1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】オードソックス

なかまくらです。

たまには小説。ワンアイディアの短いのです。



オードソックス

作・なかまくら

2014/01/19



「全自動でセックスをするAVを見たんだ」彼が作業をする傍ら、そんな話を繰り出した。

「全自動で!?」僕は思わずそちらを見る。

「そう。全自動なの。オートセックスなんちゅうの? そういうやつ」彼は作業をする手は止めずに話を続ける。

「どういう感じさ」僕も作業に戻る。

「うまく説明できないんだけど、見るとまさに、そういう感じなんだよ」彼は話したいように話す男であった。

「なんもその良さが伝わってこないんだ。でもすごく興味が湧くな。観てみたいものだよ」僕はくだらない話の踏切を見つけて、見切りをつけようとする。

「それが、どこで見つけたのか、いつ見つけたのか分からなくなってしまってしまって・・・」彼は語尾を何故か繰り返している。

「よほど大事に隠したわけだ。父ちゃん母ちゃん嫁さん息子、孫娘にも見つからないように」僕はくだらない冗談を飛ばすことにする。

「そういうことになるかな」彼は妙に神妙そうにそう言って、話を区切った。







「まずは典型的な色を決めていこうと思うんだ。」

―典型的な色ですか?

「そう。例えばほら、地面は土色。空は水色。海は青や緑や白。雲は灰色。」

―彩り豊かで、素敵な世界が出来そうですね。

「そうだよう。そういう世界を創ろうとしているんだから。」

―世界をおつくりになるんで?

「そうだとも。だからこうして歩き回っているんじゃないか」

―でも、飼育委員は創らなかったじゃないですか。

「この宇宙を創ってから100億年くらいがたったかな?」

―ええ、たった、百億年くらいがたちました。

「そろそろ、歩き方を覚えて動き回るというのもいい。どうだろうか。」

―あなたがそう言うならば。

「そうだよう。そうだろう。君に飼育は任せるよ。エサやり、忘れないようにね(ニヤリ)。」

―質問いいですか?

「最初からインタビューの様相じゃないかい。」

―そう言われてみればそうかもしれません。

「どうぞ。」

―土色に塗りすぎたかもしれませんね?

「そうかなぁ」神様は土色の靴下で歩いてきた道を振り返る。



その星は火星(マーズ)。まず初めに創った星。







すべての芸術家たちが王様に集められた。王様は玉座の上からこう言った。「太陽の色で空の天井を塗ってき給え」と。世界はだんだんと真っ黒に塗り潰されていく未曾有の危機だった。王様の顔も薄い肌色に塗り替えられていた。大臣は真っ青だし、まだ若いお姫様の真っ白だったお顔だって、今は色がついて少し見づらくなっている。芸術家たちは太陽の色を探し始める。黄色でもないし、白でもない。夜は黒く塗りつぶされるのに、白い色は太陽に似ても似つかないことに芸術家たちはようやくはたと気が付いた。太陽色が見つからない。それさえ見つかれば、それでいいのに。うまく説明できないけれども、まさに、そういう感じなんだがしかし。






拍手[0回]

【戯曲】夜は明暗

なかまくらです。

あけましておめでとうございます。

新作書きました。だいぶ荒削りなところも見られる作品ですので、また、

ちょっと加筆修正していこうとは思いますが、ひとまず書き上げましたので、

どうぞ。



夜は明暗

(本文が長すぎて、入りきらないので、リンクからどうぞ)






拍手[0回]

【小説】走ロメレス

お久しぶりですなかまくらです新作です。どうぞ。


走ロメレス


 


作・なかまくら


 


 


メレスは激怒した。王は変わってしまった。いや、王だけではない。わが友セリ・・・いや、あれはもはやそのような名前の男ではなかった。


「よぅ・・・メレスじゃなぁいかな?な、どうかな?」


「王さま~そいつは間違いなくメレスっすよ~」


メレスは踵を返し、歩き出した。すれ違う女が一人。


「王様」


風になびく髪は艶やかに光沢を帯び、塗られた染料が髪も肌もそしてその王に向かって開かれる唇も、すべてを艶(なまめ)かしく輝かせていた。その瞳を除いては。


「王様」女は繰り返した。


瞳には乾いた欲望と野望が覗いていた。それは王に取り入り自分が幸せになろうなどと言う生易しいものだとは思えなかった。まるである目的があり、そのために生きてきたのだと物語る目であった。ミシェル・パンティーラ。その女(ひと)の短い着衣と覗く素肌に魅了されてしまい、瞳の湛える色に気付かないのだ。


「行きましょう。あたくし、のどが渇いてしまいましたの。ほら」


ミシェルの持つワイングラスを持つ手は枝垂れ、そのままグラスを宙に返すと王の首筋を撫でた。カシャン、とグラスが落ちて砕ける音がした。


「お、おお・・・そうだな。ミシェル」


メレスはすでに歩き出していた。あの女だ。あの女がこの国に来てから、すべては狂い出してしまったのだ。実直な王、勤勉な国民。そのすべてが魅了されてしまったのだ。


大通りに面した果物屋にメレスは入った。そして、メロンを手に取ると店主に突き出した。そして言った。


「メロンは食べごろか」真顔で。


店主は真顔で返した。


「ちょっと顔貸してもらおうか」


店主は強面てであり、そう言われて連れて行かれた客人が一向に出てこない様を知る通行人は少なくなかった。通行人は青ざめた顔でそそくさと往来した。


 


店の奥はそのまま店主の住宅につながっている。住宅の階段の3段目と4段目の間の取っ手を掴むとそこから下り階段が開けていた。メレスは慣れた手つきでその階段を下りてゆくのだった。石畳で囲まれたその階段を下ってゆくと、階段の角の先にろうそくのオレンジ色の明かりが揺らいでいた。


 


「おお、メレスよ。よく来てくれた」


好々爺と言った風貌の老人が声をかけた。


「おとりになるのはの、ワシみたいなので十分じゃ」


手を上げると、入り口の左右に構えたナイフを持った男二人がさっと身を引いた。


「とんでもございません、大臣」メレスは一礼をして中に入った。


「して、例のものは」


「見つかった」大臣は声を固くしてそう言った。


「それでは・・・」メレスが声を上げると、


「それが、今はイスダンルカという町にあるらしいのだが・・・」リーダーを務める男が声を落とした。


 


話によると、その品は2日後のオークションで競売にかけられるという。


そして、その品は海を越えてしまう可能性があるというのだ。


 


「そもそもそれはどういう品物なのですか?」メレスは叫んだ。


「パンチュじゃ」老人は厳かに噛んだ。


「・・・」周囲は赤面した。


「パ、パンツ!」メロスは驚愕した。


「こ、これ、さっきから声が大きいわい!」


辺りはピンクに包まれてしまったようだった。


 



 


荒れ狂う荒野の風が砂を運んでいた。


メレスは身体に麻のローブを纏い、走りだした。


「そのパンツだけがあの女を止めることのできる唯一のものだ・・・」大臣はそう言った。


黄金のパンツは彼女から可能性を奪い取るもの。


世の男どもを魅了するパンチラを封印するオムツ型パンツ!


そう、彼女をオムツ・パンティーラにしてしまうためにメレスは走るのだ!


そして、朝を迎えようとしていた。


 


 


「待て! そこの男!」


ウトウトとしながらも鍛え抜かれた足だけが止まることなく動いていた。


そして、振り返った。頭にゴートの角の被り物をした男。王国の戦士であった。


角の色は黄金。最高級の戦士であった。


「やはりお前であったか、メレス」


「アキロス」メレスは低く呻いた。


王と親しくなり、王宮にて王を警護するこの男とも自然と会話する機会があった。その中でこの男の頑強さ、聡明さはよく感じていた。その男がなぜ・・・。


「アキロスよ。お前は何故、王の変貌に目を瞑っているのだ!」メレスは思いをぶつけることにした。


「悪いな、メレス。王は既にお気づきになられた」アキロスは残酷な口を開く。


「すでにお前の仲間は捕えられ、磔になるのを待つばかりだ。さらに、俺をお前の下へと差し向けられた」


「私は、お前自身の事を聞きたいのだ、アキロス」メレスは動揺を隠して抑えた声を絞り出した。


「俺か・・・俺は、王の命令に背くことはできない」


メレスの後ろから朝日が伸びると、アキロスの影を後ろに追いやっていく。


「それでいいのか、アキロス。王は堕落してしまわれた」


そう、言ってみてその言葉がメレスには一番しっくりと来た。間違いを指摘することができるかはわからない。しかし、何もしないことが罪であることにメレスは確信があった。


「だからと言って、決定に意思が混じれば国が揺らぐ」


「そういう場合ではないと言っているのだ」メレスが怒りをにじませると、アキロスは悔しそうに笑った。


「メレスよ、お前は実直な男だ。その実直さを貫いて生き抜く姿は尊敬に値する」


「アキロス、お前の頭の固さもだ」メレスは言った。


「メレスよ。残念ながら、私は国を守っているという自負がある。国を守るということは法を守るということだ」


「いや、国民が・・・」


「聞け!」アキロスは一喝する。


「俺はそれを失うことの恐ろしさを知らない。だから、俺には王を裏切れないだが・・・」


アキロスはそこで一旦言葉を切った。


「だが、もしお前が『黄金のパンツ』を手に入れ、戻ってくるというのなら・・・この俺を荒野に置いてきぼりにし、得うるというのなら、俺はその運命も見てみたい。パンツをミシェル・パンティーラに履かせて見せよう」


アキロスはそういうと走り出した。


「国民が王の自堕落によって貧困に向かおうとしている・・・私はそれを看過することなどできないのだよ」


メレスの足に羽が生えた。風を起こし、背中を押しだす。前に、前に。


「メレス、一体お前は何者なんだ・・・」


抜き去られたアキロスは、ただ茫然とそれを見ていた。


 


 



 


牢の中のミシェル・パンティーラに向けられた顔があった。


屈強な肉体。疲労の見える顔。ミシェルは、媚びた目線を送ろうとするが、上手く笑えなかった。


「ミシェル・パンティーラ・・・どういうつもりだったんだ」


男――メレスはそう言った。


「あなたがメレスね・・・。知っていましたかしら?この国に私の様な存在が沢山いたことを」


ミシェルは悲しい笑いを浮かべた。まったくもって似合っていない顔だ。メレスはそう思った。


「私のような存在を許している王が許せなかった。ずっとどこかへ抜け出してやりたいと思っていましたわ。罰も何度も受けましたの。王は高いところから見下ろすばかりで、だから、王もくだらない一人の男に過ぎないと国民に気付かせてやろうと思いましたの」


ミシェルの瞳はいつのまにか艶やかに輝やこうとしていた。


「でも、メレス。あなたが私を――――」


 


国は元の形を思い出そうとしていた。


元の形を取り戻す過程で色々なものがその形を少しずつ変えた。







拍手[0回]

【小説】わすれもの【小品】

なかまくらです。
小品。



「わすれもの」
           作・なかまくら





青柳「はいもしもし、お客様サービスセンター青柳(やなぎ)が承ります。」

??「あのぅ~、忘れ物をしちゃったみたいなんですけど……。」

青柳「忘れ物ですね。担当のものにかわりますので、しばらくお待ちください。」


日下「お待たせいたしました、担当の日下(くさか)でございます。
   どのようなものをお忘れですか?」

??「ええっと、お皿なんですけど……。」

日下「お皿?
   はい、ええっとお皿の忘れ物ということですが、

??「はい。」

日下「どのようなお皿でしょうか?」

??「白い無地の、深さのないお皿です。」

日下「なるほど、ではお客様のお名前を教えて戴けますか?」

??「………」

日下「もしもーし?」

??「カッパです。」

日下「へ? あ、雨合羽も一緒にお忘れになったということですか?」

??「いえ、…あのカッパなんです。」

日下「……ああ。」





拍手[0回]

【小説】時間がある

思いつきの40分クッキング。

通勤電車の中で書き上げました。


思いつきで書くのも大事だと思う今日この頃です。


++++++++++++++++++++

「時間がある」

                       作・なかまくら

昨日採集したアリの毛ほども働き者ではない時計の針とにらめっこをしていた。いわゆる秒針のないデザインの腕時計であった。

4月に16才になったばかりの私には希望に満ち溢れた毎日が必然的に待ち受けているとばかり思っていたけれども、実際のところ一ヶ月もすればバラ色の横断幕は次々とはがれ落ちて、やってもできない勉強と、目立とうと声を張り上げるクラスメイトに倦んだ視線を送るばかりになっていた。


そうそう、暇が興じると人間どうやらどうでもいい妄想をするようになる。水をたたえたプールの方を眺める。陸地のなくなった世界で70才オーバーキル(越えるか越えないか)のジジイは眼帯を斜めに掛ける。俺は海賊になってやる!拳を固く握り込む。ちょ、ちょっとお義父さん。ジャスト32才にしか見えない且つ公務員にしか見えない男がもちろんメガネを掛けながら、コップを膝立ちで持っている。握りしめた拳から水がぽたぽたとコップに注がれていた。ほら、お義父さん。こんなに冷たい水が。ジジイはそれをごくごくと飲み干す。うむ。

と、時計を見ると、進んでいなかった。

あれ?

と思わず立ち上がるものの、というかいつの間にか先生が張り上げる声もなかった。というか、止まっていた。いや、若干・・・? いや、いま止まった。完全に止まってしまっていた。アリの毛ほども動いているかも分からない。

私は気がつくと飛び出していた。
自由を手に入れてしまったのだ。
毎日通ってるくせに勇気がなくて一度も入らなかった可愛い女の子向けのファッション雑貨のお店。止まっている警備員の間をすり抜けて、手に取る。使ってみる。着飾ってみる。本屋に行くと、自動ドアが止まっていたから、隙間に手を突っ込んで強引にこじ開ける、ガニマタ。

おっと。

ドアが動いている間、時間も少しだけゴゴゴ・・・と音を立てるみたいに進んだ。
少し空いた隙間に体をねじ込んで店内へと入った。読みたかったマンガを1巻から残らず読んで、ゲームセンターでプリクラも撮って。音楽も全部聴きながら、いろんな楽器を試し弾きする。自動車は事故ったら怖かったから乗るのはやめといた。それから、ようやく時計をみると、時間が10秒ほど進んでいた。

通りの激しい国道の直線をダッシュしてみて、息が切れる。頭を冷やそうと飛び込んだプールの水は凍ったように動かなかった。激痛。水のない世界で、ジジイは眼帯をつけて言う。俺はこれまでいろんな悪さをしてきたが、どうやら最後まで海賊にはなれないようだ。山があれば山賊になり、正義が蔓延れば義賊になった。ところがどうだ。最早海賊になるだけの時間がないという。せいぜい、あとはスルメ烏賊(いか)がいいとこだ。絞っても、もう冷たい水すら出てきませんものね。ジャスト32才公務員の息子。

じゃあ、時間があったらどうします? やり直すことができたら。もう一度。

ジジイは、烏賊墨のような黒い煙を吐き出して萎み始めながら笑う。それはたいそう幸せなことだろうなぁ。


私の視界が思わずぼやける。

ぼやけた視界の先に、一人の男が立っていた。さっきまでは確実にいなかった男だ。あなたも妄想なのか。

「いいえ、私は時間を管理する機関の人間でして。あなたが偶然にも不当に得てしまった時間を返してもらいに参りました」

男は言って、時計の針をぐるぐると回す。

「お気の毒ですが、これだけの時間を」

よく分からない額面であったが、何か言おうとする前にまぶしい光に包まれる。ああ、夏の匂い。

気がつくと、目の前から横断幕は取り払われていた。






拍手[1回]