1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】ライオンを磨く男

なかまくらです。

1月に書いた作品ですが、お披露目です。どうぞ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ライオンを磨く男」
                            作・なかまくら
新作のアイデアがどうしても思いつかないときは、散歩をするに限る。
ぼくにとってそれは染み付いた習慣であり、それには最早あまり効き目がないことも分かっていた。とある出版社の短編小説の公募で佳作に選ばれたぼくは、社会的に小説家として名乗りを挙げた。いつかは一躍有名人に・・・。憧れがあった。
夏の暑い日のことだった。
「今日はもう少し遠回りしよう」
いつもだったら引き返す分岐点で異なるルートを探索することを選ぶ。
けれども、それはそれでいつもの道なのだが、考えることはやめにする。
汗がわきの下でシャツを濡らし、水分を失った喉が渇きを訴えてくる。「やめましょう、もうこんなことは。」訴えに耳を貸さず、まもなく見えてくるだろう、公園を目指す。
公園には、水飲み場があり、ぬるい水が出てくる。それをたらふく飲んで、きっとそうしたら、帰り道を考えることにするのだ。さびれた公園で、孤独を紛らわしてくれることもないのが、心地よかったのを覚えている。そういえば、動物が置いてあった。カバの像とキリンの像と、それから、あといくつかの動物たちだ。その背中に乗って、ひと休みするのが良いかもしれない。今日はいつにもまして、疲れてきていた。
公園につくと、男がいた。ぼくは、急いで水飲み場に行き、喉を潤すと、それからゆっくりと男へと近づいて行った。男は襤褸布を手にライオンの像を磨いており、その身なりは汚れてはいるものの、浮浪者といった風ではなかった。
「こんにちは」
驚いたように、男が振り向いた。どこかで見たような顔だった。
「あの、すみません、驚かせてしまって。こういうとき、なんて声をかけていいのかわからなくて。掃除をしているんですか?」
男はズレた眼鏡を直すと、ぼくを上から下まで観察して、それから、なぜだか少し、ほっとしたように言葉を返してくる。
「こんにちは。暑い日ですね。」
「清掃業者の方ですか? 大変ですね。」
ぼくがそう言うと、
「いえ、そういうわけではないのです。これは、私なりの戦い方なのです」
男はそう言って、ライオンの肋骨のあたりの苔をこすり取った。
「あなたはどうしてここへ?」
男が尋ねるので、
「いえ、その・・・散歩をしていたらここに。あなたがいまして。」
「なるほど。」
ぼくの答えに、男はただ、そう返す。
「あなたはどうしてここに?」
「私も同じようなものです。」
ぼくの問いに、男はただ、そう返した。
ほかに、問うこともなく、男はライオンの像を磨き、ぼくはそれを見ていた。
ライオンの像は、随分と長いこと手入れをされておらず、コンクリートで作られたその像の造形は苔に覆われ、随分と曖昧になっていた。男はその苔を丹念に取り除いていく。
ぼくは、意味もなく喉が渇いたような気がして、もう一度水飲み場へと足を運ぶ。
「あの。」
「なにか。」
「散歩をしていたのは、その通りなのですが。」
「ええ。」
男が手を止めてこちらを向く。
「ぼくはいつもと違う何かが起こらないかと思って、散歩をしていました。小説家なんです。売れていないですけど。」
ぼくがそう言うと、男は、少し考え込んだ後、話をしてくれた。
男は、陸上選手だという。男が高校生の時分には、記録がメキメキと伸びたのだという。自分には才能がある。ほかの人にはない、選ばれたもののみに与えられる才能が。大学も推薦で進学して、社会人になってからもスポンサーがついたという。
ぼくは、男のことを知らなくて、知らないことを詫びた。男は知らなかったことにほっとしたのだと笑った。
「私にかけられた魔法はけれども、消えてしまったんです。いくら練習しても、あの頃のように伸びはしないのです。魔法の中にいたときは楽しかった。夢中だった。気づいたら周りの仲間たちは普通の人生を生きていて、スーツを着て街を駆け巡っていたり、結婚をして子供たちと駆けまわったりしている。けれども、私の魔法は少し効き目が強すぎて、そして長すぎたんです。私は今も陸上競技場のトラックを回り続けている。」
「若い選手はメキメキと力をつけてきています。引退の2文字が頭をよぎることも一度や二度ではありませんでした。なんなら、今もときどき。」
男の言葉に呼応するように、ざわざわと木々が揺れ、その揺れはぼくの心の中を見透かしているようだった。けれども、夏の日差しは強く、いまはその木々の揺れる合間から、木漏れ日が突き刺すように漏れてきていることにも気づいていた。
「だから、私は私の中のライオンを磨くことにした。燃える心だけが、魔法の切れていない若者たちと戦い続ける唯一の手段だと思うのです。」
ぼくは男を手伝い、ライオンを磨いた。汗がとめどなく流れても、一心に磨き続けた。
やがて、ライオンは本来のその複雑な造形を取り戻し、誰もいない公園に君臨する。
水飲み場でぬるい水をたらふく飲んだぼくらは、その姿を満足気に眺めた後、それぞれの戦いに戻っていった。





拍手[0回]

にょきにょき

なかまくらです。

文化祭の実行委員の生徒から、もらったラディッシュ栽培キットを開封してみました。

元気に育っています。

収穫時期がよくわからないのですが、元気に育っています。






拍手[0回]

ニコニコ動画が復旧中です。

なかまくらです。

長らくお世話になっているニコニコ動画という動画サイトがあるのですが、

こちらが、大規模なサイバー攻撃を受けて、

システムを復旧中、とのことで、動画を楽しむ生活から、

1週間ほど切り離されています。

いいえ、動画を見るだけなら、Youtubeでもよいのですが、

ニコニコ動画の最大の特徴として、見ている動画の前面に、

視聴者がコメントを書き込めるという機能がありまして、

アニメを見ていても、そのアニメの原作勢(注:原作を先に読破している方々)

が、アニメの尺の問題でカットされた説明などを補足してくれたり、

まあ、いろいろと楽しみ方が増えるわけです。

それがないと、世界とつながっている気がしなくて、ただただ見ていても、

味気ない気がしてしまうのですね。

そんなわけで、復旧を待ち望んでいるのでした。






拍手[0回]

文化祭、終わりました!

なかまくらです。

今年度も文化祭をなんとか乗り越えました!

3年目。

良くなったところと、全然良くなっていないところがある文化祭運営です。

良くなったところは、ごみの削減、展示のバリエーションが増えたことなどです。

良くなっていないところは、残業時間が減らないことです。

今年度も5月の31連勤、202時間のサービス残業と、6月の毎日午前様の残業によって、

当日までこぎつける凄まじい日々でした。

これは、仕事を割り振る能力が不足していることからくるのだと思うのですが、

なかなかどうして、難しい。

お願いしたことに対して、こちら側がどれくらい責任を持つべきなのか、

その塩梅がわからないのですよね。

その仕事をしてくれなかったときに、どれくらい最後に帳尻を合わせる仕事を

するべきなのか、・・・うーーむ。難しいところです。


一方で、運営してくれた生徒たちは、すごく良い経験になったようで、

終わった瞬間、涙に目を潤ませている様子でした。

その経験のために、頑張った半年間でした。





拍手[0回]

【小説】少しだけ

なかまくらです。

最近、「カメラを止めるな!」の上田監督のショートムービーを見ました。

それで、ああ、こういうの、あるなあ、と思って、

私も試しに書いてみることにしました。

まあ、こういうのは、なんかこういう感じですよね、という何かだなぁと。

そんなわけですが、どうぞ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「少しだけ」

                           作・なかまくら
「半分、出せるか?」 父は言った。
補助輪のついていない自転車を、離さないでね、と懸命な私に、父は言った。
「半分は、自分で頑張らないと、できるようにはならないさ。初めから100%じゃなくていい。でも、50%の頑張りは、するんだよ」
私は、そんなに頑張れる子には育たなかった。受験も大変で、私立大学の高い学費を無理して工面してもらうことになった。けれども、私は頑張れなくて、留年もしてしまう。悪い友人に誘われて、遊びが忙しく、単位を落としてしまったのだ。
父と母、それから私。家族会議が開かれた。
「半分、出せるか?」 父は、じっと考えてから、そう言った。
「うん」 私は、答えた。
翌年、私は晴れて大学を卒業し、会社員になった。仕事は大変で、思うようには進まなかった。もっと頑張れ、と叱咤激励される古い風土のある会社だな、と耐えるための呟きをSNSに散らかして、なんとかやり過ごしていた。
そんなある日、父が倒れた。病院に駆けつけると、母がいた。一命はとりとめたが、今までのようには働けないだろう、ということだった。
「・・・半分、出せるよ?」 私は言った。
言って、思った。なんて情けない言葉だったのだろう。どうして、「全部」って言えないのだろう。父もそうだったのだろうか。知らないところで、たくさんの無理をして、この家を支えてくれた父は、どんな気持ちだったのだろうか。
私の長い沈黙を待って、母は言った。
「あなたの人生だもの。全部、あなたのために使っていいのよ。」
「でも・・・」 そう言う私に、
「でも、そうね・・・。じゃあ、少しだけ、お手伝いをお願いしようかしら」
「うん・・・。じゃあ、少しだけ」
私の少しだけの仕送りはそうして始まった。
2日間の休みをもらった後、私は会社に出勤する。同僚の一人一人が違って見えた。頑張ってみようと思った。
今よりも少しだけ、もう少しだけ。





拍手[1回]

カレンダー

10 2024/11 12
S M T W T F S
2
3 4 5 6 7 8 9
10 12 13 14 15
18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

アーカイブ

フリーエリア

ブクログ



ブログ内検索