なかまくらです。
お久しぶりですね、別段理由はなかったんですが、ちょっと忙しい毎日。
でも、だから書けてしまうという・・・ちがうかな、書かなきゃというちょっとの焦燥と、尚早と、
一年に一回は書きたくなる、このテーマに誘われて、どうぞ。
「抱えてる」 作・なかまくら
http://nakamakura.iinaa.net/daihon/kakae.html
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たまには埃をかぶってる筆を遊ばせてみるということで、
短篇小説。ほのぼの系?
私が羊です
さく・なかまくら
2011.6.24
雲をつかむような私のお話。
最近私には楽しみが一つ増えまして、
それはメェルアドレスなるものを手に入れたのです。
小屋の壁にごしごし擦った私のゴワゴワした体毛は、
年に一回収穫されていきます。
昔はなんだか恥ずかしくって嫌だった収穫祭も、
今は笑って過ごせます。
おじさんが巨大なバリカンで汗だくになりながら私の毛をジョリジョリと刈ります。
そこちょっとそりすぎだって! 痛っ! 毛、引っかかったって!
私の大好きなハニービーンズで、おじさんは私をなだめてくれます。
空にはふよふよと私の毛が綿毛のように綿飴のように、おいしそうに浮かんでいました。
+
まさとくんは、今年で10才。
誕生日には、大好きなテレビゲームと、手編みのセーターをもらいました。
「ありがとうお母さん、おばあちゃん。大切にするね!」
そういってまさとくんはゲームから一時も目を離さないまま、
一応おばあちゃんのことを気遣ってセーターをイソイソと着ようとしていました。
「痛っ!」
バチっときたので、思わずまさとくんは飛び上がりました。
飛び上がった拍子にしりもちをついてドン!
二階から聞こえた音に、お母さんと、少し遅れておばあちゃんがまさとくんの部屋にやってくると、
まさとくんは、お尻をさすりながら、早速ゲームをしていました。
「あ、おばあちゃん、このセーター、結構あったかいね! 電気がバチっとなって痛かったけど」
「相当大きな音だったよねぇ…一回にいてもはっきり聞こえたよ、バチっって。」
「それはもしかしたら、羊さんの執念かもしれないねぇ…。よくも俺の毛を刈ってくれたなぁ…ってね」
と、おばあちゃん。
「俺の毛を買ってくれてありがとう! これで今年も食いつないでいけるぜ、俺たち! ってお礼の合図かもしれないわよ」
と、お母さん。
「ま、どっちでもいいや」
と、まさとくん。TVの画面の向こうでは、羊が餌を食んでいる。
+
ビビッ、と電気が入ってきて、
私はメッヒェッヒェッヒェとかわいらしく笑った。
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我が家の猫は優雅に空を飛ぶ。
いっちょ前にウィスキーを嗜み、べろんべろんになって、天井に頭をぶつける。
なんて猫なんだ!
住人はご立腹である。
我が家の猫はよく笑う。
お笑い芸人が裸一貫を武器に全身全霊で生きているのを笑っている。しかも、ニャハハハハ、と漫画みたいに笑う。
なんて猫なんだ!
住人はご立腹である。
だがしかし、…なかなか笑いどころを外さない猫である。
+
散歩はいちにいさんかい、"兄さん海岸"まで連れて行く。
"兄さん海岸"の名前の由来は、そこにコイツの兄貴がいるからである。
到着すると2匹は戯れあって1人は御役御免。
すっかり夢中の空気中の2匹を、夕焼けの水平線の中に見ている住人は、静かなる黄昏色のご立腹。さぞかしご立腹であることだろう。
日が暮れて、満足すると2匹と1人は連れ立ってるわけでもないのに、誰からともなくともに家に帰る。
帰り道の石焼芋に舌なめずりをしたり、猫舌の住人が最後に食べ終わったり、2匹と1人で、いっぱいになったお腹をポンとたたいてみたり。
家が見えてくる。
我が家の猫には友達がいる。
住人の倍は軽くいる。
なんて猫だ!
住人はご立腹である。
晩メシ時には、庭に集まって来て、楽しそうに笑っている。ニャハハハハというあの笑い声も聞えてくる。
ふと足元に兄貴がいるのが見えた。
お互いに何秒か時が止まったように見つめ合い、それから不意に兄貴はもう手の届かないところにいってしまう。
ふわふわと空を飛んで、楽しそうな輪の端っこに繋がっていった。
住人は頭に耳が生えていないのを不思議に思って何度もさわりつづける。
空飛ぶ猫というものは、兄貴と我が家にしか見たことがない。2匹はきっと「重力ねこ」という種族だろう。
宇宙のどこか遠くからやって来た地球の生命の最初の遺伝子が色濃く現われて、
いつか我が家のねこをどこか宇宙の彼方の復興のために連れていってしまうのだ。
猫は笑いながら静かに住人の前からいなくなってしまうのだ。
なんて猫なんだ!
住人はご立腹である。
猫は年老いて、足が地に着かないのか、フワフワと歩いて来る。
やがていなくなってしまう猫が、今だけはここからどこにもいかないように、住人はじっと見ていた。
猫もじっと見ていた。
眠らないままに、朝に住人が目覚めると、猫は年老いて天井に寝そべるようにして静かに眠っていた。
ヒトに最期を見られないように、空の彼方に飛んでいって、お星様になるのよ。
住人は「なんて猫だ」と呟いて、
静かに空に還した。
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