1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】月がきれいだ

なかまくらです。

作風を広げたい! ということで、いろいろ試行錯誤中。

どうぞ。


「月がきれいだ」

                  作・なかまくら


「ああ、月曜日ってさ、月に帰りたくなるよね」
初め、唐突に彼女はそう言った。彼女は今日に限って、浴衣を着てきていたし、僕も血迷って、タキシードだった。自分の意味不明な恰好に気付いた僕たちは、駅のホームで互いをひとしきり笑って、人気のない、小高い山の上の公園を目指した。
夏の夜の生ぬるい空気を切るようにして、階段状に並べられた丸太に足を伸ばしていく。
「草履、大丈夫?」
「あー、火照って、熱い熱い・・・。その恰好こそ、どうなのよ」
ぷぷっ、と、彼女は今日初めて駅で会ったときの可笑しさを思い出したのか、口を丸めた手で押さえて笑った。僕は真顔になって、笑う彼女を見る。すると、彼女はますます笑って、幸せを運んでくれる。彼女は水のようで、僕はそこに佇む一本の木のようだと、感じる。心に彼女の楽しさが染み渡ってきて、僕は遅れて綻んでいく。
ばらばらに解けた金糸を使うなら、贈り物は何だろう、と彼女にぴったりな何かを探してみる。革靴が落ち葉を踏みしめて、その足元を前後左右して、土の上をアリたちが、女王への贈り物をせっせと運んでいくようなそんな気がしてくる。
「すっかり日が落ちたね」
「きれいだね」
「うん、」
この次だ。この次に彼女は、決まってこういうのだ。「月曜日ってさ・・・」
それを合図に、雲間からまんまるお月様が現れて、シャランと錫杖が振られて音をこぼす。彼女の浴衣はあっという間に天衣無縫の羽衣へと着せ変わり、内側から薫風のわき上がるように、ひらひらとその衣のすそを絶え間なくたなびかせていく・・・。
そんな風に彼女が月を見ているから、僕はいつも慌ててこう言うことにしている。
「じゃあ、火曜日はどうしようか」
そう言うと、彼女は急に真剣な顔になって、
「うーん」
と言って、僕はその横顔を見ている。





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【小説】あなたの好きな世界

なかまくらです。

ファンタジー。どうぞ。




「あなたの好きな世界」

                         作・なかまくら

最後の授業で、「勇者になりなさい」と言われた。
その言葉をきっかけに、夜を形作っている暗黒の粒子が屋根を突き破る。そして、老いた先生の身体を圧し潰さんと降り注いだ。先生はかざした手に、光を集め、暗黒を退けようとするが、一瞬で見えなくなる。死んだのだ。僕たちは、先生に習った方法で光を集める。すると、暗黒は僕らを避けて、窓から流れていった。
外は夜とは思えないほど明るかった。囓られたような大きな丸い星がひとつ。それから無数の形の分からない星が空に灯っていた。
「これが、・・・月」 僕がつぶやいて、
「綺麗ですね」 隣に女がひとり、立ってぼそりとそんなことを言った。
先生は才能のあるものをどんどんと転入させていた。だからだろう。僕は彼女とそのときに出会った。
僕ら勇者は、何人かずつに分かれて姿を眩(くら)ませた。街に寄り、夜魔を伐(き)る特別な武器を調達した。街に近い森で初めて夜魔を伐ったときには、眠れなかった。手の震え。伝わってくる感覚は、暗黒の粒子の振動。勇者は、光を手に集めて、夜魔を伐るのだということを改めて理解した。
初めて2体の夜魔に遭遇したときには、生きた心地がしなかった。
牽制しながら、一方の夜魔のほうへと回り込んでいく。足下に根っこがあり、躓いた瞬間に2体が同時に額の角を振り立てる。
「あっ・・・」 遅れて自分の身体が流れていることに気付く。
胴体は別の力で浮かんでいるような、夜魔のか細い脚が驚くほど確実に地面を捉えると、距離が一気になくなる。今にもその角が肉に食い込もうとしたとき、僕はようやくありったけの光を身体の表面に集めて、身を丸めるところだった。
死んだはずだった。死んだはずだった僕は、ただ、光に包まれていた。
<光の・・・>
そう、僕は選ばれた存在だった。先生が言っていたことを思い出す。
「光の※●◎の出現は、もはや待てないのだ」と。
それは、全身でどっと冷や汗をかいているような、気持ちのいいものではなくて、<光の勇者>である実感なんてものはなかった。
それから僕は、夜魔の巣を巡り、奴らの失われた生態の情報を得て、種族の長が現れる場所を見いだすのだ。
「綺麗ですね」と言ったのは私だ。
すると、リュパは「僕もそう思う」と一言だけ返してきたのだ。漂う時間を見て取って、彼とは光の波長が合うと思った。
光の位相が揃えば、一人の力ではなし得ないことができる。リュミ、君の力はそういう力だよ、と先生は言ってくれた。
「太陽の光を反射しているんだ」 リュパがそう言って、
「まるで、私みたい」 おそろしく恥ずかしい台詞が出てしまう。
「ははっ、なにそれ」 案の定笑われて、私は顔を上げられない。そんな私に、
「いいよ。倒すのは僕だ。君は、隣でそうやってただ光っていればいい」 彼はそう言った。けれども、私は、リュパと魔王を倒そうと決めた。彼の力になろうと決めた。
先に夜魔を倒したのは、リュパだった。まだ街の明かりが見える、森の中だった。
「リュパ、リュパ。心配することはないわ。私があなたを癒やすもの」
震えるリュパに私は、声をかけ続けた。私の光は、手に上手に留まらず、別の物質に留まらせることしか出来なかった。だけど、そのとき、ようやく私は、その力をもつ自分ことを誇らしく思ったのだった。
※●◎は、蝕まれていくのだ、と先生は言った。夜魔を伐ることで光は集まりにくくなる。誰もが戦うほど強くなる。同時に魔王を倒す術を失っていくのだ。
 「リュパっ!!」 私が声を掛けたときには手遅れだった。夜魔が2体。
「くそっ・・・罠かよ」 リュパがそう言いながら、ゆっくりと剣を振動させる。光がリュパの手と剣の輪郭をなぞっていき、やがて目映い光を纏った。ひとつ息をしずかにはいて、すう。それから、そろそろと円を描くように足を動かす。リュパには編み出した光の技がある。上段に構えて大きく剣を振り下ろすことで、光の刃を飛ばせるのだ。その直後には、光を完全に失うから、2体がちょうど縦に並んでいる必要があった。恐る恐る歩を進めるリュパを私は見ているしかなかった。私には力がなかった。2対2なのに、私には何も出来なかった。握りしめた拳は光るけれど、その光は私からどんどん流れ出して、地面へと落ちて溶けてしまう。それでも、と、腰の短剣に手を掛けた。
―――例え、暗黒の粒子に多少蝕まれても、死ぬよりはましよね。
体勢を低くし、身構えた。そのとき、「あっ・・・」声だけを残して、リュパの姿が不意に消えた。自分が飛び出したのに気付いたのは、もう後戻りできないところまで来てからだった。2体の夜魔が丸い卵形の胴体に生えた角を競い合うように突き立てる。
「いやよ・・・」 口をつく言葉。そこは、リュパが消えて見えなくなった当たりの茂みの中。失いたくはなかった。周りのすべてがスローモーションに見えた。光だけがやけに眩しくて、視界の端でチカチカと瞬いていた。
「うそ・・・<光の・・・>」 2体の夜魔は消し飛んでいた。
リュパは光の勇者となっても変わらなかった。
それから私たちは、いくつもの夜魔の巣を巡り、奴らの失われた生態の情報を得た。夜魔たちは、緻密な組織を作る生物であり、その頂点に君臨するのが、何体かの魔王。彼らのうちの1体の会議の時間と場所を突き止めたのだった。
そして、あの日、彼はいなかった。
私は、その少し前から時折、身体が言うことを訊かなくなっていた。彼は、そういうときは、ひとりでフラッと夜魔を伐りながら、一日を潰すのだが、今日はそうではないと分かった。一人で行ったのだ。私は、光の魔法を練り込んで作ったドレスを頭からかぶって、短剣を引っ掴む。そして、身体を引き摺るように飛び出した。
ありえない、と思った。
よりにもよって、置いてくなんて。「また今度にしよう」なんて気をきかせる男ではないのは分かっていた。けれど、
「勝てないことはしないと思ってたよ!!」 私は、風よりも速く駆けた。全身がまるで光に包まれたようだった。光線のように、洞窟に飛び込む。通路に夜魔の亡骸が転がっていた。透明になっている具合から、まだ、そんなに時間が経っているわけではない。通路の先が開けていた。そこに私は無茶を承知で飛び込んだ。
「バカなの!!」 私は、涙が止められなかった。
壁にぶつかり、ずり落ちたのだろう。服のめくれ上がった状態で、・・・リュパは、それでも私を見てくれなかった。もはや剣は一切の光を帯びてはいない。身体を覆う光も弱々しく明滅を繰返すばかりだった。それなのに、私の声にリュパは「来たのか」と、億劫そうに、一言だけ。遠くの方で、魔王だろうか、夜魔とは違う風体の何かがニタニタと笑っていた。
「分かっていたの。たぶん最初から。あなたの好きな世界に、私はいないんだわ。あなたは、一度だって私のことを見てはいなかった。自分の冒険に箔をつける、くらいにしか思っていなかったでしょう」
私がそう言うと、リュパは驚いた顔をした。
「私、大切にされてなかった! それでも、いつかって思ったし、それでもいいかって思いもあった。私はそれが悔しい! 大嫌いだわ!」
私には言葉を発しながらも、それをどこか遠くから見ていたような錯覚があった。私の光は拳に留まることを知らず、地面に溶けていく。それは洪水のように溢れ、行き先を探してリュパに流れ込んでいった。そして、リュパは最後の力を振り絞って、剣を大上段に構える。それから複雑な表情で、振り下ろした。
~あとがき~
大嫌い! って言って、魔王を倒すって、、、斬新だと思ったんですよ。ええ。





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【小説】アクリルの宇宙で

なかまくらです。

小品を書いてみよう!

という話になりまして。400字一本勝負。

その分、ひとつひとつの表現にものすごいこだわりが出てきますね。

このまま40000字くらい書けたらいいですが、

ここに大きく俯瞰的に見る構成力をプラスしないと行けない場所で、

そこがなかなか難しいのですよね。


では、どうぞ。

====================

「アクリルの宇宙で」
                    作・なかまくら


「UFOキャッチャーってよ」
驚いた。目の前でクレーンのアームに首根っこをつかまれたグレイの宇宙人が、突然しゃべり出したのだ。
「攫われるゲームなんだよ」「あ。」
アームが力なく、落とす。
「おーい」
宇宙人は喋らない。ただ、眼差しは感じた気がして、コインを追加する。楽しげな音楽とともに、アームが再びターゲットに接触する。宇宙人は、大人しく腕をぶらーんと提げてこちらを見る。
「俺が落ちてきてからもうどれくらい経ったかな・・・気が付いたら、此処にいた。此処以外での生き方など、最早分からないのさ」
クレーンが今度はしっかりと宇宙人を運んでいく。
「君はすごいな、行くのかい。生きていく覚悟が決まったんだな」
宇宙人はストンと消滅し、声だけが残った。
音楽が戻ってくる。
馴染んだスティックから手を離すと、アクリルガラスに半透明の自分の姿が映る。
洗い立てのスーツが宇宙服のように、ふわふわと浮かんでいた。





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【小説】みっつの涙

なかまくらです。

SFを書いてみました。

今回は、なんと、リクエストをもらったんですね~。

超短編小説会でお世話になっているでんでろ3さんという方から、

こんなの書いてみてってことで。


********それが、これ********
核戦争後の地球、人々は水を求め争っていた。しかし、そんな民衆を尻目に政府要人は宇宙への脱出準備を着々と進めていた。そんな中、首相第一秘書田倉見は忙しく動いていた。この計画の土壇場で政府要人を地球に置き去りにして、彼の組織「チクワ」を引き連れて宇宙ヘ旅立つつもりなのだ。という話ヨロ
**********************

おー、よさげじゃないですか~~

とか、言ってから、ぎゃーー、むっず! となるのでした(笑

そして、なんとか書き上げたのが、この作なのでした。

では、どうぞ~~。

**
みっつの涙
                       作・なかまくら
                       2017.10.09
教室で、肘をついて聞いている私。もうすぐ死ぬ。こっちを見る先生。あっと言う間に死んでもらうことになる。先生だけじゃない。世界中の人間は、もうすぐ死ぬ。親友の鞆ちゃんも、私によく吠えついてくるブランドンも、みんな、みんなだ。
「お迎えにあがりました」
ガスマスクに背広、そしてゴーグルという完全に怪しい石田さんがいた。最早ギャグでやってるとしか思えない。いや、そうなのだ。この石田さんは、この危機的状況を和ませるために派遣されたに違いない。意味が分からなかった。
「えっと、あのさ」 私は、怒りにも似た笑いをこらえながら後ずさる。
「ルイちゃん! 一緒に途中まで行ってもいい?」 振り返ると、鞆ちゃんが膝に手を当てて大きく息をしていた。ガスマスクが苦しそうだ。
「うん、一緒に帰ろ」 私もくぐもった声で答えた。
扉を開ければ、トンネルだった。
「行きの通路、使えないの?」 いつもと違うコースだった。
「ブランドン、悲しむね」 鞆ちゃんが隣を歩いている。
「・・・浸水です」 石田さんがボソリと答えた。
鞆ちゃんが立ち止まる。私の足も止まっていた。
「またなの!?」 叫んでいた。それは随分と遠くまで響いたように感じた。
あの日、南極で何かが見つかったらしい。それを奪い合ったとも、それを破壊するために、各国がコバルト爆弾をこぞって撃ち込んだとも言われるが、少なくともその結果、蒸発した氷塊は猛毒の雲となり雨となり、降り注ぐことになった。政府は、洪水対策用の地下水路を国民に開放したが、老朽化も進んでいた。水がしみ出せば、隔離、隔離、そして隔離・・・。
「追い詰められたネズミだよね、私たちってさ」 鞆ちゃんの声でハッとする。
通路に声はもう響いていなかった。鞆ちゃんがブランドンの死を悼んでいる。一方私は怒っていた。私の父は、何をやっているのだ。首相第一秘書とはその程度なのか。その程度なのだ。ああ、そうだ。娘を放り出し、何日も帰ってこない。離ればなれになって行方不明の母も探し出せない父親だ。それが、この国の、一番前のほうを走っているのだ。
「ねえ、石田さん」 私は呼ぶ。
「なんでしょう」
「もう、皆死ぬよね」 私はため息をついた。諦めてはいけない立場なのに。
「お嬢様、とにかくこちらへ」 そう言って私を小部屋へと引っ張り入れる。
「ねえ、死ぬんでしょ」
「それは・・・」
「私、調べたんだ。ウランの半減期って7億年なんでしょ?」 隣で鞆ちゃんが息をのむ。
「お嬢様、しかしですね、ウランの大部分は爆発時に崩壊しているので・・・」
「でも、死の灰は降ったのよね」 空は確かにどす黒い雲に覆われたのだ。
「降りました、ですが・・・」
「放射性物質には催奇性があるって聞いたわ。頭が2つある人間とか、脚が3本ある人間とか、これから生まれるんだわ」
「確かに生まれるかもしれません・・・しかし・・・!」 石田さんの顔が真っ赤になっていた。事実なんだ。図星をつかれると、人は真っ赤になるんだ。私は私を止められなかった。誰も教えてくれなかった。私も、首相第一秘書の娘として、やれることがあるのではないかって、調べた。調べれば調べるほど、闇は拡がっていった。膨れあがった闇は、もう自分の中に押しとどめておくことは、出来なかった。
「だから、もう、みんな死ぬんだよね!」
「ルイちゃん!」 鞆ちゃんが私を抱いていた。温かかった。鞆ちゃんがいると、私は少しだけ落ち着いていられる。目を閉じようとして、涙が大きく零れて頬を伝っていった。
「大丈夫、大丈夫だから・・・」 祈りのような言葉。鞆ちゃんの身体も震えていた。
「我ら、チクワの子。“地上の 苦しみから 分かたれん” 安心してください」 石田さんも落ち着いたのか、胸につるした筒のようなモノを握って、そんな意味不明なことを言っていて、私は少し笑えた。
その後、野生化した犬が地下に押し寄せ、その駆除と狂犬病の隔離によって、人はさらに減った。学校に来る人も日に日に減ったけれど、私と鞆ちゃんは欠かさず通った。きっとそれはおかしくならないための儀式だったんだ。
ある日、首相による緊急発表が行われた。それは、宇宙船による脱出計画だった。『落涙』『涕涙』『浄瑠璃』の3機の宇宙船にて、テラフォーミングが進む火星を目指すこと。燃料には限りがあるため、ホーマン軌道を通り、約8ヶ月の旅になること。すべての人間を連れて行くことは出来ないこと。コールドスリープの適正のない人間は抽選から外れることが発表された。
「いい名前だよね」 鞆ちゃんがそんなことを言った。
「え?」 ニュースを一緒に見ていた私には意味が分からなかった。
「宇宙船の名前」
「そうなの? 私、本とか読まないからなあ・・・」 降参、とばかりに手を振って見せた。
「涙ってさ、目に入ったゴミを洗い流すんだよ」
「うん・・・」 たぶん、それはゴミだけじゃない。行き場を失った感情だって、溢れるんだ。私はあのときのことを思い出していた。鞆ちゃんがギュッと抱きしめて、大丈夫だと言ってくれた、あの出来事を・・・。
「だからさ、涙に載って、この地上の苦しみから分かたれん、とするんだよ。私たちは」
「・・・ええ?」 私の記憶にチリチリと何か一瞬、亀裂が走った。
「だからね、我ら、チクワの・・・」 そう言う鞆ちゃんの、胸の辺りに握られた手には、
手には、筒のようなモノを握っていた。
「かして!」 奪うようにそれをつかんでじっと見る。それは、少し茶色く焦げた後のある・・・白い練り物を樹脂で作ったモノ・・・。
「チクワの子なの、私。石田さんに誘われて、チクワの子になったのよ。私は助かるんだわ。あなたの席はきっと最初からお父さんが用意してる。・・・だから、私たち、またずっと一緒にいられるね」 鞆ちゃんの声に、心がざわめき続けていた。
「違う・・・こんなの、間違ってるよ。間違ってる!」 私にはどうすることも出来なかった。親友の鞆ちゃんの相談に乗ってやることも出来なかった。一緒にいたのに。おかしくならないための儀式を毎日ずっと、一緒に繰り返していたのに。なのに、いつの間にか、鞆ちゃんは、おかしくなっていたんだ。いや、ちゃんと順応していったんだ。現実に向き合っていたんだ、私と違って・・・。
「・・・ねぇ」
そのときの私は、なにもかもがグチャグチャだった。だから、私は誰も彼もを失って、追い詰められたネズミのようだったのかもしれない。ネズミが隙間に入り込んで、何もかもをめちゃくちゃにして、最後に猫を噛むように・・・。
結論から言うと、私の反抗は失敗した。気が付いたときには宇宙船の窓から外の景色を眺めていたし、扉には外から鍵がかかっていて軟禁状態だった。当たり前だ。もう一機の脱出用宇宙船の存在を暴露し、ハリボテで動かない『浄瑠璃』に政府要人をすべて残すチクワの計画を公表し、そして、父をチクワから解放するつもりだった。あのとき、
「お父さん!」 宇宙船のデッキからこちらを眺める父の顔。疲れた顔だった。久し振りに見る顔だった。その顔のまま、胸に下げた筒を口に当て、音のない笛を吹いた。途端に四方八方からガスマスク達が現れ、私は意識を失ったのだ。
「さて、まずは鞆ちゃん、それからお父さん・・・かなぁ」
私はティッシュペーパーを耳に詰めて、胸に下げられていたチクワのひもを引きちぎった。
出来るかは分からない。無理かもしれない。
だけど、諦めたくはなかった。





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【戯曲】君が宇宙へ行く頃

なかまくらです。

初めて書いてみました、一人芝居。

どうぞ~。人生の絵巻の様な物語を目指してみました。

タイトルのリンクからどうぞ。


**


2017.9.23 君が宇宙へ行く頃  (20分; 男1 女0)
*** 太郎のことに気が付いたのは、君とまだ遊んでいた頃のことだった。
  ふとした瞬間に、ぼくは太郎の存在を感じていた。心臓がふいにドキリと鳴るんだ。
  やっと君に会える気がするんだ。君に会ったら、ぼくはきっとあのときの話をするよ。







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