2012年、
超短編小説会 超短編祭参加作品。です。
お題は、「 『 ウィンター 』、『 ウォーズ 』、『 魔法 』、『 微熱 』、『 チョコ 』
『 いつか 』、『 来た道 』、『 帰り道 』、『 風 』、『 センス 』、『 私 』
『 幸福 』、『 質問 』、『 百者 』、『 騙り 』、『 入道雲 』
『 騙された 』、『 誰だ 』、『 煙突 』、『 手紙 』、『 魔導 』、『 士 』
『 今更 』、『 ながら 』、『 自己紹介 』」
から、なるべくたくさん言葉を入れて、書く。です。探してみてください。
23個入っているはずです(ひとつはひらがな)
ミステリー風・・・? です。
よかったら拍手でもください。
では、どうぞ。
***
キラータイトル
生きるってなんですか。夕焼けに牛乳配達の若者が鼻歌交じりに自転車をこいでいる。
長い坂道の途中で、その顔は紛れもない真剣そのもの。
真っ赤に染まった顔はまるで血みどろの戦場の衣装。
集合住宅の前でいったん降りて、牛乳を木箱に並べて入れると、少年は再び鼻歌交じりに歌いだす。
*
個性的な焦げ茶色に染まった入道雲が幸福な質問を携えていた。
白塗りされた建物の窓から、外の様子が見える。男はカーテンをぴしゃりと閉めて、その外とのつながりを断つと、机へと向かう。男は作家だった。羽ペンが舞い踊り、部屋の中を飛び回る。
決して覗いてはなりませんぞ。
壁には騙された魔道士たちがべたべたと張り付いて、覗き見をしている。
物語という牢獄からの解放の時を待っているのだ。
没キャラクターになったもの、モブキャラ扱いにされたもの。
怨嗟の声が自己紹介となって、男に流れ込んでいく。あふれかえった物語。
ふいに開いてもいない窓から一陣の風が通り抜ける。
はっと振り向いた、男は。
部屋に魔が差しこんで、真っ赤に染まっていった。
魔道士たちは笑いながら飛び去っていく。
まるで初めから、その瞬間を見るために集まった観客であったように、振る舞い、
我関せずと、笑っていた。
*
探偵の朝は早い。
ウィンナーバーゲンで大量に買い占めた腸詰めをフライパンにいくつかつかんで載せると、かりっと焼き上げる。外からは毎朝パン屋が、焼きたてのパンと事件を届けに来る。
「おい、探偵。知ってるか?」
パン屋はうわさ好き。街一番の情報通。
来た道を帰ろうとするとな、後ろに見たこともない煙突街が見えるんだ。
ちょこっと手紙を渡しただけで、魔法みたいにあの子たちはカップルになっちゃったんだ。
センスで仰ぐと、いい風が吹いたんだって。
この世界は物語にあふれている。ありふれた事件に一喜一憂し、微熱を帯びたように浮ついた気分に浮かれる沈む。燃えることもなく、消えることもなく、不完全燃焼の真実が、有毒ガスを吐き続ける。空は晴れず、石畳のストリートはよくない霧に包まれる。
「そうそう、聞いたか? ウォーズストリートの事件」
パン屋は、うっかり持ってきた焼きたてのパンを食べながらいう。
「ああ・・・作家の・・・殺されたっていう」
探偵はうっかりコンソメスープを出す。
「そうそう。依頼人を連れてきた」パン屋は、持参した舟型の精巧なクルトンをコンソメスープに浮かべながら、そう言った。
「あのぅ~」
「誰だっ!?」
「依頼人です!」
探偵の背後には礼をした依頼人が立っていた。探偵は、コンソメスープで一息つくと、
「私の背後に立つべからず、という紙を背中に貼った」。
「あのぅ~、この人は何を言っちゃってるんでしょうか?」依頼人は動揺し、
「仕方がないな」探偵は、事情を飲み込めない依頼人に、コンソメスープで一息つかせた。
パン屋が『この帰り道はいつか来た』という題の絵の裏にあるスイッチを押す。
ウィン
ターンテーブルが開いて、この街の地図が出てくる。
ついでに事件についてチョコっと尋ねたところ、こうだ。123。
五日前、ウォーズストリート4番街の一角にある集合住宅「百者之家(モモ・モノノケ)」の3Fで、作家のオオタナさんが殺されていた。
部屋には、鳥の羽が散乱しており、ペットの“かたりーぬ(ゲコ)”は、卵を産卵していた。
部屋には他に異常はなかった。強いて言えば、羽毛布団がずたずたに切り裂かれていたくらいだった。
「なんだ。オオタナさんはニワトリ人間とでも争ったのか?」探偵が聞く。
「まあ、ケッコーコケッコーな、人でしたから・・・」と、依頼人は答えた。
「君と犯人には一見接点がなさそうに思えるのだが?」探偵が調査ファイルを開く。
「最近近くのバーで小説クラブを結成したんです。そのメンバーでした。彼も、私も」
「小説クラブ?」探偵は、ターンテーブルに乗っかると、華麗なステップを披露した。
「はい。テーマを決めて小説を書くんです」テーブルは回転を始める。
「どんなテーマで?」探偵はトリプルアクセルを決めながら尋ねる。
「そ~れ~は~・・・」依頼人は目が回って、気が付くとすべては白日の下に曝されていた。
「なるほどな・・・」探偵を中心に世界は、回っていた。
「なんだか・・・個性的、ですね」依頼人は上の空にぼそっと言った。
**
数日が経ち、再び事件は起こる。
パン屋が扉に吸い込まれるように飛び込んできたので、探偵はパン屋と連れ立って、扉に吸い込まれるように飛び出た。扉についた鐘が普通にカランと鳴った。それからその音はお隣さんちに吸い込まれていった。
探偵たちは外に止めてあった車にムーンウォークで乗り込むと、エンジンをかけた。
“ながらっ、ながらながらながら・・・がらがらがらがら・・・”と車は虹色の排気ガスと生きてるみたいな変な音を吐き出し続けるので、
「おいパン屋、がらがらうるさいぞ、このポンコツ。車検に出したらどうだ!?」と探偵がいうと、
「今更新してきたとこなんですけどね~」とパン屋は、無駄にかっこよく車を発進させた。
事件が起こったのは会議室。煙突が伸びる製紙工場の隣。出版社本社、雑誌の編集会議の真っ只中であった。
ライターが無差別に一人を除いて全員殺されていた。あたりには、羽と原稿が散らばっている。
「編集長、いったいライター達に何があったんですか?」パン屋が編集長に詰め寄っている間に、探偵は、
「犯人は羽の生えた人物だ。この羽をDNA鑑定すれば・・・」と、考えたが、
「しまった・・・、それは今読んでるSFの中の話だった」現実と空想が区別つかなくなっていた。
「いえ、私はただ・・・もっと個性的で、面白いものを書け、と叱咤激励をですね・・・」
編集長がハンカチーフで汗を拭いていると、死体リストをみていたパン屋は、あることに気付いた。
「おい、探偵。これを見ろ!」
そのリストの中には、先日の依頼人の姿があったのだった。
「依頼人・・・守れなかったのか」
夜の風が吹いた。
***
彼が最後に何か伝えようと握っていた紙きれを、探偵はランプの明かりに照らされながら読んでいた。
それから、羽ペンをとる。
「この事件、巨大な何かが動いているような気がする」
探偵は引き出しを開けると、ノートを取り出し、横に置くと、手紙を書いた。
のっぺりとした文章を書く。それは誰にでも替えが効くような文章で、部分的にパーツを交換してもよいような汎用的な暗号。この暗号でも十分人を引き付けてやまないだろう。微熱を帯びた文章は人々に感染し、やがて治っていくのだろう。いつだって、そうやって人は人を喰らって生きているのだろう。
書き終えると探偵は、ひとつ息をついた。それから、ノートの端にマッチで火をつける。
「ここから先は、一人でいい」手紙はパン屋のおっちゃんに送られた。
探偵は、もうひとりでいい。
**あとがき**
犯人は、誰でしょうね^^;