なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)
40分くらい、キーボードを叩いてたら、書けました。
なんか心がざわめいて落ち着かない。不安定は今は要らないのよ。
明日からまた頑張ります。なんか字が小さいので、ブラウザの拡大機能を使って大きくして読んでください。
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明日が僕らを呼んだ話
作・なかまくら
明日が僕らを呼んだ話
120716
明日が僕らを呼んだって?
それは嘘だ。明日が僕を呼ぶわけがない。
・・・明日というのは、トゥモローのことだろ? ああ、君はよく似ているけど、トゥモローという名前じゃないのか。
じゃあ、とっておきの話をしてあげよう。明日が僕らを呼んだ話だ。
++
ある日の昼休み。
僕らのクラスはいつもにも増してざわついていた。僕らの真ん中には僕らとあまり変わらない背格好の男の子がいた。いや、この場合、男の子というのは少しおかしい。彼はロボットだった。
僕らは口々に僕らのことを話した。中学生なんて、他人への興味よりも、まだ自分のことばかり考えているようなやつらばかりで、彼はうんうん、と聞いてはときどき相槌を打っていた。彼の自己紹介は既に一通り終わっていて、彼によれば、彼は、中央電子演算塔で造られた新品のロボットなんだとか。
彼は、僕らよりも計算がずっと得意で、漢字の間違いとかもずっと少なかったけれど、中間テストの国語なんて、ひどい点数をもって、僕らは一緒に教室で居残りの宿題をやった。
ロボットなのに好き嫌いもあって、給食の時間になると燃料ドリンクをまずそうな顔でぐいっと、やって、
「ぐはー、やっぱ、まずいわ、これ」なんて、まずそうな顔で言うから、僕たちは牛乳を噴き出して大笑いした。
彼の顔は、青汁を飲んでいる父さんの顔にそっくりだったから、僕は人一倍笑い転げていた。
ある日、道徳の時間になると、ロボットの彼に名前をつけよう、ということになった。僕らは、勝手にトゥモロー、トゥモローって、読んでいたから、なんで? って、顔で先生を見ていた。すると、先生は言ったんだ。
君たちは、自分たちの名前、好き? その名前はね、お父さん、お母さんが君たちが将来幸せになれるようにって、一生懸命考えてつけてくれた名前だから、好きになれるんだよ。君たちは、彼の名前、一生懸命考えたかな? 幸せになれそうかな?
僕たちはしーんと静まり返ってしまった。トゥモローの名前は、彼の服に僕らがいたずらでつけたトウモロコシのシールからつけたんだ。とうもろー、とうもろー、とぅもろー、トゥモロー。とうもろこしで幸せになれるのは、お祭りで焼いたトウモロコシの時だけだ。僕たちが黙っていると、トゥモローは、こう言ったんだ。
「先生、でも、僕、このクラスに来れてよかったです。幸せです」
先生は、僕らの顔を見渡して、それから、彼を見ると、
「そう、じゃあ、これからもよろしくね、トゥモロー君」
そう言ったんだ。
僕たちはそれからも一緒に遊んだ。
それからしばらくは、僕たちは本当に幸せだった。
でも、僕たちの幸せな世界の外では大変なことが起こっていたんだ。
ある日、僕が家に帰ると、いつも仕事で遅い父さんが玄関で僕らの靴の裏の部分をはがしていた。
「ただいま」僕が言うと、
「おう、おかえり。早かったな」父さんは、作業する手を止めずにそう答えた。
僕は、
「・・・なに、してるの?」そう尋ねると、
「チップを外してるんだよ。チップがあると、どこに逃げてもすぐに見つかっちゃうだろ?」そういって、お父さんのお気に入りの少し底の厚いブーツにナイフが、入った。
戦争が始まるかもしれない。
僕たちは、トゥモローから、そんな話を熱心に聞いた。ロボットだけあって、物知りだ。前から、ロボットは独立した国を作りたいと、人間側と交渉していたんだって。人間政府は、ロボットには心がないと思っていたけれど、もし、心があるというのなら、ロボットとヒトは分かり合えるはずだって、そう考えて、トゥモローのようなロボットが、いろんな場所に送られてきたんだって。トゥモローは、それから、申し訳なさそうに僕らに謝った。「僕、スパイだったんだ」
僕らは、その時、守ろうって決めていたんだ。
テレビの中からだんだんと笑顔が点滅しだして、急によく笑って、消えた。
空にはヘリコプターがバラバラと雨のような音を学校の校舎に落としていくし、
学校自体も、毎日じゃなくなった。
電気が時々ちゃんと来なくなるころには、ロボットが町から追い出されるようになっていた。テレビが恐ろしい口調で、戦いを口にしたとき、僕は、トゥモローに聞いていた住所に向かって真っすぐに走った。僕が一番近くに住んでいた。郵便局の隣。そう聞いていた。
郵便局の隣・・・郵便局の隣には、家なんてなかった。古ぼけたロッカーが並んでいて、・・・そのひとつにトゥモローって、書いてあった。
僕はなんだか不意に力が抜けてしまった。
そのとき、ロッカーの上についていた回転灯がぐるぐると赤く回転しだす。それはぐるぐるとまわるたびに、ロッカーのドアを少しずつ押し広げて、ついには、中のロボットたちが露わになった。ロボットたちの顔は、僕たちと見分けもつかないくらいよく似ているけれど、その目は少し乾いていた。僕は、ずりずりと後ずさりをして、田んぼに背中から落ちた。そこから、ロボットたちが中央電子演算塔の方へ向かって歩いていくのを見ていた。
一体のロボットが近づいてくると、トウモロコシのマーク。トゥモローだった。
「大丈夫?」そう言って、僕が田んぼから抜け出すのに力を貸してくれる。
そんなロボットを、僕は、一瞬怖いと思ってしまっていた。
トゥモローは、分かっているのかいないのか、僕の方を見ずに言う。
「僕は行かなくちゃいけない。僕は、ロボットだから。でも、忘れないでほしい。ロボットだけど、君たちの友達だった。これは本当だった。だから、こう言うよ。さようなら」
トゥモローはそう言って、僕の前から居なくなった。
++
それから、戦争は起こって、トゥモローと同じ型のロボットが、たくさんやってきて、友達も家族もいっぱい死んだ。
「だから、自分は、軍に入ることを志願しました!」僕は、そう言って、直立の姿勢をとった。
「だが、君は、あるロボットと、友達だといって、教官に難あり、と退学させられたと聞いているが?」僕は、内心のくちびるになっているところを心の歯で噛んだ。
「はっ。決心は既に固まっております」僕の心は、丸く収まらない。
子猫が毛糸の玉をころころと転がすと、転がった毛糸玉が、転がる先から糸をこぼしていくように、僕の心は、丸く収まってはいなかった。
あとがき
実は、関連の話があるんですが、時間も気力もないので、まあ、気が向いたら。
いつか、どこかで。
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