なかまくらです。
今日は小説を投稿しておきます。
久しぶりですね。
最近考えている、生き方についての物語です。どうぞ。
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「花道というのは、その人の功績を称えたり、祝福するために、用意するものなんだ。」
ある冬のことだった。小さな村。村から役人(元号と呼ばれる)が出ることに決まり、盛大に送り出すことになった。モモタは村の子供たちに、説明をしながら花向けの儀式作業を進めた。道に沿ってシャベルで土をひっくり返す。プルプルとした虫たちが顔をのぞかせる。その後、ふかふかになった土に小さく穴をあけると、花の苗を植えた。目線を上げると、村を出ていくケヤキが苗を持って忙しく動き回っていた。準備をしている村の人に声をかけては、にこりと笑う。モモタはそれを眺めていた。
彼女は塾でモモタの一つ下の学生だった。よく遊び、よく笑う学生だった。モモタははじめ、気にもかけなかった。いつか、この寂れた村を出ようと付き合いもほどほどに、勉強に励んでいた。彼が彼女を意識せざる負えなくなったのは、彼女が塾長の推薦で飛び級して同じ学年になったからだ。飛び級なんてものがあることをモモタは知らなかったし、遊ぶことにも夢中な堕落を内包する彼女に、一意専心に励む自分が劣るとは思えなかったし、努力は必ず報われると信じて励み続けた。
同じ教室で学ぶうち、彼女が才気にあふれ、愛されており、それを自分は多くは持たないこともよく分かった。けれども、先輩としてのささやかならぬ意地があった。
あるとき、花売りを名乗る男が、村に立ち寄った。モモタは、薬草学の知識を期待して、1晩の逡巡ののち、宿に借りている家を思い切って訪ねた。
「その、」
と、モモタは口の中で、朝から練習していた言葉を言ってしまい、扉の前で呆然と立ち尽くした。
「なにかな?」
部屋には、いくつかの植物が飾られており、寂れた村に似つかわしくない風景だとモモタは思った。
「わぁ、きれーい!!」
そのとき、後ろから花の香が風に乗って過ぎた。ケヤキだった。彼女は花で飾られた部屋の中へ入っていく。
「ほんとに綺麗ですね。私、お花を見るの大好きなんです! 色々教えてもらってもいいですか?」
「こんにちは、花が好きな人に悪い人はいない、というのが私の持論だ。そっちの君も・・・お友達かい?」
モモタは、どう答えたらよいのか迷った。しかし、ケヤキはにこりと笑い、
「ええ、おなじ塾で勉強している友人です」
そう答えて、モモタを招くような視線を送った。モモタはそれで初めて、敷居をまたいで、中に入ることができたのだった。その時間は楽しかった。花売りの男は知らない子供であるモモタたちにも親切だった。行商の中で出会った様々な人、文化、それを話してくれた。詩人としても食べていけそうな語りだった。
「おじさんは、これからどこへいくの?」
「首都に行こうと思っている。」
「首都はどんなところですか?」
モモタは聞いた。
「首長がな、花に溢れた都市にしたいっていうんだよ。問題もたくさんある。だが、夢のある人は良い。君たちもそんな大人になるといい」
花売りの男は、そんな話をしてくれた。
あくる日、モモタは荷車の手入れをしている男を見かけた。
「いつまでいるんですか?」
モモタはうまい言葉を知らなかった。
「花の種をね、仕入れていたんだ。」
そう言って見せてくれた。形の違う様々な種類の種が袋の中に詰まっていた。
「こんなにたくさん、どうするんですか?」
聞くと、
「海外のお客さんが、首都に訪ねてくるんだ。それに向けて、海岸から首都まで花の道を作る。それが今の私の仕事なんだ。」
水につけ、硬く捻りあげた布で荷車を拭いていく。荷車は土に汚れ、ところどころが欠けたりへこんだりしていた。それは、村の荷車と変わらない、けれども特別な車に見えた。首都への道を知っている車。
「モモタくんも首都へ行きたいんだったね」
「はい。この何もない街から出て、才能のある人たちと競い合って生きていきたいんです。」
モモタはそう答えた。
「なるほどね・・・」
花売りの男は、少し考えてこう言った。
「私がこうやって仕事に出かけるとき、皆がたくさんの種を持たせてくれる。私が首都に戻って、次の春には、花が咲くだろうね。外国のお客さんが、花の道を通ってこの村にも立ち寄るだろう。人も一緒さ。君は私のことをいずれ忘れる・・・。」
「そんなことはないです。」
モモタは否定する。
「ありがとう。そうしたら、いつか私は君の助けになれるかもしれない。君の友人や家族だってそうさ。君の心が蒔いてきた種が花を咲かせるんだ。でも、君の生き方ひとつで、君が去ったその地は荒れ野になるのだろうね。覚えておくといい。」
花売りの男はその次の日、村を後にした。
ひとり、新しい役人を追加で募集すると御触れがあったとき、学長にはモモタが呼ばれた。塾の成績のトップはモモタだった。学長は「ケヤキを推薦をしようと思う。」と言った。そして、モモタは「それがいいでしょう。」と答えたのだった。
「モモタくん。」
「おめでとう。俺もいずれ追いつくから。」
そう言って祝福の言葉と花束を贈った。
道には花が咲き、首都へと続いていた。