なかまくらです。
書いたので。なんか、連続ですけどww
んー、最初に思ったほど面白く書けなかったので、いつか書き直すかも。。。
でも、まあまあ、面白く書けたかな^^
久しぶりにファンタジー書きたくなってきたなぁ~~。
でも、王道ファンタジーって、もういくらかいても終わらんのだよね・・・・・。
ま。
とりあえず、どうぞ。
ワニは庭に
僕の家の庭には二羽、ニワトリがいた。
とさかが鋭いのがジョージで、羽が雄雄しいのがパトリック。
庭には小さな池があって、池の真ん中の苔むした噴水口の辺りがジョージのお気に入りの場所だった。
パトリックはといえば、庭の端っこの方のりんごの木の下でよく涼んでいた。
「昼ごはんにしよう」
縁側に出て、僕はふたりによく声をかけたものだった。
「タマゴ料理は嫌いだからな!」と、ジョージ。
「どちらかっていうと、クワガタというやつが苦手だ」と、パトリック。
僕はどちらかというとパトリックと仲が良くて、ジョージの鋭いとさかによく似た性格が少し苦手だった。
*
僕らはよく話をした。
庭には夏の日差しとその立ち上る熱気を佩くように流れる風。
北風と太陽の話。
僕らは道を行く哀れな旅人だ。ただの旅人ではない。3人の道連れ達である。
昨日読んだ冒険の書の話。
それから、
庭の鼻先を通っていったとびっきりの美人の話。
庭に生えた木野子と食あたりの話。
通りがかった数学者の残した難問の話。
それから、
僕らが動物であること。ヒトであること。ニワトリであること。ワニであること。
季節はそうやって話の外でも中でもページをめくっていった。
*
「キミとはもうやってらんないね」
「ああ、音楽性が違うんだ。往年の名バンドのように潔く解散しよう」
「ああ、キミのチキンッぷりには、嫌気が差した。ROCKじゃないね」
「ああ、キミの行動には気持ち悪くて鳥肌が立つよ」
ある時ジョージとパトリックは宗教的な問題によって喧嘩をする。卵が先か、ニワトリが先か。
彼らの対立は根深く、パトリックは、僕の家の庭先から僕の家のリビングに転がり込んでくる。
僕はその一部始終を、
腕に生えたワニの鱗をかさぶたみたいにぺりぺりと剥がしながら、じっと見つめていた。
*
僕らは生まれた。
僕が生まれた頃、僕らは一斉に産声を上げる。
なんとかかんとかのベビーブームがハローベイビーとばかりにやってきて、世界中で試験管が、「ベイビー」と喚いた。
少子化に歯止めをかけようと、政府は試験管ベイビーを100%承認した。
人工的に遺伝子工学で作られた子ども達。
倫理観はどこかに置いてイカれた親たちが動物との配合を始める。
猫耳、狐の尻尾、etc..
一番人気は白鳥の羽で、天使みたい! ともてはやされた。
天使が50のおっさんになったらキモいとだれかが気付いて、
みたころにはもう遅かった。
大統領が差別を禁止し、一見平和になった世界から、僕らはそっと離れた。
『動物園』と蔑称されるコミューンを作って僕たちは生きていた。
*
僕の家の庭には二羽ニワトリがいた。
イカれた両親は僕をワニにした。
両親は僕を新しいおもちゃみたいに触り、愛し、笑いあった。幸せに生きていた。
授業参観。両親は一番に駆けつけたし、
運動会。両親はかけっこする僕を追いかけるようにビデオカメラを持って走っていた。
合唱コンクール。両親は僕の歌声に勝手に涙した。
僕は幸せだったが、僕の中のワニは、次第に大きくなっていった。
小さい頃はそんなに目立たなかったワニの黄色い瞳が次第にその色を濃くし始めた。
皮膚は堅くなり、顎も発達した。
僕の中のワニが、僕というヒトの脆弱な殻を破って外に出ようとしているみたいだった。
イカれた両親は、僕というおもちゃに飽き始めていた。いや、それは世間一般で起こっていた子育てというやつに飽きただけだったかもしれない。例え僕がニワトリでも、金魚でも、鯉でも、ネコでもキツネでも、パンダでも。あの両親はそういう性格だったから、飽きただけだったかもしれない。
でも、僕は僕というヒトの部分にコンプレックスという名のひび割れをたくさん持っていたから、ワニがそこから顔をのぞかせるのは難しくなかった。
それから僕の中に、ワニが生まれた。
ワニを薬で抑えながら、ヒトとして生きている。
*
ある時、僕の胴体はまるでワニのようにぶくぶくと太った。
ダイエットに励もうにも、動くのが面倒になり、コミューンで割り当てられていた仕事も時折休むようになっていた。
コミューンの中には同じような症状が随所に見られ、夜中に月に吠える狼人間、真冬の用水路で魚を鷲掴みにする熊人間。コタツに引きこもる亀人間とネコ人間。
野生の遺伝子が体内で暴れだし、薬の静止を振り切ろうとしていた。抑制薬は完全ではなかったのだ。
大統領は直ちに新薬の開発に取り組むことを固く約束したが、数日後には辞任に追い込まれることになる。
「キミ達は大変だな。ふたつの生き方をもっている。ヒトとして生きるか、ワニとして生きるか」
パトリックは麦をついばみながら、器用に喋る。
「ヒトとして生まれて、生きてきたんだ。ヒトとして死にたい、よ」
僕はそう言って、急いでいまやただのビタミン剤と揶揄される薬を飲む。
途端に身体中に半分の麻酔がかかる。動悸が治まっていく。
同時に身体の1/2がどこかへ失われていくようなけだるい感覚に襲われて、畳に両腕をつく。
荒々しく置かれたコップの水が揺れて世界を歪めてみせていた。
「・・・・・・おかしな事だ。ヒトの社会で受け入れられなくて、ここにきて、なおヒトにこだわるか」
「そうだよ、悪いかよ」
「野生に戻ったらどうだ。薬で抑え込んだワニのキミが暴れるんだろう? ヒトはヒト。サルはサル。ライオンはライオン。ネコはネコ。我輩は・・・なんて誰も考えない」
ニワトリはニワトリらしくないことを言って麦をむぎっむぎっと音を立てて食べる。
それからバサバサっと、羽を開いて毛づくろいを始める。
そのひとつひとつの動作に僕はドキドキする。
「そうしたら今度は僕の中のヒトがまた僕を取り戻そうと暴れるだろうか」
「さて。ヒトにそんな力があるとは思えないが・・・・」
遠くの方でパトリックの声がした。
汗が伝い、
少し風が吹いた。
ああ・・・動悸がおさまらない
*
僕は赤々と染まる。
瞳はらんらんと黄色く輝く。
それでも僕は僕であることを手放していなかった。
「ヒトであることを手放してしまったら、それは二度と手に入らないよね。ヒトであることを恥じるようになるよね。昔、何かの本で読んだんだ」
僕は夕暮れの畳にそう言う。
すっかりぬるくなったコップの水に浮かんだ、白い羽が風もないのにゆれる。
パトリックは応えず、
部屋に体毛だけが散らばっていた。
枕の中身のように。