なかまくらです。
最近、作品数が少なすぎるので、
前に書きかけだったやつを一編仕上げてみました。
上演したら、6分くらいかな?
どうぞ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゴックン 2015.7.4
作・なかまくら
弟 お・・・おおーっ!・・・ええ、はい。ええ。え? 月面に着陸したときの言葉ですか?
弟 あーまだ考えてなかったなぁ。いかんな。ええと・・・なにがいいかな。
弟、いそいそとその辺の紙を手に取る。
キャップを歯でばきっとはずす。あぐらで座っている。
弟 よし、できた。『月は灰色かった・・・』・・・ちょっとロマンがないな。いっそのこと・・・・・・これでどうだ! 『月の裏側は、やっぱり月でした』 いや、まあ、そうだよな。月で事故ったら洒落にならんな・・・。じゃあ、ここはあれか・・・『NO NORDER! 日清』とかがいいのかな。じゃあ、カップラーメン必要じゃん!
兄 弟よ。
弟 ・・・・・・兄よ。
兄 とりあえず、おめでとうの乾杯だ。コップある?
弟 一個しかないよ。
兄 奇遇だな。俺も一個しかない。
弟 ちょうどいいじゃん。あ、俺ノンアルコールだから。
兄 はい。(マグカップを差し出している)
弟 え?
兄 これで飲め。
弟 意味が分からないんですけど。
兄 意味は分かるだろう。このマグカップを使えってこと。
弟 杯をかわすってこと?
兄 まあ、とりあえずはそんな感じで。
弟 じゃあ、はい。これ俺の。
兄 じゃあわが弟はお子様であるからにして、お子様にはお子様ランチとデビオレデビンジジュースがお似合いデビ。
弟 そのデビってなに?
兄 気にデビするな!
弟 デビはしないけどさ。
兄 まあまあ、不器用なアニキなりの精一杯の心遣いなんだから、受け取れよ。
弟 明らかにから回ってるんだけど。
兄 そりゃあ、空回りもするだろ!? なんたって、宇宙なんだぜ!
弟 まあ・・・な。
兄 宇宙って言ったらアレだろ。
弟 アレだよ。
兄 まず、アレだろ・・・つまり、要するに“NO グラフィティ”!
弟 もしかして、“NO グラビティ”?
兄 そう、それ! それだよ。無重力っちゃうんだよ。
弟 相当テンパってるよね。
兄 いやいやいやいや・・・ちょっと買いかぶり過ぎだって。(弟に帽子をかぶせる)
弟 何を買いかぶっているのだろう。(帽子をかぶっている)帽子?
兄 それ、おふくろから。餞別。
弟 あぁ、なるほど。
兄 よし、飲もうか。
弟 よく飲むの?
兄 え? まあ、会社の付き合いでね。
弟 それでこそのビールっぱらだもんな。
兄 そう。努力は人を裏切らない。その割れたお腹が宇宙飛行士へのお腹であるならば、私のかわいくちょっと膨らんできたお腹は、部長へのステップアップであったというわけだ。
弟 言ってて、悲しくならないか、兄よ。
兄 ・・・・・・うん、ちょっと悲しくなった。
弟 乾杯しようか。
兄 うん。
2人 乾杯。
兄 いやいやいやいや。ダメだ。それじゃあ、ダメだ。そんなんじゃ、宇宙にはいけない。弟よ、お前は明日宇宙に行くんだろ!
弟 だからこその冷静沈着なんだよ。気合じゃ宇宙にはいけないだろ。
兄 いや、気合なめんな!
弟 いやいやいや・・・宇宙なめんな!
兄 まあ、食え! 晩餐だ!
弟 最後の晩餐みたいに言うなよ。
兄 食え食え。月面みたいにボコボコのたこ焼きだよ。本日は特別に兄がアーンって食べさせてやろう。
弟 アーン。
弟、食べる。
兄 ・・・こんな感じなのかね。
弟 ・・・そんなこと言うなよ。
兄 ・・・でも、こんな感じなんだろうよ。今、ゴックンってしただろうが!
時計の音。
弟 それでもいいって、言ってくれたじゃないか!
兄 やっぱり気にしてんじゃないか! ・・・俺はそのままのお前と別れたくなかったんだよ。
弟 兄。
兄 弟よ。明日、地球は明日飲み込まれるんだよ。
弟 知っているさ。
兄 ゴックンって。
弟 分かっているさ。
兄 俺はな、怖いね。月に取り付けたブースターで、月は地球圏を脱出する。だがね、奴は逃がしてくれるだろうか。
弟 逃げ延びてやるさ。生き残る百万分の一の一人として。
兄 俺は、戦う。地球を丸ごと喰らおうとする大きな牙が見えるだろう。濡れた歯茎が見えるだろう。どこにも通じていない暗黒の口腔が見えるだろう。でも、最後まで戦おうと思う。だから、振り返らずに、命をつないでほしい。
弟 ・・・飲もうよ。
兄 乗り物酔いするなよ。
弟 分かっているさ。