1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】怪獣たち

なかまくらです。

新作です。怪獣ブームが来ています。

どうぞ。


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怪獣たち

                   作・なかまくら



打ち上げ会場は、近くの公民館だった。映画の撮影に、エキストラで協力してくれた地域の方々のご厚意もあって、格安で貸してくれたのだ。
 出来合いのオードブルを、近くの仕出し屋に頼んでお酒も大量に買い込んだ。今日来るスタッフを労うのが、私のこの現場での最後の仕事だ。
 砂利の敷き詰められた公民館の駐車場に車を停めて、借りてきた鍵を鍵穴に差し込む。扉を開くと、い草のにおいがした。お座敷に丈の低い机を並べると、ちょうど、監督の相沢さんの奥さんが到着した。
「あら、約束の時間遅れちゃったかしら?」そう言って、腕まくりをする相沢さんの奥さんに、私は首を横に振る。
「いえ、ちょっと張り切りすぎちゃって」
「いつも、ありがとうね。主人は、目の前のやりたいこと以外、全部疎かになっちゃうから。着替えだって、シャワーだって、食べることだって忘れちゃうことがあるくらいなんだから。信じられないでしょ?」
「いえ、まあ・・・」
「それに共感できちゃったら、終わりの始まりよ! ・・・でもまあ、だから、一緒にお仕事されているんでしょうけど」
そんな他愛もない話をしながら、会場の準備は終了する。
「まだ始まるまでには随分と時間があるわ。シャワー、浴びてきたら? 近くに銭湯があるそうよ」
「いえ・・・」と言いつつ、私は強烈な睡魔が襲ってきているのを感じていた。昨夜は、まず、最終章ド頭のシーン。海面から上がってくる怪獣のシーンを撮影した。夕焼けを背景に撮影し、夜の更けた街を舞台に怪獣と人造機械との決戦シーン、そして朝焼けを背景に怪獣がとどめの一撃を放つシーン・・・とスタッフ一同、決死の撮影が敢行された。その撮影の果てに、誰もかれもが、カフェイン塗れになりながら、得られた映像に獰猛な雄たけびを上げ、そして、撮影は終了したのだ。もちろん、怪獣の着ぐるみのアクターも、雄たけびを上げていた。
「相沢さん」
「なんですか?」
「すみませんが、隣の部屋で仮眠をとらせていただきます。皆さんがきたら、起きますので」
「分かりました。会が終わるまで、よろしくお願いしますね」
「はい」
 隣の部屋は、台所になっていて、そこに、車から寝袋を持ってきて、敷いた。昔懐かしい雰囲気の引き戸の戸棚にはいつの日にか綺麗にして、そのまましまったままになっている食器たちが眠っている。例えば怪獣が来たら、こうだ。その食器たちは、怪獣の来襲を知らせるように、お互いに震えあい、身を寄せ合う。足音は聞こえない。ただ、食器がカタカタと震えるのだ。それから、私にも聞こえる足音が低く、伝わってくるようになる。そして、咆哮。
 気が付けば、日が傾いて、台所は薄暗くなっていた。曇りガラスの戸をそっと開けると、スタッフの方々が思い思いの場所に座っていた。どうやらいつの間にか乾杯も済んで、すっかり出来上がってしまっているらしかった。
「監督が作ると結局、また怪獣が町を破壊しちゃうんだよなあ」これは助監督。
「いいの! 怪獣映画は神話なんだと、ぼくは思うんだよね。だから、怪獣は人間の道理で人間が戦おうとしている限りは決して敵わないと思うんだ。」
「で、監督は怪獣の伝道者ってわけだ」これはカメラマンさん。
「怪獣の魅力を人類に思い知らせる!」これは怪獣の中の人。
「怪獣映画はさ、見て分かりやすく! だけど、どこかホッとするようなものにしたいんだよね」
「怪獣映画でホッとする?」助監督が、またまた~、と、お酒を監督の空のグラスに注ぐ。
「うん。怪獣は、最後は倒される運命にあるのかもしれない。それはきっと、人間が作る怪獣だからなんだ。でも、そうじゃない。ぼくたちの中にだって、怪獣は潜んでいる。その怪獣は、そんな風には割り切れない。誰かに対する憎しみだったり、妬みだったり、自分のコントロールできない、見たくない部分の種を持っている。それはもしかしたら、すべての生命体が持っている、滅びの種みたいなものかもしれない。」
監督は、お酒をグイっと飲み干す。
「その滅びの種がさ、映画の向こうで暴れてさ、街を壊すわけ」
「今回も気持ちよく壊してくれましたからね!」これは特殊効果の爆薬担当。
「そうそう。派手にね! そうすると、怪獣も少しは溜飲が下がるのかもね。仲間の怪獣が代わりに怒ってくれたって。・・・最近、奄美大島でマングースが根絶されたんだって。」
「へえ。あれ、ハブとマングースを戦わせるために、マングースを連れてきたんでしたっけ」これは脚本協力の作家さん。
「うん。でも、マングースはハブとは戦わなかった。代わりに、島の固有種を食べてどんどん繁殖したんだ。」
「そうだったんですね。人間の都合で連れてこられて、それで、今度は人間の都合で処分される」作家さんはあごひげを撫でて話を飲み込もうとしている。
「それで、思ったんだ。誰が人間で、誰がハブで、誰がマングースなんだろうって」
監督は、さらに盛り付けてあった唐揚げを豪快にほおばる。咀嚼を繰り返し、それから、ビールを流し込む。
「怪獣はマングースなんだろうか、ハブなんだろうか。人間の都合で作られて、人間の都合で都合よく退治される。違うね。怪獣は神話なんだ。ぼくたち人間こそがマングースかもしれない。怪獣が人間の役で、怪獣が連れてきたマングース役の人間が、ハブと戦わないから、もういいよって、愛想をつかされそうになっている。ぼくたちの心の中の怪獣が、あちこちで姿を現そうとしている・・・」
「もはや、ヤマタノオロチのごとく、酒に酔った我々には少々、刺激が強すぎるようですな」これはプロデューサーさん。
「あ、こっちだよ! こっちこっち!」
戸の向こうの明るい世界から、監督がわたしを呼んでいた。
「あ、すみません! 私、すっかり! うっかり! してしまって!」
「いいのいいの。準備、万端だったから、もう、いい感じに始めちゃったよ! ありがとね」
そう言って、監督は、お皿に取り分けたミートソースを頬張った。
お座敷のあっちもこっちも、いくつもの集まりができていて、どこもかしこも、少年たちのように目を輝かせていた。それは眩しくて、それが怪獣たちの輝きだとしても、・・・いや、だからこそ居心地が良かった。





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鞄の新調

なかまくらです。

仕事鞄を新調しました。



青木鞄の一品です。鞄ですが、財布、携帯、手帳を持っていけば充分ですので、

大きいものはいらないかな、というわけで、B5サイズの鞄で十分だなと

気付いてからは、ずっとこのサイズです。

ガラスレザーが綺麗な鞄で、お値段もなかなかですが、

この鞄を持って仕事に行くのは、少しだけモチベーションが上がるので、

いい感じです。





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「つづきのはなし」観ました。

なかまくらです。

浜松西高校さんの「つづきのはなし」を観ました。


あらすじ

ミステリー研究会のユミカとアイは、校舎の階段の踊り場にある大鏡に幽霊が映ると聞いて、

夜中の学校に忍び込む。そこから、人影が出てくる。

その人影の人物ケイスケは、なぜか、ユミカのことを知っていて・・・。

そして、ミステリー研究会のもう一人の部員、トウコはケイスケの従妹だった。


まるで平行世界から現れたようなケイスケは、1年間に起こった事実を語る。

地震が起こり、福島原発の事故が発生し、転校。その先で、放射能が感染すると、

いじめをうけ、それをかばったユミカは自殺に追い込まれ意識不明だという。


その事実を認められないトウコの言動が、この世界とありえないはずの現実の記憶を

つなぎ合わせる。

しっかりしていて、それは変わることが怖くて勇気を出せないトウコの気持ちが

吐露されたとき、ユミカとケイスケは元の現実に戻り、それぞれ諦めないで

生きていくことを誓う。そして、トウコは・・・。


現実に戻ったケイスケとトウコは、意識の戻らないユミカのお見舞いに行く。

空は良く晴れていた。


というようなお話でした。

辛いお話だなぁ、という感じ。今年の夏には南海トラフ地震臨時情報が発信されて、

多くの人が、活動を見合わせたりしました。そういったことも、このお芝居を選んだ

背景にあるのかな、と。

それぞれ、感情がよく伝わってくるお芝居でした。

間の取り方とか、感情のこもり具合が台詞によって変わっているように感じる場面や、

少し、登場人物同士の距離感が演劇的で近過ぎるのは、違和感もあって、

そのあたりはもっと上手になる余地があるかな、と思いました。


靴の裏にゴムみたいなのを貼っていて、足音が気にならないようにしてあったのは、

細やかな気遣いで素敵でした。

ケイスケ君の制服のポケットのふたが片方だけ出ていたのは、ちょっと気になりましたが、

彼はイケメンでした。

最後のMEは、大きすぎず、心地よい希望を持たせてくれるいい感じでした。

暗転も短くて気持ちが途切れずに最後まで見られてよかったです。






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「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」観ました。

なかまくらです。

「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」観ました。

デジモン25周年、ということで、Youtubeで無料配信していたので、視聴。



あらすじ。

”選ばれし子ども”となって、デジタルワールドをかつて救った少年たちは、

高校生、大学生になっていた。

八神太一や石田ヤマトは、就活の時期に差し掛かっており、自分の人生に悩んでいた。

一方、社会では、デジモンの存在はすでに認知されており、

デジタルワールドからゲートがたまに開くたびに、

太一たちは、会社を立ち上げた光子郎のサポートの下で、

デジタルワールドへ追い返すことをボランティアでやっていた。


そんなある日、意識不明に陥る人が続出する事件が起こる。

これに絡んでいるエオスモンというデジモンの捕獲をデジモンの研究をするメノアに依頼される。

ところが、エオスモンはオメガモンにも匹敵する力を持っていた。

しかし、徐々にエオスモンを圧倒するオメガモンだったが、とどめを刺す瞬間に、

突然、オメガモンの合体が解けてしまった。

その原因は、太一とヤマトにあった。

パートナーとなるデジモンを進化させていたのは、子供であった彼らの無限の可能性にあったのだ。

大人になる彼らは、どれかの道を選ばなければならないところに来ていた。

その別れは、パートナーデジモンの消滅という結末であった。

かつて、その別れを経験していたメノアはその別れを防ぐ方法を研究していたのだ。


しかし、彼女は、その結論として、意識を永遠に閉じ込める、という手段に

たどり着いてしまう。そうすれば、永遠にパートナーデジモンといられるのだ。

エオスモンはそのために彼女が生み出した人工デジモンであったのだ。


そんなのは間違っている、と彼女に戦いを挑む太一とヤマト。

アグモンとガブモン。

それが最後の進化となったとしても、人々を助ける道を太一とヤマトは選んだ。


戦いが終わったとき、

明日は何をする? と聞かれた太一とヤマトは、

分からないな・・・。と口にする。


だけどWOW~~ 明日の予定もわからない~♪

それは、可能性を感じる言葉。

結局は、別れを迎えてしまった二人はけれども、

前を向いて進んでいく。再会の日を信じて・・・。


という感じでした。

デジモンが出てきたのって、ポケモンが流行っているころで、

ポケモンも好きでしたが、デジモンも大好きでした。


あの頃のモンスターというのはどこか不気味さを持っていて、

「デジモンアドベンチャー」は、1999年に始まった作品で、

まさに、コンピュータが社会ではよくわからないところも多い感じで、

2000年問題、なんてものが取り沙汰されたりとかそんな時代背景だったから、

デジタルワールド(情報の世界)が現実世界に影響を与えて、オーロラが発生するとか、

コンピュータの中にデジタマ(デジモンの卵)が突然現れて、成長したりとか、

そんなこともあるのかもしれない!! なんて思えるそんな時代だったように思います。


その第一作のオマージュをふんだんに取り入れながら、

太一とヤマトをはじめとした、デジモンアドベンチャーの第一作の最後を描いてくれた

この作品は良かったなぁ、と思います。「tri.」なんてなかったんだ・・・。

強いて言えば、源内さんが別れを食い止める方法を聞かれたときに、

「無限の可能性があればあるいは・・・」

と言っていたので、それが実現しても良かったのになあ、と思わなくはなかったですが。。

その伏線、どこ行った!? それは未来に託すということかな・・・?

まあ、全体としては良かったかな。そんな作品でした。

おわり。





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「紙」観ました。

なかまくらです。

MUNA-POCKET COFFEEHOUSEさんの第26回公演「紙」を観てきました。

抽象的なお芝居だったので、あらすじというほど、粗くでも、掴むのは難しいのですが、

うーーん、文明の発展と現在の世界情勢、みたいなお話でした。

最初にマッチングアプリで出会った2人の言い合いから始まります。

2人は、意見が合わない様子。別れ話みたいな感じ。

なんと10分くらい、別れ話をしている笑


そのあと、人がドバドバーっと増えて、みんな個性的。

彼らは会社を作って、偉くなったり、いろいろする。

後から思うと、ここのところは、文明の発展を描いているのかな、と思えて、

面白いのですが、この時点だと意味不明。それぞれの顔見せみたいな感じ。

ところが、ここで、既に30分くらいが経過しています。

ちょっと苦しい展開が続きます。最初の2人はどこへ行った・・・?


そして、選挙活動が始まります。政党を作り、選挙演説をする2つのグループ。

けれども、最終的にそれに打ち勝ったグループとは別の集団が結局は現れる。

このあたりも、あとから思うと、中東の人たちを何も考えていない西側諸国の

勝手な争いで面白いのですが、この時点では意味不明で、コミカルに描かれるけど、

ちょっと苦しい感じでした。最初の2人は、別の勢力に飲み込まれていきます。


そして、一方の勢力が勝ち、世界に布教を始めます。

この辺から、ようやく、何が言いたいのか分かってきて、だんだん展開が読めてきます。

シルクロードに見立てた、ロール紙が舞台を覆いつくして、そこに、中東の宗教が

生まれます。それに集まる人々を、協調性がないとして、隔離して、閉じ込める。

彼らは、見えないものを信じる、白紙の紙のような純粋さで、

それと同時に、西側諸国の契約社会と一線を画する、世界観で生きていて、

それと相いれない西側諸国が武力攻撃に打って出ます。ところが、この航空機は、

観客に配られた紙なのです。そこでようやく再会を果たす最初の2人。

2人は2つの勢力に分断されていて、その中で翻弄されていたのです。

2人は逃げようとしますが、私たち観客が投げつける航空機による爆撃が、

それを阻みます。これはかなり、いたたまれない展開でした。

そして、人間がどうにかすることのできない、雄大な自然を見に行こう、という、

誘い文句で、2人は逃亡します。3割の生存確率を必死に手繰り寄せようとしますが、

希望は片方だけ、少しだけ残されて終わります。


ラストシーン直前のシーンでは、中東出身の設定の女の子のほうが、

もうずっと泣きそうな感じで走っていて、

こっちにもその感情が伝わってきて、迫真の演技でした。



全体の感想としては、前半でもうちょっと視点をもつ人物を決めてもらって、

誰かの体験として、劇に伴走していくことができれば、苦しくなかったのにな、

という思いと、4幕目の色々なこれまでのことがすべてつながってくるシーンの、

その視界の開ける体験の圧倒される感じが、ありまして、

うーーーん! 面白かった!!!

とは言いづらいけれど、もう一度見たら、面白いだろうなー!

というお芝居でした。おわり!





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