1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】麦茶をもう一杯


なかまくらです。

戯曲っぽいものを書いてみました。


「麦茶をもう一杯」


 


                   作・なかまくら


 


 


 ぼくは、談話室に駆け込んだ。何事か、と同僚のKは腕を開き、オーバーなリアクションを返してくれる。それでも収まりきらないぼくは、あまりの事態に、叫んでしまった。


「麦茶をくれっ!!」


アスファルトに蜃気楼がゆらぐ、暑い夏の日だった。


 


1.UFOが現れた


起こったことは、こうだ。丁度、4時間目の授業が終わるころだったはずだ。突然、校舎の屋上がビカビカッ! と光ったのだ。ぼくは最早、直感的にその危機を掴み取った。ユー・エフォー・・・UFOであると。そして、UFOは、この学校へと大気圏外から減速することなく侵入し、現在、学校の最高権力者である校長の脳への速やかなる侵入を試みているはずである。すると、タイミングよくドアが開き、なんと校長がどこか悲しげな眼をして入ってくるではないかっ!


 


2.体育のタイクーン先生


 「いやぁ、大君(おおきみ)先生が、さっき、生徒を怒っていたみたいですけど、先生方、事情知ってますか?」 校長は、瓶に入っていたチョコレートの袋に手を伸ばした。


「あ、いえ・・・」 ぼくは、最早、校長の一挙手一投足のすべてを怪しげな目で見ていて、後から同僚のKには、「短い付き合いだったな、来年は転勤だ」と言われるほどの凝視だったという。校長が、えへん、と喉を気にすれば、「そうか! 奴は、喉からの侵入! そして腹を食い破って出てくるつもりか、ちきちょー!」と、心の中で思ったし、耳に小指を突っ込んでグリグリやるので、「定番! 安直! やはり脳に近い耳から行きますよね! そうだとしたらもう手遅れだ・・・」と思った。チョコレートを補給するのも、宇宙人の脳で人間の体を動かすことによるエネルギーの損失分を補うためだろう。コーヒーの入ったカップを手に取り、「大君先生の雷は、いつも大きいんですよね。学校中がビカビカッ! と光ったみたいに落ちてきますからね~」 校長がそう言うと、ちょうど、内線が室内に響く。電話の1コールを聞く前に校長はいつの間にか、電話の前に移動しており、受話器を手にしていた。「はい、校長のFです。ええ、復活しました」復活した!? 何が復活してしまったというのか。「ええ、すぐ行きます」 校長はそして、出て行ってしまった。


 


3.魔方陣という名の攻撃手段


 「いやな雰囲気になってきましたな」部屋に入ってきたタイクーン先生は、そう言った。手には紙が握られていて、それには、大きな魔方陣が書かれていた。


「数学の問題ですか?」 同僚Kが聞くと、


「どうやら、この問題を解き、数字を埋めると魔法が使えるとかいっておりましてね」


「魔法、本当に最近の子は漫画の読みすぎですな。自分でも魔法が使えるかもだなんて」


「そんなのは、ぼくらだって毎日やってましたけどね」 ぼくがそう言うと、


「虚実をない交ぜにしているんですな」 タイクーン先生は、コーヒーを手にそう言って、ソファに座る。


「あと10年もしたら、そういう世界かもしれませんよ」 同僚Kは何やら楽しそうな顔をする。


「ほう」


ARってご存知ですか?」 同僚Kは携帯電話を取り出す。


VR眼鏡ってありますね」 ぼくがそう言い、


「ええ、VRは全く別の世界を作るでしょう? でも、ARは拡張現実。現実に虚構を重ねるんです」 そう言って、立ち上げたカメラ機能で、ぼくにうさ耳をつけて見せる。


「いやいやいや・・・遊ぶなて」 ぼくはカメラを脇に押しやる。


「おおっと!?」 パシャリ。画面はズレて、タイクーン先生のうさ耳バニー写真が完成する。


「・・・・・・」 3人でのぞき込む。


「まあ、ずいぶんと馴染めない世界が来そうですな」


「あってもなくてもいい、そういうのがいいですよね」


「形から入っても構わない。ただ、使っては捨てるじゃなくて、そこに信念があるか、だと思うんですな」


「そうですよね。何かを極めるということはいかにそれに拘るか、ですよね」 ぼくがそう言い、


「俯瞰的に見すぎているんですな」


「初期のゲームって魔法も最初は1人1種類だけですからね~」


「回復魔法は僧侶が使えたりとか、ですな」


「お、大君先生もイケル口ですか」


「ええ、誰しも冒険に出たものです」 タイクーン先生に空想のARで勇者の剣を持たせてみると、我々は3人のパーティとして、魔王とだって、戦える気がしてくるのだった。ただ、かわいい女の子がいないのが、ゲームソフトとしては売れなさそうな感じではあるけれど。


「あ、そういえば、先生、4時間目は授業でした?」


「いえ、丁度、授業をサボってこの魔方陣を囲んでいた生徒たちに雷を落としていたところでしたな」


「なるほど」 同僚Kが頭の中で時系列を整理する顔をし始め、。


「・・・。いや、まさか」 ぼくは現実と虚構がない交ぜになり始める。


「それがなんです?」 タイクーン先生は、怪訝な顔をする。


 


4.現実と虚構はない交ぜになって


「いえ、実は・・・」 ぼくは、校舎の屋上がビカビカッと光ったことを話す。なんのことはない、それだけの話。


「ははあ、なるほど・・・、サンダァァァァァアアアアアアッ!」


「いええええっ!?」


入ってきた校長、魔方陣で校長の中の宇宙人を攻撃を仕掛けようとするタイクーン先生、慌てて止めに入るぼくと同僚K


「何やつ!? 名乗りを上げぃ!」 校長(!?)が堂々と構え、


「私は別の時間からやってきた! あなたは将来、世界を巻き込む恐ろしい事件を引き起こすっ! それを止めるのが、私のミッションだ」 タイクーン先生(?)が、名乗りを上げる。


 


子どもの頃はこうだった気がする。嘘があって、嘘を本当にしてきた。本当にできると思っていた。でも、いつからだろう・・・できることしか言わなくなった。できなかったときのことばかりを考えてしまうようになった。


 


「と、とりあえず、麦茶をもう一杯、どうですか?」


緊張で少し喉が渇いていた。あの頃たぶん、ぼくはそうやって、生きていた。







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【小説】取れない骨 ~地上編~


なかまくらです。

春から、ずっとこれを書いているのですが、

2章がぜんぜん進まないので、1章を手直ししてみました。

構想はあるのですが、それを形にする力が無いとはこのことですね。

これも面白いと思うので、どうぞ~~

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「取れない骨」


                  作 なかまくら 



1.地上編


 


「もう3本目? 早いのねぇ~」 覚えている最初の記憶は、母が誰かと話している場面。


「やっぱり、お兄ちゃんもそうだったし、この子も同じ血を引いてるのねぇ」 羨望の声。


「いえ・・・私は、この子が、好きなように生きてさえくれれば」 謙遜する母の声。


 


青と白のボーダーシャツ姿の自分。見上げる天井、青い空が少し割れていた。3本目の足は、まだ短くて、地面には届かなかった。隣にはいつも海月(みづき)がいた。


 


ぼくらはよく一緒に遊んだ。立方体を積み上げたアスレチックを天地に縦横に移動する。鍛え上げた5本の足が巧みに確実に骨組みに身体を安定させる。欠損ルートは難易度が高いが、ぼくも、海月も敢えて選んでいく。ちらりと見ると、ちょうど海月も欠損部分にさしかかっていた。ぼくは、ひとつ大きく息をすって、軽く吐いた。それから、空白の中へと勢いよく飛び出す。アスレチックの規則正しい繰り返しの中に、不意に視界が開けるように骨組みのない空間が現れる。欠損ルートだ。攻略法は様々で、縁に沿って登ってもいい。遠回りだが、悪い足じゃない。だが、それでは圧倒的に遅い。頂点までの到達タイムを競うなら、別の方法をとるべきだろう。例えば、欠損の中央付近で・・・、ぼくは5本の長い足を精一杯広げた。そのうちの3本がかろうじて、骨組みを捕まえた。その足を踏み込んで、ぼくは大きく上へと飛んだ。足をたたみ、空気の抵抗を少なくして、欠損の上の境界へと足を伸ばし、がっしりと捕まえた。6階層を飛び越える荒技だった。


海月の驚く顔が、興奮の向こうに見えた。さらにその向こうに、青い天井。空のひび割れが、広がっていた。


 



 


「母さん」 ぼくは、母の待つ家の扉を開け放った。


「・・・ぼく、」 直前まで浮き浮きとした気持ちだった。


「放送を聞いたわ。選抜、頑張るのよ」 途端に母が随分と小さく見えた。兄もぼくも父の血が強く出ていた。強く丈夫な身体、賢く回転の速い頭。2本の足で座って、2本の足で洗濯物を畳む母は、選抜には出られなかった。覚えてはいないが、きっと父は母を置いていったのだ。そして、母はそれを今みたいに無理に笑って送り出したに違いない。


「ぼく・・・母さんを置いていけない」 口に出して、涙が出た。悔しさなのか、それともこれまで頑張ってきたすべてのことが泡に還っていく虚脱感なのか、はたまた選抜の結果訪れたであろう、母との別れを想像してなのか。自分でも分からなかった。分からなかったが、口に出た言葉が、一番今自分の気持ちとしてしっくりきて、それが本当の気持ちだと分かったことだけは確かだった。


「なにをバカなことを言っているの。このために、今まで頑張ってきたんでしょう」


「でも・・・」


「私の足りない足は、引っ張るためじゃない。背中を押してあげるためにある・・・そう決めたのよ」 母はそう言って微笑んだ。母は強いのだ。一瞬でも、目標のないちっぽけな存在に思えた自分が情けなく思えて、また涙が溢れた。生えて間もない8本目の足の先端が、ジリジリと痛んでいた。


 



 


「よう。でないんだって」 土手の上に立つと、川向こうの工場で組み立ての進むロケットが見える。昔から良くこうして眺めていた。


「誰に聞いた?」 風が流れる赤く染まった空が随分と裂けて、向こう側の暗闇が覗いている。そこに吸い込まれるように、風が吹いている。


「うちの親」


「ふぅーん」 海月のご両親は何というのだろうか。


「お父さんとお母さんはなんて?」


「早く行っちまえってさ」 そう言って、8本の足で、思い思いに小石を川に投げ込んだ。


「そうなんだ・・・」


「お前んちは?」


「頑張りなさいって」 母はそう言ってくれた。


「なんだ」


「でも、・・・さ。母さんを残して行くなんて・・・あんまりだ」


「出ないんなら、俺に決まりだな。他の奴らは骨なしだ」 海月はフフンと鼻で笑った。


「よかったじゃないか」 ぼくがさみしそうに笑うと、


「む。そういうことじゃないんだが・・・」 なぜか海月は不満そうな顔をした。


「ねえ・・・」 ぼくらは空を見上げる。


空の裂け目。あの中に飲み込まれたら終わりだと、本能的に分かっている。その裂け目が日に日に広がっていることも。


「あのさ、世界は、終わるよね」 ぼくは切り出す。これまできっと誰もが思っても言わないようにしていたこの世界というものの終わりの切り絵を。


「終わるだろうね」 海月も同じ空の裂け目を見ていた。そこに覗く暗闇を。


「だよね」 分かっていた。海月も同じ恐怖を抱えていた。生きるのを急いでいたのは、早く大人にならなければならない、と急いでいたのは、必要性があったからだ。生き延びるためには、足を8本生やして、選抜に通って、あのイカした一人乗りのロケットに乗り込んで、あの天井の向こうの世界へ昇天する必要があったのだ。でも、1本目の足が生えたとき、3本目の足が生えて、“安定”の役割を任されたとき、5本目の足を上手に使えるようになってスターとなったとき、それから幸運の7本目・・・いつも褒めてくれたのは母だった。頑張ったのは、怖かったから。けれども、頑張れたのは、母が褒めてくれたからだった。


「家族は置いていくのか?」 ぼくはぽそりと言葉を漏らした。


「・・・・・・」 海月は、川へと石をひとつ投げた。それが静かに流れる水面に波紋を立てる。「置いていく」海月はそう言った。ぼくはそれを薄情だとは思えなかった。その顔に表れていたのは、覚悟だったように見えたから。「置いていく」海月は繰り返して言った。「親不孝」ぼくの口が恐ろしい言葉を言った。「・・・そう思うよ。でも、これは俺の命なんだ」海月は胸に手を当てて、空の割れ目を見ていた。ぼくは見ていてはいけない気がして、前に向き直った。謝らなければいけなかった。しばらく並んでロケットを眺めていた。「じゃあな」海月がそう言って行ってしまう。「あのさ・・・」続きが出てこない。「やっぱり、お前も選抜、出ろよ」海月は振り返らずにそう言った。


夜。寝返りを打った。「頑張るのよ」と言ってくれた母の言葉が頭を離れなくなっていた。頑張ったら母さんは喜んでくれるだろう。きっとこれまでのどの時よりも。いつもは謙虚な母さんが、「私の自慢の息子なんです」なんて言ってくれるかもしれない。それはずいぶんと幸せなことだ。幸せなことなんだ。そうやって最後に喜んで、それで、・・・それで。


気が付くと寝てしまっていて、気が付くと選抜試験だった。筆記、口頭試問、アスレチックによる運動機能テスト。全科目で満点をたたき出したのは、ぼくだけ。1科目だけ99点だったのが、海月だった。勝敗を分けたのは、アスレチックだった。ぼくらはふたりで競い合って編み出した技で他のライバルに差を付けていく。海月の選んだ欠損ルートは、ぼくのよりも少しだけ高難易度で、そこでぼくらは垂直に上へと飛び上がった。ぼくはかろうじて鉄筋を掴み、海月はつかみ損なって、一度落ちた。その後猛烈な追い上げを見せたが、一度の失敗が審査に響いた。


「やられたよ。うん、やられた」


すべてが終わった後、海月はそういって2本の足で立っていた。ぼくは目を合わせられなかった。海月はぼくの足を無理やり取ると、6本で握手をかわした。彼の手は震えていた。ぼくの手も震えていた。


「・・・うん」


たぶん、迷いがあったのだ。のどの奥の方、取れない骨を残したまま試合に臨んだ海月をぼくは卑怯にも打ち破ったのだ。ぼくはただ母さんに褒めてもらえることだけを望んでいた。そのために、無心に頑張っただけだったのだ。ただ、そのことしか考えないように、心を閉ざしたのだ。


 


「先に上で待っているぞ」 ぼくらがまだ小さかった頃、ぼくら2人を前にして、田之助さんはそう言った。それから、10年。ぼくは、この世界を出発するであろう最後のロケットで、昇天した。煙はまっすぐに立ち昇らなかった。昇るとはそういうことだと思った。







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【小説】考えるのはもうやめた


なかまくらです。

忙しいときほど、小説を書いてしまう(笑

そろそろお休みが欲しいな~・・・。

全国大会が終わるまでは頑張るのだ。





「考えるのはもうやめた」


2018.7.25
作・なかまくら


 


 


しゃりん、と鈴の音がひとつ。


ある男がいた。髪は伸び、皮膚は裂け、非道い匂いを漂わせていた。足取りはおぼつかず、腕はバランスを取るために左右に揺れていた。


「おい」 ふいに声がして、男は足元に目をやった。目は爛々と輝き続けており、口はヌラリとして開いていた。


「おい、と言っている」


男は応える。「なんだ」


「お前じゃない。お前の節々に呼びかけている」


「なんだそれは」


男は声の出所を探そうと、腰の巾着を探り、胸のすっからかんの財布を探り、仕舞いには草履の網の目まで探り当てようと、踊り回ったものの、とうとうその声の主を見つけることが出来なかった。


「なんだ、お前も男なら、正々堂々と姿を見せてみろ。もしもお前がその野太い声で女子供なら、黙って顔色でもうかがってれば良いんだ」 男が腹立たしげにそう言うと、遠目に男を見ていた女共が、子共を隠し、一斉に長屋の戸を閉めた。


通りには男しかいなかった。男は辺りを見回し、不意に本当に薄気味悪い心持ちになって、


「なあ、“おい”よ」と、声の持ち主を連れにしようとする。


「お前は今日まで散々っぱら、俺たちに迷惑をかけてきた」”おい”は応える。


「俺たちって何さ。確かに、俺は貧乏で、嫁っこにも愛想尽かされるし、ええところはねぇ。けどな、人様には迷惑かけちゃいけないって、母ちゃんに、そう育てられてきた。それは、ない」


男は、肋骨が浮かび上がる胸を張って見せた。誰一人、その姿を見てはいなかった。


「俺たちは、そのきれい事をやりがいにやってきた。それぞれが考えた。効率の良い動かし方を。怪我をしない方法を、怪我を早く治す方法を」


ははーん、男には次第に今起こっている事のあらましが読めてきた。俺のこき使っている四肢たちが、訴えてきているというわけだ。そんなものは、自分の感情から生まれる単なる幻惑、気の弱さから生まれるって魂胆だ。。


男は強気に言い放つ。「考えなくて良いんだよ。考えるのはこっちの仕事だ。それぞれが考えなしに動いたんじゃあ、船は山に登っちまうさ!」


「ああ、そうかい」 しゃりん、と鈴の音がひとつ、真っ昼間の長屋通りの静けさに響いた。


男は恐ろしい感じがして、一歩二歩と後退る。


「あんたが考えないからだ。あんたが全部悪いんだ」 右手が言って、


「うるさいな」 左手が頬を張った。左右の足が、鈴の音を鳴らす浪人風情に一歩二歩と身体を近づけていく。


「おい、よせ」 ヌラリと開いた口がカサカサとしぼんでいく。


振りかぶった刀は、男から四肢を解放していく。それぞれに異様な細い半透明の脚が生え、その場で飛び回る。


「やったーー! 自由だー!!」


浪人は、無表情にしばらくそれを見てから、


「それで、どうやって生きていくつもりだ、お主達は・・・」そう問うた。


「さあね。とりあえず、生きていれば、生きているのさ。求められてもいないことを考え続けることは、何よりも苦痛だった。考えないで、男の四肢として生きるのも命かと思った」


浪人は、話の相手、切り落とされた手首を、その止めどなく流れる血を追いながら話を聞いていた。


「だけども、それじゃあ、生まれてきた意味が分からない」


手首はそう言って、ぱたりと倒れた。


足が生え、ばらばらになった男の肉体は散らばっていく。脳が心臓を引き連れて、どこかへ飛びたとうとしていた。


浪人は思わず聞いた。「どこへ行く?」


「さあね、考えるのはもうやめたんだ。求められてもいなかった。エネルギーばっかり喰ってね。良いことなんて無かったよ」 脳がそう言い、


「心はここに置いていく」 心臓が晴れ晴れと言った。


「もうドキドキすることもないのだろうな」 浪人が手向けの代わりにそう言って、


「これからだろ?」 心臓がそう言って、脳は無邪気に頷いて、空高く舞い上がっていった。







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【小説】ふつうではない

なかまくらです。

ドラマチックな話が書きたいのですが、これがなかなか難しい。

どうぞ~~。

~~~~~~~~~~~~~


「ふつうではない」

                   作・なかまくら



「なんかさあ、わかる? 普通なんだよね」 エラそうにそう言って、原稿を置いた。藤野は、置かれた原稿をじっと見て、相手の顔を見ていなかった。八島は、その様子を見て、はぁ、と分かりやすくため息をついた。
「最初はさ、光るものがあると思ったんだよね。」 藤野の反応を伺っているようだった。相手の心の隙間を探そうとしていた。たいていの諦められない人間がそうであるように、夢を追いかけている人間は積み上げてきたものがある。それは荒々しく重ねられた岩壁であったり、美しく塗り固められた漆喰の壁であったり。はたまた、それは弾力に富んだ風船か何かで出来ているときもある。それを壊すことに、八島は長けていた。
「藤野先生、聞きましたよ」
「え? なんですか、洗石先生」 藤野は、Tシャツのしわを擦(なぞ)りながら、洗石先生に聞き返した。
「もと、先生ですよ。私は、筆を置いてしまった」 幾分か肩を落とし、目の前に運ばれてきた珈琲を寂しそうに啜った。
「いえ、私にとって、先生はいつになっても先生ですよ」 藤野は、敷かれたテーブルクロスにしわを作りながら、言った。
「いや、私は普通のサラリーマンになってしまった。サラリーマンの〆切は、根本的に違うものだとつくづく感じますよ」
「そうですか」
「〆切を守るには、心を置き去りにしていくしかないんだ。心は重くて、持っていたらとても辿り着けない。捨てられるものを次々と船から降ろして、私は今までいろいろなものをことを体験し、そのたびに船に載せてきた。それが私の使命とまで、驕っていたかもしれない。私こそがノアの箱舟となるのだと。けれども、違った! おもい船はなんの役にも立たなかった! なんの・・・役にも・・・っ! いや、失礼。少々感情的になってしまいました」
「いえ」 藤野は、二つに分かれたしわの片方を指の腹で進んでいく。
「藤野先生は、もともとは会社員だったと聞いていましたが」
「ええ、両親が、就職するつもりもない私を見かねて、親戚の経営する工場に缶詰にしたんです」 しわは、珈琲カップの受け皿に辿り着いて、珈琲の水面を少しだけ揺らした。
「そのときの体験を元に書いたのが、『缶詰の』ですか。あれは、とんでもない新人がでてきたもんだ、と。どきどきと、あとは、わくわくでした」 洗石先生は、懐かしむように両の手を組んだ。
「わくわくでしたか」 藤野は少し微笑んだ。
「ええ、わくわくでした。この人には、私たちには想像もつかない想像をしているに違いないって。普通ではないって」
「ふつうではない・・・」
「あ、褒め言葉ですよ」 洗石先生が手を振って慌てて釈明をする。
「そうですか」 藤野はそれに頷いた。
「藤野先生・・・」 急に洗石先生は、声を潜め、それから、その瞬間にもまだ言うか迷っている様子であったが、話し出す。
「・・・今度担当になった八島、気をつけた方が良いです。降ろしの八島って呼ばれているらしくて」
「降ろしの八島」
「八島が担当編集になってから、次々と作家先生が筆を置いている・・・なのに、八島はお咎め無しときたものです。これは、なにか理由がありますからね。くれぐれも気をつけて」 そう言うと、洗石先生は珈琲にシロップを入れて、ぐるぐるとかき混ぜた。
「ご忠告ありがとうございます」 藤野は最初から甘いラテをくっ、と飲んだ。それを見て、洗石先生は、何故か薄く笑ったのだった。
「いいなあ、普通になりたくないなぁ・・・」 洗石先生は、何故か薄く笑ったのだった。
「八島さん、例の作家先生、しぶとくて。頼みます」
「あー、うん」 八島は、朝からの打ち合わせのスケジュールを確認しながら生返事をした。
「あざっす。資料置いときますんで」 元気の良い若い社員が、置いていった封筒には、藤野先生、と書いてあった。その横には、連載数0が半年間続いていること、本人から新作に対する具体的な進展が見られないことが走り書きされていた。
封筒を開くと、原稿が入っていた。何度か読んでみたことはあるが、八島には、どうやら文の善し悪しを判断する力は無いらしい。どれも、等しく面白く思えてしまうのだった。だからこそ、贔屓をしなかった。八島が面白いと思っても、売れないのならば不幸な人生を増やすだけだ。幸いにも八島には得意なことがあった。人の心の隙間に入り込むことだった。編集にならなかったら、取調室の魔術師などと呼ばれ、警察で活躍していたかもしれない。小さい頃は、刑事物や探偵の活躍するミステリーを好んで読んでいた。自分が小説家になりたいと思うこともあった。そして、その積み重ねの上に、八島はここにいることに納得をしているつもりだった。
「今日も、一つの物語を終わらせてくるか」 八島は自分のデスクで呟いた。現実世界という物語を終わらせる仕事に就いたと、自分を納得させることに決めたのだ。
八島は、藤野をじっと見ていた。藤野から感じるそれは、契約を切られる恐怖でもなければ、生活に対する困窮でもなかった。その、積み上げられたものを探り、崩そうとする切り口が八島には見えていなかった。きっと根本的に違うのだ。八島なぞの想像の付かない想像をしているに違いないと思った。普通では無いと思った。
八島の中で、何かが音を立てていた。





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【小説】タイムマシンの罠

なかまくらです。

今日も文化祭の代休日でお休みです。

というわけで、朝から小説を書いていました。

途中、お昼寝を挟んで(・・・何て優雅なんだ)、

後半を書き上げて、とりあえずの完成。

ん~~、もうちょっと膨らめて、お芝居にしても良かったかもですね。

気が向いたら、戯曲に仕上げてみようかな。

2幕も作ったりとかして。

別の投稿サイトに投稿する都合上、刑事さんの活躍があまり描けなかったのが、

ちょっと残念なので、そのときには、そこも掘り下げてみてもいいかも、

と思っています。

それでは、どうぞ~~。

~~~~~~

「タイムマシンの罠」


                    作・なかまくら


「予告状が届いたんだって」


博物館の館長は、その声に顔を上げる。


「川面さん」


「・・・して、その怪盗・時秋(ときとき)のお眼鏡にかなった品というのは、どちらに?」


館長は慌てて、口に手を当てた。


「川面さん! お電話でもおはなしした通り、この件は非常に込み入った事情というものがありまして」


「なんですか! 込み入った事情というのは! そういうものは、持ち込まないでいただきたい!」


「ひぃえぇ!」 館長が川面の大声に思わずのけぞった。


「いいですか、館長。私の仕事はね、あくまでその品物を守ることにあるんですよ。そうでないところは、またそれが仕事の人に頼むのが筋って、そういうものでしょう」


「ええ、その通りですわ!」


「あっ、煤崎さん!」 館長が安堵の声をあげる。


「館長さん、こんなところではなんですので、このうるさい刑事さんを応接室へ案内してお茶とケーキとチョコレートパッフェを3人分、用意してくださりますね」


「いえ、私は要りませんが・・・」 川面が新しく来た女を上から下までじろりと見る。白いシャツの上にジャケット。黒のタイトスカートで、背の高い靴を履いている。見るからに機敏に動けなそうな恰好だな、と川面は心の中で嘆息した。それから、


「先に品物を見させていただきたい。作戦会議はそれからでしょう」


 



 


地下、ヘッドランプの明かりが揺れていた。


「悪いことをしているという実感はな、ないんだよ」 ちょうど金庫室の真下だった。


「例えば、気付いちまったとするよ。あんたが、いま、今更になって、自分がとんでもないことをしようとしていることに。今ならまだ間に合うかもしれない。やり直せるかもしれない」


基礎部分のコンクリートには小さな穴が開けられ、そこに挿入されたチューブへと特殊な溶剤がポンプで送られている。この建物の構造をこの怪盗に教えることができたのは、博物館の設計に携わった自分を含め、数名にしか出来ない。今回の手口から、真っ先に設計者が疑われるだろう。


「知ってしまったときが、そいつの潮時ってやつなんだろうさ。罪悪感は腕を鈍らせる。鈍った腕じゃあ、いい仕事は出来ない」


怪盗・時秋(ときとき)は、そう言うと、溶剤で柔らかくなったコンクリートをスコップで掻きだしていく。


「それでも、お金が必要なんですよ。ちょっと考えられないくらいの額が。それだけあれば、娘は治るかもしれないって」


「真っ当に生きていくなら、諦めないといけない。それが真っ当な考え方ってやつで、ただ、知っちまった。そのときが、そいつの潮時ってやつで、どうするか、決めないとな」


恐ろしい手際で、博物館の倉庫のコンクリートを掘り当てると、刳り抜いて、時秋は上へと抜けた。


「鷹野さん、あんたはそこで待ってな。案内ごくろーさん」


穴の向こうで、時秋はそう言った。


 


「さて、と・・・」 時秋は暗視ゴーグルを点灯させて、周囲を見渡した。赤外線が張り巡らされている場所を探すと、それらしい場所がすぐに見つかる・・・見つかったのだが。


「マジで手の形とはね・・・相当趣味が悪い御仁もいるもんだ」


照射されている赤外線をミラーでバイパスして道を丁寧に作っていく。『フレミングの右手』と噂されるその宝は、これまで厳重に保管されてきた。興味が湧いたら欲しくなってしまうのが怪盗・時秋という男の性質だった。その『右手』は思ったよりもずっと硬い感触だった。生きているような肌の質感に似合わず、金属だろうか、磨かれた石だろうか。硬質なそれを風呂敷に包んで、その場を離れた。


 



 


「・・・で、こちらの警備はもう、それは万全というやつでして」 館長は、倉庫の鋼鉄の扉を開ける。


「いいですか、これからお見せするものは、他言無用でお願いしますね」 と、煤崎は黒塗りのファイルを抱えて言った。


「パフェにいささか時間がかかりすぎではありませんか。奴はそそっかしいやつですから、予告状を出したらすぐにでも行動しないと・・・」 刑事の川面は、苦い顔をしていた。味わった黒珈琲の苦みを舌の上で転がしていた。倉庫の中央、置かれているはずの場所。


「「「・・・ないっ!」」」


それは、なかった。


 



 


翌日の正午ごろ。こんこん、扉を叩く音がした。


「来客の予定はないんだけどな・・・。あんた、ここ居座ってるといいことないぜ」


「私は、この罪の行く先を見ておかなければならない、そう決めたんです」


「ああ、そう・・・でも、そこはやめときな」


そう言いながら時秋は、銃を構えて扉の横にしゃがんだ。


「はいよ」


扉をゆっくりと少しだけ開けた。


「どうもっ! こんにちはー!!」 間の抜けた明るい女の子の声だった。


 


「・・・ん?」 少しの疑問。ちらつく照明。そして、時秋は黙った。


「波奈・・・」 鷹野の足が一歩、二歩と少女へと近づく。


「なんだ、手術は終わったのか。もう、歩けるようになったのか? え?」 今にも泣き出しそうな顔。それを時秋は苦々しげに見た。


「鷹野さん」


「時秋さん、娘なんですよ。彼女は、私の娘なんです」


「そっくりなんだろう?」 時秋は、努めて慎重にその言葉を伝えた。


その一言で、鷹野の足は止まった。


「いえ、・・・ええ、そうですね。そうですよね。そんなわけないですよね。それによく見れば別人だ。背も少し高いし、年齢ももう少し上に見えるし・・・」


「お父さん・・・」 その娘は呟いて、


「波奈・・・!」 鷹野は首を振った。正気を失うまいと、髪をかきむしった。


「声まで似てるなんて、残酷すぎやしませんか! ねぇ!」


「だが、残念だが、人間じゃないらしい」 時秋は、足元を指した。


天井からの照明に対して、彼女は影を持たなかった。


「ああ・・・」


「何の用だ?」 時秋は尋ねて、娘は応える。「『フレミングの右手』が動いたので」と。


それから、娘は、右手にサッと触れて見せた。途端に空間がぐにゃりと歪んだ。


 



 


「・・・で、結局その盗まれたものというのは、なんなのですか」 刑事・川面は、煤崎を問いただしていた。


「国家の安全に関わる機密でして」


「なるほど」


「フレミングの右手の法則とは、時間と空間の関係式を形にしたものです」


そう言って、眼鏡をぐいっとあげると、大盛りのパッフェを頬張った。


「正直言って、よく分かりませんね。それで、盗まれるとどう、国家の危機なんです?」


「(もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ)」


「時間、かかりますか?」


「・・・ごくん。そう、時間なんですよ。時間が変化する。それが問題なのです。とにかく、彼から取り返してください。詳しい説明は必要があればそのときにでも」


煤崎は、そう言うと、お金を置いて、去って行った。


「はぁ・・・まあ、仕事ですから」 川面は、コートの襟を一度正した。


 



 


「また、厄介なものに手を出したな・・・」 古びた時計店のような雰囲気だった。店の主人は単眼鏡で、『右手』を見ていた。


「まあ、そう言わずに。時間があまりないんだ。明日の正午ごろだ。その時間になると、影のない女が現れて、気付けば1日前。『右手』を盗む直前の倉庫の中だ」 時秋はソファに腰掛けて、店主の作業を見ていた。


「あのときも大変だったよなぁ、『キログラム原器』を盗んだときだっけ?」


「よせよ・・・昔の話だ」


「まあそう言わずに。こいつがやっと一人前になった頃の話さ。『キログラム原器』の話になった。こいつは、1キログラムを決めている指標でな。こいつを盗んだらどうなるだろうって。そしたら、こいつ、ひょいって盗んできてよ」


それから世界は大変だったらしい。質量という概念が消失し、あるものは風に飛ばされ、あるものは、落ちた。決死の思いで『キログラム原器』を元の場所に収めてくると、それはすべてなかったように、元に戻ったという。


「へぇ・・・」 不思議な高揚感があった。世界は随分と広かった。鷹野はそれまで真っ当に生きてきた。しかし、世界の裏側はもっとワクワクとドキドキで満ちあふれているのかもしれない、と思った。


「ん~~、これ、一晩、俺に預けろ」 店主はそう言い、時秋は頷いた。


「例の時間までには取りに来る。マスターに迷惑はかけたくないからな」


「おう」


 



 


そして、何度目かの倉庫。


「・・・あきらめが悪いのね」 娘がそこにいた。


「どうも」 時秋は、そう返した。それから、ふと、あることに思い当たった。


「ここで、引き返せば良いのに」 娘がそう言って、時秋は笑った。


「なるほどな。あんたは確かに、鷹野の娘なんだな、未来から来た・・・」


「・・・なんのことかしら」 娘の声が初めて強ばった。


「悪いけど、お父さんはそっちに行くぜ」 時秋が不敵に笑って、『右手』を掴む。


「駄目!」


娘が叫んだ瞬間、倉庫の扉が勢いよく開く。


「そこにいるのは誰だ!?」


発砲。その銃弾は、時秋の肩の辺りを貫き、『右手』は時秋の入ってきた穴へと、鷹野が待つ穴の中へと落ちていった。


時秋の薄れゆく意識の中で、未来と繋がる音がして、娘の姿は見えなくなっていた。







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