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なかまくらのものがたり開拓日誌(since 2011)

【小説】ヒーロー.bat

なかまくらです。いつまでもうまくいかないので、とりあえず、小説で書いちゃいました。

結構自信作。そんなにながくないので、よかったら読んでみてくださいな。

そしてそして、拍手、感想なぞ戴けたら嬉しいです^^;

いつか戯曲にしてみたいシリーズ。キャラとかもいろいろ考えてんだけどな~~。





ヒーロー.bat(バッヂ)
作・なかまくら
2012.1.16
 
 
 
『ヒーロー.batとは、一種の最適化プログラムのことである。』
 
2次元の世界で僕らはヒーローだった。
ヒーローRPG。
ネット上のウイルスを退治して回る。ぐるぐる回る。
 
その日も、いつもと同じように狩りに出た。道中。タッグを組んでいたチームのリーダー・レッドが木陰で休憩しているときに不意にぼそっと、こう言った。
 
「ヒーローなんて呪いだよ」
 
どういうコンテクストでその言葉が紡ぎだされたのかなんてどこかに剥がれ落ちてしまって、その言葉だけがレッドの最後の言葉として後にひどく残った。
そのミッションは罠で、闘いの最中、レッドのアバタープログラムは復旧できないところまでバラバラにされてしまう。
 
僕たちは、アルファベットにまで分解されてしまったプログラムコードを一生懸命に拾い集めたけれど、彼のヒーローのシンボルマークだけが残されるばかりだった。
それから、命は取り戻せないんだと気付くのに随分と時間がかかった。
 
そして、まるで、レッドの身体と同じように、僕らも何となくバラバラになってしまった。
 
 

 
 
3次元の世界で僕はヒーローになろうとした。
ヒーローになるには、ヒーローバッヂが必要だった。
一番かっこいいピンバッヂにビビッとくる。
つければ僕はヒーローになれた。
 
学校を休んでいた子にノートを届けたヒーローの僕は、その帰り道で子猫を拾う。
うちでは猫は飼えないことは分かっていたから、近くの神社で飼うことにした。学校が終わったら、給食のパンを届けに行くのだ。ある日、
 
いつものように境内へ続く階段を上っていると、上の方から声がした。
 
2つも3つも上の学年の子供たちが、猫のダンボールを取り囲んでいた。
 
「おい、俺、バクチクもってんぜ!」「おっ! 〇〇〇、マジ天才!」
「・・・からの?」「おっ!」「おっ?」「はははっ」
 
僕はピンバッヂを握りしめていた。握りしめた手は震えていた。震える手は、耳を懸命に塞いでいた。
心の中で叫んでいた。どうしてヒーローは現れないのだろう。何の罪もない子猫が非道い目に遭おうとしているのに…どうして…どうして!
 
悲鳴が塞いだ手をすり抜けて聞こえた気がして目を開けると、汗でびしょびしょになったピンバッヂが握られていた。そうか、僕が出て行かなかったら、あの子猫は救われないんだ。あの猫が救われるには、代わりに僕が非道く怖い目に遭わなければならないんだ。どうして?
 
ヒーローだから。
 
でも、
と、僕は、思う。
でも、ここで出て行ったら、僕はきっとヒーローを失ってしまう。
それは世界にいつか大怪人が現れた時に颯爽と登場するはずのヒーローをここで失ってしまうということだ。それだけは避けなくちゃいけない。だから、
 
ヒーローは、悲しんでいる暇はないんだ。ヒーローはどんなに傷ついたって、平気なふりをして、闘い続けなくちゃいけない。
 
僕が立ち上がって、階段を一歩降りた その時、
木々のざわめきの中に、
また悲鳴が聞こえた気がした。
 

 
しばらく時間が経って、ぐしゃぐしゃに畳まれてボロボロになった僕は、境内のダンボールに近づく。痛む手で涙をゴシゴシと拭くと、鞄からパンを取り出した。
 
ダンボールの中の猫は、一瞬おびえたように身構えた後、パンじゃなくて、ピンバッヂを奪って駆け出していった。
 
「お前はヒーロー失格だ。」そう言われた気がして、僕は誰もいない境内でボロボロと泣いた。
 
僕のヒーローは決して泣いたりしないのに。
 
 

 
奪われたピンバッヂはその時の僕にとって、とても大切なものだったけれど、
無くなってしまって僕は、救われたような気がしていた。
 
もし、
もし、もっと早くに駆けつけていれば、猫は僕を責めなかっただろうか?
 
今となっては誰にも分からないけれど、
 
 
おかげで僕は今、本物の勇気をもって、
 
誰かにとって本物のヒーローになろうと、
 
まだ頑張っている。
 
 
おわり。
 
 
 
 

 
 
(+)あとがき(+)
なんとなく、ヒーローについて。いつか、戯曲にしたいな。
と、思ってます。 

 





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