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なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】猫と暮らせば

我が家の猫は優雅に空を飛ぶ。

いっちょ前にウィスキーを嗜み、べろんべろんになって、天井に頭をぶつける。

なんて猫なんだ!

住人はご立腹である。


我が家の猫はよく笑う。

お笑い芸人が裸一貫を武器に全身全霊で生きているのを笑っている。しかも、ニャハハハハ、と漫画みたいに笑う。

なんて猫なんだ!

住人はご立腹である。

だがしかし、…なかなか笑いどころを外さない猫である。




散歩はいちにいさんかい、"兄さん海岸"まで連れて行く。

"兄さん海岸"の名前の由来は、そこにコイツの兄貴がいるからである。

到着すると2匹は戯れあって1人は御役御免。

すっかり夢中の空気中の2匹を、夕焼けの水平線の中に見ている住人は、静かなる黄昏色のご立腹。さぞかしご立腹であることだろう。

日が暮れて、満足すると2匹と1人は連れ立ってるわけでもないのに、誰からともなくともに家に帰る。


帰り道の石焼芋に舌なめずりをしたり、猫舌の住人が最後に食べ終わったり、2匹と1人で、いっぱいになったお腹をポンとたたいてみたり。

家が見えてくる。



我が家の猫には友達がいる。

住人の倍は軽くいる。

なんて猫だ!

住人はご立腹である。


晩メシ時には、庭に集まって来て、楽しそうに笑っている。ニャハハハハというあの笑い声も聞えてくる。

ふと足元に兄貴がいるのが見えた。

お互いに何秒か時が止まったように見つめ合い、それから不意に兄貴はもう手の届かないところにいってしまう。

ふわふわと空を飛んで、楽しそうな輪の端っこに繋がっていった。

住人は頭に耳が生えていないのを不思議に思って何度もさわりつづける。



空飛ぶ猫というものは、兄貴と我が家にしか見たことがない。2匹はきっと「重力ねこ」という種族だろう。


宇宙のどこか遠くからやって来た地球の生命の最初の遺伝子が色濃く現われて、

いつか我が家のねこをどこか宇宙の彼方の復興のために連れていってしまうのだ。
猫は笑いながら静かに住人の前からいなくなってしまうのだ。


なんて猫なんだ!

住人はご立腹である。

猫は年老いて、足が地に着かないのか、フワフワと歩いて来る。


やがていなくなってしまう猫が、今だけはここからどこにもいかないように、住人はじっと見ていた。

猫もじっと見ていた。


眠らないままに、朝に住人が目覚めると、猫は年老いて天井に寝そべるようにして静かに眠っていた。


ヒトに最期を見られないように、空の彼方に飛んでいって、お星様になるのよ。


住人は「なんて猫だ」と呟いて、


静かに空に還した。





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