なかまくらです。
一応、公開。
アニーモウトの気晴らし作品群なので、あれですが。
魔導士
なかまくら
―――あああああああああっ
乾いた空気に、唸り声に似た悲鳴が飛び散る。
感情は地平を走り抜けた後、飛沫となって空に還った。
「ふひっ・・・ふひひひっ」
口元が引くつくのが可笑しくなって、感情が逆向きにぐるぐると回転しだした少年―サミーが、中途半端にあがっていた手でソレを指差す。動きやすく軽量化された甲冑から、血に塗れた少女の横顔が覗いていた。ただ、それを笑っていた。
膝をついた少年の操っていた土人形・ゴーレムが、サミーの操る飛蜥蜴(ひとかげ)・ペドロフライに一瞬にして崩された。
「大丈夫だよ、ヨディス。直ぐに死にはしないさ。」サミーは、可笑しさでオカシクなりそうなのを必死にこらえて、それから、
そうだ!
と。笑っていう。
「ペドロフライの毒はねぇ・・・一時的に刺した生き物を仮死状態にするのさ。」
それからねぇ・・・
サミーは、ふひっ、と、何かを想像し恍惚の表情で、言った。
「一番毒が身体に回った瞬間に意識が戻って、一番の激痛を与えて死に至らしめるんだって!! 怖いよね~!!! 早く見てみたいなぁ~、彼女が苦しみの中に死んでいく様・・・」
少女の傍らで座り込む少年――ヨディスの中の真っ白な空白に何かが虚ろう。
それはぐらぐらと境界を揺らし、いくつも断層が生まれる。
下からは何色にもなれない矛盾が光の束となって漏れ出している。
・ ・ ・ ・ ・ ・ !?!?!?!?
*
―――あああああああああっ
その声は砂丘の上を往く一人の女に届いた。女は黒いローブを羽織り、
忌み嫌われる、魔導士の様相であった。
女はその歩みを止め、見下ろす。
子ども達がなにやら互いに魔物を召喚し、争っているようであった。近くには街があり、魔法学校の白いシンボルが見えた。
なんだ・・・ガキの喧嘩か
女は再び歩き始めようと、肩の袋を掛けなおした――その時、大地が割れる。
「おいっ、なんだよ、それ! そんなの聞いてないぞ!」
焦った金髪の少年の声。
白目を向きガクガクと痙攣する少年に、後ろから巨大な影が覆い被る、聳える顔。顔。
持ち上げられた砂がさらさらと落ち続けている。
頭部に続いて左腕がゆっくりと姿を現し、穴の淵を掴んだ。
あまりの巨大さに、金髪の少年は無様に後ずさる。恐怖に腰が抜けて獣のように這い回る。
女魔導士は、身体がざわつくのを感じていた。あの時と同じだ・・・!
恋人が殺されたあの時。
闇を追い詰めた先にいた魔導士・ヴィスコッチイ。召喚した魔物の名は、オベリスク。
対する騎士と魔法使い。成り行き上、ふたりは世界をかけて戦った。
魔導士・ヴィスコッチイは姿を消し、
魔法使いは大切な人を失った。
そのオベリスクが今まさにこの砂漠に顕現しようとしていた。
―――あの少年には才能がある。魔導士・ヴィスコッチイを完全に葬るだけの才能が! 恋人を蘇らせる、人知を超えた魔導の才能が!
女魔導士は走った。笑った。
砂埃を立ち上げて砂漠を駆け下りる。笑いながら。 やっと会えたね。
「おいっ、いい加減やめろよ!」
サミーが泣き叫び、
ペドロフライは一直線にヨディスの首元に飛びかかる。
“ハイファイア”
ひどく汚く揺らぐ黒い炎がペドロフライを一瞬にして消し炭にする。
サミーの驚愕に歪む顔の先で、
女魔導士は不敵に笑っていた。
肩で息をしながら、
その、杖をゆるぎなく構えて。
それから、こういった。
「なぜ止めるの? ・・・いいとこじゃない。」
***
気がつくと、そこは見知らぬテントの下だった。
身体中が軋みを立てていた。
起き上がるのをゆっくり諦めてヨディスは、三角形のテントの天井をただ眺めていた。何か大切なことを忘れている気がして、ただ眺めていた。
しばらくすると外からコトコトと、水が沸く音がして、金属が鍋をこつんと叩く音がする。
それからゆっくりと、穏やかなシチューの香りが入り口の方から流れてきた。
「目を覚ましたの。」
女を見た瞬間、ヨディスは固まった。
聞いたことがある。魔導士はヒトの生き血を収集し、儀式の方陣を描く材料にしている、と。若い、活力に溢れた血が特に好まれると。
「ぼ、ぼく・・・喰っても腹壊すぞ!」ヨディスは、ツバを飛ばしながら猛烈な勢いで後ずさって叫んだ。
「いやね、まるで、人が怪物か何かみたいに・・・」女魔導士はそういって、
「ヒカリよ。よろしく」名を名乗って、シチューを器に装ってくれた。
でも、魔導士の瞳に一瞬、暗いものが映るのを見てしまったヨディスは、
太らされてから、戴かれるんだ・・・っ!
と、ココロが沈むばかりであった。
「あの・・・どうしてぼくは・・・」ここに?
ヨディスはおそるおそる尋ねる。少しずつ思い出す。
サミーと戦っていた。隣には幼馴染がいて、サミーが攻撃してきて、それで、彼女が・・・
「うっ・・・」嘔吐感が襲ってきて、何かがあふれ出ようとする。そう、彼女が・・・彼女は、
心の中の白紙になっている部分を、何かが食い破って出てこようとする。
ソレに対してヨディスは無条件に微笑みかける。壊してしまえばいい、そんな感情。
頷いて、ヨディスは・・・、
「はいはい、テントの中はやめてね。」ヒカリが、持っていたスプーンを振ると、ヨディスの心臓は氷の手で鷲掴みにされたように縮こまり、おとなしくなった。
何かは急にひっこんでしまう。怯えたように。
「あんたの彼女さんは、ここよ」ヒカリはそう言って、ポーチからクリスタルを取り出す。
クリスタルの中には、あの甲冑の少女が確かに浮かんでいた。
――毒の進行を食い止めるためには、クリスタルにしておくしかなかったの。解毒の方法がみつかるまでは、このままにしておくといいわ。
誰かを守るって言うのは大変なのよ。
そのためには、強くならなくっちゃね。
そういってヒカリは、少し笑ってみせた。
ある、よく晴れた夜の思い出。
***
ある旅の途中。
金髪の少年は出会う。
ローブを纏った少年を中心に不思議な光が漂い、胸元のクリスタルに集まる。その光がぽとり、一滴落ちると、地に広がり、複雑な文様を紡ぎだしていく。その光が一層輝きを増し、頭部がやがて地面からむくむくと生えてくる。
土人形・ゴーレム。
砂と礫で作られた寄せ集めの土人形は穏やかな顔をして、金髪の少年の召喚した飛蜥蜴(ひとかげ)・ペドロフライと対峙する。
ペドロフライの羽ばたきに応じて毒の尾が怪しく揺れる。
金髪の少年は、舌なめずりをする。瞳だけが落ち着きなくふらふらと左右に揺れていた。
ローブを纏った少年は笑う。「あんたじゃあ、もうオレには勝てないさ」と。引き摺り込んだのはあんただ。だがな、オレはあの人を止めなければならない。少年は寂しそうに言った。・・・・・・雑魚に構ってる場合じゃないんだ。
ふざけるな。金髪の少年は叫び、
ペドロフライをけしかける。
ふわりとゴーレムの頭上まで舞い上がり、振り返る動作の隙を突いて、急降下をかける。風切り音とともに毒の尾が唸りを上げる。その先端が、少年を捉えるかに思われたその時、
風を薙いだ、ゴーレムの腕が音もなく代わりにそこに静止していた。
遅れて、遠くの崖にペドロフライのぶつかる音。
崩れる音が地に響いた。
***
ローブの少年は、ひとりそこから去ったという。
胸元のクリスタルを揺らしながら。
ーーコメントーーー
ファンタジーこんなに難しかったっけ(汗
という感じでした ^へ^;
とりあえず、ファンタをじーっと見るのは効果あまり期待できないようです。参考までに^^;