なかまくらです。
本日の更新は小説です。
いろいろとバタバタしておりまして、
少し前に書いたのですが、公開せずにそのままになっていたので、
公開しておきます! それではどうぞ。
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「2つめの魔法」
作・なかまくら
私の魔法はみんなとは少し違う。
杖ととんがり帽子が必要だし、女の子だったらスカートもできればひらひらじゃないといけない。体内に満ち満ちた魔法が噎(む)せ返るような奔流となって、鼻の奥がツンとする。少し涙目になるけれど、それは我慢。
「火の源氏たちよ、盟約に従い、その力を顕現せよ!」
決められた言葉が宙に魔方陣を描き、それが完成すると、魔法が発動する。燃えさかる炎が姿を現し、魔法によって、球体にまとめ上げられていく。ときには赤く、ときには青白く揺らめく火球のその熱がチリチリと私の肌を炙っている。
「ファイア!」
その言葉とともに、火球は獲物を見つけた獣のように獰猛さを得て、飛び出す。狙いをそらそうと、走り出している少年に向かって。少年は、走りながら冷静に腰に手を伸ばす。
「アオはいつだってやり過ぎる・・・。冷凍壁!」
一言、愚痴に続いて呟いた短い言葉によって、見事な氷の壁が立ち上がる。
「そんな壁、焼き尽くしてくれるわ!」
私は、杖を振って叫ぶが、意味は無い。放たれた魔法に何かを付け加えることはできない。気分だ。氷の壁は火球に炙られてみるみる薄くなっていく。
「あーもう! これ、高いんだからな!」
少年が文句とともに再び腰に手を伸ばす。ペリペリとテープをめくると、複雑に編み込まれた接着面がそれに応じて剥がれて魔方陣が宙に描かれていく。
「青海波!」
魔法が効果を発揮し、周囲が波に覆い尽くされていく。火球に触れたところから次々と蒸発し、水蒸気があたりを埋め尽くしていく。
私は次の魔法を考えていた。火、風、水、土の四つの源氏をうまく使い分けることがポイントだ。この水蒸気を生かすには・・・。
「火の源氏たちよ、熱を奪い、凍てつく刃となって・・・うわっ!?」
詠唱の途中で、土の中に飲み込まれる。
「そこまでっ!!」
制止の合図が入り、訓練の終わりが告げられた。
*
「まーた、威力が上がってるよなぁ・・・。ほい、あったかいの」
今日の訓練相手だった少年キユが、コップを差し出していた。
「どーも。今日のあれ、なに? 新製品?」
「そう、青海波っていう水の魔法のマジックテープなんだよね」
「3つめは?」
「あれは、液状化のマジックテープ」
「マジックテープねぇ・・・」
「使えば良いのに。便利だよ?」
「便利なんだろうけどね・・・、お母さんが嫌いって言うの」
人の編み出した魔法科学の研究は、真理の研究と意識の研究に分かれた。そして意識の研究から生み出され、製品化されたものがマジックテープだ。市販化された魔法具として、それは多くの人が利用するものとなっていた。
「アオの魔法はさ、由緒正しくて、だから高い威力を込めることができるし、悪いことじゃないと思うけど、なんというか・・・」
「古い! 古すぎる! そんな時間がかかっちゃ、実用性がない! 魔物には通用しない!」
私は拳を握り、演説・・・の真似事をする。
「・・・でしょ?」
「分かっているなら、なおさら分からないよ・・・。」
本当に心配してくれているキユの感情が伝わってきて、ふと私は少し申し訳ない気持ちになる。そこで、今の私の本当のところに少しだけ光を当ててみようと思った。
「分かっているから、かもしれない。いいえ、分かっていないからなのかもしれない」
「ううーん、伝えようとしてくれてありがとう」
キユがそう言って笑うので、私も、笑うことにした。
「みんなが使っているのは、魔法じゃない・・・のかもよ?」
「え?」
「それは、過去に魔法が発現した条件を擬(なぞら)えているだけ。だから、源氏たちも、力を貸してくれているわけではないわ。私はそんな魔法は嫌なのよ。だって、魔法は人と源氏の間に起こる奇跡なんだから」
「そんな・・・そんなことって・・・?」
キユの動揺をひととき眺めて、
「そうだったらいいなって話。これが短編小説じゃなかったら、この後大変なことが起こって、私以外の力が封印とかされちゃって、もうとにかく大変なんだからね!」
「そんなことってある?」
「だって、どうしてそうなるのか理由が分からないことは、そうならなくなっても理由が分からないでしょ?」
「それは困るなぁ」
真剣に困り出すキユ。私と私の一族の抜け出せない憂鬱を真面目に聞いてくれる人。だから、好きな人。キユはしばらく唸って、それからこう言った。
「・・・ねえ、僕にも、できそうな魔法ってある?」
それから、私とキユは、それぞれいくつかの魔法を使えるようになって、源氏を巡る星の運命をかけた戦いに巻き込まれていくのだけれども、それはまた別のお話で。