なかまくらです。
長いの書こうって気持ちが沸いてこない・・・。
若干のネガティブを吐き出す。
ちょっと疲れただけ。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
鏡
作・なかまくら
「おい、お前、これからどうするんだ」
夕暮れの住宅街。電信柱を過ぎたところで声を掛けられた。思わず自分の格好を見下ろした。白と黒のボーダーの襟付きシャツにピンクのカーゴパンツ。そして草鞋。奇抜だと言われることはよくあったが、同じ格好をしている男に出会うとは思ってもみなかった。
「コンビニへ行くんだ・・・」
思わず答えてしまっていた。
「そうか、では、私もそうしよう」
男の顔は影がかかったように上手く判別できなかった。黄昏時とは元来そういうものなのだと聞いたことを思い出していた。
*
「いらっしゃいませー」
コンビニの中は明るい。
「おう、山本、早く交代してくれ」
「おう」
男はあごに手を当ててさすると、こう言った。
「山本か。山本、次はどうするんだ?」
「ここでバイトするんだが・・・」
これにも律儀に答えてしまっていた。何故だろう、気が付くと答えているのだ。
「そうか、では、私もそうしよう」
*
「いらっしゃいませー」「いらっしゃーませー」ふたりしてレジであいさつをし、
「よっこいしょ」「どっこいしょ」ふたりして品出しをした。
「それで、次はどうするんだ」
「残り物の廃棄弁当をもらって家に帰るんだよ」
「そうか、では、私もそうしよう」
「・・・まて、その前にたばこを吸う」
「そうか、では、私もそうしよう」
「・・・」
「・・・」
「・・・一つ聞いてもいいか?」嫌な予感しかしなかった。
「なんだ?」
「お前まさか、うちに来るつもりじゃないだろうな」
「山本、お前はどこに帰るつもりなんだ?」
「どこって・・・」
一瞬、田舎の両親の顔が浮かんだ。それから、妹と弟。大企業に就職して今は世界を飛び回っている姉も、なぜだか帰省してヒノキの大きな机を囲んでいる。一つだけ椅子が空いている。取り皿には何もよそわれていない。
「どこって・・・、アパートに帰るんだよ」
そう言って、たばこに火をつけた。
男も当然のように同じ銘柄のたばこを取り出して
「そうか・・・、では、私もそうしよう」
そこには、ひとつしか椅子はないのだ。その一つの椅子のある風景と、目の前の男が一瞬重なって見えた。
「えほっ・・・、ごほっ・・・」
男はむせていた。それはちょうど、この街へ来た頃、自分がやったように。
たばこの煙にせき込み、涙を零す。涙の中に何かを込めて、落とした。
「身体に良くないんだ、これは」
男に思わず言い放って、たばこを思いっきり吸って、肺を満たした。
目が白黒して、次いでチカチカとした。まるでたばこの火が脳に達して視神経を焼いているように。久しぶりに少し涙が浮かんだ。
「・・・やめないのか」
「やめられないね・・・」
「そんなことはないだろう」
「そうでもないんだ、これが実際」
電話ボックスの透明なアクリルケースは黄ばんでくたびれていた。昆虫が集まり、小便を垂らす。
「そうか・・・では、私もそうしよう」
男は、煙を思いっきり吸い込んで、吐き出した。
*
「コンビニ弁当というものは味気ないな・・・」
「どうした・・・?」
男は、唐揚げを頬張りながら、不自由な質問を投げてくる。
「いや、たばこが足りない・・・」
「食べながらもたばこか・・・」
「ああ・・・」
「私もそうしよう」
*****
しばらくして、トイレから苦しそうな声が聞こえる。
身体の中は強酸の地獄に繋がっており、口を開けるとそこに繋がっているのだ。いくら吐き出しても、あとからあとからその強い酸が込み上げてきて、突き上げるのだ。身体の内側が捲れあがってきて、あの、Tシャツをめくり上げる女の子のCMに込み上げる思いのように、それとはかけ離れているようで、いやそれでいて近づいているのかもしれないこの、手をついて便器に向かう自分というものと戦っているのだ。
柱の影から声がする。
「もう、やめたらどうだ? いいことなんて、何もないんだぜ」
タオルで口を拭い、力なく捨てた。
「お前はどうする?」
「俺は、お前のことなんて知ったこっちゃあない」
思わず叫んでいた。また、込み上げてこようとする地獄を喉の辺りで押しとどめようとする。
柱の影では、返答が返ってきていた。
「そうか、では、私もそうしよう」