なかまくらです。
「ウィザーズブレインⅧ 落日の都<下>」読みました。
・・・あと2ヶ月もすれば、27になる私ですが、
未だにライトノベルである本作を追っかけずには居られない。
いや、この作品だからこそ、追いかけずには居られない作品です。
どんな作品か。
情報制御理論という理論が成立している世界。この世界では、「ある一定以上の演算速度による計算は、現実世界の事象を書き換える」という理論が確立している。脳に有機チップ(Iブレイン)を埋め込むことによって事象を書き換えることを可能にした人間を「魔法士」と呼ぶ。彼らは、重力、熱、量子など、物理法則の書き換えを武器として戦う。・・・いかにも、ラノベっぽい設定です(笑)。ラノベの王道を行っているといっていい。能力があって、それで、しかもバトルするんですよ。なんという中2病患者だ。
そうなんです。で、まあ、こういうのって、何故戦うのか・・・すわなち、動機で面白さがだいたい決まってくるのです。
この魔法士という力を手に入れた人類は、資源を巡って世界戦争を引き起こす。この戦争の中で、魔法士はその力を強烈に発揮する。そして、ある魔法士のIブレインが暴走し、アフリカ大陸が消滅する。さらに、地球の大気を制御し、天候を司っていた2基の衛星が謎の暴走を引き起こし、晴れない雲が地球全体を覆う。この雲は電磁波に満ちており、魔法士の力を持ってしても、晴らすことが出来ないというのだ。
資源は既にほぼ枯渇し、エネルギー供給を太陽光に頼っていた人類は、危機に瀕する。そして、多くの国が滅びる中、シティという超巨大なドーム状の国家が形成される。シティでは、物質は分子レベルでリサイクルされ、エネルギーも内部で保存される。高温熱源が使用され低温熱源になった後、再びそれを低温と高温に分ける。その役目を果たすのは、魔法士の力。ただし、それによって何百万という人間の住むシティを支えるには、魔法士がふつうの生活をしていては不可能であり、それに専念する・・・すなわち、魔法士の脳機能だけを残し、人間としての死を与える必要があった。反対を押し切って、このシステムによって生き延びた国家はわずか10にも満たない数であった。
・・・というのが、時代背景(長い)。この下敷きの上に語られる物語が、このウィザーズブレインというお話なのです。ちなみに、1巻では、この一部が最初にずらずらずらーっ、と語られていて、多分、購読を諦めた人が多数いるはずです(笑)。
さて。物語は8巻まで来ました。だいたい、1~3年に1巻のペースで刊行されており、しかも、途中から<上><中><下>巻構成になりましたから、もうね、この<下巻>も<中巻>がでてから3年立ってますからね(笑)、とんでもないペースです。10年以上経ってます。この中で、本当に数多くの魔法士が登場し、それぞれの境遇の中で、自分の運命に立ち向かってきました。
そして、この魔法士を犠牲にして、人類を守るという犠牲を許せない魔法士が現れます。「本編が始まります」と6年目くらい経ったとき、作者があとがきの中で、宣言しました。やっとかよ(笑)。と、ここまで追いかけてきた読者は皆、呆気にとられたはずです。「賢人会議」と名乗る組織。その代表・サクラ。情報制御理論を確立した天才が生み出した最強の可能性をもつ魔法士のひとり。通常は容量の問題で、ひとり一種類しか書き換えられない物理法則を、それぞれは劣るものの、複数処理できる能力を与えられた魔法士。彼女は、世界に対して戦争を仕掛ける。彼女には参謀がいる。参謀・天樹真昼は、人間であるが、情報制御理論を確立した科学者のひとりの実子であり、天才的な頭脳を持っている。
この8巻では、シティ・シンガポールと同盟を結ぶべく、賢人会議は、シティに赴きます。このシティ・シンガポールは、スーパーコンピュータによって意志決定を行っており、そのコンピュータが、この同盟という政策を計算から叩き出したという。この決定に反対する政治家も多く、天樹真昼は誘拐されてしまう。
ここまでが、<中巻>までの内容。
そして、<下巻>。組織のNo.2を誘拐されたことにより、賢人会議とシティの市民は戦闘状態に突入してしまう。その裏には、同盟反対派の工作もあったが、市民の行動は、その反対派の計算を遙かに上回って大きくなっていく。
誘拐された天樹真昼を追いかけるサクラ、シンガポール側のフェイ。だが、天樹真昼が世界に隠していた秘密が明かされてしまう。大気を覆う雲の除去方法。その方法とは、Iブレインを持たない人間を全員殺し、Iブレインをもつ魔法士全員の脳を同調することにより、雲を情報の側から解体するという恐ろしいものであった。情報制御理論を考えた天才が残した遺産。天樹真昼はこの研究を発展させ、犠牲のでない方法を見つけることをシンガポールに持ちかけていたのだった。全世界にあかされたその理論によって、世界は完全に賢人会議の敵となった。そして、天樹真昼は、名もなき市民によって殺されてしまう。
サクラは、全人類に対して、宣戦布告をし、去っていく。
・・・といのが、8巻でした。
とにかく、一言。どーすんの、この後!?
1巻から出てきた天樹真昼が死んでしまいましたよ。
彼が計画してきた全人類を救う企み。彼が死んだ後に、誰がこれを継ぐのだろう・・・?
この物語には、たくさんの出来る大人たちがいます。それも、この物語の大きな魅力なのです。
でもね、何かを起こすのはいつだって、これからを担う世代だと思うのです。
そして、それを静かに支えてくれる大人に憧れるのです。
だから、きっと決断するのは若い誰か。そうあってほしいと思います。
けれども、どうでしょう。自分の道をはっきりと定めている人たちはたくさんいますが、
それは、自分はこうあるべき、というだけのこと。
それではない・・・そう、世界はこうあるべき。
そういう精神を持っている人がいるのかどうか、そう言われると分からない。
彼らは、彼らの正義を信じて動いていますが、それはあくまで、何かが起こったら、
それに対する判断をするという段階でしかないのです。
賢人会議の代表のサクラが、何かをしようとして、それに乗っかってきたのです。
ところが、参謀のいない賢人会議がやろうとすることが、
乗っかれることではなくて、本気で止めなければいけないことになる可能性が、十分にある・・・。
そういう事態になっていると思うのです。
さて。この8巻を通じて描かれた政治家は、自分の正義を持たない政治家たちでした。
民主主義の責任をとるべきは、政治家ではなく、市民であるというのです。
しかし、その政治家は首相となり、
世界を救おうと献身した青年・天樹真昼は名もなき市民によって殺されてしまうのです。
その優秀さを知ることは出来ない。
なんというかな。彼の最後は、革命家の最期というものの原風景のように思います。
救おうとするものによって殺されること。名もなき足軽にも満たない人間に殺されること。
魔法士によって圧倒的に殺されるのではなく、何ともあっけなく死んでしまう。
人間が魔法士によって殺されるのではなく、人間が、人間によって殺された。
そこになんとなく、納得というか、殺されちゃったんだな、という実感を与えられた・・・そんな気がしました。
実は、9巻の上巻は既にでていまして、8巻<下>は1年前にでたものを今更読んだんです。
まあ、これを読むにはちょっとした気合いが必要なのと、おさらいが必要なのと(笑)、また9巻<中>がでる気配がないので、中巻が出そうな頃に、9の上巻を読むことにします。それが私なりの、ながーく最新巻を待つコツなので(笑)。
おわり。