なかまくらです。
たまにはらしくないものを書いてみました。
挑戦的姿勢って、大事だと思うんですよね。
なお、実体験ではありません。フィクションです(笑
それではどうぞ。
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死体
2016.7.2
作・なかまくら
玄関のドアを開けると、誰もいないはずの暗闇に鈍い光がふたつ灯っていた。
一瞬の空白ののち、さっと照明のスイッチに手を触れると灰色の後ろ姿が奥の部屋へと走っていった。
鼠だ。我が家に鼠が入り込んでいたのだ。一体どこから、何のために。
何を齧られたのだろうか。お気に入りの洋服ダンスと踊っていたとは考えにくいが、苦労して手にいれた木彫りのキリンが齧られていては矢も楯もたまらない。さっそく確認したいところであったが、奥の部屋に入っていったあの毛のないむき出しの尻尾の生々しさにただならぬ嫌悪感を覚えて足が進まなかった。
ヒトがいる間は出てこないと、高を括って鼠トリを仕掛けて眠りにつくこともできないほどだ。それほどの嫌悪感が、この身を支配していた。
しかし、かつて幼かった頃、鼠トリにかかった哀れな鼠を眺めたことが思い出される。トリモチに四肢の自由を奪われ、ヒトが安らかな眠りを享受している一晩中を生き延びるために必死にもがいたのであろう鼠は衰弱し、小さな腹をヒクヒクとさせ、浅い呼吸を繰り返していた。
この鼠が何をしたのだろうか。はるか昔、米倉に鼠返しを取り付けた時代ならいざ知らず、ましてや、農家の人間でもないのだ。齧られたかもしれないニンジンはスーパーの見切り品であり、その一本をくれてやっても命を脅かされるわけではないのだ。
そう思うと、なんともしがたい不思議な気分が沸き起こり、玄関のすぐ近くにあるキッチンへと足が向いていた。
冷蔵庫から、賞味期限が数日だけ切れたソーセージを取り出すと、薄く輪切りに切り分ける。それから、フライパンに一枚一枚並べて置いて、少し火を入れる。香ばしい肉の匂いが仕事終わりの疲労した胃袋を痺れさせる。そのソーセージを奥の部屋から玄関のドアの外側の世界へと一定間隔で奇麗に並べた。
照明を消し、静かに外へと出る。
ドアから少し離れ、その時を待つ。すると、突然、ドタドタと争うような音が聞こえ、甲高い断末魔のような悲鳴が聞こえた。
急いで玄関まで戻るが、音はなく、こちらを窺(うかが)う鈍い光もなかった。
恐る恐る照明を点けると、玄関先に2体の鼠が転がっていて、
僕は思わず瞼を覆った。