1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】GURA-SUN

5年前くらいの書きかけを発掘です。

まとめあげるのがすごく難しい作品でした。

書き上げてから、1200字ほど増えたわけですが、またいずれ加筆するかもです。

今年もよろしくお願いします。



GURA-SUN

                 作・なかまくら


そこは、大人のいかない公園である。艶やかな黒いセミが、しうしうと鳴く。
彼の登場を待っているのだ。オレンジ色の車止めをジグザグに避けてその男は現れる。
砂場に、滑り台に、ブランコに、地球儀に、群がっていた子供たちが、一斉に振り向く。
「ようこそ」
「くそぅ、あいつにさえ出会わなければよ、俺の人生だってうまくいってたろうよ」
居酒屋のことである。あの頃は若かった男たちが集まっていた。
「おれだってそうさ」「おれも」「おれもだ」 口々にそう言って、笑った。
ビールの泡が、コップの側面をずりずりと降りていく。男は居酒屋の笑い声に紛れようとジョッキをぐいっと傾け、机にトンと置く。置いたまま、そのままに、男たちは静かになる。違うのだ。
「でもな、出会わなかったらって考えたら、ゾッとする。」
少年は美化委員だった。公園のブランコに座り、夕暮れの公園を眺めていた。
少年は眼鏡をかけており、そのメガネの向こうに映る、子供たちの遊んでいる景色は、すべて中央統制局のモニターに映し出されているのだった。
「右から行きます。A,D,B,F,F,F,E,C,・・・G」
少しためらって、Gと判定を出した。メガネの中のコンピュータがカリカリと小さな音を立て考える。そのGの子供をつぶさに観察し、「承認」と回答が得られた。
あとは、処分を実行するだけだ。
「今度はあの子?」
視界の右端でエリマキトカゲがしゃべった。
「エリー」 少年は、その名前を呼んだ。
「はいな」 陽気な声だった。その不自然な言葉を話すエリマキトカゲはすぐそこにいるように見えるが、もちろんいない。おもちゃのメガネに投影されている仮想の生き物に過ぎない。
「そんなに、辛そうな声を出すなよ。やりにくい」 少年は手に持った指輪をどうやってか、手の中で広げたり縮めたりしながら答えた。その輪の中は、眩しくてよく見えないが、広げようとすれば、子供ひとりなど、容易に飲み込んでしまいそうな穴だった。
「お前の代わりに、俺が言ってんだ」 エリーが言い終わらないうちに、少年の手から指輪が消える。そして、子供が一人、忽然と姿を消した。
「探しているんです」 縁の分厚い眼鏡の少年がおずおずと声を出した。
「ふーん」 サングラスに光が反射してギラリと光る。グラさんと呼ばれている、公園のボスだった。
「ひえっ!」 トレーナーの裾をぎゅっと掴んだ。
「探してるんだ・・・」 年齢はわからないけど、その背格好は、間違いなく子供。けれども、自分たちのように守られている弱いもの、とは全く感じなかった。そのふつうではないかっこよく決まった髪の間から、太陽の光が降り注いですべてが羨望の中に消えていった。
「もうすぐ始まるんだよね・・・」 友達がボソリと言った。
「え、何?」 少年は聞き返した。何ってなんだろ。なんと聞き返せば良かったのか。
「『ようこそ』って、声がするんだよ」 友達は天を仰いでいた。
なぜだか、空から光が降り注いでいるようで、迎えが来ているようだった。
「ねぇ、やめようよっ!」 思わず踏み出そうとした足元にバナナの皮が罠のように置いてあって、踏み出せない間に、友達は忽然と消えた。今思えばそれは白昼夢のようだった。その公園への道を考えるのは、もうやめたくなっているのだが、思考が止まらないのだ。気が付くといつも考えてしまう。
公園を覗く大人の気配が、公園に平常をもたらす。
「殺人事件が起きたんだって」「えっ?」
先生のような人だった。お父さんよりも年を取っていて、ネクタイを締めている。入ってこようとするのだ。子どもの顔をして、内側から平常をもたらそうとする。サングラスはかけていなかった。
「近くのアパートで」「怖いですね」「秘密なんだ」「秘密なんですか」「事情があるのさ」「事情」「不審者が出るって、言っても聞きはしないんだ」「子供たちですか?」「そう、子供と大人は理解しあえないんだ」「・・・そんなこと」「いや、君にもわかる日が来るさ」
子どもたちは、様子を伺いながら、平常な子供を演じていた。
「行こうか」「はい」
少年はその時、コンクリートの象の中にいた。
「たっちん、行ったか?」「・・・うん」 たっちんと呼ばれた少年はうなずいた。
「やつら、グラさんを探しているんだ」「グラさん?」 たっちんは思わず聞き返した。
「ああ。地球を救う影のヒーローさ」「影の・・・」 たっちんはまだ小さかったから、ヒーローといえば、輝きに満ちた姿しか思いつかなかった。常に闇は悪の隣にいた。
「そうさ」「なんで影なの・・・?」 たっちんがそう尋ねると、
「グラさんはヒーローとして戦えないんだ」「戦えないの?」
「戦えない。じじょーってやつがあるんだ。でも、大人と渡り合えるのはグラさんしかいない」「じゃあ、グラさんは大人と戦っているんだ」
「そうさ。ヒーローを生み出すのは大人ばかりじゃない。子どもだってヒーローを生み出すんだ。子どもに必要なヒーローを」「子供に必要なヒーロー・・・」
象の中から、公園を見渡した。随分とだだっ広い公園になってしまった。たっちんが初めて遊びに来た時、砂場があった。いつの間にか無くなっていた。池があった。いつの間にか無くなっていた。ジャングルジムがあった。いつの間にか無くなっていた。いつの間にか、何もかもがなくなっていた。このコンクリートの象も・・・。
「よし、行ったか」「うん」 たっちんがうなずくと、もっちんが金色に光っていた象のフィギュアをゆっくりと撫でる。すると、象が半透明となって、輪郭が金色に光りだす。やがてはそれも空気中に溶けて消えて、後には何も残らなかった。
「グラさんは、俺たちに力を与えてくれるんだ」「力を?」
「そうさ。大人たちはこの公園の外の世界をすべて知ったつもりでいる」「うん」
たっちんにも思い当たるところがあった。お母さんに怒られて、そのままこの公園まで走ってきたのだ。たっちんにはたっちんの言い分があったのに。
「でも、このちっぽけな公園の中をグラさんは広げている」「この公園の中を」
「そうさ。これだけの広さ。けれども、俺たちはこの場所で竜との決戦もあったし、雪男とだって戦った。この場所のことは、大人は知らない」
「そうなんだ」 たっちんは、もっちんの話に胸を膨らませた。
「待たせたね」
その時だった。サングラスをかけた男・グラさんが現れる。子どもたちが一斉にそちらを振り向いた。
「タイムマシンの調子が悪かったんだ」 そういって、フラフープを動かして見せた。
子どもたちは手に手に持っている遊具を動かして見せた。その一つ一つが秘めたる力をサングラス越しにグラさんは見る。
「いま、君たちに立ち向かう勇気はあるか」
子どもたちは応じるように立ち上がる。
「君たちは私の下に並ぶのか、それとも、私のように並ばせるのか。勇気を出したなら、面倒事は引き受けなければならない」
子どもたちは応じてうなずいた。
子どもたちの向いた先に、一人の大人がいた。
「今日は君たちの仲間となる男を一人紹介しよう。大人だよ。けれども彼は違う・・・と思っていたのだけれども」 グラさんの表情は、サングラスに隠されていてわからなかった。
「子供たちから離れなさい。・・・それから、君の身分を証明してもらおうか」 道化の格好をした大人は、白々しい仮面をつけたまま、低い声でそう言った。
「残念。・・・逆光仮面だ。常に逆光にして、その正体を知る者はいない。しかし、俺には見える。サングラスをしているからな」
グラさんが言い終わると、子どもたちが一斉に動き出す。
子どもたちのおもちゃがそれぞれ光りだし、大人が光の中に消えてなくなるのを、たっちんは目撃し、グラさんのほうへ振り返った。
さっきの言葉がリフレインされる。
「君たちは私の下に並ぶのか、それとも、私のように並ばせるのか。勇気を出したなら、面倒事は引き受けなければならない」
たっちんは、その公園から一目散に飛び出していった。





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【小説】仇の肩のたたきかた

なかまくらです。

去年書いたままになっていたのを公開しておきます^^

もうちょっと地続きの話になるはずが、ならなかったお話でした ̄v ̄;

どうぞ~。


「仇の肩のたたきかた」

                       作・なかまくら


あるとき瀧一郎は、施術士であった。
その指には自然と生命のエネルギーが集まるそうで、「まるで魔法のようね」と頼ってくるお客さんも多かった。瀧一郎は、自分の夢を追いかけ、そして少し老いたその手を見た。テーブルの上には小さな指輪が置かれている。かつて、自分に無限の勇気と力を与えてくれた指輪だった。「あなたの行く先にたくさんの幸福がありますように」と祈りを籠めて贈ってくれた指輪だった。
ある昼下がり、珍しく予約は入っていなかった。
ふうわりと、風が暖簾を押すようにして、ひとりの男が入ってきた。その男は、なんの風格もなく、それ故に、ただ者ではないように見えた。「回復施術の名士がいると、聞いたのだが」男が口を開くと、瀧一郎はなぜだか非道く血が騒いだ。ベッドの脇でいつも鈴の音を響かせてくれているスズツキ虫のスズキちゃんが、ひとつ、リーンと鳴いた。虫の知らせも届いた。
「私がそうです。どうぞ、そちらのベッドへうつぶせになってください」
瀧一郎は、動揺を隠そうと、心の中で童謡を歌う。あれまつむしが、ないている・・・。
うつぶせになった男に瀧一郎は昔の仕事道具のひとつである布をかける。男のつむじは、見たことのない回転力で渦巻いていた。そこで、瀧一郎の中で何かが、フラッシュバックして、「うががががっ!」そのダメージで、後ずさりをする。「やるな、・・・よ!」なんだったか、それは、忘れてはならない、ことのはずだった。
「全身くまなく、あざなく・・・むしろあざとく! のコースは今日はあるかな?」男の声に、ハッと我に返る瀧一郎。「あります」「では、よろしく頼む」男の背中は布越しにも傷だらけであるのがよく分かった。そして、内側、臓器や筋肉もボロボロであることが瀧一郎にはよく分かった。「お客さん、随分と疲れていますね」「ああ・・・そうだな。眠ってしまえたら、楽になれるのかもな・・・」「お仕事、ですか?」「まあ、そんなところだ」「・・・大変ですね」そう言いながら瀧一郎は、自分が無意識のうちに永眠の呪文をかけようとしていたことに気付いて、驚く。あの頃の自分のことはもう、思い出すことも少なくなってきていたというのに。だがしかし、もはや間違いないのだ。この男がそうなのだ。
あるとき瀧一郎の隣には女がいた。自分を疎外する世界で隣にいた女、小さな指輪、女、魔属への転生を決意させた女。その女にふさわしい男になったとき、女は反逆罪で、処刑台への階段を上っていた。
広場の前に集まった群衆を屋根の上から瀧一郎はしばし、見ていた。女の表情は、何故だか良く覚えていない。ただ、気が付いたら手にしたばかりの魔力を、ありったけ広場にぶち込んでいた。桶に水が溜まるように広場は浸水し、人間には到底受け止められないエネルギーに溺れて皆死んだ・・・はずだった! 一条の光が広場の中央から真っ直ぐこちらを貫く。「うががががっ!」そのダメージで後ずさりをする。「やるな、“勇者”よ」思わずニヤつく。うなじの特徴的な青年は、怒りに任せて広場から一足飛びに屋根へと飛び移り、ギラリとこちらを睨み付ける。「おまえぇぇ! なんてことをするんだ!」その表情は、だが、いま癒やしを求めやってきたこの男には、どうしても重ならなかった。ただ、男から伝わってくるのは、人々が暮らす世界、美しく悲しみもある、命のある世界、守るべきものを守ってきたその心であった。それから救えなかった命に対する、男のみっつの涙のわけも。いまは、瀧一郎も、その背中に乗っている・・・なぜだかそんな風に感じられた。
「・・・背中、温かいですね」瀧一郎は、そう声をかけていた。どうしたらいいのか、分からなかった。いいや分かってもいるのだ。
「温かい?」「ええ」行き場を探すエネルギーはいつしか溢れ、それは瀧一郎をも包んでいた。やることは分かっている。そう、臓器へ巡る血の循環、生命エネルギーの淀みを整えてやればいい。それだけで、快癒するだろう。
「よく言われるが、自分のことはいまいち自分でもよく分からないんだ」
男がそう言うのを聞いて、
「じゃあ、つぎ、肩のほうやりますね」
「いてててっ!」「強めの施術が売りですから・・・! ちょっと我慢しててくださいよ~」
せめて、最後に全力で叩いておいた。





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【小説】うまくいかない

なかまくらです。

ふざけたやつがブームです。


どうぞ。



「うまくいかない」


                      作・なかまくら


ぼうぜんと立ち尽くした。
ドン、と右手に持っていたビジネスカバンがフローリングの床に落ちた音がして、信じられない光景の中に、家内の顔が見えた。その顔がみるみると歪んでいった。
「ごべんな゛ざぁぁ゛っぁあ゛あ゛あい゛」 彼女は白いワンピースをジタジタとした赤い血で染め、その口元も道化師のような赤色に塗れており、最早、恐怖しかなかった。
後ずさろうとする気持ちが尻餅だけをつかせて、お尻が床を打った。下の階の木下さんから、またクレームが入るかもしれないが、そのとき、私はこの世にいないかもしれなかった。
その間にも、私の好きなちょっとふっくらとした手足を巧みに使って4足でこちらに真っ直ぐと進んでくるのだ。爪が立っているのか、フローリングにかりかりという音が立ち、本人はなかなか進まない。こちらを見る目は、完全に、ごめんなさいとは別の生き物の目だった。そうだろう、そもそも、何故、家内はアパートの一室で馬を喰っていたのだろう。
「待て! 私だ。落ち着くんだ・・・」 膝に乗り上げて、今にもその指の切っ先が目玉を抉らんとしていたかのように伸びたところで、ついに私は声を出すことが出来て、彼女の進撃を止めることが出来た。
「あ、うん」 家内はどこから出たのか分からない冷静な声で返事をした。
彼女によるとこうだ。
「私ね、馬刺しが好きなの。それでね、いつも馬刺しばっかり食べてたら、いつの間にか、売られているものじゃ満足できなくなってきたの」確かに、言われてみれば、普通の温かい家庭の何十倍かの割合で、我が家は馬刺しが食卓に並んでいた気がする。
で、満足できなくなった彼女は、
「私ね、馬狩り出来るようになったのよ!」 そう言って、彼女は、壁に掛けてあった弓と矢を取り出して、番(つが)えて見せた。確かに言われてみれば、普通の5階建てのアパートの何十倍かの割合で、矢が刺さった後のようなものがあちこちにあるような気がする。
「それでね、えーーいっ!」 彼女が突っ込んでいったカーテン・・・その向こうは、5階の窓から見える都市の様子ではなく、一面に広がる草原だった。確かに言われてみれば、最近、普通のLDKの部屋の何十倍かの割合で草いきれの匂いが鼻につくような気がしていた。
「こっちにおいでよ! 楽しいよ!」 家内がそう言いながら、遠くの方に小さく見えるゼブラ馬に照準を絞ったのか、弓を構えて、十分に引いていく。明らかに届かないのが分かる。ところが、家内。そこは唇でなにやらを呟く。すると矢は炎を纏い、一直線にゼブラ馬へと飛んでいき、どう、と倒れるのが見えた。確かに言われてみれば、最近、家内の料理の火加減が何十倍か増しているような気がしていた。
ええいままよ、と私もカーテンへと飛び込んだ。強い日差し。家内はずっと遠くの方で手を振っている。気付けば、隣には乗ってくれよとばかりに鞍の載った馬が用意されており、よっしゃ、ちょっくら、と脚をかけようとしたところをどう、と馬は倒れ込む。見ればまだ幼き娘が馬のはらわたを貪り喰っていた。
「パパ、最近おなか出てきたんだからさ、少しは走りなさい!」 娘は二カッと笑ってそれはそれは可愛かった。確かに言われてみれば、最近・・・ちょっと太ってきたのかもしれない。
見せなければならない健康診断の結果も、知らなければ良かった家内の秘密も、うまくいかないことが、走り出したら全部消えてしまうなんて、そんな風にはいかないのだろうけど。私はヤレヤレとかぶりをふって、それから笑って、今は走って、馬好きの家内のところまで向かった。





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【小説】バナナの皮殺人事件

なかまくらです。


書きっぱなしでデスクトップに置いてあった小説を発表します。

シリーズにしてもいいな。


どうぞ~~。



「バナナの皮殺人事件」

                   作・なかまくら



バナナの皮殺人事件


作・なかまくら


2018.11.12


 


凄惨な現場であった。


「無理心中ですな」「いや、殺人事件だろうさ」


二人の刑事は、ともに恰幅が良く、ともにパイプをくわえて、ひげを交互に撫でながら、事件現場を眺めていた。


「犯人はどっちだろうな」「いやさ、相討ちだろうね」


 


死体は二つ。凶器は花瓶。それぞれの凶器と頭部の外傷ががっちり合致。


「間違いないな」「間違いないね」


 


二人が頷く。


チェック柄のチョッキの青年は、指をさしている。丁度ダイニングのほうである。つまり、そのダイニングメッセージが残されていた。机の上には食べかけの夕食。こぼれたワインと、白身魚のギョギョ煮。そして、房についたバナナ。そのバナナの周りは水で妙に濡れていた。


 


地面にも食べ物がこぼれており、二人の刑事は、そっと目を逸らした。


「さぞかし美味しかったろうな」「ところが、今は匂いすら宜しくない」


「ところで二人の関係はどうだろうな」「見たところ、老人と青年というのは関わりの少ないものだ」


「存外、どうだろうか」「案外、その通りさ」


「よし、間違いないな」「間違いないね」


 


二人が頷いて、事件の調書に一筆ずつ、署名を始めたときに、


 


「おままちを!」


颯爽と現れるチェックコートの男が現れる。


「またチェックですな」「今日はチェック記念日ですかね」


「刑事さん、刑事さん、こんにちは。いつもお勤めご苦労様です」


チェックコートの男は、優雅に挨拶をする。


「いつも、どこからともなく現れますな」「探偵どのは、千里眼ですね」


「いえ、彼に事件が起きたので」


探偵は、さっそく現場を確認する。


「なるほど! 謎は解けました!」


「そうでしょうな」「そうでしょうね」


二人の刑事は、さも当然のように、ひげを交互に撫でた。


「チェックの彼・・・私の助手のアンサムくんは、バナナの皮に滑って後頭部を後ろの花瓶に強打! 後頭部陥没が死因ですね」


探偵は、ピクリとも動かないアンサムくんに近づいていく。


「ほう」「ほう」


二人の刑事はやれやれ、と言った表情でそれを見ている。


「見てください。彼の指さしているのは、壁です」


壁に近づくと、小さな蟻が何匹か確認できた。


「この壁、何か甘いものがぶつかったのでしょうね。蟻が集まっています。そして、」


探偵は、その壁から、アンサムくんのほうを向き直る。


「ちょうど、この壁のシミと、下に落ちているバナナの皮、アンサムくん、花瓶が落ちて割れている位置は、部屋の中で一直線上になっているのです!」


探偵がそう、高らかに叫ぶと、天井があるにもかかわらず、天から光が降り注いだ。


そして、アンサムくんを包み込むと、光の中から、アンサムくんが笑顔で現れるのであった。


「先生、ありがとうございました。また、うっかり、死んでしまいました!」


「君は本当に、いつも危なっかしいのだから、困ってしまうね」


「先生がいるから、安心してあの世へ行けるんです」


「いやいや、私を試すように突飛な方法で他界するのは遠慮してもらいたいものだな」


「どうも、すみません」


「・・・で、もちろん見たんだろう、犯人を」


「ええ」


 


**


 


そんなわけで、真犯人は、隣人のジェムリフさんであることがわかったそうです。


二人の刑事が逮捕に向かい、先生とアンサムさんの活躍で一件落着となったとさ。


「はい、記録おしまい」


女の子は、それをファイルに綴じると、事件簿の並ぶ本棚に戻した。







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【小説】麦茶をもう一杯


なかまくらです。

戯曲っぽいものを書いてみました。


「麦茶をもう一杯」


 


                   作・なかまくら


 


 


 ぼくは、談話室に駆け込んだ。何事か、と同僚のKは腕を開き、オーバーなリアクションを返してくれる。それでも収まりきらないぼくは、あまりの事態に、叫んでしまった。


「麦茶をくれっ!!」


アスファルトに蜃気楼がゆらぐ、暑い夏の日だった。


 


1.UFOが現れた


起こったことは、こうだ。丁度、4時間目の授業が終わるころだったはずだ。突然、校舎の屋上がビカビカッ! と光ったのだ。ぼくは最早、直感的にその危機を掴み取った。ユー・エフォー・・・UFOであると。そして、UFOは、この学校へと大気圏外から減速することなく侵入し、現在、学校の最高権力者である校長の脳への速やかなる侵入を試みているはずである。すると、タイミングよくドアが開き、なんと校長がどこか悲しげな眼をして入ってくるではないかっ!


 


2.体育のタイクーン先生


 「いやぁ、大君(おおきみ)先生が、さっき、生徒を怒っていたみたいですけど、先生方、事情知ってますか?」 校長は、瓶に入っていたチョコレートの袋に手を伸ばした。


「あ、いえ・・・」 ぼくは、最早、校長の一挙手一投足のすべてを怪しげな目で見ていて、後から同僚のKには、「短い付き合いだったな、来年は転勤だ」と言われるほどの凝視だったという。校長が、えへん、と喉を気にすれば、「そうか! 奴は、喉からの侵入! そして腹を食い破って出てくるつもりか、ちきちょー!」と、心の中で思ったし、耳に小指を突っ込んでグリグリやるので、「定番! 安直! やはり脳に近い耳から行きますよね! そうだとしたらもう手遅れだ・・・」と思った。チョコレートを補給するのも、宇宙人の脳で人間の体を動かすことによるエネルギーの損失分を補うためだろう。コーヒーの入ったカップを手に取り、「大君先生の雷は、いつも大きいんですよね。学校中がビカビカッ! と光ったみたいに落ちてきますからね~」 校長がそう言うと、ちょうど、内線が室内に響く。電話の1コールを聞く前に校長はいつの間にか、電話の前に移動しており、受話器を手にしていた。「はい、校長のFです。ええ、復活しました」復活した!? 何が復活してしまったというのか。「ええ、すぐ行きます」 校長はそして、出て行ってしまった。


 


3.魔方陣という名の攻撃手段


 「いやな雰囲気になってきましたな」部屋に入ってきたタイクーン先生は、そう言った。手には紙が握られていて、それには、大きな魔方陣が書かれていた。


「数学の問題ですか?」 同僚Kが聞くと、


「どうやら、この問題を解き、数字を埋めると魔法が使えるとかいっておりましてね」


「魔法、本当に最近の子は漫画の読みすぎですな。自分でも魔法が使えるかもだなんて」


「そんなのは、ぼくらだって毎日やってましたけどね」 ぼくがそう言うと、


「虚実をない交ぜにしているんですな」 タイクーン先生は、コーヒーを手にそう言って、ソファに座る。


「あと10年もしたら、そういう世界かもしれませんよ」 同僚Kは何やら楽しそうな顔をする。


「ほう」


ARってご存知ですか?」 同僚Kは携帯電話を取り出す。


VR眼鏡ってありますね」 ぼくがそう言い、


「ええ、VRは全く別の世界を作るでしょう? でも、ARは拡張現実。現実に虚構を重ねるんです」 そう言って、立ち上げたカメラ機能で、ぼくにうさ耳をつけて見せる。


「いやいやいや・・・遊ぶなて」 ぼくはカメラを脇に押しやる。


「おおっと!?」 パシャリ。画面はズレて、タイクーン先生のうさ耳バニー写真が完成する。


「・・・・・・」 3人でのぞき込む。


「まあ、ずいぶんと馴染めない世界が来そうですな」


「あってもなくてもいい、そういうのがいいですよね」


「形から入っても構わない。ただ、使っては捨てるじゃなくて、そこに信念があるか、だと思うんですな」


「そうですよね。何かを極めるということはいかにそれに拘るか、ですよね」 ぼくがそう言い、


「俯瞰的に見すぎているんですな」


「初期のゲームって魔法も最初は1人1種類だけですからね~」


「回復魔法は僧侶が使えたりとか、ですな」


「お、大君先生もイケル口ですか」


「ええ、誰しも冒険に出たものです」 タイクーン先生に空想のARで勇者の剣を持たせてみると、我々は3人のパーティとして、魔王とだって、戦える気がしてくるのだった。ただ、かわいい女の子がいないのが、ゲームソフトとしては売れなさそうな感じではあるけれど。


「あ、そういえば、先生、4時間目は授業でした?」


「いえ、丁度、授業をサボってこの魔方陣を囲んでいた生徒たちに雷を落としていたところでしたな」


「なるほど」 同僚Kが頭の中で時系列を整理する顔をし始め、。


「・・・。いや、まさか」 ぼくは現実と虚構がない交ぜになり始める。


「それがなんです?」 タイクーン先生は、怪訝な顔をする。


 


4.現実と虚構はない交ぜになって


「いえ、実は・・・」 ぼくは、校舎の屋上がビカビカッと光ったことを話す。なんのことはない、それだけの話。


「ははあ、なるほど・・・、サンダァァァァァアアアアアアッ!」


「いええええっ!?」


入ってきた校長、魔方陣で校長の中の宇宙人を攻撃を仕掛けようとするタイクーン先生、慌てて止めに入るぼくと同僚K


「何やつ!? 名乗りを上げぃ!」 校長(!?)が堂々と構え、


「私は別の時間からやってきた! あなたは将来、世界を巻き込む恐ろしい事件を引き起こすっ! それを止めるのが、私のミッションだ」 タイクーン先生(?)が、名乗りを上げる。


 


子どもの頃はこうだった気がする。嘘があって、嘘を本当にしてきた。本当にできると思っていた。でも、いつからだろう・・・できることしか言わなくなった。できなかったときのことばかりを考えてしまうようになった。


 


「と、とりあえず、麦茶をもう一杯、どうですか?」


緊張で少し喉が渇いていた。あの頃たぶん、ぼくはそうやって、生きていた。







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