なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)
「小悪魔」
作・なかまくら
2016.2.23
藁葺き屋根の小さな小屋を知らない悪魔はいない。
「大魔王様、大魔王様、どうしたら、ボクも大悪魔になれるのでしょうか」
小悪魔たちが、自らの果たした罪を懺悔し、大悪魔に引き立ててもらうため、日夜、通っているのだ。
今日やってきたその小悪魔も、そのうちの一匹であった。黒い尾の先端を尖らせて座り、三叉路の槍を椅子の脇の壁に立てかけている。手は開いた両足の間にぺたりとついている。
「うむ、小悪魔よ。君は実に勉強熱心で、仲間からの信頼も厚い。けれども、大悪魔になるには、それだけでは、決して届かないのだよ」
*
“茅葺き屋根の小さな小屋”といえば、有名な話だ。
伝説の殺し屋がかつて暮らしていたといわれているその小屋の床の一部は跳ね上げ式になっているという。その下に、なにがあるかは想像に難くない。
「おいおい、ひでぇ雨だな」
「小屋があって助かったよ。俊、よくお前知ってたな」
「のぼる途中で、見たからな」
おっと、誰かが来たようだ。
「まったくまったく、ひでぇ雨男だよ」
「俺か!?」
細身の男が登山靴を逆さに振ると、ドバドバと水が零れた。
「思い出してもみろ、中2の遠足」
太身の男が髪を持っていたタオルでごしごしと拭いている。
「雨だったな」
「高1の野外研修」
「・・・雨だった」
「な、ところが、お前がいなくなってから、そういうときにぱったりと雨が降らなくなった」
「転校したんだ」
「知ってるよ。でも、急だったよな・・・急、といえば、突然のことが起こるクラスだったな・・・中2の遠足の途中で急にいなくなったよな、山田くん。先生が探して・・・でも、親から電話があって、急用で引っ越したって。遠足の最中にだぜ? それに、野外研修の時もおかしかった。熊に襲われて、鈴道スズミ・・・死んだよな」
「そうだった」
「なにかがおかしかった・・・よな」
「ああ、なにかがおかしかった」
「おかしかったんだ・・・うまくいっているようで、なにひとつ、うまくなんていっていなかったんだよ。知ってたか?」
「あのままじゃあ、大きくはなれなかったんだ・・・」
細身の男が、気味の良い笑みを浮かべた。
「そうさ、苗を大きく育てるために、必要なことだったのさ!」
太身の男もまた、ふぅーんという気取った笑いを浮かべて見せた。
「・・・やっぱりそういうことかよ」
*
「大悪魔様・・・! これでは死んでしまいます!」
小悪魔は思わず叫んでいた。そして、突き出した槍の先端は
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