・よな」


「ああ、なにかがおかしかった」


「おかしかったんだ・・・うまくいっているようで、なにひとつ、うまくなんていっていなかったんだよ。知ってたか?」


「あのままじゃあ、大きくはなれなかったんだ・・・」


細身の男が、気味の良い笑みを浮かべた。


「そうさ、苗を大きく育てるために、必要なことだったのさ!」


太身の男もまた、ふぅーんという気取った笑いを浮かべて見せた。


「・・・やっぱりそういうことかよ」


 



 


「大悪魔様・・・! これでは死んでしまいます!」


 


小悪魔は思わず叫んでいた。そして、突き出した槍の先端は







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