1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

ウィザーズ・ブレインX 光の空 読みました。

なかまくらです。

ウィザーズ・ブレインX 光の空 読みました。

2001年に刊行が始まったシリーズで、当時中学生だった私は、

なんと、1巻から追いかけていました。途中、もう続きは出ないんじゃないか、

という危機を何度も乗り越え、ついに、完結作がこの度出たのです。



この作品は、近未来SFです。

人類が、情報制御理論という架空の科学を見出したことで、文明は飛躍的に進歩します。

情報の海を知覚し、現実世界を情報の海の側から操作し、

書き換えることができるという理論は、しかし、戦争の道具になりました。

この理論に基づいて、兵器には論理回路が刻まれ、装甲が強化されたり、

弾丸の弾速が速まったりしました。

しかし、それよりも決定的に人類の未来を変えたのは、魔法士の存在でした。

魔法士と呼ばれる人間は、先天的にあるいは後天的に、脳にi-ブレインと呼ばれる

生体コンピュータを搭載しており、その規格に応じた情報制御を自由に発揮できるように

なったのです。

彼らは、分子の熱運動を制御して氷や炎を作り出したり、

運動係数を制御し素早く動き回ったり、情報を解体して物体をバラバラにしたり、

空間曲率を制御して空を飛んだり、光線を放ったり、

電気や磁気を制御してナイフを高速で飛ばしたり、

物質をハッキングして生命のように動かしたり、

物体の存在確率を制御してものを透過したり、

いろいろな力を持つに至ったのです。

しかし、戦争は激化し、多くの国が滅びました。

そして、この新しく生まれた理論はある悲劇を生みます。

太陽光パネルによるエネルギー供給を最適化しようと刻まれた論理回路が、

共振のような現象を起こし、同時に暴走。アフリカ大陸が消滅。

同様な現象が世界中で起こるのは時間の問題でした。それにいち早く気付いた魔法士は、

難分解性の遮光性の雲で地球を覆ったのでした。

短期的な人類滅亡は免れた人類でしたが、遮光性の雲によって、太陽光による電力供給は

途絶え、世界中が氷点下となってしまったことにより、

生存していくことも困難な状況に陥ったのでした。

そんな中、ある、悪魔のような思い付きが生まれます。

それは、魔法士の脳を取り出し、i-ブレインによって、情報制御をすることで、

住環境を維持しようとする取り組みです。

膨大な情報を扱うため、脳だけが必要で、そのために魔法士を犠牲に、

ドーム状の国家に住まう多くの一般市民を助けようというのです。

マザーコアシステムと名付けられたそのシステムの寿命はおよそ20年。

これを採用した国は生き残り、そうでない国は滅びました。

その中でも革新的なシステムとされたのが、ファクトリーシステムと呼ばれるもので、

粗製乱造された魔法士を並列接続で常に交換し続けながらマザーシステムに接続していく

というものでした。

この恐ろしい惨状に声を上げたのは、サクラという少女でした。彼女は、賢人会議を

名乗り、すべての魔法士を解放し、魔法士だけの国家を設立することを世界に発表します。

天城真昼を参謀に加え、すべての国家との間に、和平を結び、

魔法士がマザーシステムによって、犠牲にならない世界を目指したのでした。

しかし、この理想に賛成するものばかりではなく、和平交渉の中で、天城真昼は命を失います。

これと同時に、かつて天才科学者が残した遮光性の雲を除去する方法が見つかってしまいます。

その方法とは、人類のほぼすべてを滅ぼすことによって、魔法士同士のネットワークを構築し、

その計算能力で雲を情報解体するというものでした。

サクラはその止められない勢いの先頭に立ち、人類国家に宣戦布告をします。

そして、雲除去システムを有する大気制御衛星を占拠することに成功するのでした。

人類と魔法士の全面戦争の中、そのどちらをも良しとしない人々がゆっくりと集まってきます。

天城真昼の弟、天城錬は、サクラと対峙するが、「お前はどうしたいのだ」と言われて、

その答えを出せずに、サクラに一度は敗北する。けれども、

天城錬はひとつの結論を導き出す。

雲除去システムを破壊し、もう一度、人類と魔法士が手を取り合わなければならない状況を作り出す。

それは、現状が何かよくなるわけではなく、ただ、元に戻るだけのこと。

けれども、今度はマザーコアシステムによって、人類が生き延びてきたことを一般市民が知っており、一般市民も自分たちで決断した未来としてそれを歩いていかなければならなくなる。それによって起こる変化に期待したのだ。

天城錬を送り届けるために、これまでに出会った多くの人たちが協力する。

人類側と魔法士側の双方がそれを食い止めようとするも、天城錬は、

サクラのもとへとたどり着く。

世界の命運を決める戦いに決着がつき、サクラは200年の眠りへとつく。

天城錬は、雲除去システムを破壊した人間として、様々な人に一身に恨まれる役を

買って出たのだ。サクラもその覚悟を知り、道を譲ったのかもしれない。


ラストシーンは、新しく人間と魔法士が共存して暮らす街から、

天城錬の旅立ちを見送るもの、一緒に行くもの。

彼らの奮闘は続くのだ、という感じ。

そして、200年後。サクラが目覚め、そして見たものとはーーー!


という感じで終わりました。

群像劇なんですよ、これは。

本当に多くの人間が世界の命運をかけて、それぞれの役目を果たそうとしていて、

魔法士の少年少女たちは、自分たちが生き残るために必死に戦って。

それで、少しだけ、周りを助けたりなんかもして。

主人公の天城錬はなかなか好きになれない主人公で、優柔不断だし、

周りに流されて、人類側に協力したり、魔法士側に協力したり、

どちらとも敵対してみたり、とか。綺麗ごとは言うけれど、どうしたらいいかは

分からない。そういう、嫌々と駄々をこねる子供みたいなキャラクターなのでした。

けれども、そんな彼が出した結論はみんな仲良くしてほしい、

というやっぱり綺麗ごとで、けれども、それを押し通すための力と、

それによって、生まれる多くの恨みを引き受ける覚悟が決まった天城錬の行動は、

なぜだか、肯定的に受け止めることができたのが不思議です。

ハッピーエンドと言っていいのではないかという終わりを迎えた本作品でしたが、

8巻(下)の終わりのあたりで天城真昼が死んだときには、それはもう、絶望に満ちていて、

しかも、それからずっと刊行されなくなったので、どうしてもバッドエンドにしか

転がらなくなってしまったのかな、と思っていました。

しかし、良かったです。ちゃんと完結してくれて。


私が高校で理系に進んだことや大学で物理学を学んだことのひとつの要因になっている

かもしれないくらい、科学への可能性を感じたり、現象が物理学的に説明できる面白さ

を感じさせてくれたこの小説のシリーズに、出会えたことを感謝です。

そのうち、時間ができたら1巻から読み直したいですね。

おわり。





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ウィザーズ・ブレインIX 破滅の星〈下〉読みました。

なかまくらです。

ひきつづき、下巻のレビューです。完全に寝不足ですが、夏休みに入って少し楽です笑

9年ぶりに刊行されたウィザーズ・ブレインの最新作のエピソードⅨの下巻までやってきました。エピソードⅨはおよそ1300ページにも及ぶ超大作で、思わず徹夜してしまいました。
人間と魔法士は互いを殲滅することで、青空を手に未来をつかむ作戦に打って出る。過去の大戦前に作られた浮遊島を崩壊した人間の拠点シティに落とし、多くの魔法士をシティに残る難民たち諸共殺してしまおうという策に打って出る。しかし、世界再生機構も度重なる介入とシティに見捨てられた難民の受け入れによって、人員を割くことができないでいた。
しかし、ヘイズには分かっていた。ここで魔法士か難民かのいずれかが死ねば、最早どうしたって後戻りできなくなる。停戦なんて望めるはずがない。ここまでの戦いもそうであったが、これが本当に最後の機会なのだ。
ヘイズとそれに同調したファンメイは、たった2人で事態をなんとかすべく動き出す。島の制御権を奪取するべく乗り込むヘイズと、両軍を一人で相手取るファンメイ。当然、そんなのは無謀というものだが、ファンメイは龍使いという特異な魔法士であった。身体の細胞レベルで改造された人間であり、その特異な情報強度をもった身体を自由に作り替えることができる。しかし、そのリスクも大きく、身体を拡張することで、細胞に刻み込まれた情報に飲み込まれて自我を失い、死に至る危険性があった。そして、そのリスクは表面化してしまう。ファンメイは200メートルを超す拡張体となって戦場を動き回るが、最早意識はなかった。ヘイズも制御中枢にはたどり着いたものの、島の防衛機構によって、島諸共死ぬ覚悟を決めたところだった。
そこに、世界再生機構から救援が入る。もちろん戦える状態ではない魔法士たちを無理やりに動ける形にして出撃させる一回限りの方法。絶対に無理だと思っていた生還が奇跡的に叶い、両軍の衝突も不発に終わる。この出来事がずっと暗澹たる状態にあった天城錬の心に小さな火を灯す。
そんな中、賢人会議が総力を結集して、人間側から雲除去システムに干渉する端末である「塔」の破壊に乗り出す。これが最終決戦になることは人間側も魔法士側も分かっていた。その戦いのど真ん中に天城錬はいた。世界再生機構で動ける魔法士は天城錬のみ。たった一人で、全人類の戦いを止めようとする圧倒的に勝ち目のない戦いだった。策はあった。世界再生機構の面々は、人間側、賢人会議側の極端に振り切れない軍人たちを離反させようとしていた。それが成功するまでの数時間を稼げれば良かった。魔法士の魔法の種は生体コンピュータによる物理法則を書き換える超高速演算にある。それを外部装置によって補助することで、一時的に圧倒的な力を得ることで、天城錬はそれを為そうとしていた。しかし、その目論見は見破られる。外部装置の存在には感づかれ、破壊される。そのあとは、最早、天城錬に構うものなどいなかった。天城錬はただ、雪原に倒れ伏したままになっていた。
天城錬がかつてフィアに言った言葉がある。「どうにもならないかもしれないけど、もうちょっとだけ頑張ろうよ」そのときには、まだ抱えていなかった知らなかった沢山のことがあったけれども、そのときに自分が言った言葉。
天城錬はもうちょっとだけ頑張るために再び立ち上がる。
そして、自身の特異な能力の本当の力の使い方に戦いの中で偶然に気付く。
外部装置をi-ブレインによって作り出し、自己増殖させるプログラムを走らせる。これによって、圧倒的な力を取り戻した天城錬は、戦況を押しとどめ、やがて、離反者が計画通り生まれ、両者の衝突は一時的に回避される。人間側も賢人会議側も満身創痍の状態であったため、生活拠点の復旧に取り組まざるを得ない状況になっていた。
という下巻でした。
非常に複雑に思惑が絡み合い、Ⅸ下巻(実質19巻)までに登場した人物が、あちらこちらの陣営に分かれて動いていきました。その人物たちが主人公に協力してくれて、絶望的な事態の中で、希望が見いだされ、少しでも好転する方向に動いていくというのは、王道ですが、それを描き切ることは難しいし、このエピソードⅨではそれを形にしようと苦心したんだろうなというのを感じました。設定された局面の中で登場人物たちがどう動くかを丁寧に追っていく構成の仕方は、作者のボードゲーム好きが影響を与えているのでしょうね。少し、疑問が残る点としては、世界再生機構のサポートなしで人間側が賢人会議の動きを正確に予想できたのが疑問。それから、天城錬って、そもそも器用貧乏で、それぞれの特化された魔法士には敵わないという感じだったと思うのに、いつの間にかどの魔法士とも渡り合える力を持っているみたいな周りの認識になっているのが疑問。といったところでしょうか。それにしても、天城錬は、この物語で最も負けている男ですが、本当に久しぶりに活躍した感じがします。いずれにせよ、次巻が最終巻なのだそうです。私が中学生のときに読み始めたこの物語も35歳にして、20年越しについに完結を迎えようとしているのだと思うと、感慨深いものがあります。まだ、雲の除去もできていないし、衝突も一時的に止まっただけだし、世界の滅亡への動きがなくなったわけでもなくて、ただ、全部をかなえたいという理想主義者たちが力を持ってしまい、現実主義者たちを圧倒したというような状況は、子供が大人に反旗を翻し、それが成功してしまったような居心地の悪さの中にいるようで、ここからハッピーエンドになれるのだろうか・・・??と不安と、次巻Ⅹ巻のサブタイトル「光の空」であることから、雲除去されそうだぞ!?という期待を込めて、秋の発売を待つことにします。おわり。





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ウィザーズ・ブレインIX 破滅の星〈中〉読みました。

なかまくらです。

ひきつづき、中巻のレビューです。

上巻で大気制御衛星を奪取した魔法士(生体コンピュータi-ブレインを先天的あるいは後天的に脳に埋め込んだ人間)の国家 賢人会議は、続いて人類の殲滅にフェーズを移行する。その先頭に立つのは2本の騎士剣と2つのi-ブレインをもつ特異な能力を持つ騎士ディー。彼は恋人であるセラの居場所を作るために賢人会議に加わったのだ。
しかし、実際に人類の殲滅へと動き出した賢人会議の内部も一枚岩ではなく、衛星を奪取する際には、攻撃してくる軍人を殺すことができていた賢人会議の魔法士たちも、一般市民の攻撃に対しては躊躇するものも出てくる。さらには、科学技術的なサポートをしていた天城真昼の死によって、次第に魔法士たちは万全の状態で出撃するのが難しくなっていく。そして、賢人会議の代表であるサクラは、大気制御衛星から出てくることができず、通信状況も不安定な状態にあった。これらによって、徐々に不安定さが増していく賢人会議。
一方、人間の側は、大気制御衛星を奪取されたことで、人間が一定数以下になると、賢人会議によって、遮光性の雲の除去システムが起動されて、雲と一緒にi-ブレインを持たない人間は分解されてしまう危機にさらされていた。この状況を打破するべく、大気制御衛星への大規模なハッキングを仕掛けることを決断する。そのためには、現在の人間の拠点(シティ)の要となる生体コンピュータがすべて破損する可能性があり、さらには滅ぼすべき相手である魔法士の力が不可欠という非常にリスクと困難を極める作戦であった。
その作戦の遂行のために、天城錬の恋人で、特異な力をもつフィアが狙われる。賢人会議にも所属せず、人間側として戦うこともしてこなかった天城錬とフィア。フィアの選択は、大気制御衛星へのハッキングに協力するというものだった。天城錬にはその真意が分からなかった。
ハッキングを食い止めようとする賢人会議とハッキングを邪魔させまいとする人間側。魔法士たちは一騎当千の力を奮って、ハッキングをしている中枢の生体コンピュータの前までやってくる。その先頭に立つのは騎士ディー。そこで待ち構えている天城錬と量子力学的制御を操る格闘戦最強の魔法士イル。
この戦いにおいても、上巻と同じ過ちが繰り返される。確固たる意志を持つディーと「何をしたらいいのか、どうしたいのか分からない」天城錬。両者は拮抗した戦いを見せるが、土壇場でその差が表れる。確固たる意志を持つ者たちに引きずられて各方面で戦局はどんどん進んでいき、その局地として、戦いの天秤はふいにディーに大きく振れる。生体コンピュータは破壊されてしまう。
大気制御衛星にハッキングを仕掛けていたフィアは、その内部で賢人会議の代表サクラと対峙する。そして、サクラの誰にも打ち明けていない真意を知ることになる。しかし、あと一歩のところでハッキングの補助機関である生体コンピュータ破壊され、フィアの意識は身体に戻ることができずにどこかへ行ってしまうのだった。
人類は後戻りができないところまで来てしまっていた。世界再生機構は為す術もなく、介入も虚しく、事態は悪化し、それぞれの実力者たちもそれぞれの責務との天秤に動かされ、人間側でも魔法士側でもないという立場をとり続けることができなくなっていった。いずれかが勝ち、他方を滅ぼせば、人類を絶滅の危機に追いやっている大気制御衛星の暴走による難分解性で遮光性のある雲は除去されて、人類は太陽光エネルギーを再び活用することができるようになる。しかし、そもそもこの大気制御衛星の暴走自体が、実は暴走ではなく人類を救うために命を賭して魔法士によってなされたものだというのだから、どちらに義があるとも分からない。ただ、戦争を止めれば、雲は除去されず、人類は近いうちに滅びることは想像に難くなかった。それでも曖昧な立場をとり続けることの困難さを感じていた。
しかし、事態は待ってはくれない。
生体コンピュータを破壊したディーは返す刀で、別のシティを襲撃し、その市民を殲滅する作戦を立案する。それを食い止めるべく、最強の騎士 黒沢祐一が出撃する。黒沢祐一の脳は過去の大戦からの蓄積疲労により、すでに壊死しようとしていた。i-ブレインを起動したら死ぬ、と言われているそんな状況で、新世代の最強の騎士であるディーの前に立ちふさがる。ディーにとっても多くを教えてくれた師である黒沢祐一であったが、対峙する以外の道はすでに残されていなかった。黒沢祐一は死の淵において、ついに騎士の極致に至り、ディーを圧倒し、賢人会議の侵攻を食い止めることに成功するのだった。彼自身の命と引き換えにして・・・。
という中巻でした。
状況はどんどんと取り返しのつかない方向に進んでいき、極端な思想に突き進んでいきます。それについていけないものが出てきたり、逆に立場をあいまいにしておけないものが出てきたりして、実力者たちがあちらこちらに陣営を移っていきます。黒沢祐一が死ぬ展開は、天城真昼のときも思いましたが、まさかこの人物が退場するとは・・・という驚きがありました。黒沢祐一は1巻から度々登場しては、まだ精神的に発達途上である各主人公たちに示唆を与え、成長させてきた人物でした。次第に大局的に世界を見定めている指導者を失っていくこの物語がどこへ進んでいくのか未だ不安の中にあります。





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ウィザーズ・ブレインIX 破滅の星〈上〉読みました。

なかまくらです。

これは、感想を書かねば・・・! というわけで、久しぶりに感想記事です。


人類と魔法士の共存を望んだ青年 天城真昼が前の巻(Ⅷ巻下)で一般市民に殺されてしまって、退場。Ⅸ巻の上巻だけは驚くべき早さで刊行されましたが、下巻が出るまでは、読むまいぞ、と思っていたら、9年の歳月が流れたのでした。

さて。
天城真昼の死と大気制御衛星による雲除去方法の発見を駆動力にして物語は進んでいきます。遮光性の高い人工雲を除去するには、i-ブレイン(生体コンピュータ)をもたない普通の人間を大幅に減らし、i-ブレインをもつ魔法士の脳をリンクして大気制御衛星から雲の構造に対して、大規模な演算を仕掛ける必要がある。
そのために、魔法士の国家である賢人会議は、南極上空に浮かぶ大気制御衛星の奪取と、核戦争の末に総人口2億人まで数を減らしていた人間側の拠点である6つのシティへの破壊工作を繰り返していた。天城真昼を失った賢人会議の作戦は、人類殲滅へ向けて合理化されていく。
天城真昼の死は、世界中の世界を憂う実力者たちを動かす。世界各国で人間と魔法士の最終戦争を止めるために密やかに動いていた人々が、世界再生機構なる第三者勢力となっていく。
上巻の終わりには、賢人会議の長サクラが大気制御衛星に乗り込み、1巻の主人公天城錬と量子力学的制御を操るイルを圧倒し、衛星を掌握するところで終わります。
どんどんと極端な方向に進んでいってしまい、サブタイトルの通り、「破滅」を強く感じる上巻でした。現在の私たちの世界でのロシアとウクライナの戦争の情勢を思うと2015年に始まった物語がこのタイミングで続きを刊行されたことは、大きなメッセージとなっているように思います。
戦争の状況も確固たる意志を持って突き進む、賢人会議が数で圧倒的に勝る人間側の猛攻を巧みにかいくぐって大気制御衛星を奪取する展開は爽快感がありますし、外的な要因によって動かされているように見える天城錬の優柔不断さにいら立ちもあり、なおさら、賢人会議の正当性を感じるのでした。ラストシーンでサクラが天城錬に「私の道を否定する貴方だったらどうするのだ」と問うたときに、天城錬は何も答えられずに、衛星から排除されてしまいますが、それも当然の結果のように思います。ここからの天城錬の奮起があるのかないのか・・・。天城錬に対してはストレスの増す上巻でした。





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「数学は最善世界の夢を見るか?――最小作用の原理から最適化理論へ」読みました。

なかまくらです。



「数学は最善世界の夢を見るか?――最小作用の原理から最適化理論へ」
イーヴァル・エクランド著  南條 郁子 訳 読みました。

光の反射と屈折の法則について、理解を深めたくて行き当たった最小作用の原理(停留作用の原理)を読み解くために、手に取りました。

自然は、作用(m∫v ds)を最小化するように運動を決定しているのではないか、と考えたモーペルテュイから始まる壮大な科学の取り組みを記述した本。自然界を統一的に表すことのできる究極の理論があるのではないか、と理系で学んだ私ももちろん思っていたし、いまでもワクワクするテーマで、それに挑んだ科学者、数学者たちの軌跡にワクワクしました。

解析力学をもっとちゃんと学んでからもう一度読んだら、理解が深まるような気がしていて、それが残念でした。
そのほかの残念な部分としては、著者がモーペルテュイのことが嫌いなのか、結局、最小作用の原理は何の役にも立たないかの如く扱い続けるために、最小作用の原理は結局正しいのか正しくないのかよくわからないまま最後の最後まで進んでいってしまうことです。最後の結論で一言触れられなければ、最小作用の原理などというものは結局存在しなかったんだな、と読者は結論付けてもおかしくないな、ということと、後半、社会の最適化についての議論へと進んでいきますが、数学的な議論から離れてしまい、哲学的な何かになってしまうため、著者の考えを聞かされているだけになっている気分で読み進めることになったのが、惜しいな、というところでした。
ガリレオの振り子の等時性の話といい、興味を途切れさせないで中盤まで読めただけに、終わり方は少し残念でした。





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