なかまくらです。
掌編です。高校生の頃はこういうのをよく書いていたように思いますが、
最近はそういえばめっきり書かなくなりました。
そんなわけで、久しぶりに書いてみる。
こういうのは、演劇っぽいなぁ、と今思うと、そんな風に見えるのね。
不時着
2015.4.25
作・なかまくら
『不時着した』
送信ボタンを押すと、文字は光へと姿を変え、一文字ずつ画面から剥がれていった。夜空の星に交わりながら、衛星を目指す。衛星は地球の周りをグルグルと回りながら、そのメッセージを受け取る。それから、送り主と宛て名を確認して、通信を再開するだろう。
不思議と送信失敗のエラーメッセージは返ってこなかった。案外、絶海の孤島ではないのかもしれない。そんな浮ついた希望に首を振って笑った。きっと電波も迷子になったのだ。どこかわからないどこかに不時着していた。予定していた航路を大きく外れたのは、ちょっとした好奇心からであった。
「光る岩礁があるらしい。土産話にどうだい。」
離陸する直前に同僚のパイロットから、そんな話を聞いた。途中に現れた黒雲をよけようと右に曲がると、白い薄い雲の中は、虹色の空間だった。キャンディのような鮮やかな色が揺ら揺らとした線を描きながら、遠くの一点に繋がっていた。しばらくぼーっと飛んでしまっていたが、そこに吸い込まれそうな気がしたところでハッと気が付いて、操縦桿を左に傾けた。只の雲のはずだったのに、ガリガリガリ、と齧るような音がして、抜け出した先は、知らない列島が海の中に佇んでいた。
飛行を続けることは難しく、そのうちの比較的大きい島に不時着した。
降りる前に滑空をして、決して大きくないその島の周りを旋回してみたが、人のいる気配はなかった。明かりのない、暗い島であった。
「こういうときは、海辺のほうが安全なんだったかな・・・?」 飛行機から取り出した不時着時用緊急セットから取り出した麻布の袋から取り出した寝袋の中の毛布に包まれたマトリョーシカよろしく、寝ころびながら、そんなことを呟いた。
明日になったら誰かが助けに来てくれるのだろうか。いまここにいると思っている自分でさえ、どこかも分からないここに。メッセージを送った相手が、或いは光る岩礁を本当に観に行ったのではないかと思った同僚が、或いは、ひょんなことから近くを通りがかった漁師が、助けに来てくれるのだろうか。
島は、浮かんでいるように見えるが、地面はしっかり地球に繋がっていて、みんな同じ地面の上に立っている。この足の裏から、一本の線を結べば、メッセージは届く。それはそう、例えば、足でリズムをとるとしよう。トントントーンが、私は元気です。トントーントトンで、私を助けてほしい。トーントッカッ、トカトンで、全部ウソです。そんな風に、リズムをとるのも、楽しそうに見えてすごくいい。
けれども、このまま明日まで生き延びることはできるのだろうか。
映画のような恐竜は襲ってこないだろうか。UFOは襲来しないだろうか。それとも、何か想像のつかない何もない空白が覆いかぶさっては来ないだろうか・・・。
それがすぐ間際まで近づいているような気がすることに気を取られて、岩礁が淡い赤色に輝いていることも、遠くから見るとそれが唇に見えることにも気づかないでいる小さな命が、メッセージを送る。
「不時着した」
続きの言葉はわからないままだけれども。わからないままだけれども。