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なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】煙突からの手紙

です。
どうぞ。



煙突からの手紙


部屋全体に赤い光が明滅する。
『WARNING』の文字が正面の巨大なディスプレイを埋め尽くしていた。
 
決して美人ばかりではないが、正義という意味で目の輝きが違うオペレーター達が、同じ場所を見ている。
司令室の一番高いところ。
似合わない髭をジョリジョリといじりながら男は、おもむろに、言う。
 
「発進!」
 

 
明け方の街。
澄みきった空気が風のない街に夜の冷たさを残している。
街の石畳を歩く人はまばらで、朝市の準備をする人達がちらほらとリアカーを引いて延々と続く坂を登っていくぐらいだった。
家々の煙突からは朝餉の湯気が立ち上り始めていた。そのひとつ。
異常にもくもくしている煙突。
もはや緑色でもカモフラージュできてない煙突ががばっと、割れる。
 
そして、もはや隠しようのない蒸気を噴き出しながら、メタルの装甲が現れる。
一瞬の静寂、
目の辺りがギラッと光る。
ひとしきり轟音を立てると、メタルの巨人は宙に浮き上がる。
すごいジェットに周りの家屋の瓦がシャレコウベが笑うように音を立てる。
 
眼下に見える街が朝の静けさに沈んでいるのを、操縦席からヤベツは静かに眺めていた。
それから、おもむろに口を開くと、大きなおおきなあくびをした。寝起きである。
 
操縦桿の前にある小さなモニターに可愛いオペレーターのミルヒアの顔が映る。
ヤベツさん、聞こえますか?
「聞こえてるよ」ヤベツは少し低めのかっこいい声を意識しながら、答える。
今回のミッションの説明をします。
ミルヒアが少し顔を赤らめながら事務的に話し始める。気がある。そうに違いない。
ヤベツは再び少し低めのかっこいい声で、
「ああ、よろしく頼む」と、言った。
 
今回は、ラジオ塔の占拠。ラジオ塔から怪しげな放送が流れているという。
例によって世界征服を企む秘密結社ポイズンチョコレートの仕業であるようである。
ヤベツはあくびを口の中でもぐもぐして、ごくりと飲み込む。
 
「要は、やっつければいいんだろ?」
 
この前の小学校事件みたいな勝手な行動は避けてくださいね!
ミルヒアは口を尖らせて言う。
小学校を乗っ取り、依存性の強いお菓子ポイズンチョコレートを利用して人民を増やそうとする悪の企みを察知して、出動したヤベツは、小学校ごと吹っ飛ばしたのだった。
 
・・・どうせ、既に毒に犯されていたのさ。生きていれば苦しむだけだ。
 
ヤベツは、そっと呟いた。
 
ミルヒアは、少しの沈黙の後、
 
今のは聞かなかったことにします。
と、言い。それから、
 
もう少し、他人の持っている可能性を信じてみたらどうですか?
 
 
少し寂しそうに、そう言った。
 
ヤベツは、通信を切り、遺伝子操作で強化されたその視界でラジオ塔の周りの細かな異常をチェックしていく。それを一通り頭に叩き込んだ。
 
メタルの機械人形は、重力に逆らいながらラジオ塔に近づく。
 
 
ラジオ塔から発せられる電波は人心を操り、変化させてしまうものであった。
それはまるで、あの時辛い決断を下さなければいけなかったヤベツの覚悟をあざ笑うかのような仕打ちで、
ヤベツはそれを知り、行なう。
 
髭をイジリながら、ヤベツの暴走を伝えるオペレーターの声を聞く男は、かつての自分を想い、黙する。
 
煙突は、今日も正義をもくもくと立ち昇らせていた。
 
 
 
 
あとがき
なんとなく正義とか






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