1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】時間がある

思いつきの40分クッキング。

通勤電車の中で書き上げました。


思いつきで書くのも大事だと思う今日この頃です。


++++++++++++++++++++

「時間がある」

                       作・なかまくら

昨日採集したアリの毛ほども働き者ではない時計の針とにらめっこをしていた。いわゆる秒針のないデザインの腕時計であった。

4月に16才になったばかりの私には希望に満ち溢れた毎日が必然的に待ち受けているとばかり思っていたけれども、実際のところ一ヶ月もすればバラ色の横断幕は次々とはがれ落ちて、やってもできない勉強と、目立とうと声を張り上げるクラスメイトに倦んだ視線を送るばかりになっていた。


そうそう、暇が興じると人間どうやらどうでもいい妄想をするようになる。水をたたえたプールの方を眺める。陸地のなくなった世界で70才オーバーキル(越えるか越えないか)のジジイは眼帯を斜めに掛ける。俺は海賊になってやる!拳を固く握り込む。ちょ、ちょっとお義父さん。ジャスト32才にしか見えない且つ公務員にしか見えない男がもちろんメガネを掛けながら、コップを膝立ちで持っている。握りしめた拳から水がぽたぽたとコップに注がれていた。ほら、お義父さん。こんなに冷たい水が。ジジイはそれをごくごくと飲み干す。うむ。

と、時計を見ると、進んでいなかった。

あれ?

と思わず立ち上がるものの、というかいつの間にか先生が張り上げる声もなかった。というか、止まっていた。いや、若干・・・? いや、いま止まった。完全に止まってしまっていた。アリの毛ほども動いているかも分からない。

私は気がつくと飛び出していた。
自由を手に入れてしまったのだ。
毎日通ってるくせに勇気がなくて一度も入らなかった可愛い女の子向けのファッション雑貨のお店。止まっている警備員の間をすり抜けて、手に取る。使ってみる。着飾ってみる。本屋に行くと、自動ドアが止まっていたから、隙間に手を突っ込んで強引にこじ開ける、ガニマタ。

おっと。

ドアが動いている間、時間も少しだけゴゴゴ・・・と音を立てるみたいに進んだ。
少し空いた隙間に体をねじ込んで店内へと入った。読みたかったマンガを1巻から残らず読んで、ゲームセンターでプリクラも撮って。音楽も全部聴きながら、いろんな楽器を試し弾きする。自動車は事故ったら怖かったから乗るのはやめといた。それから、ようやく時計をみると、時間が10秒ほど進んでいた。

通りの激しい国道の直線をダッシュしてみて、息が切れる。頭を冷やそうと飛び込んだプールの水は凍ったように動かなかった。激痛。水のない世界で、ジジイは眼帯をつけて言う。俺はこれまでいろんな悪さをしてきたが、どうやら最後まで海賊にはなれないようだ。山があれば山賊になり、正義が蔓延れば義賊になった。ところがどうだ。最早海賊になるだけの時間がないという。せいぜい、あとはスルメ烏賊(いか)がいいとこだ。絞っても、もう冷たい水すら出てきませんものね。ジャスト32才公務員の息子。

じゃあ、時間があったらどうします? やり直すことができたら。もう一度。

ジジイは、烏賊墨のような黒い煙を吐き出して萎み始めながら笑う。それはたいそう幸せなことだろうなぁ。


私の視界が思わずぼやける。

ぼやけた視界の先に、一人の男が立っていた。さっきまでは確実にいなかった男だ。あなたも妄想なのか。

「いいえ、私は時間を管理する機関の人間でして。あなたが偶然にも不当に得てしまった時間を返してもらいに参りました」

男は言って、時計の針をぐるぐると回す。

「お気の毒ですが、これだけの時間を」

よく分からない額面であったが、何か言おうとする前にまぶしい光に包まれる。ああ、夏の匂い。

気がつくと、目の前から横断幕は取り払われていた。






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【小説】贈与論


なかまくらです~。

新作書きました。よろしくです。


「贈与論」
          作・なかまくら

 

自分が年をとって死んでいく人間だと分かったのは15を数えた頃だった。

 

祖父はやはり、年をとって死んでいく人間で、これまで病気一つしなかったというのが嘘のように急に弱ってそのまま死んだ。延命治療はしなかった。老衰によるものだった。

 

葬式で涙する両親は若々しかった。見た目は20代後半から30代といったところで、その実、60を越えていた。控えめな花が開こうとしているような母親のその相貌、そして精悍な顔立ちで涙をこらえ表情を堅くする父親……を気味悪く思ったのは今となっては仕方ないことだと思う。

 

15才になったとき、両親は時間で死なない人間なのだと知った。

 

自分の感情をうまく操れない年頃であったから、迷わず家を出た。社会制度はここ100年ほどで急速に変化してきた実態に対応しつつあり、そのような人間たちを受け入れる集合住宅が市営されていた。

 

「よく来ましたねぇ。大変だったでしょう」

入居のための面接が午後には開かれていた。面接官の男、そのスーツは喪服のように黒かった。

「いえね、この部署で長く担当しているとそこらじゅうでぽっくり逝っちゃうんですよ。アハハハ」

30代半ばに見えるその男は髪を短髪に刈り上げ、笑ってみせた。その笑顔は、男が時間で死なない男であることを示していることが次第に分かるようになっていた。

面接は形だけで終わり、8:2である人口比率についての話題を聞かされ。タイマーが鳴って時間が来たことを知らせると唐突に終わった。

 

 

仲の良い間柄であったイタモトとはそのころよく遊んでいたから15を過ぎても時々会っていた。イタモトは時間で死なない女であった。

 

 

15になると両親に連れられて、ある病院を訪れることになる。

病院には同じように15才の少年少女たちで溢れかえっており、大人たちの年齢は様々であった。病院では一人ずつ部屋に呼ばれる。順番が近づくと鼓動が大きくなっていく。これ以上たたけないほど強くバチがたたく。痛くはない体が破裂しそうに膨らむ。順番がやってくる。すると思えば高揚にも似ていた不安は、不思議とぴたりやんだ。

 

***

部屋は角を隠した形をしており、壁の色はグレー。部屋の中央の少し高くなった所に座布団が敷かれていた。

 

その上にあぐらをかいている生物を見て、思わず悲鳴をあげた。

 

それは赤子の姿をしていた。その両目は薄く閉じられており肌はやや赤みを帯びている。その一見柔らかな外見のその生物は、ぴっ、と背筋を伸ばし座布団の上に座していた。

 

そして、3頭身の図体の顔の1/6を閉めようかという右目をぱちりと開くと、「汝に渡したものを返してもらおう」と言って目をゆっくりと閉じた。

 

 

途端に全身から力が抜け落ちて、思わず倒れ込みそうになる。担当者が駆け寄ってくる。たまに倒れない人間がいるそうだ。

 

***

 

「油断大敵」とはよく言ったもので、油ものを最早食べられない日が近づいてくるかと思うと、悲しみが溢れてくる。

 

年をとって死ぬ人間は、寿命がその人の命の門を叩きに訪れるまで死なない。外から栄養を摂取する必要がなくなり、臓器は退化していってしまう。残念でならないことに。

プレート石の上でジュウジュウと音を立てる重ね牛の肉をほおばりながら隣にいるイタモトと視線を交わす。

 

「あ、見て見て。」ふいにイタモトは右手を掴んでくると、持ち上げてわざわざそれを見せる。

さっき重ね牛の分厚い肉を切ろうと四苦八苦したときに誤って包丁で切り落としそうになったところだ。指の真ん中あたりまで刃が通っていて、ピンク色の肉が見えていた部分が跡形もなく消えつつあった。切ったときは麻痺が働いてジンジンしていた。しかし今はそれすらもなく。よくあるアニメとかのシュワーッと蒸気みたいなものが傷口から生まれて皮膚が再生されていくみたいなこともなく、ただただ元あるべき状態に戻った、という印象であった。そう言う人間に変化してきたということだ。

 

「へぇ、もう治ってきたんだ。キモっ!」

「なんだよ、それ」冗談みたいな軽さに、救われる。

 

ヒトは大きな分岐点を迎えていた。

怪我の治りも早く、あまり何も摂取せずとも天寿を全うできてしまうサニール。

対照的に、病気にかかり怪我であっさり死んでしまうが30代の途中あたりで成長が止まり、何もなければ長い時間を生き続けられるアルケミス。

自分がどちらの型(タイプ)の人間なのかは、成人の儀式として用意された赤子に判定されていた。今のところその判定のみが唯一の手段であり、判定されない子供たちは不安定性が増大し、死に至ると政府からは説明があった。

 

どちらの種がより優れたヒトの種であるのか、という議論は静かに始まった。実際のところ、戦争になりかけたと、いう。お互いに対する過干渉を避けることで今の社会に落ち着いているが、何か小さなきっかけでもあれば、世界の緊張はまた大きく高まるであろうことは容易に想像ができた。

 

赤子に年をとって死ぬ人間なのだと言われた瞬間から覚悟した。イタモトとは一緒にいられないのだと。彼女は無病息災の中ではいつまでも若いままの命を繋げることができるのだ。そう、今テレビの向こうで80才のパレードをしている若さ溢れる皇太子のように・・・撃たれても・・・。

 

撃たれても・・・?

 

画面の向こうでぐったりと倒れる。音がなくなったかのように静まりかえる。

 

とんとん、

 

わぁっ! と、声があがり、悲鳴とも歓声ともあるいはただ興奮した肉体から追い出された空気の震えとも取れる騒然さをマイクが拾い出す。カメラの前に観客が次々立ち上がり、画面から皇太子の安否は伺いしれない。

 

「え、何これ」イタモトはよく分からないという表情でテレビを指さしていた。残りの指で器用にフォークで肉を刺していた。

 

とんとん、ノックの音が再びあって、ようやくそれに気付いた。

「はい、どちら様で」

「あ、」

 

待って。と言うときには、イタモトがドアを開けていた。

聞こえてくる声はおじさんのものだった。

 

「おい、見たか! アルケミスの時代は終わる!! 戦争だよ。貧困と飢餓が世界を包み込むんだ! 安寧な世界の中でしか生きられないアルケミスたちの時代は終わるんだ!」

 

おじさんに吹き飛ばされたイタモトはぐったりと廊下の壁に横たわっている。おじさんは叫んでいる。集合住宅の別の階からも雄叫びが聞こえる。誰が知っていたことなんだろう。誰がやったことなんだろう。そういうあれこれは全て些細なことになってしまい、ただ、サニールがアルケミスを殺したという事実に集約していく。

 

イタモトを担いで僕は、この世界から抜け出そうと思った。

 

***

 

オートバイをとばした僕は、2日かかって片田舎の空き家の前にいた。管理を担当していた町役場の人は、「いやあ、若いっていいですねぇ」と、大したお金もないのに笑って貸してくれた。

 

空き家は所々床が抜けていて、僕らはその上に貰ってきた木材をとりあえず打ち付けた。雨漏りする箇所は食器の音楽を楽しんだ。

食料は空き家と一緒に借りた農地で自給自足を目指した。

 

新しい未来を拓こうと必死だった。

外からはすぐにでも紛争の足音がひたひたと聞こえてきそうだった。

戦争になればどちらに軍配が上がるかは明らかだった。殺しても死なないが寿命になれば死ぬサニールと、若さを保つが簡単に死んでしまうアルケミス。ゲリラ戦を展開するサニールが豊富な軍備を蓄えていたアルケミスを一人、また一人と駆逐していったそうだ。

 

 

イタモトは前よりも無口になった。

 

ある日、つけっぱなしだったコンピュータの画面をそっと覗くとこんな文字が踊っていた。

 

「サニールの殺害方法に関するレポート」

 

イタモトは生ゴミを処理する穴を畑に掘っていて、こちらに気付く様子はない。

そこにはこう書いてあった。「abstract: 検体No.005は、完全拘束の後、焼却炉での100時間の燃焼を行ったが死亡には至らなかった。ある時点で神経が損傷し、痛覚を感じなくなることで、精神を守るようだ。この実験はしかし、一定の成果を上げた。検体No.005は回復まで丸1日を要したのである。この結果はふたつの要因によって起こっていることが今回の実験から分かった。第一に、サニールは活動において日光からなんらかのエネルギーを受信している可能性が高いことが分かった。第二に、サニールは通常レベルの生命活動に酸素を必要とすることが分かった。低酸素下では死に至らないまでもその運動能力は著しく低下する。そこで、サニールの活動を停止させる方法は、・・・生、き、埋、め ・・・」

 

ザク、ザク

 

シャベルが土を掘り返す音が聞こえている。イタモトが生ゴミを埋める穴を、

 

掘っている音だった。






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【小説】三途の川崎さん

なかまくらです。

たまには小説でもいかがですか? ゴールデンウィークなので、ちょっと物書きでいきぬき。




三途の川崎さん



2013.5.5

川崎さんという人が近所には必ず住んでいる。
気付いていない人も多いが、これは紛れもない事実である。
川崎さんと言う名前を名乗っていない場合も多いが、市の住民登録を見られる機会がある立場上、私はそのことを知っていた。
ところが、一度だけ川崎さんのいない土地に移り住んだことがあった。その時の話を少ししようと思う。

その土地は、至って平凡な土地で特に何か特別な感じがする場所ではなかった。まあ、私はシックスセンスとでも言うべき感覚は持ち合わせていなくて、お化け屋敷を純粋に怖いと思ったり、こっくりさんやトイレの花子さんもなんかやだな、と思うようなそういう一般的な霊的忌避をする程度の人間であった。私が移り住んだのはその閑静な住宅街にある一軒家であった。丘の上にあるその住宅街はひとつの不動産会社がすべての物件を管理しており、ひとつの街の様な形態をとっていて、道は赤いタータンのようなものが貼られ綺麗に舗装されていて。……あとから思い返してみれば、血液が流れだしているようであった。
私の借りた一軒家は、一軒家とはいっても小さな建物で、扉を開けると一階は一部屋しかない。部屋の隅には家の外に飛び出すようにトイレとバスルームがそれぞれ作られており、外から見ると家の形を正方形から少し変化のあるものにしていた。二階はロフトのようになっており、ベッドがそこに置かれていた。

夜になると、虫のなく声が湧き上がるように聞こえるようになった。その鳴き声はうるさく、一晩中静まることはなく、私はすっかり辟易してしまった。管理会社に連絡をすると、「打つ手がない」とのことであった。駆除をしようにも肝心の虫たちがどこにいるのか分からず、夜になるとどこからともなくなき出すそうだ。お詫びに、と目覚まし機能のあるヘッドホンが届けられた。なかなかに洒落た贈り物に私はもうしばらくその地に住むことにした。それからしばらくは何事もない日々が続き、会社の決算が近づいていたこともあり私はすっかり虫のなき声のことなど忘れてしまっていた。そんなある日のことだった。
私が道を歩いていると道端のある家の壁に吸い寄せられるようにぴたりと吸いつけられてしまう。すると胃の辺りを掴まれたような感覚に続いて、よじれる様な吸い込みが広がり、身体が壁に飲み込まれていった。その時、太陽が真っ黒に輝いており、よく見れば空は真っ白な暗闇だった。それでなんとなくそれが夢だと気付いた。じっとおとなしくギリギリと内臓を掴みとり、吸い込むような気持ち悪い感覚に耐えていると次第に視界の境界がぼやけ、いつもの天井が広がっていた。シャツをめくってさすってみても、何があるわけでもなかったが、それからしばらく、胃腸の調子がおかしかった。

川崎さんに会ったのはちょうどその頃であった。川崎さんは陽気な雰囲気を持つ男性で、旅行でこの辺りまで来たが、一日どこか泊まれるところはないかと市役所に来ていた。当てはなく、私の家に泊まってもらうことになった川崎さんは自転車旅を続けているその先々での写真を見せてくれた。私はお礼にと、一升瓶を開けお酒を酌み交わした。私はいつの間にか眠ってしまったようであった。次の日、目が覚めると、川崎さんが真っ青な顔で震えていた。事情を聴こうとすると、川崎さんはとにかくここから離れたいと一点張りであり、応答が出来なかった。
ただ事ではないと感じた私は、川崎さんを車の助手席に乗せてインターチェンジから高速へと飛び乗った。カタカタとハンドルを持つ手は震えていた。予感としてなんとなくあったものが私にもはっきりとした輪郭として描きだされつつあった。違和感を感じたのは私だけではなかったのだ。そして、ようやく口に出したのは次のような問いであった。
「一番近くにある川崎さんのお宅はどこですか?」
それからの川崎さんの話は、私をその家から遠ざけるには十分すぎるものであった。家の始末は業者に任せて、二度と戻ることはしなかった。…連れて行きたくはなかったから。

私は今、とある街で市長をしているが、川崎さんの配置には気を付けている。
そして少子化と過疎の進行に気を使っている。近い将来、川崎さんを巡る争いが各地で起こるだろう。その日に備えていかねばならない。

あとがき
もうすぐ夏ですね。あなたの近所に川崎さんは住んでいますか?





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【小説】フクロウの素養【散文】

えー、習作みたいなものです。

面白い短編小説があったので、→「考えられる限り、最悪の妨害」 作・飛火疲さん

そこで、派生作品みたいなのを勝手に・・・。

はふ~。


 

鏡の前で彼女は首をかしげた。
 
その姿が愛くるしいことを彼女には理解できなかったが、それは愛くるしい動作ということを理解していた。
 
確かめなくては!
 
そこで彼女は、出勤することにした。
 
信号には二種類の人間がいる。進む人間と止まる人間だ。
 
フクロウにも二種類いるらしい。可愛いフクロウと、それから・・・
 
青になっていたから、彼女は進みだすフクロウになっていた。
 
「はろーはろー」「ほろーほろー」
 
彼女は挨拶をして、学校に現れる。
 
出席簿を脇に抱えて、彼女は扉をがらりと脇にずらす。
 
騒いでいた生徒たちがこちらを見ている。可愛さに動作が止まるというのは本当らしい、と彼女は思った。
 
それから、首をかしげて見せた。
 
生徒たちも、それに倣(なら)った。
 
 
 
 
++コメント++
おそろしい・・・。
フクロウがそんな狡猾な生き物だったなんて!
ぶっとんでて、楽しかったです=~=! 思わず、謎の散文を書いちゃうくらいに!





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【小説】つだまさき君のつまさきだちの生活

実は少し前に書いたものなのですけれど、

諸事情がありまして、発表が遅れました。

なにぶん、タイトルのインパクトに負けている気はしますが、

こういうのって、書き上げるのが本当に難しい^^笑


つだまさき君のつまさきだちの生活
なかまくら
1. まさき君、大地に立つ!

まさき君の目はカッと見開かれた。
ちゅんちゅん、銃弾のような鋭い小鳥のさえずりが聞こえる。
まさき君はベッドの中でもぞもぞとストレッチを始める。時間が静かに流れ、ついにまさき君は床に降り立つ。温暖化によって十分に温められているはずの床が、まさき君の足を爪先立ちにする・・・! わけではなかった。
まさき君は、おもむろにつま先を立てたままテーピングを始める。そして、足をまっすぐのまま固定すると、靴下の足の甲にあたる部分に慣れた手つきでシリコン製の「努力の迷子1号」と印字されかけた足の甲のパーツを装着する。

――これによって、なんとまさき君の身長は約20センチメートルアップするのだ!

それはすっぽんが月に進化するような奇跡! おお、大いなる大御神よ! 私の身長を伸長し給へ、ソーメン。


2. ライバル登場! 彼の名は、せつさたくま君!

学校への登校の火ブタちゃんがブヒヒヒと斬っておとされる!
口の中に残る朝ごはんのベーコンエッグの余韻を楽しみながら歩き続ける。学校は丘の上にあり、周囲は森になっている。子どもの頃はクワガタやカブトをよく追いかけたものだった。だがしかし!
隣り合う木々からの刺客、根っこがその丸いキバを襲いかかってくる! そう、その姿は復讐者!
「よくも、森を荒らしたなぁ・・・」襲いかかる根っこ、おちてこなくなった落ち葉! むき出しの枝! 枝、枝、根っこ! 根っこ! 枝、根っこ! おちてこなくなった落ち葉!
こけてしまえば、情けない声を出すことは必至である。「あ、アヴェンジャッ!」必死である。

だがしかし、それも過去の話。まさき君は、根っこをはるかに凌駕する。つま先立ちによって得た長身を持て余すことなく発揮しちゃうその時、
「あ、アヴェンジャッ!」後ろで声がして、優雅に振り返るとそこに、設早(せつさ)たくま君が根っこん坊によって、無様に切り捨てられていた。・・・御免!


3. その可憐な後ろすがた・・・そう、彼女は・・・! つだまち早希(さき)ちゃん。

設早たくま君。彼は見上げた男である。そう、彼の背は高い。ついでにいうと、頭もいい。頭脳派である。しかも、器がでかい。なんという男だ。
まさき君の突然の成長期の謎を見事に見破ったばかりか、「そんな君と友達になりたい!」と、お近づきのしるしに背が伸びるという曰クツキの岩のように固く数珠つなぎになっているマンモス味の飴をくれたのだった。飴の味はベーコンエッグに似ていて悪くなかったが、口臭を気にするお年頃。こんな口臭じゃ夢見る少女じゃいられないわけだ。男だけど。

そう、恋!
あの子のことが、気になるの!

あの子は、そう、つだまち早季ちゃん! 早季ちゃんに嫌われてしまうわけにはいかないのだ。
幸い、早季ちゃんはまだ学校に到着していないようだった。
まさき君は歯ブラシを鋭いストロークで横スクロールした。


4. 先生は登壇する! 先生のことは、かとだ ちか先生と呼ぶことになっている。

早季ちゃんは大きめのストライドで教室に現れると、「おはよー」と、元気な声で友達にあいさつをする。さらりとした髪がランドセルにかかって神になった。早季ちゃんの背は高い。まさき君がつま先立ちをしているのも、少しでも早季ちゃんと肩を並べて歩きたいという、願いの現れであったのだった! ああ、なんという恋心!
まさき君が座る机の前の席にランドセルを置くと、にこりと笑ってまさき君にも、おはよって、世界は一瞬でお花畑に包まれる。秘密組織の狂科学者が、立ちふさがる正義怪人のあまりの強さの前に迷子になった挙句、世界を花に埋没させることで花粉症を蔓延させてしまおうとしているかのごとく広がる花、フローラルハミング。屋根は一瞬にして取っ払われ、青空に浮かぶ焼きたてのパンの如くおいしそうな雲。
「ねぇ、」早季ちゃん。
「え、なに?」
「今日の3時間目のたいーく、やだなー。だって走るだけだからたいくつなんだもん。たくま君、どう思う?」
世界は最初の教室に戻る。な、なんということだ。声をかけられたのは、まさき君の隣の席のたくま君だったのだ! なんということだったのだ! この教室が内側からしか鍵のかからない密室だったとしたら、たくま君は一瞬のうちに「お、おれは人殺しと一緒にいるなんてご、ごめんだからなっ!」と言い捨てて、となりの附間好(ふまず)先生のクラスでズタ襤褸の雑巾のごとき密室殺人事件の被害者になっていることだろうに!

こいつ、捨て置けぬ・・・。まさき君はこぶしを机の下でわなわなと震わせ、3時間目を待つことになる。そう、決戦は3時間目の持久走の時間と決まっているのだ!

あっという間に3時間目が来ると、先生はロボットのごときスタスタ歩きで教室に顔を出す。
「運動場に集合だから! 遅れずに来るように!」
それだけ言って、踵(きびす)を返す先生キビシス!
その先生こそが、かとだちか先生。この学校が誇る、かかと立ちのスペシャリストである・・・と、まさき君とたくま君は密かに確信していた!


5. 火ブタちゃんは切って落とされて。

戦いの火ブタは切って落とされる!(「今日は出番が多くて」 豚ちゃん談) つま先立ち走を続けるふたりはところが、ほかの子どもたちとは一線を画す時速っぷりで、ビリ争いを席巻していた! その様子を固唾を飲んで見守らずにマイペースに走り続ける早季ちゃん。

その時だった! 二人の後ろから物凄い勢いで迫りくるかかと立ち怪人、ちか先生が颯爽と走り抜け、二人はその竜巻旋風にキリキリ舞いを踊り狂ってバランスを崩して倒れ伏せた。
先生は鮮やかにゴールをかっさらい、そして言った。

「まだあなた達には10年早いのよ。牛乳を飲みなさいっ!」

走り終えて腰に手を当ててごくごくと牛乳瓶を傾けるちか先生は長身で、

「あとね、背が高いばかりがいいことじゃないのよっ!」

大人の世界の奥深さをふたりに教えてくれる予定である。

その後のまさき君と早季ちゃんの人生に、めでたしのめがでたとかでなかったとか。

おしまい。

 

 

 

 

-コメント-
「石橋をたたいて渡っておきました」という人のもっているハンマーがあまりに大きかったから、渡るのを躊躇してしまうことって、よくありますよね。こんばんは。
使用したキーワード:迷子、狂科学者、密室、マンモス、味の飴、ロボット、おちて、こなくなった、時間、温暖化、リスト です。

 

 






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