1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】フクロウの素養【散文】

えー、習作みたいなものです。

面白い短編小説があったので、→「考えられる限り、最悪の妨害」 作・飛火疲さん

そこで、派生作品みたいなのを勝手に・・・。

はふ~。


 

鏡の前で彼女は首をかしげた。
 
その姿が愛くるしいことを彼女には理解できなかったが、それは愛くるしい動作ということを理解していた。
 
確かめなくては!
 
そこで彼女は、出勤することにした。
 
信号には二種類の人間がいる。進む人間と止まる人間だ。
 
フクロウにも二種類いるらしい。可愛いフクロウと、それから・・・
 
青になっていたから、彼女は進みだすフクロウになっていた。
 
「はろーはろー」「ほろーほろー」
 
彼女は挨拶をして、学校に現れる。
 
出席簿を脇に抱えて、彼女は扉をがらりと脇にずらす。
 
騒いでいた生徒たちがこちらを見ている。可愛さに動作が止まるというのは本当らしい、と彼女は思った。
 
それから、首をかしげて見せた。
 
生徒たちも、それに倣(なら)った。
 
 
 
 
++コメント++
おそろしい・・・。
フクロウがそんな狡猾な生き物だったなんて!
ぶっとんでて、楽しかったです=~=! 思わず、謎の散文を書いちゃうくらいに!





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【小説】つだまさき君のつまさきだちの生活

実は少し前に書いたものなのですけれど、

諸事情がありまして、発表が遅れました。

なにぶん、タイトルのインパクトに負けている気はしますが、

こういうのって、書き上げるのが本当に難しい^^笑


つだまさき君のつまさきだちの生活
なかまくら
1. まさき君、大地に立つ!

まさき君の目はカッと見開かれた。
ちゅんちゅん、銃弾のような鋭い小鳥のさえずりが聞こえる。
まさき君はベッドの中でもぞもぞとストレッチを始める。時間が静かに流れ、ついにまさき君は床に降り立つ。温暖化によって十分に温められているはずの床が、まさき君の足を爪先立ちにする・・・! わけではなかった。
まさき君は、おもむろにつま先を立てたままテーピングを始める。そして、足をまっすぐのまま固定すると、靴下の足の甲にあたる部分に慣れた手つきでシリコン製の「努力の迷子1号」と印字されかけた足の甲のパーツを装着する。

――これによって、なんとまさき君の身長は約20センチメートルアップするのだ!

それはすっぽんが月に進化するような奇跡! おお、大いなる大御神よ! 私の身長を伸長し給へ、ソーメン。


2. ライバル登場! 彼の名は、せつさたくま君!

学校への登校の火ブタちゃんがブヒヒヒと斬っておとされる!
口の中に残る朝ごはんのベーコンエッグの余韻を楽しみながら歩き続ける。学校は丘の上にあり、周囲は森になっている。子どもの頃はクワガタやカブトをよく追いかけたものだった。だがしかし!
隣り合う木々からの刺客、根っこがその丸いキバを襲いかかってくる! そう、その姿は復讐者!
「よくも、森を荒らしたなぁ・・・」襲いかかる根っこ、おちてこなくなった落ち葉! むき出しの枝! 枝、枝、根っこ! 根っこ! 枝、根っこ! おちてこなくなった落ち葉!
こけてしまえば、情けない声を出すことは必至である。「あ、アヴェンジャッ!」必死である。

だがしかし、それも過去の話。まさき君は、根っこをはるかに凌駕する。つま先立ちによって得た長身を持て余すことなく発揮しちゃうその時、
「あ、アヴェンジャッ!」後ろで声がして、優雅に振り返るとそこに、設早(せつさ)たくま君が根っこん坊によって、無様に切り捨てられていた。・・・御免!


3. その可憐な後ろすがた・・・そう、彼女は・・・! つだまち早希(さき)ちゃん。

設早たくま君。彼は見上げた男である。そう、彼の背は高い。ついでにいうと、頭もいい。頭脳派である。しかも、器がでかい。なんという男だ。
まさき君の突然の成長期の謎を見事に見破ったばかりか、「そんな君と友達になりたい!」と、お近づきのしるしに背が伸びるという曰クツキの岩のように固く数珠つなぎになっているマンモス味の飴をくれたのだった。飴の味はベーコンエッグに似ていて悪くなかったが、口臭を気にするお年頃。こんな口臭じゃ夢見る少女じゃいられないわけだ。男だけど。

そう、恋!
あの子のことが、気になるの!

あの子は、そう、つだまち早季ちゃん! 早季ちゃんに嫌われてしまうわけにはいかないのだ。
幸い、早季ちゃんはまだ学校に到着していないようだった。
まさき君は歯ブラシを鋭いストロークで横スクロールした。


4. 先生は登壇する! 先生のことは、かとだ ちか先生と呼ぶことになっている。

早季ちゃんは大きめのストライドで教室に現れると、「おはよー」と、元気な声で友達にあいさつをする。さらりとした髪がランドセルにかかって神になった。早季ちゃんの背は高い。まさき君がつま先立ちをしているのも、少しでも早季ちゃんと肩を並べて歩きたいという、願いの現れであったのだった! ああ、なんという恋心!
まさき君が座る机の前の席にランドセルを置くと、にこりと笑ってまさき君にも、おはよって、世界は一瞬でお花畑に包まれる。秘密組織の狂科学者が、立ちふさがる正義怪人のあまりの強さの前に迷子になった挙句、世界を花に埋没させることで花粉症を蔓延させてしまおうとしているかのごとく広がる花、フローラルハミング。屋根は一瞬にして取っ払われ、青空に浮かぶ焼きたてのパンの如くおいしそうな雲。
「ねぇ、」早季ちゃん。
「え、なに?」
「今日の3時間目のたいーく、やだなー。だって走るだけだからたいくつなんだもん。たくま君、どう思う?」
世界は最初の教室に戻る。な、なんということだ。声をかけられたのは、まさき君の隣の席のたくま君だったのだ! なんということだったのだ! この教室が内側からしか鍵のかからない密室だったとしたら、たくま君は一瞬のうちに「お、おれは人殺しと一緒にいるなんてご、ごめんだからなっ!」と言い捨てて、となりの附間好(ふまず)先生のクラスでズタ襤褸の雑巾のごとき密室殺人事件の被害者になっていることだろうに!

こいつ、捨て置けぬ・・・。まさき君はこぶしを机の下でわなわなと震わせ、3時間目を待つことになる。そう、決戦は3時間目の持久走の時間と決まっているのだ!

あっという間に3時間目が来ると、先生はロボットのごときスタスタ歩きで教室に顔を出す。
「運動場に集合だから! 遅れずに来るように!」
それだけ言って、踵(きびす)を返す先生キビシス!
その先生こそが、かとだちか先生。この学校が誇る、かかと立ちのスペシャリストである・・・と、まさき君とたくま君は密かに確信していた!


5. 火ブタちゃんは切って落とされて。

戦いの火ブタは切って落とされる!(「今日は出番が多くて」 豚ちゃん談) つま先立ち走を続けるふたりはところが、ほかの子どもたちとは一線を画す時速っぷりで、ビリ争いを席巻していた! その様子を固唾を飲んで見守らずにマイペースに走り続ける早季ちゃん。

その時だった! 二人の後ろから物凄い勢いで迫りくるかかと立ち怪人、ちか先生が颯爽と走り抜け、二人はその竜巻旋風にキリキリ舞いを踊り狂ってバランスを崩して倒れ伏せた。
先生は鮮やかにゴールをかっさらい、そして言った。

「まだあなた達には10年早いのよ。牛乳を飲みなさいっ!」

走り終えて腰に手を当ててごくごくと牛乳瓶を傾けるちか先生は長身で、

「あとね、背が高いばかりがいいことじゃないのよっ!」

大人の世界の奥深さをふたりに教えてくれる予定である。

その後のまさき君と早季ちゃんの人生に、めでたしのめがでたとかでなかったとか。

おしまい。

 

 

 

 

-コメント-
「石橋をたたいて渡っておきました」という人のもっているハンマーがあまりに大きかったから、渡るのを躊躇してしまうことって、よくありますよね。こんばんは。
使用したキーワード:迷子、狂科学者、密室、マンモス、味の飴、ロボット、おちて、こなくなった、時間、温暖化、リスト です。

 

 






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【小説】そけもん

この世界の至る所は、本来色を持たない。

イデリオくんは、博士からそんなことを言われていた。当時、X才。

どうしてイデリオくんは、周りの空気と区別されていると思う?

どうして、どのように、何が原因で?

息をひそめて空気中に拡散している意識集合体、それが、ソケットモンスターだ。

ふむ。中には危険な奴ももちろんおる。

彼らはある一定以上の濃度に達すると気体→液体→固体と、変化するからな。

中でも最も危険とされているのが、イテモガスと呼ばれるソケモンだ。

イテモガスの生態はほとんど知られていないが、ファルデンルーワス博士の研究によれば、

理論上はガス分子同士の分子間力は、他のソケモンの数百倍と言われているんだ。

イデリオくん、君も彼らをガス化し、人間の住める土地へと世界を変化させた歴史は知っておるだろう?

イデリオくんは久しぶりに自分の名前を呼ばれて「あっ、そうかおいらの名前、イデリオだっけ?」

と思い出した。

博士は続ける。

いいか、君にはこの3体のソケットモンスターから一体を選んで旅に出てもらうことになる。

途中には事務所があるから、そこでソケモンに流す電流の値などを鍛えてもらうとよい。

何?

ソケモンの扱いを知らないだと!? お前さんは学校で何を学んでいたんだ。

いいか、ワシが手本を見せてやるから見ておれ。

博士は、ソケットに電球を取り付けると、電流を絞って流した。

「いけっ、ソノラグシ!」

その瞬間、光が周囲を包み、収まった時、そこには2体の怪物が姿を現していた。

「ソノラグシ、ヒートアップ!」

技が繰り出される。対峙する2体のソケモン。

イベリオくんはその様子に目を輝かせていた。ずっと昔のことである。

ずっと遠く、どこか離れた世界の事である。

「おい、井部。なんだ、そのデザインは?」

デスクに散らかった紙。その一枚を上司が拾い上げる。

「ソケットモンスターっていうんです。略してソケモン」

井部はおどけてそんなことを言ってみる。

「アホか・・・」

「・・・ですよね」

スケッチの数は膨大。

目の裏側ではまだ大冒険が待っていた。






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【小説】燈火は風に揺れるくらい夜に

なかまくらです。

ひっさしぶりーに、小説をかーきまーしたー。

書初めです^^笑

タイトルは珍しく長い。

ファンタジーです。では、どうぞ。


燈火は風に揺れるくらい夜に

2013/01/31

なかまくら

 

 

人間の神が彼らを救うことはなかった。

必死の攻勢も虚しく、大陸を分断する山脈の頂に城が完成し、世界の半分は魔物の生息地となっていた時代のこと。

 

きん、

熱(いき)り立った羊の角を備えた猛禽類が、勇者の振るった剣を弾いて金属音を響かせた。振動が腕に伝わり、しっかりと握っていなければ剣を取り落としそうであった。が、既に握力は限界。勇者は剣の重さに任せるようにして腕ごと剣を振り回す。猛禽類の怪鳥は翼を傾けふわりと躱(かわ)すと、無防備な背中めがけて角を突き立てる。

呻き声は、怪鳥のものであった。勇者に覆いかぶさるように崩れ落ちる怪鳥の長い翼の向こう側に、片手をこちらに向ける男の姿があった。

 

魔法。使い手は少なくないが、せいぜい手の届く範囲くらいでしか有効ではないそれを、男はゆうに10歩は離れた場所から使って見せたのだった。勇者は男に頭を下げ、男は勇者を連れだって村に戻った。

 

「先ほどはありがとうございました」 勇者は簡素なドーム状の小屋に案内されていた。

「その実力では、せいぜい自分の命を落とさないのが精一杯でしょう。どうして勇者を?」男は飲み物をコップに注ぐ。コップの中では橙色と深緑色の液体が混ざり合わずに回っていた。

「いえ、誰かがやらないといけないんですよ。勇気あるものが魔物と戦い、時間を稼いでいる間に民を逃がす」

「いけにえ、ですか」

「そんな悲壮な覚悟でなったつもりはありません。ここに来たのはそういうわけです」 男はにっこりと笑って、それは悪くない笑顔だった。そして男には、かつてその笑顔を浮かべていた勇者たちにそうしたのと同じ応えを返さないといけないだろうことも分かっていた。

「あなたのいる、この村だけがずっと人間の土地を守り、豊かに栄えている。何故か。・・・・・・あなたがいるからだ」

 

魔物たちは基本的に何かを作り出すということはない。いや、強いて言うならば、肉体を強化し、角を獲得したり、翼を獲得したりはする。だから正確には何かを育むことはない、というべきか。魔物たちは、一通り土地を荒らし尽くすと別の場所へと移っていく。人間の土地へとだ。土地を追いやられた人間にできることは、荒れた土地で一からやり直すことばかりであった。

 

「申し訳ないのだが・・・」 男は断りの言葉を切り出す。

 

彼の力は、”ポート”と呼ばれるものに支えられていた。”ポート”はなんのことはない陶器の筒のようなものであるのだが、それがないと私はただの弱い人間になってしまうのだ。”ポート”は大きく、運ぶことは容易ではないのだ、と。男はそう説明し、勇者は固まったまましばらく動かなかった。もう、慣れていた。

それから、不意に勇者は動き出す。「わかりました」と。「”ポート”を作りましょう」と。

村から魔王の城まで、”ポート”で繋ぎ、男を導く。それが人間にできることであり、今を生きる人間の使命であると。それは不可能な事業に思えたが、男は断る理由も見つからず、ではそのように、と投げやりに言い、勇者は「待っていてください!」と小屋を飛び出して行った。それから男は待っていなければならなくなってしまった。

 

それが、もう10年も前のことであった。勇者はとうに民の盾となり、死んだだろうか。

男には秘密があった。

男は”ポート”のあるところでしか活動しない。いや、正確に言うことを試みよう。男は”ポート”の照らす範囲でしか活動できない。・・・そう、”ポート”とは照らす道具であったのだった。男には太陽の光の反射が見えなかった。男はかつて暗黒の中を生きていた。ある時、鉱石を見つけた。それは感動の瞬間であった。今まで色というものはなく、形というものもなかった世界にぽつりとくっきりとそれは浮かび上がっていたのだから。

「ほう、おもしろいものをもっているな」 職人がそれを形にすると、筒からはまばゆいばかりの光が漏れ出るようになった。小屋の中においておけば、村の辺縁までは明かりが灯った。彼の中に、朝と夜ができた。それは知られてはならない秘密であった。

 

その日はやってくる。村の外れから続く緩やかな傾斜の丘。その向こう側が明るいのだ。男は丘を登ることにした。丘を登るほど暗闇は増し、気配をうかがいながら丘を登りきることになった。そして、登りきればその向こう側は、天の星というものを模しているかのように地平線まで輝いていた。男はそれをしばらくぼうっと眺め、ふと、勇者が約束を果たしたことに思い至ったのだった。

 

 

男は、出かけることにした。剣には研ぎの魔法を掛けた。血の鉄分を取り込み、内部構造を強固にする魔法。切るほど、硬度の高い剣となった。

 

鳥類の魔物は一般的に手強いことが多い。人間は地面に足をつけ、平面的な動きは素早いが、視界の鉛直移動に伴う明度の変化には弱い。男は、あの時勇者が戦っていた羊の角の猛禽類を角ごと首を叩き切る。ザックリと開けた頭部と胴体の間の空間、その切り口の向こう側には、目一杯膨らんだワニが構えていた。びゅっと吹き出される水鉄砲は空気抵抗を受けて細く変形し、遅れて凍結。氷の矢となる。男は袈裟に振った剣から右手を離すと冷静に横に薙いで矢を叩き割った。

 

男にとっては造作もない作業であった。城はあっけなく陥落した。魔物たちは”ポート”の光に照らされると何も見えないようであり、やみ雲な総攻撃が城の崩落を手伝った。魔王が、どれであったのかはわからなかった。とりあえず、目につくものは殺した。

男はなんとなく片付いたと感じ、大広間から繋がるテラスへと出てみることにした。山の頂に建てられた城からは大陸の半分が臨めた。それを埋め尽くすように”ポート”は建てられ、男にとってはもはやそれは少し―――

 

いや、この続きを伝えるのはよそう。これは英雄譚にはならなかったのだから。

最後に、いくつかの顛末を伝えるだけにとどめようと思う。

 

男は”ポート”を壊して回った。正確には、何者かによって破壊されているという事実ばかりであったが。その影は旅の途中、彼に会っているものは、彼だと確信し、それをあえて口にはしなかった。

それから男はある町まで来ると、勇者の元へ少し立ち寄った。勇者はひげを生やし、あの頃と同じ笑顔で男を歓迎した。橙色と深緑色の混じった液体の飲み物を注いで男に渡し、「"ポート”を壊している輩がいるみたいだよ、君」といたずらっぽく言ってまた笑った。勇者は国を治める者となっており、再会はごく短い時間であったという。別れ際に勇者は、手提げの”ポート”を男に渡した。もう必要のないものかもしれないけれど、と言いながら。

男にとってそれは何を意味し、それがその意味を果たすことの意味すら、見抜いていたように、勇者はそう言って、”ポート”を男に渡したのだった。

 

 

おわり。






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【小説】リスト

なかまくらです。

気晴らしにホラー(?)を書くという謎行動。

行動心理学のひと、どうゆうことか教えて(笑)。

 

では、どぞー ◎皿◎つ


 

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作・なかまくら

121206

 

 

びたーん、と痛い音がして私は後ろを振り返った。

ちょうど今日の放課後の部会までに運ぶように頼まれていた資料が風に舞って、それを追いかけるところだったから、事なきを得たけれどもし、

もし、そのまま歩いていたらそれは私の脳天に真っ赤な花を咲かせていただろう。

校舎の窓から一瞬で引っ込んだ影。

もぞもぞと執拗に地面の上を動き回るそれをスニーカーで踏みつける。無言で、無造作に、むなしく。おとなしくなったそれをしばし眺め、私はそれの人差し指だけを掴む。

それから黙って部室へ向かった。

 

部室につくなり、床に転がっていたスパイクの袋にそれを詰め込む作業に取り掛かる。それは五本の指を突っ張って、必死に抵抗を試みるが、大きく開けた袋の口に指がかかることはなく、すぅっと中に消えた。素早く口を閉める紐を引く。それから紐を袋のくびれにぐるぐると巻きつけた。

私の身体はわなわなと震えていた。怒り、と恐怖。誰かが私を狙っていたのだ。それもつい魔がさしたどころではないことは、この左手がここにあることが示していた。

 

 

「あのねぇ、上野さん」

先生はリストバンドを嵌めた左手でついていた頬杖をやめてこちらに向き直った。

「今日、左手がない人を調べてみたら、4人。該当者がいたんだけどね・・・」

「誰です?」私は冷静に努めてそう言う。

「まあ、たぶん上野さんが探してる子じゃあないと思うんだ」先生は困った顔でこちらを向いた。そもそも私のことを信じていない、といった顔だった。それはおかしい。先生と違って、私の左手は、まだ私に従っているのだから。

「その・・・上野さんを襲ったという左手だっけ? それは今、どこにあるのさ」そこにはどこか侮蔑の情動が混じっており、私の左手は痺れてくる。快感が電気の刺激になって腕を伝って、肩のところで打ち上げ花火みたいに炸裂する。私は冷静に、

「逃げられました。防御態勢をとってる間に近くの茂みに」私は冷静にそう答えた。

 

「生物は自分の首を絞めて自殺することができない」

 

同じような言葉に、「息を止めて窒息死することはできない」がある。簡単な話だ。仮にA君が首を絞めようとしても、気を失ってしまえば力は緩み、身体は回復期に入る。

そう思われていた。

ところが、17才にもなると、ほとんどの人間は左手を失っている。年齢差はあるものの、左手は思春期に差し掛かるころからそれは起こる。意に反することをしようとすると、夜の間に布団から抜け出て、ずるりと床に落ち、一晩中床を動き回る。疲れると身体に戻り、何事もなかったようにおとなしくする。初めは夜のうちだけだが、症状が進むとそれは昼夜を問わず起こる。

私はまだそれを見たことはないし、見るつもりもなかった。

 

 

「リスタは現実に顕現したバイオハザード現象か・・・!?」

リスタというのは、手首の後を隠すためにリストバンドをつけていたからだ。

最初にそれが起こったとき、相当に人々は気味悪がったらしい。市の図書館で新聞紙をめくると、その頃のことが、おどろおどろしく書いてあった。その後、某発展途上国において独善的に行われてしまったとされる非倫理的な実験が、“偶然”、世界中に知れ渡ることになる。その実験というのは、今から行われることを知らない被験者を部屋に集め、様々な行動を疑似体験させ、脳波を調べ、どのような波形が左手を分立させるのかを調べるというものだったらしい。

その発表によれば、

「人がその欲望を理性で抑えようとする時、その欲望が左手を動かすのだ」ということだった。

 

世論はあっという間に逆転した。

左手を失っているものは理性に従った人格者であり、左手が残っているものは自分の欲望を抑えられない人間とされた。

ひとつ、単純な善悪に流れることを押しとどめたのは、人の上に立つ人間のリスタが半々だったことだ。

 

これについては、議論が続いていた。

新種のウイルスによる症状である、というそれっぽい説から、人類の新しい進化の形態である、だなんてトンデモな説もある。

 

 

ただ、ひとつ言えることは私の左手は残っているし、それが変わるとは思えなかった。

 

 

がちゃり。

その部屋に入ると、無数の左手が吊るされている。

 

私は空いている紐を見つけると、新しく手に入った左手を丹念に括り付ける作業に取り掛かった。






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