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なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

                      
なかまくらです。

気分転換に小説を一編。どうぞ。

戯曲にしてもいいなあ、これ。


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ホーンズの助手
                      作・なかまくら
 
「ごめんください」 一人の青年が、古びた洋館をノックする。
アスファルトに照り返す日差しが、青年の額に汗を滲ませていた。錆びた金属が音を立てて、扉が開く。
「はい」 中から、エプロン姿の男性が現れる。口にはちょいとばかりの髭を飾って、御愛想程度ににこりと笑顔を見せた。
「あのぅ・・・探偵エドワード・ホーンズさんのお宅ですよね」
「ふむ・・・。私がこの間まで怪我をしていたのはどこだろうね」 ちょび髭の男性は、不意にそんな質問で返す。
「右足でしょうか・・・」 青年は、少し間をおいてから、そう答えた。
「ふむ、正解だ。どうしてそう思った?」 目の奥がきらりと光る。
「いえ、その靴は、買い替えたばかりのようですが、右と左とでは、汚れ方に差があります」
「私が右足を少し引きずるように歩く癖のある人間だったらどうだね?」 目の輝きは強くなり、ちょび髭の男性は、少し意地悪そうにそう言った。
「ええ。ですが、あなたは、左右の対称性を随分と大切にしているように見えますよ。その、真中分けされた前髪といい、左右同じ指にはめられた指輪の、その刻み込まれている文字も実は、左右対称になるように鏡文字で刻まれている」
「なるほど、これは優れた観察力だ。君、名前と職業は?」ちょび髭は、扉の横にある受話器を取って、どこかへ電話をつなげる。
「オニール・ワソトンです」 青年は自分の名を名乗った。
「私は、イタル・ワーントン。ホーンズ先生が、お会いくださるそうだ」 ちょび髭はそう言って、踵を返した。
 

 
洋館に入って、正面には1階と2階をつなぐ大階段が回り込むように2つ、通っていた。通路には扉が並び、その向こうはうかがい知れない。オニールは、イタルと名乗った男を静かに追った。
 
1階から、2階へ登り、そして、もう一度下るとある101号室には、一人の紳士がいた。
「やあ、君の名前はなんだね?」
声からあふれ出す気品と知性! それが、その人物をエドワード・ホーンズだと確信させる・・・ことはなかった。
「オニールです。オニール・ワソトンです」 オニールは、落胆を隠し冷静にそう答えた。
「オニールくんか」
ホーンズ氏は、安楽椅子から立ち上がると、飾り気のない絨毯の上を革製の靴を鳴らしてうろうろと歩き回った。まだ醒めないタバコと酒の酩酊の霧を振り払うようであった。
「そうだね。君も、どうやら私の依頼人というわけではないようだがね」
「ええ、私は、先生が弟子をとられるという話を聞きつけて、駆けつけた次第です」オニールはそう答えた。
「なるほど。ではな、君は301号室に住み、事件を解決し、推理力を磨くといい。私はそれを見ているとしよう」ホーンズはそれだけ言うと、話は終わりだ、とばかりに安楽椅子へと戻り、新しい煙草に火をつけた。
「あとは、私が案内しよう」 イタルは、オニールの手から鍵を受け取ると、先だって部屋の扉を開けた。
「ああ、ワーントン君」 ホーンズ氏は、視線の定まらない目で、声をかけた。
「なんでしょうか」 イタルが振り返る。その声には隠しきれない期待が混じっていた。
「悪いが、オニール君が慣れるまで、彼の面倒を見てやってほしい」 ホーンズはそれだけ言うと、煙を吸う作業に戻った。
「・・・ええ、いつもの通りに」 イタルは、静かな口調でそう答え、部屋を後にした。
 

 
「あの・・・」 オニールは、エントランスまで戻ってきたところで、声をかけた。視界の右端には、あの金属音の古臭い扉が見えている。
「噂の通りだよ」 イタルは、やれやれ、という顔をする。
「先生は、聡明すぎるお方だ。だから、普段はああして思考を抑えているのさ」
「でも・・・あれでは・・・」
「言いたいことは分かる。だがね、先生が思考するとき、全ての鍵は開錠し、中身が明らかにされる。その姿を過去、数度だけ私は目にすることができた。私の心は震え、私は探偵であることに震えた・・・」
ゴクリ、とオニールが唾を飲む音がエントランスに響く錯覚があった。
妙に静かだった。
「だがね、先生は、相棒をすでに失ってしまった」
「相棒・・・」
「ああ。先生には、事件を解決するときに、常に話を聞いてくれる相棒がいたんだよ」
じゃあ、私がそれに・・・。オニールが口を開きかけたとき、
「誰もがそう思っているんだよ! ここに暮らす誰もが!」
イタルの髭が少しだけ逆立っていた。
「・・・すまない。感情が先に立ってしまったんだ、許してほしい」
「いえ・・・」
 
近くにうまいイタリアンの店を知っている。荷物を置いたら、行こうじゃないか。
イタルは、そう言い、鍵をチャリンと鳴らす。
オニールは、それに続き、「ええ」と応えて肩を並べた。






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