1cm3惑星

なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】少しだけ

なかまくらです。

最近、「カメラを止めるな!」の上田監督のショートムービーを見ました。

それで、ああ、こういうの、あるなあ、と思って、

私も試しに書いてみることにしました。

まあ、こういうのは、なんかこういう感じですよね、という何かだなぁと。

そんなわけですが、どうぞ。

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「少しだけ」

                           作・なかまくら
「半分、出せるか?」 父は言った。
補助輪のついていない自転車を、離さないでね、と懸命な私に、父は言った。
「半分は、自分で頑張らないと、できるようにはならないさ。初めから100%じゃなくていい。でも、50%の頑張りは、するんだよ」
私は、そんなに頑張れる子には育たなかった。受験も大変で、私立大学の高い学費を無理して工面してもらうことになった。けれども、私は頑張れなくて、留年もしてしまう。悪い友人に誘われて、遊びが忙しく、単位を落としてしまったのだ。
父と母、それから私。家族会議が開かれた。
「半分、出せるか?」 父は、じっと考えてから、そう言った。
「うん」 私は、答えた。
翌年、私は晴れて大学を卒業し、会社員になった。仕事は大変で、思うようには進まなかった。もっと頑張れ、と叱咤激励される古い風土のある会社だな、と耐えるための呟きをSNSに散らかして、なんとかやり過ごしていた。
そんなある日、父が倒れた。病院に駆けつけると、母がいた。一命はとりとめたが、今までのようには働けないだろう、ということだった。
「・・・半分、出せるよ?」 私は言った。
言って、思った。なんて情けない言葉だったのだろう。どうして、「全部」って言えないのだろう。父もそうだったのだろうか。知らないところで、たくさんの無理をして、この家を支えてくれた父は、どんな気持ちだったのだろうか。
私の長い沈黙を待って、母は言った。
「あなたの人生だもの。全部、あなたのために使っていいのよ。」
「でも・・・」 そう言う私に、
「でも、そうね・・・。じゃあ、少しだけ、お手伝いをお願いしようかしら」
「うん・・・。じゃあ、少しだけ」
私の少しだけの仕送りはそうして始まった。
2日間の休みをもらった後、私は会社に出勤する。同僚の一人一人が違って見えた。頑張ってみようと思った。
今よりも少しだけ、もう少しだけ。





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