書いてから3日で、ブログのかなり下の方に行ってしまったので、もう一回宣伝しとこう
^皿^つ 「アニーモウト」という戯曲を書きました^^。
本20ページくらいの読み味の中編という感じです。よかったら感想なぞください~ノシ
http://nakamakura.iinaa.net/daihon/any.html
下に本文も貼り付けちゃう!
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アニーモウト
作・なかまくら
2012.1.4
登場人物
佐和子・・・・・・人類の妹
カンクロウ・・・・マッド(際)サイエンティスト
イタダキ・・・・・人類の兄
ヤマモダ・・・・・第三の女
佐和子 どうも、人類の妹・佐和子です。この通信はとある惑星の裏側から送信しています。
カンクロウ がちゃ。人類の兄・カンクロウです。地球人類は現在その人口が10億にまで減ってしまいました。人類は、生き残りをかけて最後の戦いに挑もうとしています。
佐和子 人類の妹・佐和子です。カンクロウさん、メッセージをありがとう。人類は今本当に大変なことになっているのですね。
カンクロウ この作戦が失敗したら、地球は滅亡します。
佐和子 敵の正体はつかめているのですか?
カンクロウ しっ・・・。聞こえていますか、この音。
佐和子 え、音?
カンクロウ 音にもならない音。テレビをつけると後ろのほうでキー・・・ンってなっているのによく似ている、この音。聞こえる人と聞こえない人がいるんですよ。一説によれば若い人にしか聞こえないとか。
佐和子 ・・・え?
間。
カンクロウ 聞こえますか、この音。
佐和子 え、ええもちろん、きこえますとも。むふふふふ〜。
カンクロウ きっと若者のほうが社会の変化に敏感だから、でしょうかね。
佐和子 はあ。
カンクロウ この音の周波数の中に、彼らの傍受よるノイズが混じっているのです。どうやら長くここにいすぎたようです。もう離れなくては。
佐和子 貴重な情報をありがとう。あなたの無事を祈ります。
カンクロウ ありがとう、さようなら。
佐和子 さようなら。
佐 和子 かち、かち、かち、ぼーん・・・・・・。ぼーん・・・・・・。ぼーん・・・・・・。空から暗い夜がやってくる。衛星軌道上はとても寒いです。 誰か・・・だれかいませんか? ひとりで目を閉じたら誰もいなくなってしまいます。電源が落ちて、空気が澱んできました。だれか、いませんか? 苦しい な。生き物の香りがしません。乾いた金属の呼吸に包まれています。誰か、誰か。
イタダキ 先週からクレモニアサイトの第6惑星に派遣されています。人類の兄・イタダキです。おはこんばんわございます。
佐和子 こんばんは。それはまた、随分と遠くから・・・。そちらは夜なんですね。
イタダキ ええ。通信の時差はどれくらいでしょうね。
佐和子 9時間くらいでしょうか、地上の明かりがポッポッとついて、人類のお父さん方は電車に揺られている頃です。
イタダキ 遠いですね。こちらはチューインガムに夢中です。
佐和子 ええ。
イタダキ 遠い日常だ。
佐和子 いつのことだか、思い出してごらん、
イタダキ 大学に入るときでしたか。私はね、母の影響もあって、海外に出たんですよ。
佐和子 ええ。
イタダキ うちはアパート暮らしで十分な部屋の数がなかったので、私の生きた証はほとんど捨てられてしまったんですよ。
佐和子 生きた証、ですか?
イタダキ そう。持久走大会の参加賞のサイコロキャラメルの包み紙も、家庭科でお味噌汁を作ったときの新聞も、中学校のときのポエムみたいな日記帳も。みんな紙資源としてリサイクルに出してしまった。
佐和子 断捨離、ですね。
イタダキ そう。でも、今頃になってなんだかひどくそれらが愛おしいような気がして・・・。その時確かに生きていた私を、私たちを捨ててしまうような、そんな気がして。人類は危機に瀕しています。
佐和子 そのようですね。
イタダキ 私がもしここでいなくなってしまったら、私という人間はいなかったことになってしまうんじゃないかって、そういうことを思ったら、
佐和子 過去の自分が愛おしく思えてきたんですね。
イタダキ ひどく内向的で感傷的ですね・・・すみません。
佐和子 あなたが覚えていればいいんじゃないですか?
イタダキ ええ。私は忘れません。きっと、いつまでも。・・・そろそろ、切らなくちゃ。傍受されているかもしれません。あんなことも、こんなことも。
佐和子 ・・・そうですね。
イタダキ さようなら。ガチャ。
音。ブツッ・・・つー、つー、つー。
佐和子 よしっ、終わり! 本日もお勤め、ご苦労様でした! これにて本日の生存報告を終了します! ぽちっとな。
それは自爆スイッチ的な何かで、世界で最後に生き残った彼らを吹き飛ばす爆発が起こるような、そんな気がする。けど、そんなことは起こらない。
佐和子 ・・・これ、何のボタンなんだろうね?
佐和子、はける。
*
カンクロウ、そっと部屋に侵入。なにやら探しているようだ。
カンクロウ ・・・・・・・・・ええっと、確かこの辺に・・・。
佐和子 おかえり!
カンクロウ うわああっ!
佐和子 いやいや、そんな・・・漫画じゃあるまいし。をーあいにー。兄貴。
カンクロウ 今なんかよく分からない流れで妹から家族愛を告白されたような気が・・・。
佐和子 え、何のこと?
カンクロウ いや、なんでもないのなら、なんでもないの。
佐和子 なんでもないようなことが〜♪ 幸せだったとおも〜う〜。
カンクロウ わが妹ながらなかなかに渋いなぁ、佐和子は。
佐和子 父さんが好きだった歌だったから・・・。
間。
佐和子 あ、ごめん。なんか、変な空気になっちゃったね。
カンクロウ 変な空気か。
佐和子 え?
カンクロウ これは変な空気か?
佐和子 うん。
カンクロウ 変なことをしてもいい空気か?
佐和子 いや、待って。そうじゃな・・・
カンクロウ よおし、そういうことなら、マカスェナサーイ! この〜、わたしの〜(2フレーズだけ翼をください風に)偉大なる発明! UFOキャンディ・・・略してUFO(ユーフォ)キャンディだ〜。もちろんバナナ味。
佐和子 うわあ・・・なんか見るからにやばそうな色してるんだけど! さすがマッド際(ぎわ)サイエンティスト!
カンクロウ 失礼な! 私は成績優秀、頭脳明晰、頭は子ども、頭脳は身体! その名も・・・マッドサイエンティスト・カンクロウだ〜。窓際なのは、日の光を存分に浴びてビタミンDを大量に摂取するためだ。DはドラえもんのDだぁ〜はっはっは〜。
佐和子 ふーん、で、この飴、どうしたらいいの?
カンクロウ おおおっつ! おっつ!
佐和子 うはっ?
カンクロウ おっつ! 触っちゃいけないさ。これは、もう、すごいことになってるからね。
佐和子 え?
カンクロウ もうね、ぶっちゃけちゃうと、これ、持って逃げてきたって言うか・・・。
佐和子 大丈夫なの? そんなの持ってて。
カンクロウ 流石に一般人巻き込まないとは思うけど・・・。
佐和子 巻き込まないと思うケドって・・・なに?
カンクロウ もうね、これ、自転車で言ったらすごい内輪差だから。いろいろ巻き込んじゃうから。ベンツだから。しかも犬で言ったらダックス憤怒だから。
佐和子 そんな憤怒憤怒おこって言わなくてもいいじゃん!
カンクロウ 憤怒憤怒!
佐和子 で、食べると何が起きるの?
カンクロウ 食べる? 舐めるといってくれ、マイシスター。
佐和子 うん、舐めるとどうなるの?
カンクロウ 良くぞ聞いてくれた! 舐めるとな、世界が平和になる。
佐和子 へ?
カンクロウ 心がこんにゃくみたいにぐにゃぎゅにゃになってみんな友達になってしまうんだ。みんなともだち〜 ずっとずっとともだち〜 大人になっても〜 ずっとともだち〜♪
佐和子 いいじゃん。大発明じゃん! ジャン=ロック=ラルティーヌくん!
カンクロウ ・・・おっと誰か着たようだ。
佐和子 気のせいよ!
カンクロウ 気のせいか。
佐和子 ・・・・・・で? 本当どうしたの。あんなことがあって、もう二度と帰って来ないと思ったよ。
カンクロウ 帰ってこないつもりだったさ。だがな、確かめなきゃいけないことができたんだ。あ、飴玉あげるよ。
佐和子 ・・・ありがとう。
佐和子、飴玉、しまう。
イタダキ お。
佐和子 あ。
カンクロウ ・・・。
イタダキ おー、おかえり〜。
カンクロウ ただいま。
佐和子 はい!
イタダキ どうした、妹よ。
佐和子 晩御飯を食べましょう!
*
明るい音楽。
イタダキ シェフ、本日のメニューは・・・?
佐和子 ホットケーキでございます。
カンクロウ 傷心のあなた! ・・・海辺で私は呟くのですわ! そう、さざなみがあなたを思い出させるの。ほっとけぇえええき!
佐和子 放って置いてください。ホットケーキへの愛の迸りです。画面には収まりませんので。
イタダキ 分かりました。・・・その粉は?
佐和子 秘密の粉です。
イタダキ 秘密の粉? 部屋ではなくて。
佐和子 強いて言うなら、・・・・・・仲直りの粉です。混ぜたカップルを生地で繋いで仲良くするんです。さあ、あなたも混ぜて。あなたも。
カンクロウ そのとき、ホットケーキ・ミックス・ゴッドは、こう言った!
イタダキ 世界をシチューに収めた。
佐和子 素敵! シチューとホットケーキの夢の共演ね!
カンクロウ 私がホットケーキ。
イタダキ 俺がシチュー。
2人 まさに、初めての、共同作業! Oh…Ueee
イタダキ ああ! 今まで悩んできたことがなんとくだらなかったか!
カンクロウ ああ、なんという、をーあいにー!
イタダキ をーあいにー!
佐和子 ・・・・・・どろどろになっちゃったよ。
イタダキ 大丈夫です、シェフ。
佐和子 えっ!?
カンクロウ 魔法の言葉があるでしょう?
佐和子 ええと・・・ええと。あ! こちらが、3分間よく火を通したものです〜! で、
カンクロウ こちらの料理は、後でスタッフが美味しそうな顔で、戴きました〜
佐和子 よし、これでよし! せ〜のっ
3人 完成〜。
*
佐和子 はい! 仲直りできた?
イタダキ 佐和子、さっきから何のことを言ってるんだ?
カンクロウ そうそう。
佐和子 え、だって、ふたりは空き地の秘密基地における宗教的な対立で雌雄を決しようって、決闘にまでいたった仲なんでしょ?
イタダキ そうだったっけ?
カンクロウ 覚えてないな。
佐和子 ふーん。・・・まあ、ふたりとも、仲良しに戻ったのね。
イタダキ そうそう。
カンクロウ そういうことだ。
佐和子 じゃあ、まあ、いっか。大人になったんだねぇ〜、ふたりとも。
カンクロウ そういうこと。
イタダキ そういえば、カンクロウ、お前、今何してんだ?
カンクロウ ホットケーキを食べようとしている。
イタダキ 母さん、心配してるぞ。
カンクロウ そいえば母さんは?
イタダキ シンガポールあたりかな。
カンクロウ ふーん。あ、おかわり。
佐和子 食べすぎじゃない?
カンクロウ 別腹別腹。
佐和子 何言ってんの、宇宙人じゃないんだからさ。いくつも胃袋持ってたら気持ち悪いじゃん・・・。
間。
佐和子 え、どうしたの?
イタダキ え? いや、べ・・・
暗転
*
佐和子 え、何、停電!?
うー、うー、と空襲警報。
佐和子 え、空襲?
カンクロウ 兄貴!
イタダキ カンクロウ!
カンクロウ 佐和子を連れて逃げろ!
イタダキ 何言ってんだ! 逃げるってどこにだよ!
カンクロウ 俺は実は地球防衛軍だからな。守りたい。その力があるんだ。いかせてくれ!
イタダキ 馬鹿野郎! 俺たちが一度でもこの世界に希望を見出せたことがあるか!?
カンクロウ 御託はいい! 今やらなきゃいけないことは、今やらなくちゃ意味がないんだよ! 逃げてくれ。
イタダキ なあ、どこに・・・
カンクロウ 逃げろよ!
イタダキ どこに・・・だよ。
カンクロウ 早く逃げろよ!
佐和子 ある日、森の中、熊さんに、出会った♪(歌ってる)
イタダキ わかった・・・俺は逃げる。花咲く森の道を真っ直ぐに逃げる。
カンクロウ ・・・・・・。
イタダキ 合流ポイントを決めておこうな。
カンクロウ ・・・。
イタダキ な。
暗転。
*
音。カチカチカチカチ、ジリリリリリリリリリリリリr
明転。朝になっている。
佐和子、仕事の格好。
カンクロウ あ、おはよう。あれ、なにその格好。
佐和子 仕事。
カンクロウ マジで!? 佐和子働いてんの?
佐和子 失礼な。これでも立派な社会人だよ〜。
カンクロウ 今年から?
佐和子 そう、今年から。
カンクロウ へぇ〜。イタダキは?
佐和子 なんか、探し物だって。
カンクロウ ふーん、寝坊かと思ったのに。
佐和子 残念。マッド際サイエンティストのカンクロウと違って、しっかりしてるのだよ。
カンクロウ はいはい。あ、俺、ちょっとイタダキに用事だから。
佐和子 あ、じゃあ、ご飯ここ置いとくからね。
カンクロウ うん。
トゥルルルルル・・・
佐和子 はい、こちら人類の妹コールセンター。
CASE:1
ヤマモダ CASE:1、カンクロウの場合。
カンクロウ もしもし。
佐和子 はい。
カンクロウ 電話、つないでもらいたいんですけど。
佐和子 コールセンターですから、そうでしょうね。
カンクロウ 妹に、つないでもらいたいんですけど。
佐和子 はい。妹さんのご住所はわかりますか?
カンクロウ 妹はここにはいません。
佐和子 ええ。妹さんは、今あなたのいるところにはいらっしゃらない。そうでしょうね。
カンクロウ いえ。妹は私のすぐ近くにいます。
佐和子 え?
カンクロウ ほら、こうして、声も届いてる。
佐和子 はあ。それで、
カンクロウ だけども、テレビの向こうのことのように遠い、ちょっと聞いてくれますか!
佐和子 あ、ええと、聞いてますが。
カンクロウ 僕ね、素敵な思いつきをしたんです。もし飴玉を食べたらその人を自分の妹にできる飴玉を作ったら、僕は、きっと人類の兄になれるんだって。そんな刺激的な飴玉を発明しようって。僕、科学者なんですよ。
佐和子 それはつまり、妹さんは、まだあなたのいるところにはいらっしゃらない。けれどもそのうち、人類のすべてがあなたの妹になる。そういうことですか?
カンクロウ もうすぐですよ。
佐和子 えっ・・・。
ぶつっ・・・つーつーつー。
ヤマモダ どうしたの?
佐和子 ヤマモダ先輩・・・。なんか変な電話が・・・。いや、変なって言うか、もう、その痛い電話が。
ヤマモダ ああイタデン?
佐和子 そうですそうです。イタデンです。
ヤマモダ やっぱりお払いしたほうがいいのかしらね。
佐和子 え。
ヤマモダ そこの電話、ちょっとなんかおかしいのよ。
佐和子 え。そっち系ですか、そっち系だめですよ、私、そっちの世界知りたくない系ですよ。
ヤマモダ あ、そう? じゃあ、言わないけど? そういえば、あなた労災保険、・・・あなた確か入ってないわよね。
間。
佐和子 うっ・・・。
ヤマモダ どうしたの?
佐和子 急に胸が・・・。
ヤマモダ クル、キットクル、キットクル、・・・
佐和子 嫌がらせですか!
ヤマモダ いや、空気を紛らわそうと思って。
佐和子 なんでそこでその選曲!
ヤマモダ そこそこの選択でしょ?
佐和子 あーあー、分かりました。聞けばいいんでしょ、聞けば!
佐和子、耳をふさぐ。
ヤマモダ 言動の不一致が見受けられるわね。
ヤマモダ、佐和子の両手を耳から引き剥がす。
佐和子 ううっ・・・、ううっ・・・。
トゥルルルルル・・・
電話。
ヤマモダ CASE:2、ヤマモダの場合。
佐和子 もしもし。
ヤマモダ こちら人類の妹・コールセンター・・・
イタダキ 僕らは子どもの親権の件について真剣に話し合いをしなくちゃいけないと思うんだ。
ヤマモダ、電話を切る。
電話。
ヤマモダ もしもし、こちら人類の妹・コールセンター、ヤマモダでございます。
イタダキ 僕だ。おっと、きるなよ。今、僕がどこから電話していると思う? ・・・そこの設備なら分かるんだろう? 大至急調べてみろよ。
ヤマモダ ・・・・・・子どもたちはどこ?
イタダキ すやすや寝てるよ。何も知らないで。
ヤマモダ そんなことはないの。子どもたちはちょっとした変化に敏感よ。あなたがアニーモウトのスパイにすり替わっていること、教えてくれたのはあの子達なんだから。
イタダキ 落ち着けよ。どこにも宇宙人なんていないんだ。僕らの中がうまくいかないのを宇宙人のせいにしたって、どうしようもないじゃないか。
ヤマモダ そうやって、アニーモウトは私たち人類の中に少しずつ紛れ込んでいくのね。
イタダキ 違うんだ。
ヤマモダ 何?
イタダキ 君なんだ。
ヤマモダ え?
イタダキ アニーモウトに洗脳されてしまっているのは君なんだ!
ヤマモダ 何を言ってるの、私は地球防衛軍の・・・
イタダキ そうだ。君はやつらと戦って、連れ去られた。そして、帰ってきた君はすっかり僕をアニーモウトの宇宙人だと思い込んでしまうようになっていた。見覚えがないかい、知らない天井、見えない明日、有り得ない風景。
ヤマモダ 嘘よ・・・。
イタダキ 信じてくれ。真実は、こっちにあるんだ。
間。
ヤマモダ 信じられないよ。
音。ぴっぴっぴ、という音。
イタダキ え? 何の音だ?
ヤマモダ いま、爆弾のスイッチを起動しました。
イタダキ 秘密を知ったものは消すのか?
ヤマモダ あなたがアニーモウトという宇宙人だからよ。愛していたのに。さようなら。
イタダキ まて、子どもに罪はないぞ。せめて・・・
ヤマモダ 大丈夫でしょ、すやすや寝てるんでしょ、何も知らないでしょ。
ぴっぴっぴっぴっぴぴ。
暗転。
*
佐和子 ・・・・・・。
ヤマモダ ・・・・・・。
佐和子、にこっと笑って、
佐和子 この物語はフィクションです。実際の人物、団体、等には一切関係が
ヤマモダ 関係があります!
佐和子 ・・・まじっすか? なんか、もうその男、サイテーですね。
ヤマモダ でしょ? 妻子を遺してさ・・・。
佐和子 ん、なんか、酒臭っ!?
ヤマモダ さわこ〜。
佐和子 いやいや、まずいですって! まだ日は高い・・・
トッルルルルルッル
バッと、電話を取ろうとした佐和子の手を、ヤマモダが受話器ごと押さえる。
微笑むヤマモダ。
ヤマモダ もひもひ? こちら人類の妹・コールセンター。はひ? ああ〜、今日はね、もう終わり! 人類の生存報告しゅうりょうです! じゃあね〜。
佐和子 ちょ、ちょ、ちょおおっと、待ってください! あ、切っちゃった・・・。
間。
トゥルルルルルルルル
佐和子 はい、こちら人類の妹・コールセンター、佐和子です。あっ、所長! はいっ、いえっ、それがヤマモダさんは・・・その・・・
ヤマモダ え、所長?
佐和子 はい、あ、えっと、その・・・中(あ)てられちゃったっていいますか、ええ、その・・・そう、たとえば、アニーモウトに!
佐和子、がちゃっと、電話を切る。
間。
ヤマモダ 今なんていった?
佐和子 え、
電話。
ヤマモダ、佐和子にびんた。
ヤマモダ ないわ〜。うん、それはまずかった。うん。消えるわ。キーボードのバックスペースで、私の登場シーンから全部なかったことにされる前に私退場するわ。じゃあね。
ヤマモダ、立ち去ろうとして、立ち止まって、
ヤマモダ あ。あのね・・・ひとつだけ言っとくけどね。ここ、ただの20歳以上の大っきいお友達向けのお悩み相談室とか、思っちゃってるなら、やめたほうがいいよ。そういうの、責任感なさ過ぎて虫唾が走るから。
ヤマモダ、出て行く。
電話、なり続ける。
佐和子、ぼーっと眺めて、それからなり続ける電話に出る。
佐和子 はい、人類の妹・佐和子です。え、お兄ちゃん?
*
佐和子 お兄ちゃん、あのね、
イタダキ 佐和子、兄は妹が心配だぞ。
佐和子 いや、別にあの、そういうサービスのところじゃないからね? いわゆるちょっと変わった名前のところで20歳未満お断りとか、そういう・・・
イタダキ どこまで知ってしまったんだ?
佐和子 ・・・え?
イタダキ ・・・・・・・・・アニーモウトのことだよ。
佐和子 ・・・え、なんでそれを?
イタダキ まさか知らないであそこで働いてるのか?
佐和子 ・・・・・・。
イタダキ どうした?
佐和子 私、知らないことばっかだね。なに? 20歳未満が聞いてもいい話?
イタダキ 人類の存亡にかかわる話だ。
佐和子 人類の存亡にって・・・え、あれはただの設定じゃ・・・。
イタダキ なんのための設定だ?
佐和子 え、なんのためって・・・そういうご趣味の方々のための・・・。
イタダキ やっぱりそう思ってたんじゃないか! だが、幸いなことに、そうじゃない。あのコールセンターは、我々地球防衛軍の組織の一部だ。
佐和子 私、自殺防止のためって聞いてたんだけど・・・。
イタダキ まあ、あながち間違いでもない。いいか、佐和子。信じられないかもしれないが、この世界はアニーモウトに支配されようとしている。
佐和子 ・・・は?
イタダキ この世界は、アニーモウトに支配されようと・・・
佐和子 あ、それはもう聞いたから。
イタダキ じゃあ、以上だ。
間。
佐和子 うん。
イタダキ ・・・うん?
佐和子 いや、なに? アニーモウトって、なんかすごい自然な流れで出てきたけど、何? 初耳だよ! ファーストイヤーだよ。
イタダキ そうか、そうか、そうだな。言葉が足りなかった。カンクロウがな、帰ってきただろ? 久しぶりに。
佐和子 うん。帰ってきたね。ずっと帰ってこなかったのに。
イタダキ カンクロウな、お前には隠してたんだが、アニーモウトにさらわれてた疑いがあるんだ。
佐和子 だから、アニーモウトってなんなの!? まさか宇宙人だとか言い出すわけじゃないわよね。
イタダキ そうだよ。
佐和子 え?
間。
イタダキ それで、カンクロウは、アニーモウトのスパイの容疑がかけられている。
佐和子 じゃあ、ヤマモダさんの言ったこと・・・ホントだったんだ。
イタダキ ヤマモダ?
佐和子 ねえこの家爆弾ない?
イタダキ 爆弾?
佐和子 やつらの手口は、爆弾よ。爆弾で木っ端微塵にしちゃうの!
イタダキ 大丈夫。それなら調べた。
佐和子 ・・・・・・・・・それで?
イタダキ なかった。どこにもなかった。だから、カンクロウはあくまで容疑をかけられている段階。それ以上でも以下でもない。
佐和子 ・・・・・・わかんないよ。
イタダキ ・・・え?
佐和子 わかんないけどさ、なんとかならないの? 人類の危機って。
イタダキ 敵は強大な力を持っている。我々地球防衛軍も全力を尽くしてはいるが、
佐和子 敵はすごい強大なのかもしれないけどさ、兄妹の危機くらい何とかしようよ。
イタダキ ・・・駄洒落?
佐和子 うるさい。家族の危機が救えなくて、世界の危機なんて救えないって。小さなことからこつこつと、だよ! 教えてよ、アニーモウトのこと。
イタダキ 分かった。実は、アニーモウトの実体はよく分かっていないんだ。アニーモウトは空気のように現れて、あらゆるものをアニーモウトにしていく。
佐和子 バイオハザードで、ひとりゾンビになったらみんなゾンビになるみたいな?
イタダキ 要するによく分かってないんだ。ただ、アニーモウトになると、変わってしまうことがある。だからアニーモウトと人間は区別することができる。
佐和子 変わってしまうこと。
イタダキ 一番目に見えるのは性格だよ。プライドが高くて人の言う言葉が理解できなくなる。人によって程度は違うけどな。
佐和子 言葉が理解できなくなる・・・
イタダキ 正確には、言葉はわかっても、意味が理解できなくなる、といったところか。それで宇宙人なんて呼ばれてる。
佐和子 治療する方法はないの?
イタダキ 言っただろう? 何が原因なのかもよく分かっていないんだ。寄生虫なのか、病原菌なのか、・・・。宇宙人って言ってるのは、レントゲンが、X線を発見したときにとりあえず、未知の光線を仮にX線と名づけたのと同じことさ。
佐和子 ・・・・・・それで、カンクロウはアニーモウトのスパイになったっていうのは・・・。
イタダキ 彼は、アニーモウトを治療する方法を探す研究所で働いていたんだ。
*
カンクロウ ただいまー。
イタダキ ところが、ある日突然、いなくなった。研究成果を持ったままな。
カンクロウ、帰ってきて、
カンクロウ え、何? ふたりそろって難しい顔をして。今夜のメニューでも考えてた?
イタダキ ・・・まあ、そんなとこだ。カンクロウは何がいい?
カンクロウ んー、ペペロンチーノ、食べたいな。イタダキ、得意だろ?
イタダキ ん。そうしようか。じゃあ、作ってくるよ。
イタダキ、はける。
カンクロウ、懐中電灯的なものを取り出して、部屋の中を照らし始める。
佐和子 ・・・カンクロウ、
カンクロウ ん〜?
佐和子 なにやってんの?
カンクロウ え、えーとね、、、うん。盗聴器はなしと。
佐和子 え?
カンクロウ あ、ごほん。いいか、私ほどのマッドサイエンティストになると世界中から狙われてしまうのだよ。分かるかね?
佐和子 ああ、なるほど。このライトで?
カンクロウ そうそう。
佐和子、かばんの中を覗いて、
佐和子 ほかにもいろいろあるね〜
カンクロウ おっ、目の付け所が違うね。
佐和子 これは?
カンクロウ これはね、辛いものに光を当てると、辛さが計れるライトだ。辛いほど高い音が鳴る。
佐和子 じゃあ、これは?
カンクロウ これはな、その人が健康かどうかを調べるライト・・・の試作品だ。体の悪いところがあると音が鳴る。
佐和子 え、すごいじゃん! これで癌とか発見できちゃう!?
カンクロウ 言ったろ? まだ試作品だ。まだ今の段階だと体脂肪率しか計れない。
佐和子 え、使えんじゃん。じゃあ、・・・これは?
カンクロウ これか。貸してみ? これはな、・・・宇宙人測定器だ〜。ぴかーっ
何も起こらない。
佐和子 ・・・え?
カンクロウ はっはっは、驚いたか?
カンクロウ、ライトを佐和子に渡して、
佐和子 うん・・・つけていい?
カンクロウ いいよ。
佐和子、ライトをつけて、カンクロウに当てる。何も起こらない。
カンクロウ ・・・・・・。
佐和子 どうなったら、宇宙人なの?
カンクロウ 音が鳴ったら。音が高いほど宇宙人度が高い。
佐和子 鳴らないね。
カンクロウ 鳴らないさ。
佐和子 ・・・ふーん・・・。
カンクロウ あ、信じてないって顔だな。あ、でも宇宙人って言うのは、冗句だ。
佐和子 え?
カンクロウ それな、別の装置を作ろうとしてて、偶然できたんだよ。でもな、せっかく作ったんだからって、ことで、いろいろ遊んでたら、それを当てると音が鳴る人と、音が鳴らない人がいることが分かったんだ。何でかは分からないけどな。
佐和子 え、じゃあ、これ、もう一個とか作れないの?
カンクロウ そうなんだよな・・・。いろいろ調べてみたんだけど、なんでこれがそんなよく分からない機能を持ってるのか、科学的に解明できないんだ。
佐和子 へぇ〜。
カンクロウ あ。イタダキ、
イタダキ なんだ?
カンクロウ ピカーッ
音が鳴る。
イタダキ ・・・・・・なんだ?
カンクロウ え、呼んだだけ。
イタダキ もうすぐご飯になるぞ。皿とフォーク、テーブルに並べてくれ。
カンクロウ りょーかい。
イタダキ、はける。
佐和子 ・・・・・・鳴った。
カンクロウ あ、佐和子。
佐和子 ・・・何?
カンクロウ あのキャンディ、まだもってる?
佐和子 あ、うん。
カンクロウ あれな、ただのキャンディみたいに甘くないから。俺がいいって言うまで大切に持っててほしいんだ。頼めるか。
佐和子 ・・・うん、わかった。
*
トルルルルル
佐和子 もしもし、ヤマモダさん?
ヤマモダ はいはいー?
佐和子 おはようございます。人類の妹・佐和子です。
ヤマモダ ああ、さわこちゃん? 元気でやってる?
佐和子 ええ、まあ。ちょっと・・・
ヤマモダ 何?
佐和子 ちょっとお会いできませんか?
ヤマモダ え、なになにー? お姉さんに20歳未満お断りの相談にでも乗ってほしいのかな?
佐和子 ええ、そんなとこです。
ヤマモダ あらあら。・・・いいわよ。いつがいい?
佐和子 あ、えっと、夜がいいです。
ヤマモダ 夜ね。じゃあ、6時に駅前で。
佐和子 分かりました。
ヤマモダ ・・・・・・。
*
ヤマモダ、待っている。
佐和子、ライトを持って歩いてくる。
ヤマモダ あ、さわこちゃ〜ん。
佐和子 あ、ヤマモダさん。
といいつつ、佐和子はライトを当てる。
ヤマモダ え、何?
なにも鳴らない。
佐和子、ライトを一度確認して、ほっとして、それから消す。
佐和子 あ、いえ。夜道が暗くて。
ヤマモダ え、何? もしかしてそのライトを当てると、当てた相手が宇宙人に変身しちゃうとかそういうライトだった?
佐和子 え・・・・・・。
ヤマモダ え?
佐和子 いや、そんなわけないですよ。
ヤマモダ だよね〜。
佐和子 そうですよ〜。
ヤマモダ そうよね〜。
ふたり はっはっは。
ふたり ・・・え。
*
佐和子 ・・・・・・ただいま。
部屋にイタダキ、カンクロウが立っている。
イタダキ おかえり。
カンクロウ おかえり。
佐和子 うん。
イタダキ 遅かったな。
佐和子 うん、ちょっと話し込んじゃって。
イタダキ ヤマモダと、か。
カンクロウ ヤマモダ?
佐和子 ・・・そうだよ。
イタダキ あの女には近づかないほうがいい。
佐和子 友達なんだけど。
イタダキ 友達は選んだほうがいい。
佐和子 友達くらい自分で選ぶよ!
間。
佐和子 ・・・・・・ねえ、私たち、昔はもっと仲のいい兄妹だったよね。
イタダキ そうだな。
佐和子 いつの間に、こんなになっちゃったんだろうね。
カンクロウ こんなに?
佐和子 昔は、みんなここに住んでたのに、今じゃ、みんなココロ此処に在らずって感じでさ。私は、イタダキの友達もカンクロウの友達も、ぜんぜん知らなくて、まるで家族とかもう普通の友達よりも知らないじゃん。
イタダキ そういうものさ。
佐和子 だけどさ、例えば、地震が起こったりさ、
カンクロウ 火事が起きたり、
イタダキ 台風がきたり、
佐和子 停電があったり、
カンクロウ 水不足になったり、
イタダキ 雷が落ちたり、
佐和子 事故にあったり、
カンクロウ 溺れたり、
イタダキ 怪我をしたり、
佐和子 ・・・宇宙人が攻めてきたり。
間。
佐和子 いろんなことがあってもさ、ここは、このままにしとこうよ。帰ってきたら、ただいまって言って、そうしたら、誰かがおかえりって、言って・・・そういうのって無くなっちゃうものなのかな・・・。
イタダキ 俺に隠し事、ないか?
佐和子 そっちこそ。
カンクロウ ・・・。
佐和子 私はあるよ。もう大人だもん。
イタダキ そうか・・・・・・わかった。
間。
イタダキ そうしよう。
佐和子 え?
イタダキ ちょっと用事ができたんだ。出かけてくるよ。
佐和子 どこ行くの?
イタダキ 秘密の作戦だ。
佐和子 ・・・え?
イタダキ この作戦が失敗したら、人類はきっと強大な敵の前にあっという間にやられてしまうだろう。私の帰りを待っていてほしい。
間。
イタダキ、はける。
カンクロウ 佐和子、こうなってしまったら仕方がない。簡潔に言おう。イタダキには、アニーモウトのスパイの容疑がかけられている。アニーモウトって言うのは、信じられないかもしれないけれど、
佐和子 はぁ・・・宇宙人なんでしょ。
カンクロウ そうか、そこまで知っているのか。ならば話は早い。イタダキはそのスパイの容疑がかけられているんだ。
佐和子 どうして?
カンクロウ どうしてって、それは・・・、見ただろう? ライトを当てたら、イタダキにはセンサーが反応した。
佐和子 そのライトって、なんなの? なにに反応してるかわからないんでしょ?
カンクロウ そうだが・・・裏切られたら人類が滅亡するかもしれない。
佐和子 でも、このままじゃ、どのみち私たち兄妹はばらばらになっちゃうよ。
カンクロウ 仕方がない。
佐和子 仕方なくないよ。家族ひとつ守れなくて何が地球防衛軍よ、ふたりともしっかりしてよ。
カンクロウ 佐和子。
佐和子 私から見たら、ふたりともどっかおかしいよ。なんか変なものでも食べた?
カンクロウ キャンディ・・・
佐和子 え?
カンクロウ わかった。キャンディを使おう。今どこにある?
佐和子 ちょ、ちょっと待っててね!
暗転。
*
イタダキ、ヤマモダ、対峙している。
ヤマモダ 久しぶりね。
イタダキ 久しぶりだ。あの時以来だ。
ヤマモダ そう、電話越しの。元気?
イタダキ このとおりだ。
ヤマモダ そう。変わらないわね。
イタダキ いい加減、目を覚ましたらどうだ?
ヤマモダ 目を覚ますのはあなたのほう。いつまで夢を見て遊んでいるつもりなの? おもちゃ箱は片付けて、勉強する時間なのよ。現実を見なきゃ。
イタダキ 君に言われたくはないね。君は大切に思っているものを大切にできない人だから。それもこれも、君がアニーモウトになってしまったからだよ。
ヤマモダ 宇宙人なのは、あなたのほうでしょ! このわからず屋!
イタダキ そうだよ、そうやって、僕ら夫婦は離婚してしまったんだ。子どもは元気かい?
ヤマモダ あなたには関係ない。
イタダキ いや、その子どもを奪いにきたんだよ、君の手から。
イタダキ、なにやら凶器。ぎらっ、と光る。
そこに、佐和子、カンクロウ、入ってくる。
佐和子 ストーップ!
ヤマモダ さわこちゃん!?
佐和子 カンクロウ!
カンクロウ ほいきた!
カンクロウ、キャンディをイタダキに飲ませようとする。
イタダキ なんだ、なんだ?
佐和子 イタダキ、それ、舐めて!
イタダキ なんだ? おっ、とっ、あっ・・・
イタダキ、カンクロウともみ合いになり、
カンクロウ、逆に飲み込む。
カンクロウ あ。
佐和子 え?
カンクロウ ・・・飲んじゃった。
佐和子 えええーっ!?
カンクロウ あはは・・・うっ・・・!
カンクロウ、苦しんで気絶。
イタダキ 誰か、状況を説明してほしいんだが。
佐和子 えっとね、これ!
佐和子、ライトをイタダキに当てる。音が鳴る。
つづいて、ヤマモダ、佐和子、と順に当てていく。
佐和子 ね、音が鳴らないでしょ?
と、言いつつ、次に倒れてるカンクロウに当てる。と、音が鳴る。
佐和子 え、なんで!? えっとね、ええとね、
イタダキ いや、大体分かった。
ヤマモダ すごいな。
イタダキ まず、それは宇宙人を見分ける装置。
佐和子 え・・・よく分かったね。
ヤマモダ よっ、名探偵!
佐和子 ひゅーひゅー。
イタダキ ちょっと黙っててくれるかな。
ヤマモダ ・・・。
イタダキ で、そのライトを当てると、音が鳴る人間がいると。
佐和子 そう。
イタダキ で、調べてみると、俺だけ鳴ったわけだな?
佐和子 うん。
イタダキ それでお前は俺を宇宙人だと思った。
佐和子 ・・・・・・。
イタダキ ところが残念ながら俺は宇宙人じゃあない。
佐和子 えー、うっそだー!?
ヤマモダ いいえ、信じられないわ。
イタダキ 何を根拠にそう言ってるんだ?
ヤマモダ えっ・・・うちの子たちが突然聞いたこともない言語を喋ってたから・・・それで・・・。もうこれは宇宙人の子どもを産んじゃったに違いないって・・・。
佐和子 ヤマモダさんって、想像力豊かな方だったんですね! お堅いめがねなのに!
イタダキ あのな・・・。それは多分うちの母さんのせいだ。あの人、世界中飛び回って言語の研究してるから。
ヤマモダ え・・・でも、そんな・・・私、とんでもないことを・・・。
佐和子 で、でも、じゃあ、このライトは?
イタダキ 逆に聞いていいか? 俺に食わせようとしたその飴は何だ?
佐和子 これ? これは、カンクロウが開発した宇宙人を治す特効薬だとか何とか。
イタダキ それを飲んだカンクロウが、ライトを受けると音が鳴るようになったんだろ?
佐和子 ということは?
ヤマモダ と、いうことは?
イタダキ あのな・・・ちょっとは自分で考えたらどうだ?
佐和子 ええっと、
ヤマモダ ああっと・・・。
イタダキ よし、ヒントだ。俺も、そのキャンディ、食ったことがある。
佐和子 あっ! 分かった! 私たちがアニーモウトなんだ!
イタダキ、びんた。
イタダキ あほか。
佐和子 えー。
イタダキ ・・・単純な話さ。そのライトは、そのキャンディを食べたことがある人に反応するだけなのさ。
佐和子 え、でも、一般の人にも実験してみたって・・・。
イタダキ キャンディの何の成分かは知らんが、その成分が多い人間に反応するんだろうさ。
佐和子 なあんだ。
イタダキ なあんだ、じゃないだろ! まったく・・・。
佐和子 え、でも、イタダキは、カンクロウがアニーモウトのスパイだって・・・。
イタダキ ああ・・・。そうだよ。我々はアニーモウトと戦わなければならない。
佐和子 イタダキも、カンクロウもアニーモウトアニーモウト言ってるけど、私にはいまいち何のことかわからないよ。
イタダキ 説明しただろう? 実体はよくわかってないんだって。ただ、アニーモウトがいるから、俺たちは幸せになれないんだよ。
佐和子 ・・・・・・え?
イタダキ アニーモウトというのはそういうものだ。我々地球防衛軍はそれと戦わなければならない。俺は行かなきゃならない。カンクロウと、仲良くやってくれ。
佐和子 ねぇ、
イタダキ ?
佐和子 ひとつだけ思うんだけどさ、
イタダキ ・・・・・・。
佐和子 アニーモウトって、自分の中にいるんじゃないかなぁって。
イタダキ どうして?
佐和子 なんとなくだけどさ。
イタダキ ・・・・・・またな。
ヤマモダ さわこちゃん。
佐和子 ・・・・・・。
ヤマモダ 追わなくていいの?
佐和子 家族の私ができるのは、きっとここまでだから。
ヤマモダ ・・・家族、かぁ。あ、家まで送ろっか? あっちのほうに車止めてるんだ。
*
電話。
佐和子 はい、人類の妹・佐和子です。
イタダキ 先週からクレモニアサイトの第6惑星に派遣されています。人類の兄・——— ・・・です。
ヤマモダ はい、人類の妹・ヤマモダです。
名前はちょうど電話が鳴って、聞き取れない。
佐和子 そちらはすごく寒そうですね。
イタダキ ええ。でも、人類のためです。
佐和子 人類のため?
イタダキ はい。この世界はアニーモウトに支配されようとしています。我々は戦わなければなりません。この命を懸けて、一生懸命に。一生懸命に。
佐和子 そうですか。大変なお仕事のようですが、頑張ってくださいね。
イタダキ ありがとう。おや、誰か来たようだ。これにて通信を終わります。さようなら。
佐和子 さようなら。健闘を祈ります。
これにて閉幕。
おわり。
お疲れさまでした。携帯で観るもんじゃないなww