なかまくらです。
わくわくしたい。そうしよう。
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短編小説を書く前に
作・なかまくら
短編小説を書く前の僕は両極端な分身状態だ。
踊りだしそうな高揚感と、立ち止まってしまいたい心の動揺が一緒くたにやってくる。
それをなんとか、心の内でドッキングさせたまま、コンビニに寄る。さながら宇宙ステーションへのドッキングミッション。途切れればそれは、あっという間に、宇宙に還ってしまう。
コーラを2本。真っ黒い砂糖水が、僕のインクみたいなもの。
階段を一個飛ばしてそれから細かく登ってみたりしてみて、次は細かいステップ。アパートの自室を目指す。開けてあったカーテンをきつく締めて、ノートパソコンの電源ボタンをぐいと押す。無音、からのヴォーン。ファンが回り始める。カリカリと音がして、脳みそが針で引っかかれているよう。
右手の人差し指と左手の人差し指をジェイとエフに置いて構える。なんだって、構えが大事だ。構えで勝負が決まるといってもいい。思ったことをタイプする。それもワイルドに情熱的に、それでいて、冷静に訪れるラストシーンを思い浮かべるように。
少し、コーラを口に含む。しゅわしゅわと泡が弾けて消える。浮かび上がってくるアイディアを連想する。心が泡立っていく。
ワープロソフトが起動すると、社会という名前の首輪を外されたもう一人の僕が、転げまわって笑いながら、ものすごいスピードではねる。そして、画面の向こうに拡がる白紙の水平線へと遠ざかっていく。
その思い切った間取りの庭に小道具を置いていくために、僕はひとつ息をしてから、彼を追い駆ける。