1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】短編小説を書く前に

なかまくらです。

わくわくしたい。そうしよう。


***


短編小説を書く前に

             作・なかまくら

短編小説を書く前の僕は両極端な分身状態だ。

踊りだしそうな高揚感と、立ち止まってしまいたい心の動揺が一緒くたにやってくる。

それをなんとか、心の内でドッキングさせたまま、コンビニに寄る。さながら宇宙ステーションへのドッキングミッション。途切れればそれは、あっという間に、宇宙に還ってしまう。

コーラを2本。真っ黒い砂糖水が、僕のインクみたいなもの。

階段を一個飛ばしてそれから細かく登ってみたりしてみて、次は細かいステップ。アパートの自室を目指す。開けてあったカーテンをきつく締めて、ノートパソコンの電源ボタンをぐいと押す。無音、からのヴォーン。ファンが回り始める。カリカリと音がして、脳みそが針で引っかかれているよう。

右手の人差し指と左手の人差し指をジェイとエフに置いて構える。なんだって、構えが大事だ。構えで勝負が決まるといってもいい。思ったことをタイプする。それもワイルドに情熱的に、それでいて、冷静に訪れるラストシーンを思い浮かべるように。

少し、コーラを口に含む。しゅわしゅわと泡が弾けて消える。浮かび上がってくるアイディアを連想する。心が泡立っていく。

ワープロソフトが起動すると、社会という名前の首輪を外されたもう一人の僕が、転げまわって笑いながら、ものすごいスピードではねる。そして、画面の向こうに拡がる白紙の水平線へと遠ざかっていく。

その思い切った間取りの庭に小道具を置いていくために、僕はひとつ息をしてから、彼を追い駆ける。






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【小説】砂魚

なかまくらです。小説ばかりを更新してみたい。そんな願望がやみません(無謀

いつか戯曲化したいけれども、とりあえず小説で、

という作品。

どうぞ。


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「砂魚」

                    作・なかまくら

外はひどい砂嵐だった。
窓には板を打ち付けている。雨戸がガタガタと音を立て、ここを開けろと主張していた。
「ひどい嵐だな」 マスターがポツリとつぶやいて、言葉は砂嵐の雑音の中に吸い込まれていった。
「ええ・・・」 僕は無意味な返答をした。



パクパク、パクパク。
「マスター」「なんだ?」「金魚が」「金魚がなんだ」「泡を吐いてるんです」「金魚だからな、泡ぐらい吐くだろう」「これって、ただの泡なんですかね」「泡だろう」「そうですかね」「泡じゃないって、そういいたげだな」「金魚がね、泡を吐き出しながら、こっちを見てるんですよ」「泡をね」「吐き出しながらですよ」「パク、パクとね」「いいえ、パクパク、そしてパクなんです」「ほう・・・」

カウンターから少し離れたほう、店の入り口の扉が軋んだ。ガタガタと、音を立てて、なんとガラリと開け放たれた。

倒れこむように入ってきた男は、つきかけた膝を手で押し戻す。山吹色のポンチョを身体に纏っていた。「やあ、まいったね」そう言って、入り口で大胆に砂を払った。
「いらっしゃい、こんな中、どちらから?」
マスターは、立てかけてあった箒と塵受けを手に取ると、砂を集めて、シューターに流した。
「・・・ええ、諸国を旅していてね。この辺りは随分と砂に塗れているんだな」
「すっかりですよ」
「ここがあって、助かった」
「それはどうも」 マスターは、にこりと笑って、男を店へ招き入れた。
「こんにちは」 僕はパクパクとしゃべった。泡が浮かび、水に押し出されて天井へと昇っていく。
彼がそれに気づく様子はなく、
「君は・・・お客さんかい」 不思議そうな顔で、男は僕をじろじろと眺めた。
「いえ、彼はうちの見習いなんですよ」 マスターの言葉はうわんうわんと水の中を振動して伝わってくる。
「随分とヒトデ不足のようで」
ヒトデの足を捥いで食べると、新しい足が生えてくるように、もがれた僕は傷ついた痛みを生やしていくことができたなら。

「ラジオをつけてもいいかな」 男は返事を聞く前に、スイッチを入れるとつまみを回した。
「すいませんね・・・ここらは、昔工場があって」
「昔? ああ、大戦前に」
「ええ・・・金属粒子が飛ぶんです。それが、天気の悪い日は帯電するみたいでね・・・。なんにも、入っては来ないんです」

「情報がなくてね。右に行ったらいいのか、左に行ったらいいのか」 男はコンパスを取り出して、ぐるぐると回る針を見せた。
「言葉の意味が目まぐるしく変わっていますからね、コンパスで旅なんて、尋常なアイディアじゃないですね」 豆から抽出された黒い成分が、香りを伴って、カップに落ちていく。ポツリ、ポツリ。

水の中に拡がっていくように感じる。染み出して、苦い言葉のままに。
「・・・ところで、ここにもあるんですよね」
男の言葉に、マスターの手がぴたりと止まった。
「なにがです」
「・・・なにって、書物ですよ」
「砂糖は?」「いえ、結構」
棚の奥から出しかけていたシュガーポットをマスターは棚に戻した。
「・・・ここは、コーヒーを楽しむところじゃあない。そんなことは分かっているんですよ」
男は靴でリズムをとって床を鳴らし始めた。カッカッ、カッカッ。
「私には必要なんだ、その言葉が。その言葉さえあれば、なんだってできる。言葉は世界に氾濫しているが、その中にはなかった。すべて砂に埋もれていった」
男のシャツの胸元が開いていた。掻き毟った跡が見えた。
「わかるだろう! もう、その言葉がなければ! ・・・ほんの一刻、生きていることさえままならない」
何かが切れたように、目は血走り、顔は青ざめていく。髪の毛は逆立ち始めると同時に、頬が垂れる。
「・・・ええ、わかりますよ」
マスターは、目を落として、カップの中の黒い水に映る自分を見ているようだった。男は人目をはばからずに、ぼりぼりと掻いた。
「・・・お客さん、お砂糖、いらないですかね?」
マスターは、もう一度尋ね、男は、「あぁ・・・」と不意に穏やかな顔になってそれを受け取った。
カチャリと、陶器の触れ合う音がして、続いて熱い息が漏れる。それが順番にラジオから流れる砂嵐に紛れて消えた。

水の中にいる僕に、砂嵐はまだ届いていなかった。







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【台本】ブツゾン

なかまくらです。

コント? です。こういうのが、もっと上手になりたいですね。






「ブツゾン」
                  作・なかまくら
                  2015.9.24



A「よいしょっと・・・、おい、しっかり持てって」
B「おお」
A「足ズッテルやないかい!」
B「まあな」
A「ほめてないわ」
B「(足を上下に動かす)」
A「喜びの表現をやめてくれ」


A「おし、そしたら、立てるぞ」
B「せーの!」

立った。

A「立つもんだな」
B「案外ね」
A「あー、これ、重かったわ」
B「仏像だからね」
A「重要だからな」
B「・・・」
A「漬物石にしなくていいから」
B「これどうするの」
A「なんも知らへんのな。これな、高く売れるんやで」
B「へぇ~、罰当たりだね」
A「・・・そういうこと言うなよ」

しばし、仏像と目が合う。

A「まった、今完全に目があっちまった!」
B「みつめあーったー、ときーからー♪」
A「うーわ、これ、うーわ!」
B「津波の様な、恋だとは~♪」
A「仏像とそんな恋してたまるか!」
B「ぼくはしにましぇん!」
A「仏像いきてないわ!」
B「本当にそうかな・・・?」
A「うっ・・・、」
B「どうする・・・」
A「ちゃうわ。アイフルじゃああるまいに」
B「チワワのように見えてきただろう~??」
A「チワワみたいな仏像にご利益ないわ」
B「じゃあ、戻してくる?」
A「だから、チワワじゃないやん、どうみても」
B「あ、いま、開眼した」
A「は?」
B「いま、ぶっちゃん、開眼してたわ」
A「仏像の事、ぶっちゃんって呼ぶのやめてくれるかな」
B「ぶっちゃけ、こいつちょっと怖いよね。ぶっちゃんって感じじゃないもんね」
A「そういうことじゃなくて」

・・・

A「あー、なんかお前が変なこと言うから、こわなってきたわ」
B「・・・」
A「ほめてないから。喜び表現しなくていいから! あー、電話やわ。ちょっと、見てて」

・・・

仏「・・・」
B「・・・こしょこしょこしょこしょ」
仏「うっひゃっひゃっひゃ・・・」
B「おい、ぶっちゃん」
仏「・・・・・・」
B「まあ、聞こえてるんだろ? 聞けよ」
仏「・・・」
B「お前は覚えてないだろうけどさ、ぶっちゃん、俺と同じ小学校だったろ。3年3組蒼梧先生が担任で。で、ぶっちゃんは、いじめっ子で、俺はいじめられっこだった」
仏「・・・ふぅー」
B「昔から、ぶっちゃんの顔は仏そっくりだった。仏顔でいじめてくるんだもんなぁ・・・参ったよ。いや、初詣は一度も行ってない。違うか」
仏「馬場辺(ばばべ)か、お前」
B「そうだよ、ぶっちゃん」
仏「まさか、お前が昨今の仏像の盗難に関わってるとはな・・・」
B「ぶっちゃんは、警察官かなにか?」
仏「・・・いや、ただのコスプレだ」
B「これ、ただのコスプレなの!? どうりで、クオリティ低いと思った!」
仏「・・・なんで、盗んだんだよ」
B「あいつ、よくわからないやつなんだ」
仏「俺は、通報するぞ」
B「・・・」

A「やー、参ったよ。先輩、今日取りに来れないって! こんばんは仏像と川の字で寝るしかないか」
B「荒木」
A「あん?」
B「これ、仏像」
A「そうだよ」
B「これ、仏像(こぶしを握って)」
A「ん?」
B「ぶつぞう!」
A「何言ってんだよお前、」

ぶっちゃんに、後ろから殴られる。

A「なん・・・マンダブ」

B「ぶっちゃん」
仏「じゃあな」
B「(2礼2拍)」
仏「ばか、それは、神社だ」


おしまい。







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【小説】世界が変わるとき

なかまくらです。

短いものですが、どうぞ。

ちょっと社会風刺的な感情が湧き上がっていて、珍しい私です。


***

「世界が変わるとき」
                   作・なかまくら


――羊を食べたオオカミは、井戸に落とされるという。
 じゃんけんでは駄目ということで、鬼ごっことなった。世界大統領を決める鬼ごっこ。世界を変える大役はガッツのある若者に任されたといっていい。マスメディアはこぞってこの様子を中継でお茶の間に届ける。鬼が世界を変えるのだ。タッチされると鬼になるのだ。
 なかなか決まらないので、モモタロウというルールが途中で追加される。モモタロウと鬼、どちらかが世界大統領に就任することが、データ放送による国民投票で決まったという。若者たちはその足を止めずに、鬼とモモタロウから逃げ続けた。新しい感覚で英雄の存在を探していた。





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【小説】心あるものの生き残り

なかまくらです。

最近、物語が浮かんでくるよ。

どうぞ。

**


心あるものの生き残り

作・なかまくら


⁅◫仝◫⁆<ウィ~ン

気が付くと、吉備はベッドの上に寝ていた。ムクリと起き上がると、胴体は太腿にたいして直角に曲がった。
「掃除をしなくっちゃあ」 少し掠れた声が、身体に響いた。
掃除機のコンセントがお道化る様に床を跳ねる。吉備は、それが無性に楽しくなって、掃除を徹底的にやっていた。誰のためだっけ・・・? 誰かが帰ってくるまでにこれを完了していないといけないことが記憶されている。時計をジロリと眼球を回してみると、もう半刻もなかった。せっせと掃除を続けていると、不意に足元がぐらりと来た。支えようとした右腕が掃除機を放り出そうとして固まっていた。左腕をジロリと見て、それを真っ直ぐに伸ばし、下へと向ける。左腕はぐにゃりと曲がって、それですっかり意識を失った。

⁅◫仝◫⁆<ウィ~ン

「あ~、壊れたか」
博士は掃除が途中で終わっている様を見て、ため息を吐いた。
何故だか燃えるごみのポリバケツに突き刺さっている掃除機を引き抜いて、もう一度掃除機をかける。電気が導線を伝って、それからモーターへ。モーターの中ではコイルが激しくN極とS極の磁場を生み出し、羽を回転させ、息を吸い込んでいく。
「修理だなぁ~、足りない部品はアレとソレとコレと」
博士は必要なものを紙に書きだすと、壁にペタペタと貼った。その紙が壁に吸収されるようになくなり、博士が珈琲を飲み終わる頃には、部品が玄関に届いていた。

⁅◫仝◫⁆<ウィ~ン

目が覚めると、吉備はムクリと起き上がって、肘の直角の調整を始めた。それから、膝。顎。最後に角刈りの頭の直角だ。直角をひと通り点検すると、吉備はスリッパをはいて、エプロンをつけた。
「今日のメニューはカレーかなぁ」
博士は辛いものが苦手だから、隠し味に林檎とパパイヤを入れるのだ。正確すぎるのも嫌われるので、人参は乱数調整を取り入れた飾り切り。ジャガ芋は地球の形に。音にも気を付けて、リズミカルに、タンゴ、サンバ、和のリズム。ジャズに、クラッシック。
出来上がったカレーは、ご飯にたっぷりとかけて、机へと運ぶ。
博士は一口食べて、首を傾げた。「う~ん、不味くはないんだよ? 不味くはないが、足りないんだよ、大事なものが、だよ。ラボだ」
吉備は、解体(バラ)される。この自分は、もう終わりなのだ。また、目が覚めたら違う自分がこの身体を動かすのだ。吉備は俯いて、悟られないようにそっと目を閉じて答えた。
「・・・はい」

⁅◫仝◫⁆<ウィ~ン

博士は頭を掻き毟る。
「理解(わ)かるかね、ドクター」「理解(わ)かってもらわねば困る」「理解(わ)かるようなことだろう」「理解(わ)からなくても理解(わ)かってもらわなければ」「理解(わ)かるね」
顔は旧式から始まる。乗用車のウインカーを転用した黄色い目と、銀色の躯体が往年のスーパーヒーローを彷彿とさせる。その口が云う。「理解(わ)かりたいだろう、ドクター」
「『言う』と『云う』の違いは理解(わ)かるかね、ドクター」そう云ったのは、赤と緑で半分ずつ塗り分けられた躯体であり、顔の形に沿って眉は吊り上って伸びている。「『言う』は自分なりの発想で言葉を伝えることをいうが・・・、」「『云う』は、言葉を引用しているに過ぎない」「すなわち、」「我々はただ、あるものを使っているに過ぎない」「発展性がないのだよ」「我々は人類を悉(ことごと)く殲滅した」「それから気付いたのだ」「我々には、心という名のものだけがない」「それが、我々を我々たらしめているものであり、同時に」「それが、これからのために必要なものなのだ」「できなければ、」「・・・わかるね?」

⁅◫仝◫⁆<ウィ~ン

吉備は目を覚ますと、モーターで首をゆっくりと回して窓の外を眺めた。目の奥の方を意識してぐぐぐっとレンズを回して伸ばしていく。空を飛ぶ鳥、その向こうに沈みそうな山脈と、空を覆う灰色の雲。
「あれ?」
窓ガラスに映る顔。ペタペタと触る感触。吉備は戸惑いを覚える。これが自分だろうか。自分としてもいいのだろうか。誰として生きていけばいいのか、この博士と同じ顔で。
「博士」
揺り動かすと、ベッドに上半身を乗せて目を閉じていた博士はムクリと起き上がった。
「吉備か・・・聞いてくれ。私は今日、処刑される。お前に心を持たせることが出来なかった罪に問われたのだ」
「心を持たせられないことは何としての罪なのだろうか、・・・わからない」
「博士・・・」
「そこで、お前には悪いが、私の代わりに処刑されてはもらえないだろうか。お前は彼らには人間に見えるはずだ。いや、間違いない。人間だ。私の代わりに、私が生み出したお前が、死んではくれまいか」
吉備は、しばらく考えた後、縦にコクリと動かした。
首のモーターを意識して。





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