なかまくらです。
ウィザーズ・ブレインX 光の空 読みました。
2001年に刊行が始まったシリーズで、当時中学生だった私は、
なんと、1巻から追いかけていました。途中、もう続きは出ないんじゃないか、
という危機を何度も乗り越え、ついに、完結作がこの度出たのです。
この作品は、近未来SFです。
人類が、情報制御理論という架空の科学を見出したことで、文明は飛躍的に進歩します。
情報の海を知覚し、現実世界を情報の海の側から操作し、
書き換えることができるという理論は、しかし、戦争の道具になりました。
この理論に基づいて、兵器には論理回路が刻まれ、装甲が強化されたり、
弾丸の弾速が速まったりしました。
しかし、それよりも決定的に人類の未来を変えたのは、魔法士の存在でした。
魔法士と呼ばれる人間は、先天的にあるいは後天的に、脳にi-ブレインと呼ばれる
生体コンピュータを搭載しており、その規格に応じた情報制御を自由に発揮できるように
なったのです。
彼らは、分子の熱運動を制御して氷や炎を作り出したり、
運動係数を制御し素早く動き回ったり、情報を解体して物体をバラバラにしたり、
空間曲率を制御して空を飛んだり、光線を放ったり、
電気や磁気を制御してナイフを高速で飛ばしたり、
物質をハッキングして生命のように動かしたり、
物体の存在確率を制御してものを透過したり、
いろいろな力を持つに至ったのです。
しかし、戦争は激化し、多くの国が滅びました。
そして、この新しく生まれた理論はある悲劇を生みます。
太陽光パネルによるエネルギー供給を最適化しようと刻まれた論理回路が、
共振のような現象を起こし、同時に暴走。アフリカ大陸が消滅。
同様な現象が世界中で起こるのは時間の問題でした。それにいち早く気付いた魔法士は、
難分解性の遮光性の雲で地球を覆ったのでした。
短期的な人類滅亡は免れた人類でしたが、遮光性の雲によって、太陽光による電力供給は
途絶え、世界中が氷点下となってしまったことにより、
生存していくことも困難な状況に陥ったのでした。
そんな中、ある、悪魔のような思い付きが生まれます。
それは、魔法士の脳を取り出し、i-ブレインによって、情報制御をすることで、
住環境を維持しようとする取り組みです。
膨大な情報を扱うため、脳だけが必要で、そのために魔法士を犠牲に、
ドーム状の国家に住まう多くの一般市民を助けようというのです。
マザーコアシステムと名付けられたそのシステムの寿命はおよそ20年。
これを採用した国は生き残り、そうでない国は滅びました。
その中でも革新的なシステムとされたのが、ファクトリーシステムと呼ばれるもので、
粗製乱造された魔法士を並列接続で常に交換し続けながらマザーシステムに接続していく
というものでした。
この恐ろしい惨状に声を上げたのは、サクラという少女でした。彼女は、賢人会議を
名乗り、すべての魔法士を解放し、魔法士だけの国家を設立することを世界に発表します。
天城真昼を参謀に加え、すべての国家との間に、和平を結び、
魔法士がマザーシステムによって、犠牲にならない世界を目指したのでした。
しかし、この理想に賛成するものばかりではなく、和平交渉の中で、天城真昼は命を失います。
これと同時に、かつて天才科学者が残した遮光性の雲を除去する方法が見つかってしまいます。
その方法とは、人類のほぼすべてを滅ぼすことによって、魔法士同士のネットワークを構築し、
その計算能力で雲を情報解体するというものでした。
サクラはその止められない勢いの先頭に立ち、人類国家に宣戦布告をします。
そして、雲除去システムを有する大気制御衛星を占拠することに成功するのでした。
人類と魔法士の全面戦争の中、そのどちらをも良しとしない人々がゆっくりと集まってきます。
天城真昼の弟、天城錬は、サクラと対峙するが、「お前はどうしたいのだ」と言われて、
その答えを出せずに、サクラに一度は敗北する。けれども、
天城錬はひとつの結論を導き出す。
雲除去システムを破壊し、もう一度、人類と魔法士が手を取り合わなければならない状況を作り出す。
それは、現状が何かよくなるわけではなく、ただ、元に戻るだけのこと。
けれども、今度はマザーコアシステムによって、人類が生き延びてきたことを一般市民が知っており、一般市民も自分たちで決断した未来としてそれを歩いていかなければならなくなる。それによって起こる変化に期待したのだ。
天城錬を送り届けるために、これまでに出会った多くの人たちが協力する。
人類側と魔法士側の双方がそれを食い止めようとするも、天城錬は、
サクラのもとへとたどり着く。
世界の命運を決める戦いに決着がつき、サクラは200年の眠りへとつく。
天城錬は、雲除去システムを破壊した人間として、様々な人に一身に恨まれる役を
買って出たのだ。サクラもその覚悟を知り、道を譲ったのかもしれない。
ラストシーンは、新しく人間と魔法士が共存して暮らす街から、
天城錬の旅立ちを見送るもの、一緒に行くもの。
彼らの奮闘は続くのだ、という感じ。
そして、200年後。サクラが目覚め、そして見たものとはーーー!
という感じで終わりました。
群像劇なんですよ、これは。
本当に多くの人間が世界の命運をかけて、それぞれの役目を果たそうとしていて、
魔法士の少年少女たちは、自分たちが生き残るために必死に戦って。
それで、少しだけ、周りを助けたりなんかもして。
主人公の天城錬はなかなか好きになれない主人公で、優柔不断だし、
周りに流されて、人類側に協力したり、魔法士側に協力したり、
どちらとも敵対してみたり、とか。綺麗ごとは言うけれど、どうしたらいいかは
分からない。そういう、嫌々と駄々をこねる子供みたいなキャラクターなのでした。
けれども、そんな彼が出した結論はみんな仲良くしてほしい、
というやっぱり綺麗ごとで、けれども、それを押し通すための力と、
それによって、生まれる多くの恨みを引き受ける覚悟が決まった天城錬の行動は、
なぜだか、肯定的に受け止めることができたのが不思議です。
ハッピーエンドと言っていいのではないかという終わりを迎えた本作品でしたが、
8巻(下)の終わりのあたりで天城真昼が死んだときには、それはもう、絶望に満ちていて、
しかも、それからずっと刊行されなくなったので、どうしてもバッドエンドにしか
転がらなくなってしまったのかな、と思っていました。
しかし、良かったです。ちゃんと完結してくれて。
私が高校で理系に進んだことや大学で物理学を学んだことのひとつの要因になっている
かもしれないくらい、科学への可能性を感じたり、現象が物理学的に説明できる面白さ
を感じさせてくれたこの小説のシリーズに、出会えたことを感謝です。
そのうち、時間ができたら1巻から読み直したいですね。
おわり。