なかまくらです。
舞台「鉄人28号」見ました(DVD)。
アニメ監督で有名な、押井守の手がけた舞台ということで、
・・・いったいどうなることやら(良くも悪くも)。
と思いつつ、DVDを買っちゃったわけです。
押井ファンとしては結局見るしかないのですよ。
さて。
戦後の日本。東京オリンピックを控える日本では、
大規模な野犬狩りがされていた。
金田正太郎は、鉄人28号を動かすことのできる少年だ。
正太郎は、野犬の処分場を襲撃するという人狼党から、
処分場を防衛するために駆け付けるが、
野犬を処分し、新しい時代を迎えようとする大人たちに疑問を覚えていた。
野犬は生まれたことに罪があるのか?
新しい時代を迎えるために、罪なき者の犠牲はつきものなのか、それが正義なのか。
そう迷う正太郎少年は、人狼党に襲撃とともにさらわれてしまう。
さらわれた正太郎少年は、救出されてきた女立喰師の「けつねころっけのお銀」と出会う。
お銀は、これからは自分のためだけに生きるんだよ、と言い残し姿を消す。
科学がもたらす正義、新しい時代を作るべきなのか、
それとも、罪なき犠牲のない正義を生きるべきなのか、
正太郎少年は、迷いの中、脱出し、鉄人28号の元へ戻る。
彼は、東京オリンピックで5輪を描くはずだったブルーインパルスの代わりに、
鉄人で5輪を描く。
そして、そのまま姿を消した。
というお話でした。
序盤は、ひたすら犬の話をしていました。
犬というのは何かの隠語で、本当は政治犯か何かを追っているんだと思っていましたが、
本当に犬でした(笑
中盤から、新しい時代を迎えようと動く時代の中で、
圧殺されようとしている者たちが現れ、その話を聞いて、
正義と信じていたものが揺れ動く正太郎少年の葛藤が描かれ、面白くなってきました。
「(海の向こうに見える東京を指して)あそこに何が見える?」との問いに
「未来が・・・」と正太郎少年が答え、「私には見えない!」と返す。
このやりとりが一番グッときました。
未来が見えないからこそ、こうなっているんだ。その怒りが彼を突き動かしているんだ。
そんな感情が流れてきました。
最後に正太郎少年はオリンピックの開会式へ向けて出発した後、疾走するわけですが、
ずっと時間がたってから、かつてのお銀のような格好で現れます。
この意味はどう解釈したらいいのか、難しい。
もともと、正太郎とお銀は一人二役だったので、そういう意図があったのでしょうが、
確固たる正義のもとに動くのではなくて、
野犬のような、純粋無垢で、イノセンスでありながら、
けれども牙をむき、人を傷つけるためにおそれられ、処分されるような、
そういう存在に正太郎という男と鉄人28号を留めおきたかったのだと思う。
石ノ森章太郎の「キカイダー」のラストで、キカイダーが服従回路(イエッサー)を埋め込まれ、
正義と悪の心を手にして人間に近づいたように、
虚構の中の存在であった鉄人28号の操縦者、金田正太郎という人間が、
ラストシーンでは、オリンピックの開会式を陰で成功に導きながらも、
脚光を浴びることなく、メディアによって虚構を立ち上げられることなく、
人間臭く生きている姿を描いたのかもしれない、と思うのでした。
いろいろと想像が膨らんで、押井ファンとしては、面白いお芝居でした。