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なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

                      
なかまくらです。

少し前に書いたものですが。

超短編小説会の祭り参加作品です。

「天の尖り」もよろしくね(HPに掲載中)。

それではどうぞ。

「竜刻草」

                     2017.1.7
                     さく・なかまくら


 #1.招待

「姫さまぁああああっ!」

どたどたと縁側を走ってくる足音に溜め息が漏れた。

昨日は、「戸棚のあんぱんが無くなった」

一昨日は、「ビスケットが食べたい」

でも、今日はちょっと違ったのだ。

 

ある真夏の雪の夜。浴衣姿で隣にはちょっと冴えないけどまあいいかなっていうボーイフレンドがいて、二人の絡ませた指の間に金魚の水袋がくったりと提げられていた。

花火が真っ暗な夜空に開花し、竜を形作る。その竜があろうことか、こちらに近づいてきた。ああ、ずいぶんと凝った趣向ね、と一瞬暢気に考え、その間に飲み込まれた。あの夜。

気が付いたら、姫様として眠っていて、ボーイフレンドはいなかった。

 

「姫さま、妙な格好をした若者がっ!」そのボーイフレンドが3か月経ってようやく見つかった。

 

#2.時渡り

「時渡りの病だな」 医者が観念したように言う。

「時渡りって?」 表情なく目を開けたままのボーイフレンドを私は見ていた。

「ご冗談を。父君を亡くしておいて・・・」

「馬鹿もの、そういう病なのだ」 壮年の家臣が若い部下を驚いたようにたしなめた。

時渡りとは、次第に存在が忘れられていく現象だという。それは、未来と過去――時間軸の方向に存在がぶれていき、やがて無限に広がる時間の中に一様に分布するようになるのだという。死体も残らず、記憶にも残らず、すっかりと消えてしまう・・・。

「それって神様になるってことなんじゃないかな」って、私はそっと思った。

 

#3.竜の麓に

「姫、此のものを救う覚悟はおありですか・・・」 壮年の家臣は、私に尋ねる。

「ええ・・・そうね。できるなら」 家臣はまっすぐ私の目を見ていて、私は思わず目を伏せた。

「まだヒトが竜に触れることが出来ていた時代を生きていたものとして、姫さまを諫めなければなりますまい」

「竜・・・?」 神様がいて、竜がいる。ならば私はヒトでいいのだろうか、と疑問が浮かぶ。

「あれはヒトが時間を生きる以上、決して分かり合えないのですよ。触れても何も伝わってこない。生き物ではないのです」

時渡りを始めると、時の曝露によって皮膚が鱗状に変化していく。鱗が定着すれば、竜になり世界に還る。もし、鱗が定着しなければ、剥がれた鱗の内側には何も残らない。彼は消えてしまうだろう。

「姫さま、竜刻草をご存知ですか」

家臣たちが何故か心持ち、後退りした。

「姫さま・・・竜の呼気毒は強力であり、ヒトの身ではひとたまりもありません。ひと度、竜訪を受ければ村は壊滅を免れない。そんな毒なのです」

しかし、竜刻草は竜のうろこに反射した光でのみ育つという植物だという。竜に遭わずに得られる植物ではないだろう。

竜がヒトから生まれ、ヒトを害するのは、一体どうしてなのだろう。

 

#4.邂逅

「いいわ、私が行くわ」 一度言葉が出れば、結論は初めから決まっていた。

「これが今は昔の竹取物語なら、5人の王子様を遣わせたのね。実際そうだったのかも」

「でも、私はイマドキなの。ずっと未来の時代はねぇ、女の子が強いのよ」そう言って驚くおじさん達にウインクをして見せた。もともと私は姫ではないし、彼はヒトで竜ではないのだ。

城を出て、村を抜け、森を抜け、山道を登っていくと、草木の色が変わっていく。春色、夏色、秋色、冬色。これらが雑(ま)ぜこぜになって、やがて時間と空間が判別できなくなる。未知なる竜の世界に近づいていく実感があった。

どこか遠くの、とても近い彼方で、空気を震わせる咆哮が聞こえた。

思わず立ち止まり、瞬き。すると、目の前の空間に巨大な竜が悠然と佇んでいた。目は優しくこちらを見ている。体温がないのか、伝わってくる熱を感じなかった。

そして、何故だか不思議と分かった。

「竜になったんだね、おめでとう」 こちらに親しみを持っているような表情だった。

「でも、そんなにあなたのためにって思ったわけじゃないの。なんとなくなのよ、なんとなく・・・気が少し向いただけ」 私が聞かれてもいない言い訳を口にすると、彼は応じるように口を開いて息を吐き出した。お互いに息を潜めていたことに私は気づく。

少しクラクラとするその吐息に私は家臣の言葉を思い出す。

「ヒトはもはや、竜に近づくことさえできないのですぞ」

私は、竜に手を伸ばす。それでもそれは、ヒトが竜と別れ、異なる価値観を生きると決めた。それだけのことで、ただ互いを認め生きていくことだってできるはずなのに。

彼の冷たい鱗に触れて、私はふっと目を閉じた。

 

#5.帰還

気が付けば、花火は散り、残響が空間を震わせていた。

後日、水槽の中に移した金魚の中に鯉の稚魚が混じっていると気が付いたのは彼だった。

私達は、小さなアパートの一室で顔を見合わせて笑った。

互いの命の輝きを見つめていた。

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